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『3分でわかるISO入門 ~イソ子さん奮闘記~』Vol.6

『第6回:ISOは個性を認めてくれないの?』

登場人物
■矢田イソ子さん(25)
大手アパレルでの総務職(派遣)を経てミシマテクノファクトリーに入社。ブレイク前のアイドルの追っかけが趣味。ちょっと天然キャラで早とちりの名人。

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ミシマテクノファクトリー管理部の「期待の新星」として活躍中のイソ子さんは今日も張り切っています。
ところで、管理部の人間関係はうまくいっているんですか?

イソ子さん:
はい!すごくうまくいってます!昨日も飲みに行ったんですよ、管理部の『若手三人組』で。
絢香先輩とリューセイさんと私の三人です。
あ、リューセイさんのことは話していませんでしたっけね。本名は神宮寺流星(じんぐうじ・りゅうせい)っていうんですけど、「名前だけイケメン」なんです。趣味はバドミントンですごく真面目。24歳だから私のひとつ下なんですけど、入社二年目だし管理部では私の先輩だから、「年下の先輩」なんです。
そう言えば絢香先輩のことも正式に紹介していなかったっけ。絢香先輩は27歳で私よりもお姉さん。優しくておっとりしたタイプなんです。

ほう、楽しそうな三人ですね。
いかにも話が盛り上がりそうです。

イソ子さん:
そうそう、飲み会で三人の性格の話になったんですよ。絢香先輩は「破壊的にオットリ」しているし、リューセイさんは「ムダに几帳面」、私は「エレガントにせっかち」ですよねって。あ、「エレガント」は私が勝手につけたんですけどね、てへへ。リューセイさんは私のことを「華麗に早トチリ」だって言うんですけど…。
で、性格の違う三人は仕事のやり方も違うのだろうか…という話題になって、『全社メール』の配信の仕方を比べてみたんですよ。
あ、『全社メール』っていうのはですね、ウチの会社では連絡事項をまとめたメールを管理部から週に一回、全社員の社内アドレスに配信しているんです。毎週水曜日に「今日は一斉退社日ですよー!」という告知も兼ねて。そのメールにはちょっとした挨拶みたいなものも書くんですけど、それを絢香先輩とリューセイさんと私の持ち回りで担当しているんです。
そしたら面白いことに、発行日の書き方が三人それぞれに違っていたんですよ。年月日の「年」の書き方が、絢香先輩は西暦だし、リューセイさんは元号(もしかして、『令和』って使いたくてしょうがない…?)、私は年は省略して月と日しか書かないんです。だって、今年は今年に決まってますから!
それで、お互いに性格出てるよねーって(笑)

ふーん、発行日の書き方が三者三様なんですか…。面白いことは面白いんですけど、担当者ごとにやり方が変わってしまって発行日の表記がバラバラになると、それを読む社員さん達は混乱しませんかね?

イソ子さん:
まさかー!
だって、西暦だろうと元号だろうと省略しようと、「今年の今日の日付」という本質は伝わっていると思うんですけどー!

そのこと自体は、確かに大きな問題ではないかもしれません。そもそもが、あくまでも社内用のメールであって公式な文書というわけでもありませんしね。そして、イソ子さんの言うとおり、どんな表記であっても「年」が伝わるというのも事実だと思います。なぜなら、年や月や日というのは世界共通のルールですからね。誰もが常識的に判断できるんですよ。
今日はその話をしましょうか。
1時間が60分だとか1週間が7日だというのは世界で共通の決まり事、つまり「基準」です。誰もが当たり前に知っているし、そのルールの中で生活しながら普通に使っているんです。

例えば、「11時ピッタリに集合しましょう!」とか「月曜日までに提出してください!」等の約束ができるのも、誰もが同じ基準で時間や曜日のルールを守っているからなんですよ。この基準が国ごとに違うとか、個人ごとに違っていたとしたら約束どころか大混乱が起きてしまいますよね。

イソ子さん:
確かに…。時間や日付の決まりがなかったとしたら大変なことになるかも。
でも、えーと…確か…、時間とか日付は地球の自転と関係していたと思うんですけどぉ、そういう地球規模のルールだから地球上の人は守らざるを得ないということではないですか? 日付や時間以外のことでも基準とかルールが決められているとは私には思えません。世界はもっと自由に動いているはずですよ。だって、ルールに縛られてばかりで不自由だという実感は私にはありませんから。

