2025年9月24日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.526 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識9 ~改善行動を根づかせ方法 ***
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前回まで、行動を「強化」して増やす方法、「弱化」や「消去」によって止めさせる
方法を紹介してきました。
今回はまだできていない新しい行動、改善行動を、どうやってできるように育てて
いくかについて考えてみたいと思います。
■■ 新しい行動を導く3つのアプローチ ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、社員が「自分の業務の重要性」や「方針との関係性」
を理解し、それを自発的な行動に結びつけることを期待しています。しかし、「理解し
たから行動できる」というわけではありません。新しい行動は段階的に、丁寧に教え、
成功体験と結びつけて強化していくことが必要です。
(1) 言葉による指示
もっとも一般的な方法です。上司や先輩が「これをこうしてください」と口頭やマニ
ュアルで指示する形です。
・例:新人に「日報には○○を必ず記入してください」と伝える
・流れ:指示 → 行動 → 強化(ほめる)→ 行動が定着するよう繰り返す
注意点としては、相手が理解しているようでも、実際の行動に移せるとは限らないた
め、以下の(2)、(3)の補完手段と組み合わせることが有効です。
(2) モデリング(模範提示)
これは、見せて学ばせる方法です。熟練の先輩や教育用のビデオなどを通じて、「こう
すればいい」というモデル行動を提示し、それを模倣させます。
・例:接客対応をビデオで学ぶ、先輩の見積説明を同席して観察する
・流れ:モデリング → 模倣行動 → 強化(ほめる)→ 行動が定着するよう繰り返す
人は他人の行動を見て学習する「観察学習」の能力を持っており、職場教育でも非常に
有効です。
(3) 身体的誘導(フィジカルガイド)
言葉や模範でも行動ができないときは、実際に手取り足取り教える方法が有効です。特
に身体を使う作業や操作を伴う業務で有効です。
・例:工作機械の操作を直接指導する、電話応対のセリフを一緒に練習する
・流れ:身体的誘導 → 行動 → 強化(ほめる)→ 行動が定着するよう繰り返す
■■ シェイピング(形成) ■■
新しい行動がいきなり完璧にできることはありません。そこで使われるのが、行動の
「スモールステップ化」です。
「シェイピング法」では、目標行動に至るまでの段階的な行動を設計し、それぞれを強
化していくことで、やがて理想の行動にたどり着けるようにします。
例:C=訪問先で営業プレゼンができる
→ A=あいさつができる
→ B=商品紹介が言える
→ C=提案とクロージングができる
A(あいさつ)→ 強化 → B(紹介)→ 強化 → C(提案)→ 強化 を繰り返す
このとき大事なのは、「少しできた」瞬間に、即、強化(ほめる)ことです。すでにでき
ている行動を褒めても強化にはつながりません。今までできなかったことが、少しでき
た瞬間こそがチャンスなのです。
■■ チェイニング(連鎖) ■■
「チェイニング法」は、一連の行動プロセスをひとつの行動のまとまりとして扱い、段
階的に強化していく方法です。
たとえば、「訪問 → 説明 → 見積 → 契約 → 納品」という営業プロセスを、すべて個
別ではなく、連続したチェーンとみなしてトレーニングします。
次の2つの方法があります。
(1) フォワード・チェイニング(前方連鎖)
訪問 → 説明 → 見積・・・と最初から順に強化していく方法。
ただし、達成感が得られるまでに時間がかかるため、途中でやめる(消去)可能性も。
(2) バックワード・チェイニング(後方連鎖)
納品 → 契約 → 見積・・・と逆から強化していく方法。
契約や納品という成果の出やすいところを最初に経験させることで、達成感を早期に与
え、モチベーションを持続させることができます。
この「達成感を起点に逆算して行動を強化する」考え方は、教育やマネジメントで非常
に有効です。
■■ 認識から“行動が生まれる”構造を設計する ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、働く人々に「自分の仕事の意義」を理解させることが
目的ですが、最終的には自発的な行動を引き出すことがゴールです。
そのためには、以下のようなアプローチが効果的です。
(1) マニュアルや口頭指示は最初のきっかけにすぎない。
→ モデリングや実践を通じて実感へ落とし込む。
(2) できることを段階的に増やして、自己効力感を高める。
→ 小さなステップで「できた」を繰り返す。
(3) 成功体験を早く与え、モチベーションを保つ。
→ バックワードチェイニングの活用。
(4) “できて当たり前”ではなく、“できたら即強化”を徹底する。
→ 行動を見逃さず、即座に反応する文化をつくる。
■■ 行動は“設計”できる ■■
人は意識だけでは動きません。「どう行動するか」を周囲がどう設計するかによって、人
の認識と行動は結びついていきます。
その設計には、言葉の使い方、模範の示し方、手取り足取りの支援、段階的な強化、早
期の達成感なども含まれます。
これらの工夫こそが、ISO9001における“認識の定着”の具体的手段です。