2025年4月30日
————————————————————————-
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.507 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ISO9001キーワード コミュニケーション7 ***
————————————————————————-
ISO9001キーワード「コミュニケーション」についてのお話を6回にわたってし
てきましたが、今回は最後のキーワード「コミュニケーション」についてです。
要求事項がどう変わってきたかをお話ししてこのキーワード連載の締めにします。
■■ 標準の最新化 ■■
現在使われているJIS9001:2015規格の前身はJIS9001:2008規格です。ISOでは
原則5年に一度見直しをすることになっていますが、実質的には10年あるいは
それ以上の期間がかかっています。2025年の現在もISO9001規格の見直しが進
んでいて、次期改正は2026年になる予定です。なぜこのような話をしたかと言
いますと、標準化の性質に根ざした本質的なことを確認したかったからです。組
織においては一度ルールを決めるとそれへの準拠が求められますが、いつの間に
かルールそのものが実態に合わなくなっているということが多くあります。
そのため組織の標準は定期的に見直ししなければなりませんが、そのことをISO
マネジメントシステムでも要求しています。そのISO規格自身も最新化している
わけですが、どんな最新化が行われているのかを「コミュニケーション」でお話
ししたいと思います。
■■ JIS9001:2008規格 ■■
JIS9001:2008規格においてのコミュニケーションの要求は「5.5.3 内部コミュ
ニケーション」というところに在りました。要求事項は次のように簡単なもので
した。「トップマネジメントは,組織内にコミュニケーションのための適切なプロ
セスが確立されることを確実にすること。また,品質マネジメントシステムの有
効性に関しての情報交換が行われることを確実にすること。」
当時はこの要求事項を組織全体のコミュニケーションと読めることから、「方針
説明会とか職場の朝会とか、あるいは各種会議など」をコミュニケーションの内
容として社内で規定して維持するという組織が多かったように思います。
「方針説明会とか職場の朝会とか、あるいは各種会議など」でしたら、多くの会
社で日常的に行っていることで、特に目新しいことではなく組織では抵抗なく規
定していったと思われます。
■■ JIS9001:2015規格 ■■
次に発行された2015年版での要求事項はがらりと変わって次のようなものにな
りました。
7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部の
コミュニケーションを決定しなければならない。
a) コミュニケーションの内容
b) コミュニケーションの実施時期
c) コミュニケーションの対象者
d) コミュニケーションの方法
e) コミュニケーションを行う人
どうでしょうか?どうしてこんなにコミュニケーション要求事項が変わったので
しょうか。まさしく経営環境が変わって最新化されたからです。2015年版でa)
~e)と具体的な記述になった背景としては、世界的にコミュニケーションの重要
性が組織の中で高まったからでしょう。この頃からEUでは人材から人財へ、す
なわち人を資源として観るのではなく資本として観るような動きが顕著になって
います。人を資源として観るとなるべく少なく、安く、効率的に扱う(扱うとい
う言葉は不遜ですが・・・)ということなりますが、資本としてみるとなるべく
多く、高く、効果的に扱うということになります。この動きが人的資本という表
現になり、上場会社の人的資本開示の義務化ということに繋がってきました。EU
では2010年頃、アメリカでは2018年頃、日本は一番遅く2023年に義務化がさ
れました(金融庁及び東証)。
■■ コミュニケーションはどうあるべきか ■■
このような背景においては人に対する考え方を変えていかなければならず、その
過程におけるコミュニケーションは従来にも増して重要なものになってきたと言
えます。もっとも、日本では人を資本としてみることは古くから多くの企業で行
われてきていましたので、目新しいことではなかったかもしれません。
ここで改めてa)~e)の要求事項を眺めてみると容易なことではないと個人的は思
います。
というのは、a)~e)は大きく分けて会社全体、グループ、個人の3つ位に分けて
考えなければ実効性がないと思われるからです。
私の個人的な考えを申すならば、会社全体のコミュニケーションでしたらa)方針
など、b)年度初め、c)全員、d)方針大会(リアル/ネット)/社内報、e)社長となる
でしょう。グループでしたらa)目標など、b)4半期ごと、c)グループ全員、d)会議
など、e)グループ長となるでしょう。個人でしたらa)業務進捗、悩み事など、
b)毎月、c)個人、d)ワンonワン、e)上司となるでしょう。