いえいえ、実は「決められた基準」のおかげで便利になっていることが世の中にはたくさんあるんですよ。それは時間や日付だけでなく、形とか大きさ、性能や測り方などにも同様で、たとえ意識はしていなくとも私たちの生活に深く浸透しています。それが無ければ混乱してしまうということは意外と多いんですよ。

例えば、
●電池の形・大きさが国やメーカーごとにバラバラだったら、すごく不便になってしまう。
●非常口のマークがそれを作ったデザイナーごとに違っていたら、誰も非常口を認識できなくなってしまう。
●キャップやネジはどれも時計回りに回すと開けられるけど、反対回りのキャップが入り混じっていたらイライラしそう。

だけど、私たちはどんな状況でも電池を使って快適な生活をしているし、非常口はすぐにわかるから安心だし、キャップをイライラせずに開けているわけですよね。つまり、「個々がそれぞれの基準でやっていたらバラバラになってしまうこと」が、「ひとつのやり方に取り決められて実行されている」ということなんです。
誰もが繰り返して使うために定めた取り決めのことを《標準化》と言います。これも、ISOの重要な考え方なんですよ。

イソ子さん:
《標準化》かぁ。つまり、ミシマテクノファクトリーも《標準化》された製品を作りなさい、ということですか?

それも重要なことですが、それだけではありません。「ものづくり」のことだけではなく、日常の業務の中で《標準化》に取り組むことが大事なんです。
会社では多人数で仕事をしているわけですから、担当者が必ずしも特定の一人に限定されないとか、仕事をする時期や時間が一定とは限らないという事情があります。そして、人や時期が一定にならないことで、仕事にバラツキができてしまうことがあるのですが、それでは品質や効率が安定しませんよね。結果的にやり直しになってしまったり、作業に支障が生じたりして、時間もお金も損をしてしまう可能性があるんです。

イソ子さん:
でも、ずば抜けた力を持った人がずっと担当していれば、バラツキはなくなるんじゃないですか?

スペシャリストのような「特定の人」だけができる仕事を《属人化》というのですが、仕事が《属人化》してしまうと、その人がいないと何もできなくなってしまいます。
スペシャリストだって体調を崩したり、様々な事情で休暇をとることがあるし、打ち合わせで外出することも普通にあるでしょう。そんな時に、熟練した社員さんの仕事を新人社員が代理で担当したとしても、質が落ちたり時間がかかり過ぎてしまうといった事態が予測されますよね。結果的に、《属人化》というのは能力のバラツキということになります。

仕事のバラツキを避けるために、いつ誰がやっても同じ結果を出せるように仕事のやり方に秩序をつくることが重要です。それを《標準化》といい、そのやり方を全員で共有できるようにまとめたものが《手順書》なんです。
誰もが同じやり方をして、うまく仕事を回すことでムダをなくし、クオリティをあげていく…それこそが《標準化》の目的です。

イソ子さん:
つまり、《標準化》というのは「誰もが同じ」ということなんですね?
だとしたら…うーん…なんだか抵抗があるなぁ。だって、それは個性が認められないということにはなりませんか? 私はお母さんから「個性を大事にしなさい」って言われて育ってきたし、高校の卒業式では校長先生が「信念を持って自分のやり方を信じなさい」って。それなのに、「誰もが同じ」が正しいだなんて…。
それに、私は自分の仕事を極めるために工夫を重ねて頑張ってきたんです。そうやってつくってきた《イソ子流》は部内で評価していただいていますし、他の部署からも評判がいいんですよ。それなのに、《手順書》のやり方でなければいけないだなんて、まるで《イソ子流》ではダメだと言われているみたいで、なんだかやりきれません。
《手順書》は人から個性を奪いとって不自由にさせるためにあるんですか? なーんか、息が詰まるなぁ。

