ISO情報

経営に役立つ「プラスの環境側面」

(「ISO 14000 経営に役立つプラスの環境側面のとらえ方(日科技連出版出版)」 から抜粋)

1. プラスの環境側面

ISO 14001規格では、「有益な環境側面」または「プラスの環境側面」という用語は使われていない。使われているのは「有益な環境影響」および「プラスの環境影響」である。

どんな形であれ、環境に対してプラス方向の変化が生じるのであれば、それは「プラスの環境影響」があるということになる。すなわち、それまでの有害またはマイナスの環境影響を有益またはプラスに転じさせる原因系の活動はもちろん、加えて有害さのマイナスの影響を少しでも小さくすることも含めて、「プラスの環境側面」という用語を用いることとする。
今までの活動に加えて、環境を少しでも良くするために追加して実施すること(追加性)といえるかもしれない。この「追加性」の判断は、組織によって異なってくるであろう。しかし、どんな環境側面がもたらす影響にもトレードオフがあることに注意すべきである。それをも考慮に入れて、「プラスの環境側面」であるかを判断すべきであろう。

2. 組織の本来業務と環境側面

組織の「環境経営」に役立てるという観点から、組織の本来業務に関わる環境側面をいかにとらえるかが焦点となる。

たとえば製造部門における本来業務は、文字通り製造である。 したがって、製造工程における原材料やエネルギーのインプット、そして排気ガスや産業廃棄物の排出などのアウトプットに関わる環境側面が対象になることはいうまでもない。他方、生産管理や設備保全部門においてはどうだろうか。
オフィス内のいわゆる「紙・ゴミ・電気」に関わる環境側面だけに終わっていないだろうか。「部品交換による設備の長寿命化」、「省エネ設備の導入」などは本来の業務・機能であり、それがコスト削減や業務の効率化などにつながると同時に、環境にも有益な影響を与えるような活動でもある。この意味で、これらはプラスの環境側面である。

設計部門、本社企画部門や購買部門も同様である。設計であれば、環境配慮設計を行うことによって建設時や建造物を使用する段階での環境影響を小さくできるし、また購買部門であれば、グリーン購入を通して環境にやさしい物が購入できる。これらの環境影響の方が、オフィス活動からの紙・ゴミ・電気による環境影響よりもはるかに大きいことに留意すべきである。

このように、表面的な紙・ゴミ・電気に限らず、組織の本来業務に関わる環境側面を積極的に取り上げることが、プラスの環境側面の特定につながる。

3. 製品・サービスにおけるプラスの環境側面

組織がつくった製品・サービスについては、顧客に提供され、使用され、そして廃棄される際に、その環境影響が現れる。その環境影響の程度は、組織が製品・サービスをつくり込む際の配慮によって変わってくる。
したがって環境影響の原因となる、製品がもっている要素、および環境影響に対する配慮の内容が環境側面ということになる。これが、従来に比べ環境にプラスの変化を与えるような影響であれば、その原因系は、プラスの環境側面ということになる。

製品・サービスにおいては、特に設計時にプラスの環境側面が多く見られる。建設業における設計の例で、プラスの環境側面を例示する。

  • 1)材料・機器にかんすること:リサイクル材の使用、合板型枠材の使用、易解体性の機器の採用など。
  • 2)施工に関することなど:低騒音・振動型重機の指定、PC工法の採用、残土・汚泥の再使用、余剰材の発生など。
  • 3)建物などの使用に関すること:省エネルギー(断熱性改善、太陽光の利用など)、景観・日照・電波障害またはこれへの配慮、排熱・排ガスの利用、雨水の再利用など。
  • 4)解体に関すること:易解体性、部材のリサイクルなど。

4. 事業活動におけるプラスの環境側面

事業活動に伴う環境側面としても、プラスの環境側面は数多く存在する。特に、いわゆる「間接的な環境影響」と呼ばれるものの中にプラスの環境影響が多く見られる。多くの部署が、紙・ゴミ・電気だけでなく、本来業務として種々の環境配慮をしながら仕事をこなしているはずである。これを認識すること、顕在化することが大変重要となる。

(1)資材調達環境のプラスの環境側面

グリーン購入を行うこと、環境配慮設計を進めている組織の物品を購入することおよび環境対策が進んでいる外注先を選んで発注するということは、それを行っていない時に比較すると明らかにプラスの環境上の変化があると判断できる。製品アセスメントを行っていること、ゼロエミッションを目指していることなど、ある一定の環境に関する基準を設け、そのような購入先を優先して採用することもプラスの環境影響につながっていると判断できる。このような調達方法に変えることは、プラスの影響を与えることになる。

(2)流通関係のプラスの環境側面

資材の搬入、製品の輸送などに関連してもたくさんの環境に影響を与える要素がある。環境負荷を改善するような活動、例えばディーゼル車の廃止、輸送効率の向上によるトラック運行距離の削減、通い箱による梱包資材の削減、輸送方法の改善なども環境影響を軽減することにつながるので、プラスの環境影響をもつ環境側面である。

(3)営業関係のプラスの環境側面

販売する自社の製品に、あまり環境に配慮していない比較的安価なものと環境配慮したやや高価なものがあるとき、積極的に環境に配慮した製品を販売する営業活動は、そのような努力をしないときに比較するとプラスの環境上の変化をもたらすことになる。例えば断熱性に優れ省エネルギー効果の高い住宅の販売に注力することは、地球温暖化の緩和に役立っているとみなせるし、かつその企業の中長期目標とも一致することになるであろう。

(4)製造関係のプラスの環境側面

従来最終処分場に棄てていた廃棄物を、高価にはなるがリサイクルしてくれる業者に処理依頼先を変更すること、使用していた塩素系有機溶剤の代替品への切り替えを促進しその使用量を減らすこと、節電型電気器具への切り替えなどはプラスの影響をもつ環境側面といえる。

また、生産ラインの効率化を図り生産リードタイムを短縮すること、精度を上げて不良率を下げることも、それを意図していれば省エネルギー及び廃棄物削減というプラスの影響を与える環境側面といえるであろう。さらに、組織が保有している環境改善の技術を外注先に提供して採用してもらうことも、トータルで考えればプラスの環境側面と考えてよい。

(5)設計関係のプラスの環境側面

製品の設計については、前項で記述した通りである。

これに加えて、自工場でつくりやすいような製品に設計変更すれば、生産効率が上がり、生産にかかわるエネルギーの低減が可能になるし、また歩留まりが上がれば材料などの投入量を下げることができ、天然資源の節約というプラスの環境影響につながることになる。また同様に再利用、リサイクル材料を使用できるように製造仕様を変更することもプラスの環境側面であるといえる。

(6)総務・広報関係その他におけるプラスの環境側面

下記のような活動もプラスの環境側面であると考えてよい。

  • 1)組織主催の周辺のゴミ収集活動
  • 2)環境意識向上のための特別の教育・キャンペーン
  • 3)環境意識向上のための社外向けイベントの開催

詳細は、テクノファ環境研究会のメンバーがまとめた「ISO 14000経営に役立つプラスの環境側面のとらえ方(日科技連出版出版)」をご覧頂きたい。「環境側面についての考え方」、「製造業、建設業、サービス業におけるプラスの環境側面」、「環境側面の経営的な活用」などについて、詳しい解説が掲載されている。