2025年10月22日
———————————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.530 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:品質マネジメントシステムの「維持」 ***
———————————————————————————
ISO9001の箇条4.4.1には、「組織は,・・・必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む、
品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ継続的に改善しなければなら
ない」と要求しています。
この中で、とくに見落とされがちな言葉が「維持(Maintain)」です。
■■ 維持する“根っこ” は動機づけ ■■
仕組みは一度作れば完成ではなく、「続けていく力」が必要です。しかし、多くの組織で
この“維持”することができず、残念ながら形式的な仕組み構築になってしまっています。
なぜ私たちは“維持すること”が苦手なのでしょうか?どうすれば仕組みを維持し続けられ
るのでしょうか?その鍵を握るのが「動機づけ(モチベーション)」です。
「動機づけ」とは、人がある行動を起こし、それを継続する際のエネルギーの源です。
心理学では、動機づけを2つに分類しています:
(1) 外発的動機づけ(Extrinsic Motivation)
→ 他人や外部から与えられる刺激による行動
例:昇給、賞与、昇進、罰則、指示、評価
(2) 内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)
→ 自分の内側から湧き出る「やりたい」という感情による行動
例:達成感、好奇心、成長意欲、やりがい
「維持」を成功させるには、この2つの動機づけを適切に「仕組み化」することが極めて
重要です。
■■ なぜ“維持”は難しいのか? ■■
人は新しいことを始めることには比較的意欲を出しやすいですが、続けるとなると急に苦
手になります。その理由は主に3つです。
(1) 効果が見えにくくなる
仕組みを回し続けても、すぐには結果が見えず、達成感が薄れてくる
(2) 惰性に陥る
繰り返すうちに目的を見失い、形式だけが残る
(3) 外発的動機が切れる
指示がなくなった、褒められない、報酬が止まったなど、外からの動機がなくなると
行動も止まる
これらを乗り越えるには、内発的動機づけを働かせる仕組みが求められます。
■■ “続ける人”になるための動機づけの工夫 ■■
1.自己決定感:自分で決めたと感じられる仕組み
人は「やらされている」と感じると、行動を維持しません。逆に、「自分で決めた」と
感じられれば、モチベーションは長続きします。
例1:1年の計は元旦にありといいますが、自分で本当の決心をする。
例2:年間目標を達成した時のご褒美を自分で設定する。
例3:仕事の役割分担を自分たちで話し合って決める。
このように、自分に「自律性の感覚」を与えることで、継続への責任感が生まれます。
2.有能感:やればできるという成功体験
続けられる人は「小さな成功体験」を持っています。QMSを維持するための活動でも、
「やって意味があった」と感じられる瞬間がないと、やがて形骸化していきます。
例1:改善提案が採用された。
例2:ミスが減ったことで感謝された。
例3:やり方を工夫して工数が減った。
こうした「やったことが結果につながった」という経験こそが、継続の原動力になります。
3.関係性:支え合う人間関係
良好な人間関係も、内発的動機を高める要素です。一人では続けられなくても、「仲間と
一緒ならがんばれる」という状況は、現場でもよく見られます。
例1:週に1回、改善活動の進捗をメンバーで共有する
例2:上司や仲間が声かけで頑張っている様子を認める
例3:目標を達成したときに一緒にご飯を食べる。
人は承認され、認められたと感じると、「もっと良くしよう」と自ら動くようになります。
■■ 外発的動機も“戦略的に使う” ■■
外発的動機づけも仕組み化されると効果が出ます。習慣化されていない段階では、外発的
報酬や評価が有効に働きます。ただし、注意すべきことが2点あります。
(1)やがて「当たり前」になり、効果が薄れる。
(2)報酬が止まると、行動も止まる(維持されない)。
そこで、外発的動機づけは「内発的動機づけへの橋渡し」として使うのが効果的です。
例1:最初は報酬や表彰で行動を促し、やがて「自分たち仲間のため」という意識に変
化させていく。
こうした“動機づけの移行”が、行動を維持させる仕組みの本質です。
■■ 維持は組織文化をつくる ■■
QMSを維持するということは、単に「やめない」ことではありません。それは、「行動を
定着させ、文化にまで高めていくための意思と仕掛け」です。人は習慣に支配される生き
物です。そして、習慣は動機づけによって生まれます。
・自分で決めている感覚があるか?(自己決定)
・できたという実感があるか?(達成感)
・仲間とともにあると感じているか?(関係性)
この3つがそろえば、仕組みは続きます。そして、続くことで、意識は深まり、成果は高
まり、文化として根づいていきます。