いえいえ、《イソ子流》は否定しませんよ! それに、個性を否定するわけでもありません。
こう考えてみてください。
《手順書》は、「その通りにしなければいけない」と社員を縛り付けるものではありません。また、「《手順書》の通りにやってさえいればそれでいい」というものでもありません。
《手順書》は「ここだけは押さえなさい」ということをルール化したものなんですよ。《標準化》も同様です。先ほどの電池の例で言えば、電池にはプラスとマイナスの端子があって、大きさも数パターンに決まっていて、それを正しくセットすれば電気が流れるようにつくられています。つまり、電池は《標準化》されていて、いつでも誰にでも使えるということです。でも、そのデザインやネーミングや価格設定までルール化されているわけではありません。ほら、お店でも赤や黒や金色の電池が並べられているじゃないですか。
さっきの『全体メール』も同様です。決められた曜日に配信されるとか、メールの構成や記述に統一感があることは読者を安心させてくれますし、それがバラバラだと混乱の原因になりかねませんよね。でも、重要な基準を満たした上でならば、『管理部・若手三人組』の挨拶文に各自の性格や考え方が個性として反映されたりするのはまったく悪くないと思いますよ。むしろ、読み手は喜んでくれそうです。

イソ子さん:
私たち『管理部・若手三人組』のやり方も半分は正しかったというわけですね。
…ということは、メールの記述方法を《標準化》したら完璧になるってことじゃないですか!!
さっそく『管理部・若手三人組』を招集して「基準」を固めるべきかしら!? 忙しくなってきたぞー!!

まあまあ、焦らずに! すぐにその気になっちゃうんだから(笑)
もうひとつ大事なことがあります。
そもそも《手順書》は《PDCA》によって改善されながら質を高めていくべきものなんです。

イソ子さん:
まさにISOの考え方ですね!

そうですね(笑)
そう考えると、イソ子さんが《指示書》を改善していくための重要な要員でもあることに気づきませんか?
だって、イソ子さんは《指示書》に従いながらも、自分で工夫してつくりあげたやり方を提案して、それを《指示書》に加えて改善していくことができる立場にあるわけですから。そうすることで、仕事はより良くなっていくわけですから、それはイソ子さんの義務でもあるんです。
つまり、《イソ子流》が社内で《標準化》される可能性があるというわけなんですよ!

イソ子さん:
なるほどぉ、《イソ子流》が《標準化》されて《手順書》になっていくんですね!ちょっと気分がいいですー!

イソ子さんは、すぐに喜怒哀楽が顔に出るからわかりやすいですね…。あ、いや、こっちの話…ゴホンゴホン。

イソ子さん:
な〜んか気になるけど…ま、いいか…。
いろいろ考えていくと、《標準化》とは個性を失くすことではなくて、それ自体が「会社の個性」であるような気がしてきました。

おお、今日もいいことを言いましたね、イソ子さん! まったくイソ子さんの言うとおりなんです!
そして、 「いいものは皆で共有して、全体を良くしよう」というのが《標準化》の基本であり、ISOの考え方でもあるんですよ。

イソ子さん:
だったら、私が推してるアイドルのMクンも、社員全員で応援してもらいたいなぁ。
だって、「いいもの」は皆で共有するはずだったでしょ? Mクンはサイコーなんだから! 全社員でファン意識を共有して、Mクンをトップアイドルに改善しちゃうなんて、いいと思いません? いや、絶対にいいってば!
それも《イソ子流》だから社内で《標準化》しちゃおうっと!

もしもし?イソ子さん?
言い忘れましたが、一個人の利害や嗜好でやっていることは《標準化》できませんからね…。

ホント、あいかわらずの「華麗に早トチリ」なんだから…(タメ息)

〔次回に続く〕

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【イソ子のつぶやきメモ(6)】
今日も勉強になりました! 忘れないうちにメモっておきますね。

・人や時期などによる仕事のバラツキをなくすために、基準を定めることを《標準化》という
・《標準化》された基準を守らないと混乱が起きるので注意!
・《標準化》された基準は《手順書》で確認すること
・《手順書》は《PDCA》によって改善していく
※そのためには提案することも大事!

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【(ちょっと中級者向け)ISO用語辞典】
標準化にあたっては「レビュー」が重要です。「レビュー」とは、仕事や計画を「適切性」「妥当性」「有効性」という観点から判定することであり、目的に対して質・量・効果という側面から検討するということを意味しています。 ISOでは、要求事項として3つのレビューが規定されています。

(1)「マネジメントレビュー」
(2)「製品に関連する要求事項のレビュー」
(3)「設計・開発のレビュー」

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次号:2019年7月10日(水)配信 『第7回:結果良ければすべて良し?』

お楽しみに!