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品質不祥事に思うー標準化について | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.172 ■□■    
*** 品質不祥事に思うー標準化について ***
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昨今の名だたる大手企業によるデータ改ざんなどの品質不祥事が連続して
起きていることで、日本の今後に不安を覚える人は私だけではないと思います。
もう一度品質保証、品質管理についての基本を認識したいと思い、まずは
標準化ということについて考えたいと思います。

■□■ かならずバラツク ■□■

製品・サービスは必ずバラつきます。これは製品・サービスを実現する人、
設備、材料、やり方等がバラつくからです。
しかし、この「バラつき」は管理することによって最小限にすることが
できます。このバラつきを最小限に管理する最も効果的な方法が標準化で
あるといわれてきました。

標準化は、ある問題に関する与えられた状況で「最適な程度の秩序を得ること」
を目的に、共通すること、かつ繰り返すことのための“規定”を決める活動
である、とISOでは説明しています。

もっと分かりやすくいえば、標準化とは“自由に放置すれば、多様化、複雑化、
無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること”ということです。
標準化には“規定”を決める活動と、規定されたことを守って実施する活動の
2つがあります。 

■□■ 標準の種類 ■□■

標準は次の4つに分類することができます。

1.社内標準
組織内で制定され、実施適用されるもの。
品質マニュアル、作業標準、技術標準、設計標準、各種手順書、指示書、設計図書
などがある。

2.団体標準
学会、工業会などの団体で制定され、実施適用されるもの。
JSQC(日本品質管理学会規格)、ASME(アメリカ機会学会規格)、ASTM(アメリカ材料
試験協会規格)、MIL(アメリカ国防省軍用規格)、UL(アメリカ保険業者安全規格)
などがある。

3.国家標準
国の中で制定され、実施適用されるもの。JIS(日本工業規格)、JAS(日本農林規格)、
BS(イギリス規格)、ANSI(アメリカ規格)、DIN(ドイツ規格)、CSA(カナダ規格)
などがある。

4.国際標準
 国際的に制定され、実施適用されるもの。ISO、IECなどがある。

■□■ 標準化の2つの活動 ■□■

標準を作成する活動は、2つのレベルの活動に分けられます。

1.これまでに蓄積された製造又はサービス提供の条件を標準に規定する。
2.見直し、是正処置等の結果得られた製造又はサービス提供の条件を標準に規定する。

1のレベルは、今までの実施方法を確認し、やり方の統一を図るものです。
やり方がバラバラでは、多様性の調整、両立性、互換性、安全性等が確保できません。
標準化されれば「バラつき」を抑えることができますし、効率も高まります。
しかし、今までの実施方法を踏襲している限りにおいては、その方法が一番良いと
確認できているわけではありません。場合によっては、すでに「過去」の標準と
なってしまっているという危険性を孕んでいます。

2のレベルは、標準化の内容を吟味して、現時点ではこの標準化された方法が
最良であると確信できるものです。言ってみれば、現時点で最適な標準であり、
標準作業において考えられる要素のすべて、人、機械、部品そしてやり方などを
有効に組み合わせたものです。

■□■ 2つのレベルの特長 ■□■

1のレベルにおいては、活動を構成する要素のすべてが相互に適切につながって
いないと効率的な製造又はサービス提供はできません。したがって、もし「標準作業書」
が実態と異なっているとすると、最初から大きな問題を孕んでいることになります。
どんな標準も常に内容の吟味が必要であり、問題の解決を図りながら継続的に改善をして
いかなければならないものです。

2のレベルは、長期のスパンでみると困難を伴う活動です。
なぜかというと、今回は最善であるという確信をいだける方法を標準化できたとしても、
今後とも常に最善であることを追求するにはそれなりの資源が必要になるからです。
さらに、最善であると確信するには何を基準にすればよいかも永遠につきまとう課題です。

1.2両者に必要なことは、決めたことは必ず守る活動をいつの時代にも継続して行って
いくことです。

■□■ 標準化に関するJIS規格 ■□■

標準化に関しては、JIS Z 8002:2006 (ISO / IECガイド2) にその目的が説明されています。

1.多様性の調整
大多数の必要性を満たすように、製品(サービスも含む)、方法等のサイズ・形式を、
最適な数に選択すること。

2.両立性
特定の条件の下で、複数の製品(サービスも含む)、方法等が、相互に不当な影響を
及ぼすことなくそれぞれの“要求事項”を満たしながら、共に使用できるための適切性。

