よくある質問

環境ひろば「温室効果ガスにとっての2010年と、今後の見通し」

E受講生:温室効果ガスに関して、2010年の1年間を一言でまとめると、どう言えるのでしょうか。

Y講師:「悪夢が現実になった1年」といったところでしょうか。温室効果ガスの排出が少なくなって欲しいと願う者にとっては、悪い面が目につく1年でした。

E受講生:それは具体的にどういうことですか。

Y講師:2009年12月上旬の時点では、2010年は明るい未来が待っていると思われていました。1つ目は二酸化炭素の排出量そのもの、2つ目は国際交渉、3つ目は日本政府の政策です。まず1つ目の”二酸化炭素の排出量そのもの“についてですが、2009年は前年に比べて排出量が減少しました。最近確定した数字ですが、2009年は世界全体で1.3%減り、日本では11.8%減っていました。ところが2010年は世界全体で3%以上増加する見通しで、過去最高の排出量になると言われています。

E受講生:2010年は、過去最高の排出量になる見通しなのですか! これから減らさなければならないのに。

Y講師:そうなのです。特に新興国での増加が目立ちます。排出量の絶対量を見ても、先進国と言われるOECD諸国の排出量よりも、それ以外の国の排出量の方が多いのです。IPCCの報告では、自然界が吸収できる二酸化炭素の量は、現在の排出量の半分以下と言われています。そのため、仮にOECD諸国つまり先進国の排出量をゼロにしたとしても、大気中の二酸化炭素の量は増加し続けることになります。

E受講生:もはや先進国だけでどうにかできる状況ではないのですね。

Y講師:そうです。このことは次にお話しする”国際交渉“にも関係することです。2009年12月のCOP15(国連気候変動枠組条約の15回目の締約国会議)では、2013年以降の温室効果ガス排出量削減の進め方などが決まる予定でした。ちなみに1997年のCOP3(同条約の3回目の締約国会議)では、2010年を中心に5年間、つまり2008年から2012年について先進国各国の排出上限量などが決まりました。COP3にはアメリカ合衆国の当時の副大統領が出席し、COP15には大統領が出席しました。しかし、先進国は途上国の”現在の排出量”を問題視し、途上国は先進国の”過去における排出量”を問題視することで、なかなか話が進みませんでした。

E受講生:途上国も現状を踏まえて歩み寄ってほしいですね。そもそも気候変動枠組条約に調印しているわけですから、もっと積極的に削減に取り組んでもらわないと……。

Y講師:少し脱線しますが、国連気候変動枠組条約について少し説明した方が良さそうですね。この条約の中には「共通だが差異ある責任」という言葉があります。条約を議論していた1992年当時も、現在と同じような意見対立がありました。もちろん温室効果ガス排出量は途上国の方が少なかったと言う状況の違いはありますが、この意見対立を収めて共に調印するために「共通だが差異ある責任」という言葉を条約に入れ、問題を先送りしたのです。そのため、現在途上国が主張している根拠は、条約の条文及びその主旨に合ったものなのです。

E受講生:そうだったのですか。

Y講師:さて、話を2009年のCOP15に戻しますと、各国が個別に自主的に排出上限量を決めて国連へ2010年1月末日までに報告し、公表されることが決まりました。2010年に持ち越された点は残念なことでしたが、先進国だけでなく途上国も自国の排出上限量を決めることになった点は、大きな前進でした。

E受講生:では、2010年1月は、その数値がどのようなものになるのか、期待していたわけですね。

Y講師:そうです。そしてついに、日本時間の2010年2月2日未明、国連のホームページに各国の数値が公表されました。しかし、2009年11月頃に囁かれていた数値と大して変わらない消極的なものでした。

E受講生:評価すべき点もあったのではないですか。

Y講師:日本が引続き25%削減を掲げた点、中国なども目標値を掲げた点です。ですが、中国は総量ではなく原単位で示したこと、及び数値が甘かったことは残念です。このことが原因かはわかりませんが、その後12月のCOP16までの約1年間、むしろCOP15より前の議論に戻ってしまった感がありました。

E受講生:2010年12月のCOP16の成果は何でしょうか。

Y講師:最大の成果は、多くの国が「産業革命以前の気温から2度以内の上昇に食い止めることを目指す」ことに再び同意したことです。COP15でも多くの国が同意していたのですが、先ほどお話したように約1年間は議論がむしろ後退していました。それが再び1年前の状態まで前進できたことは、喜ぶべきことです。また、「2度以内の上昇に食い止める」とは、世界全体の排出総量を長期的には半分以下にすることを意味し、先進国はもちろん途上国も排出総量を削減することを意味します。

