ISO9001キーワード  信頼される本物のリーダー | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年7月9日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.517 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  信頼される本物のリーダー ***
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前回は、革新のリーダーシップを通じて、組織の未来を切り拓くために必要な
ステップとリーダーの資質について考えました。今回はさらに一歩踏み込み、
「信頼される本物のリーダー」とは何かをお話ししたいと思います。
今回のテーマは「オーセンティック・リーダーシップ」です。
これは2003年、ビル・ジョージが著書『ミッション・リーダーシップ』で提
唱した概念で、「倫理観と自己理解に基づいた“本物のリーダーシップ”」を意味
します。近年の不祥事や組織不信の中で、改めて注目されている考え方です。

■■ なぜ「本物のリーダー」が必要なのか? ■■
2000年代初頭、アメリカでは大手企業による不正会計や隠ぺい行為が社会的に
大きな問題となりました。短期的な株主利益や市場評価を優先するあまり、企
業が本来守るべき倫理や社会的責任が軽視され、結果として長期的な信頼と利
益を失ってしまったのです。
こうした反省の中から浮かび上がったのが、「倫理観に根ざし、信念を持って
行動するリーダーの必要性」です。これこそが、オーセンティック・リーダー
シップの出発点です。
「authentic」という言葉は、「確実な」「本物の」「偽りのない」という意味を
持ちます。オーセンティック・リーダーシップとは、外部の評価や流行、立場
に流されず、自分の価値観や信念をもとに誠実に行動するリーダーシップです。

■■ オーセンティック・リーダーの5つの特性 ■■
オーセンティック・リーダーには、以下のような特徴が求められます。
(1) 自らの目的を明快に理解している
自分が何のためにリーダーとして存在しているのか、どんな価値を組織や社会
に提供したいのかを明確に理解しています。
(2) 価値観や倫理観に忠実に行動する
どんなに困難な状況であっても、自らの倫理に背かず、正しいと信じる行動を
貫くことができます。外部の評価よりも、自分の信念を軸に判断します。
(3) 情熱的に人をリードする
本音で話し、弱みを見せることも恐れず、情熱と誠実さを持って周囲に働きか
けます。だからこそ、信頼され、共感される存在になります。
(4) 信頼に基づくリレーションシップを築く
活発でオープンな人間関係を築き、互いに支援し合えるネットワークを育てま
す。チームの中に信頼の文化を根づかせるのが特徴です。
(5) 自己を律し、学び続ける
傲慢にならず、常に自分の行動を振り返り、成長を求めて謙虚に学び続けます。
自分の限界を認める強さがあるリーダーです。

■■ オーセンティック・リーダーシップを育む4つのステップ ■■
こうしたリーダーシップは、先天的なものではありません。日々の実践と内省の
積み重ねによって育まれていくものです。以下の4つのステップが、オーセンテ
ィック・リーダーへの道標(道しるべ)になります。
(1) 自分を理解する
まず、自分の強み・弱みを把握することから始まります。リーダーはすべてにお
いて万能である必要はありません。むしろ、自分の特性を受け入れ、それをどう
生かすかを考えることが重要です。また、自分の言動が周囲にどう影響している
かを知る努力も欠かせません。
(2) 自分の倫理観を明確にする
日々の判断や行動が、どんな価値観に基づいているのかを整理します。そして、
その倫理観が組織や社会にとって望ましいものであるかを問い直します。これに
より、「信頼できる人」「一貫性のある人」としての評価が得られるのです。
(3) 行動を振り返る
リーダーの影響力が大きいからこそ、自分の行動が「何を伝えたのか」を常にチ
ェックする必要があります。時に周囲の期待や上司の意向に流されていないか、
自分らしい判断ができているかを見直し、必要があれば軌道修正を図ります。
(4) 公平で透明性のある関係を築く
信頼関係は一朝一夕に築かれるものではありません。秘密主義や裏表のある態度
では、メンバーの信頼を失います。どんな立場の相手にも率直で誠実に向き合う
姿勢が、信頼される基盤となります。

■■ なぜ今、オーセンティック・リーダーシップが求められるのか ■■
現代は、情報の透明性が飛躍的に高まり、組織の倫理が問われる時代です。
一度失った信頼を取り戻すには、かつて以上の時間と努力が必要になります。
また、組織の中で働く個人も、自らの価値観に照らして行動したいと望んでいま
す。そうした中で、リーダーが誠実であること、ブレない価値観を持っているこ
とは、チームの安心感やエンゲージメントにつながるのです。
ISO9001の視点から見ても、「組織の方向性と整合したリーダーシップの確立」は
極めて重要です。その中には、倫理と信頼に根ざしたリーダーの在り方も含まれ
ます。

■■ リーダーは「正しさ」を示す存在 ■■
オーセンティック・リーダーシップは、派手な演説やカリスマ性とは無縁かもし
れません。ですが、静かに、しかし確かに組織の価値観を形づくるリーダーシッ
プです。
「自分は何を大切にしているのか」
「その価値に基づいて行動できているか」
この問いを持ち続け、自らを律し、誠実に人と向き合うリーダーこそ、これから
の時代に信頼される“本物”のリーダーです。