3.互換性
ある製品(サービスも含む)、方法等が、同じ“要求事項”を満たしながら、別のものに
置き換えて使用できる能力。

4.安全性
容認でない傷害のリスクがないこと。

以上。

JIS Q 45100労働安全衛生MS規格7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.171 ■□■
*** JIS Q 45100労働安全衛生MS規格7 ***
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JISαに関する説明も最終回です。
ISO 45001労働安全衛生マネジメントシステムのJIS発行に合わせて、
JIS Q 45100が発行されました。日本では、危険予知訓練、ヒヤリハット、
5Sなど効果的な活動が行われてきましたが、それらを追加した規格がJISαです。
JIS Q 45100の認証制度が検討されていますが、今後詳しい制度の内容が
明確になると思います。
■□■ JISQ45100の箇条7、8の概要 ■□■
前回6回目の最後の説明7.5.1に続く要求事項です。

【7.5.2 作成及び更新 】
JIS Q 45001:2018の7.5.2を適用する。

【7.5.3 文書化した情報の管理 】
(JIS Q 45001の箇条7.5.3が引用されている)
組織は、文書化した情報の管理(文書を保管、改訂、廃棄などすることをいう。)
に関する手順を定め、これによって文書化した情報の管理を行わなければならない
≪解説≫
厚労省OSHMS指針第8条(明文化)と整合がとられています。文書管理の手順書は
新たに作成する必要はなく、既存の手順書を見直し必要に応じ修正することでよい
でしょう。

【8 運用】
【8.1 運用の計画及び管理】
【8.1.1 一般】
(JIS Q 45001の箇条8.1.1が引用されている)
組織は、箇条6で決定した取組みを実施するために必要なプロセスに関する手順を
定め、この手順により実施しなければならない。
組織は、箇条6で決定した取組みを実施するために必要な事項について働く人及び
関係する利害関係者に周知させる手順を定め、この手順により周知させなければならない。

≪解説≫
ここで要求されているのは「必要なプロセスに関する手順書」であり、取り組む事項の
全てについて手順を求めているわけではありません。厚労省OSHMS指針との関係では、
第13条(安全衛生計画の実施等)と整合がとられています。

【8.1.2 危険源の除去及び労働安全衛生リスクの低減】
(JIS Q 45001の箇条8.1.2が引用されている)
組織は、危険源の除去及び労働安全衛生リスクを低減するためのプロセスに関する
手順を定め、この手順により実施しなければならない。組織は、危険源の除去及び
労働安全衛生リスクの低減のための措置を6.1.1.1の体制で実施しなければならない。

≪解説≫
箇条8.1.2は、危険源の除去及び労働安全衛生リスクを低減するための措置の
実施について手順書を求められています。

【8.1.3 変更の管理】
JIS Q 45001:2018の8.1.3を適用する。

【8.1.4 調達】
JIS Q 45001:2018の8.1.4を適用する。

【8.2 緊急事態への準備及び対応】
JIS Q 45001:2018の8.2を適用する。

■□■ JIS Q 45100の箇条9の概要 ■□■

【9 パフォーマンス評価】
【9.1 モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価】
【9.1.1 一般】
(JIS Q 45001:2018の9.1.1が適用されている)
組織は、モニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価のためのプロセスに
関する手順を定め、この手順により実施しなければならない。

≪解説≫
ここではモニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価のためのプロセスの
手順書を定めることが求められています。

【9.1.2 順守評価】
JIS Q 45001:2018の9.1.2を適用する。

【9.2. 内部監査】
JIS Q 45001:2018の9.2を適用する。

【9.3 マネジメントレビュー】
JIS Q 45001:2018の9.2を適用する。

■□■ JIS Q 45100の箇条10の概要 ■□■

【10 改善】
【10.1 一般】
JIS Q 45001:2018の10.1を適用する。

【10.2  インシデント、不適合及び是正処置】
(JIS Q 45001の箇条10.2が引用されている)
組織は、インシデント、不適合及び是正措置を決定し管理するためのプロセスに
関する手順を定め、この手順により実施しなければならない。

≪解説≫
インシデント、不適合及び是正措置を決定し管理するためのプロセスの手順書を
定めることを要求しています。

【10.3 継続的改善】
JIS Q 45001:2018の10.3を適用する。

以上がJIS Q 45100(JISα)規格の概要です。繰返しになりますが、JIS Q 45100は
ISO 45001に日本の追加要求事項を上乗せした規格です。その特徴は、今まで7回に
わたって述べてきたことに加えて、附属書Aに法律に関係する多くの記述がある事です。