E受講生:国際交渉は、なかなか進まないものなのですね。

Y講師:そうですね。でも国内交渉もなかなか進まないものです。次のテーマ”日本政府の政策“のお話をしましょう。政府は法律に基づく全国強制参加の国内排出量取引制度を2013年度から導入する予定で動いていましたが、導入延期を12月28日に正式に決める予定です。

E受講生:え、そうなんですか。環境大臣が代わったことが影響しているのですか。

Y講師:大臣の交代が影響しているかはわかりませんが、ねじれ国会など、政権が不安定になると環境政策など長期的課題解決策は停滞する傾向があります。今年(2010年)夏の日本の気温は、例年の2℃以上、113年間の観測史上最も暑く、全国で500名以上の方が熱中症で亡くなりました。これだけの被害を出しているにも関わらず、それを防ぐための政策を延期してしまうのは、効果が出るまで時間がかかることと無関係ではありません。

E受講生:2011年に繋がることで、なにかにはありませんか。

Y講師:そうですね、2点あります。
JAB(公益財団法人日本適合性認定協会)は2010年7月からISO 14065に基づく検証機関の認定を始めました。これは妥当性確認及び検証の信頼性を保つもので、排出量取引制度全体の信頼性確保、普及促進、ひいては省エネなど日本企業の体力強化に繋がるものです。法律に基づく全国強制参加のタイプは延期になりましたが、国内排出量取引制度はすでに日本国内に複数存在し、その中には実質的にこの認定取得を検証機関に義務づけた制度もあります。現在は移行期間中ですので認定を取得していない検証機関も存在しますが、2011年中には移行が完了するものと考えられています。
また、取引制度に参加しない企業にとっても、正しい算定数値は、エネルギーコスト削減策など経営判断に必要なものです。内閣府では産業界にカーボンマネジメント人材が必要と判断し、人材育成を検討するワーキンググループが活動を始めました。今後どのような制度に繋がるかは不明ですが、温暖化対策の面でも産業強化の面でも大きな前進に繋がるのではないでしょうか。

E受講生:最後に、2011年のCOP17の見通しを教えて下さい。

Y講師2011年末のCOP17は南アフリカで開催されます。現在の京都議定書は2012年末(日本だけは年度のため2013年3月末)までの約束しか決めていないため、2013年1月以降の約束を決めるのが目的です。逆算すればCOP17は最後のチャンスと言えます。COPは基本的に年1回の開催ですが、その準備会合が年間を通じて複数回設けられますので、その動向をたどる事でCOP17をある程度予想することができます。現在COP16が終わった直後ですので、ここから先の話は想像力を働かせたものになりますが、次のようなものになるのではないかと思います。
なお現在の京都議定書のフレームワークは、世界の国を、

  • (a)自国の排出上限総量を決めた国
  • (b)決めない国
  • (c)そもそも京都議定書に参加しない国

の3つに分け、CDM(クリーン開発メカニズム)という排出権制度によって(b)の国においても排出削減活動などが普及することを狙っています。
また、(a)の「自国の排出上限総量を決める」のは議定書作成時です。中国やインドが(b)に留まり、米国が(c)に留まっていることに日本政府は不満を持っています。米国政府は中国やインドが(a)に入るならば米国も(a)に入ると公言しています。一方中国やインドは、経済規模が激変している状況のため、議定書作成時に何年も先の数値(自国の排出上限総量)を決めることに不安を持っています。そこで、2020年までの約束に関しては移行期間と割り切り、(a)の新しいジャンルとして、議定書作成時には計算式などで合意し、排出上限総量の数値は1年毎に前々年のGDPや世界排出量と計算式とで自動的に決まるグループを設けるなど、制度設計を工夫することになると思われます。排出上限総量の数値が前年8月など事前に決まるようにすることと、従来の(a)のグループとの間にゲートウエイを設けて排出権流通数量をコントロールできるようにすることさえしていれば、排出権市場への悪影響は最小限にすることができます。もっと良い制度設計もあり得ますので、COP17は楽観視していて良いのではないでしょうか。

E受講生:なんだか成功しそうですね。 ありがとうございました。

温室効果ガス関連セミナー
バックナンバー