JISQ45100の認証を受けたい組織は、この約50項目ある法的項目の中からマネジメント
システムに盛り込みたいものを自分で選択することで、より充実したシステムを構築
できるようになっています。
附属書AについてはJIS Q 45100をご覧になってください。

JIS Q 45100労働安全衛生MS規格6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.170 ■□■    
*** JIS Q 45100労働安全衛生MS規格6 ***
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前回から、2018年9月28日に公示されたJIS Q 45100(JISα)について
お話ししていますが、今回はその6回目です。
JISαには、OHSAS18001と同様に「リスクアセスメント(Risk assessment)」の
要求があります。
しかし、JISQ45001(ISO45001)には、リスクアセスメントの要求は無く、
「リスクの評価(Assessment of Risk)」の要求となっています。
両者には微妙に違いがあることをご理解ください。

■□■ JISQ45100の箇条6、7の概要 ■□■

【6.2.2.1 実施事項に含めなければならない事項 】
組織は,労働安全衛生目標を達成するための計画に,6.1.1で決定し,
計画した取組みの中から,次の全ての項目について実施事項に含めなければならない。

a) 法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れて決定した取組み事項及び実施時期
b) 労働安全衛生リスクの評価を考慮に入れて決定した取組み事項及び実施時期
c) 安全衛生活動の取組み事項(法的要求事項以外の事項を含むこと)及び実施時期
d) 健康確保の取組み事項(法的要求事項以外の事項を含むこと)及び実施時期
e) 安全衛生教育及び健康教育の取組み事項及び実施時期
f) 元方事業者にあっては,関係請負人に対する措置の内容に関する取り組み事項及び実施時期

≪解説≫
この箇条はJISαに独自の追加要求事項です。厚労省指針第12条(安全衛生計画の作成)と
整合がとられています。箇条6.2.2.1 a)~f)は、箇条6.1.1一般のJISαで追加された
a)~f)に対応して、取り組む事項及び実施時期を決定することを求めています。

a) 法的要求事項の例としては、リスクアセスメント(厚労省指針解釈通達で求めている)、
  過重労働、健康診断、ストレスチェックなどが上げられます。
b)リスクを評価した結果に対応して、組織が実施する内容と実施時期を求めています。
c)安全衛生活動の例としては、安全衛生パトロール、ヒヤリハット活動などがあります。
d)健康確保の取組みとしては、手洗い励行、予防注射推奨、インフルエンザ、ノロウイルス対策
などがあります。
e)安全衛生教育及び健康教育の例としては、メンタルヘルス教育、避難方法教育、
個人用保護具の使用に関する教育などがあります。
f)建設業においては、元方事業者の関係請負人に対する措置の取組みを明確にする
ことが必要です。具体的な内容には、次のようなものがあります。
・構内協力会社の従業員、監督者、管理者などに対しての安全衛生教育の実施
・構内協力会社などと合同で行う安全パトロールに実施

【7 支援 】
【7.1 資源 】
JIS Q 45001:2018の7.1を適用する。

【7. 2 力量 】
(JISQ45001の箇条7.2が引用されている)
組織は,安全衛生活動及び健康確保の取組みを実施し,維持し継続的に改善するため,
次の事項を行わなければならない。

e) 適切な教育,訓練又は経験によって,働く人が,安全衛生活動及び健康確保の取組みを
適切に実施するための力量を備えていることを確実にする。
f) 適切な教育,訓練又は経験により,システム各級管理者が,安全衛生活動及び健康確保の
取組みの有効性を適切に評価,管理するための力量を備えていることを確実にする

≪解説≫
箇条7.2力量には、e)、f)に二つの追加要求事項があります。
e)は力量の対象を「安全衛生活動や健康確保の取組みに関する力量」と明確にしています。
また、f)ではシステム各級管理者に求められ力量を要求していますが、それは安全衛生活動
及び健康確保の取組みの有効性を評価したり、管理するための力量です。
有効性の評価は、各級システム管理者が個別に実施するのではなく、組織として統一した基準、
方法を決めておくとよいと思います。

【7.3 認識 】
JIS Q 45001:2018の7.3を適用する。

【7.4 認識 】
JIS Q 45001:2018の7.4を適用する。

【7.5 文書化した情報 】
【7.5.1 一般 】
JIS Q 45001:2018の7.5.1を適用する。

【7.5.1.1 手順及び文書化 】

組織は、5.4、6.1.2.2、7.5.3、8.1.1、8.1.2、9.1.1、10.2によって策定する手順については、
少なくとも次の事項を含まなければならない。

a) 実施時期
b) 実施者又は担当者
c) 実施内容
d) 実施方法
組織は、5.4、6.1.2.2、7.5.3、8.1.1、8.1.2、9.1.1、10.2によって策定した手順については、
文書化した情報として維持しなければならない

≪解説≫
この箇条はJISαに独自の箇条です。JIS Q45001では手順の定義に「定義は文書化してもしなくてもよい」
との記載がありますが、JISαでは一歩踏み込んで手順書の作成を箇条5.4、6.1.2.2、7.5.3、8.1.1、
8.1.2、9.1.1、10.2に求めています。手順書に含めるべき項目としてa)~d)の4項目を規定しています。

a)何時やるか
b)誰がやるか
c)何をやるか
d)どのようにやるか

JISαが文書化した情報(手順書)を要求している箇条のタイトルは次の通りです。
5.4「働く人の協議及び参加」
6.1.2.2「労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクの評価」
7.5.3「文書化した情報の管理」
8.1.1「運用の計画及び管理 一般」
8.1.2「危険源の除去及び労働安全衛生リスクの低減」
9.1.1「モニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価一般」
9.2.2 「内部監査プログラム」
10.2「インシデント、不適合及び是正処置」

JIS Q 45100労働安全衛生MS規格5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.169 ■□■    
*** JIS Q 45100労働安全衛生MS規格5 ***
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前回から、2018年9月28日に公示されたJIS Q 45100(JISα)について
お話ししていますが、今回はその5回目です。

JISαには、OHSAS18001と同様に「リスクアセスメント(Risk assessment)」の
要求があります。
しかし、JISQ45001(ISO45001)においては、リスクアセスメントの要求は無く、
「リスクの評価(Assessment of Risk)」の要求となっています。
微妙に違うところをご理解ください。

■□■ JISQ45100の箇条6の概要 ■□■

【6.1.2 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価 】
【6.1.2.1 危険源の特定 】
JIS Q 45001:2018の6.1.2.1を適用する。

【6.1.2.2 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに
対するその他のリスクの評価 】
(JISQ45001の箇条6.1.2.2が引用されている)
労働安全衛生リスクの評価方法及び基準は,負傷及び疾病の重篤度及び
それらの発生の可能性の度合いを考慮に入れたものでなければならない。
組織は,当該評価において,附属書Aを参考にすることができる。
組織は,労働安全衛生リスクを評価するためのプロセスに関する手順を
策定し,この手順によって実施しなければならない。

≪解説≫
JISαが追加している「労働安全衛生リスクの評価方法及び基準は,
負傷及び疾病の重篤度及びそれらの発生の可能性の度合いを考慮に
入れたものでなければならない。」という文章は、JISQ45001の定義と
同じです。
すなわち、箇条3.21 労働安全衛生リスク:
「労働に関係する危険な事象又はばく露の起こりやすさと、その事象
又はばく露によって生じる得る負傷及び疾病の重大性との組み合わせ」です。
これは、厚労省リスクアセスメント指針と整合がとられています。
また、JIS Q45001の箇条3.21では冒頭述べたように労働安全衛生リスクが
定義されており、上記の定義と内容は同じです。

【6.1.2.3 労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに
対するその他の機会の評価】
(JISQ45001の箇条6.1.2.2が引用されている)
組織は、当該評価において、附属書Aを参考にすることができる。

≪解説≫
附属書Aの記載には、「労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメント
システムに対するその他の機会」に相当する事項がありますので、その部分を
参考にするとよいでしょう。

【6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定 】
(JISQ45001の箇条6.1.3が引用されている)
組織は、当該決定において、附属書Aを参考にすることができる。

≪解説≫
 附属書Aには、労働安全衛生に関係する「法的要求事項及びその他の要求事項」が
多く掲載されています。自組織に関係するであろう「法的要求事項及びその他の
要求事項」を 附属書Aから確認、チェックするとよいでしょう。

【6.1.4 取組みの計画策定 】
JISQ45001の箇条6.1.4を適用する。

【6.2 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定 】
【6.2.1 労働安全衛生目標 】
JISQ45001の箇条6.1.4を適用する。

【6.2.1.1 労働安全衛生目標の考慮事項など 】
組織は,労働安全衛生目標(JIS Q 45001:2018 の6.2.1参照)を確立しようと
するときには,次の事項を考慮しなければならない。
― 過去における安全衛生目標(JIS Q 45001:2018 6.2.1参照)の達成状況
組織は,労働安全衛生目標の確立に当たって,一定期間に達成すべき到達点を
明らかにしなければならない。

≪解説≫
この追加部分は、厚労省指針と整合がとられています。例えば、禁煙推進に
取り組む場合は、一定期間例えば1年の間に喫煙率○%低減といった達成すべき
到達点を明確にすることを求めています。達成目標を具体的に数値化することで、
定量的な達成度合評価ができます。さらに、もし達成目標が達成できなかった
場合は、過去の目標がなぜ達成できなかったかその原因を把握し、次年度の
安全衛生目標に反映させることを考慮することを示唆しています。

【6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定 】
(JISQ45001の箇条6.2.2が引用されている)
組織は,労働安全衛生目標をどのように達成するかについて計画するとき,
a)~f) に加え,次の事項を決定しなければならない。
g) 計画の期間
h) 計画の見直しに関する事項
組織は,労働安全衛生目標をどのように達成するかについて計画するとき,
利用可能な場合,過去における次の事項を考慮しなければならない。
i) 労働安全衛生目標の達成状況及び労働安全衛生目標を達成するための計画の実施状況
j) モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価の結果(9.1.1参照)
k) インシデントの調査及び不適合のレビューの結果並びにインシデント及び
不適合に対して取った措置(10.2参照)
l)  内部監査の結果(JIS Q 45001:2018 の9.2.1及び9.2.2 参照)

≪解説≫
この箇条は実行計画を求めており、多くの組織では「安全衛生計画」と
呼ばれています。
g)は、組織が実行計画を作製する時には、通常「○○年○月○日~○○年○月○日」と
実行計画のヘッダーに表記しますので、特に意識する必要ないでしょう。
h)は、実行期間中に、組織変更があったり、新たな機械設備が導入されたり、
法令の改正などがあった場合が想定されます。
i)~l)は、実行計画を策定するとき、過去の達成度合いを参考にして実行計画を
作成すべきであるとして、4項目をポイントに上げています。

JIS Q 45100労働安全衛生MS規格4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.168 ■□■    
*** JIS Q 45100労働安全衛生MS規格4 ***
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前回から、2018年9月28日に公示されたJIS Q 45100(JISα)に
ついてお話ししていますが、今回はその4回目です。
ここからはOH&SMSの核心であるリスクについて扱います。

気を付けなければならないことは、OHSAS 18000で扱ってきたリスクと
ISO 45001(したがってJISα)が扱うリスクとは異なるということです。
詳細は以下をご覧いただきたいのですが、JISαには2種類のリスクが
あります(これはJIS Q 45001でも同じです)。

■□■ 2種類のリスクとは ■□■

一つはOHSAS 18001が扱ってきたリスクで、「危険な事象又はばく露の
起こりやすさと、その事象又はばく露によって生じ得る負傷及び疾病の
重大性との組み合わせ」と定義されています。

もう一つは、共通テキストに定義されている「不確かさの影響」です。
JISαでは、前者は「労働安全衛生リスク」、後者は、「労働安全衛生
マネジメントシステムに対するその他のリスク」と表現されています。
では規格本文と解説をお読みください。

■□■ JIS Q 45100の箇条6の概要 ■□■

【6 計画】
【6.1リスク及び機会への取組み】
【6.1.1一般】
(JISQ45001の箇条6.1.1が引用された後に次が追加されている)
組織は,次に示す全ての項目について取り組む必要のある事項を
決定するとともに実行するための取組みを計画しなければならない
(JISQ45001:2018の6.1.4参照)。

a) 法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れて決定した取組み事項
b) 労働安全衛生リスクの評価を考慮に入れて決定した取組み事項
c) 安全衛生活動の取組み事項(法的要求事項以外の事項を含むこと)
d) 健康確保の取組み事項(法的要求事項以外の事項を含むこと)
e) 安全衛生教育及び健康教育の取組み事項
f) 元方事業者にあっては,関係請負人に対する措置に関する取組み事項 

組織は,附属書Aを参考として,取り組む必要のある事項を決定するとともに
実行するための取組みを計画することができる。なお、附属書Aに掲載されて
いる事項以外であってもよい。

組織は,取組み事項を決定し取組みを計画するときには,組織が所属する
業界団体などが作成する労働安全衛生マネジメントシステムに関する
ガイドラインなどを参考とすることができる。

注記1  元方事業者とは,一の場所において行う事業の仕事の一部を請負者に
請け負わせているもので,その他の仕事は自らが行う事業者をいう。

注記2 関係請負人とは,元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって
行われるときに,当該請負者の請負契約の後次の全ての請負契約の当事者である
請負者をいう。

≪解説≫
JISαの箇条6.1.1には、ISQ 45001にa)~f)が追加されていますが、これらは
厚労省指針に規定されている項目です。ただ、d)及びe)の「健康確保」や
「健康教育」は、2018年の「働き方改革」法案の制定に合わせて盛り込まれた
項目です。

例えば、d)健康確保の取組みには、メタボ対策、健康診断受診、残業による
過重労働対策、生活習慣病対策などが考えられます。

f)の元方事業者に関する追加項目は、日本特有な建設業における仕組みに関する
要求です。注記1にあるように「元方事業者」とは建設工事を施主から受注して
いる建設会社のことであり、通常はゼネコンと呼ばれる総合建設事業者のことを
いいます。また、関係請負人とは、注記2にあるように元方事業者から工事現場の
仕事を下請けする掘削会社、生コン業者、配筋業者、電気配線業者、配管業者などの
建設業者のことを意味しています。
 

JIS Q 45100には、附属書Aが付いていますが、ここには「働き方改革」、「健康教育」
など多くの項目が載っています。
附属書Aに記載されている諸活動は組織が参照とするものであり、この中から実施事項を
選択しなければならないという意味ではありません。
附属書Aに記載されている活動を選んでも良いし、組織が独自に行っている安全衛生活動
でも差し支えありません。

【6.1.1.1 労働安全衛生リスクへの取組み体制】
組織は、危険源の特定(JIS Q 45001:2018 6.1.2.1参照)、労働安全衛生リスクの評価
(JIS Q 45001:2018 6.1.2.2参照)及び決定した労働安全衛生リスクへの取組みの計画策定
(JIS Q 45001:2018 6.1.4参照)をするときには、次の事項を確実にしなければならない。
a) 事業場ごとに事業の実施を統括管理する者にこれらの実施を統括管理させる。
b) 組織の安全管理者、衛生管理者等(選任されている場合)に危険源の特定及び労働安全衛生
リスクの評価の実施を管理させる。

組織は、危険源の特定及び労働安全衛生リスク評価の実施に際しては、次の事項を考慮
しなければならない。

-作業内容を詳しく把握している者(職長、班長、組長、係長,作業指揮者等の作業中の
 働く人を直接的に指導又は監督する者)に検討を行わせるように努めること。
-機械設備及び電気設備に係る危険源の特定及び労働安全衛生リスクの評価に当たっては、
 設備に十分な専門的な知識を有する者を参画させるように努めること。
-化学物質等に係る危険源の特定及び労働安全衛生リスクの評価に当たっては、必要に応じ、
 化学物質等に係る機械設備、化学設備、生産技術、健康影響等についての十分な専門的
 知識を有する者を参画させること。
-必要に応じて外部コンサルタント等の助力を得ること。

注記1 化学物質などの「など」には化合物、混合物が含まれる。
注記2 「事業の実施を統括管理する者」には、総括安全衛生管理者や統括安全衛生責任者が
   含まれ総括安全衛生管理者の選任義務のない事業場においては、事業場を実質的に
   管理する者が含まれる。
注記3 安全管理者、衛生管理者などの「など」には、安全衛生推進者及び衛生推進者が含まれる。
注記4 外部コンサルタントなどには、労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタントが
   含まれるが、それ以外であってもよい。

≪解説≫
この箇条6.1.1.1は、JIS Q 45001からの引用の部分はなく、JISαに独自な箇条です。
JIS Q 45001には risk assessmentの要求は無く、assessment of risk の要求になっています。

読者の方には両者の違いはあまり明確でなく、奇異に感じられるかもしれませんが、
「リスクアセスメント又はリスク評価:risk assessment」というと、戦後いろいろな分野で発展
してきた一つの方法を意味しますが、「リスクの評価:assessment of risk」というと、いろいろな
方法があってもいいことになります。単に「の」の字があるかないかで意味が変わってきてしまいます。
厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」との整合がとられています。