2026年1月7日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.540 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 3 ***
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“Documented Information(文書化した情報)”は、従来の「文書(document)」と「記録
(record)」を一本化しましたが、現実には文書と記録は分けて考える方が理解しやすいと
思います。ただ近年、企業では紙だけでなく、電子データ、写真、サンプル、クラウド上
のログ、チャット履歴など、情報の形が多様化していますので、2015年版では「消えずに
残り管理できる情報」として文書と記録を規定しています。
■■ 定義の核心 ■■
文書化した情報の定義を細分化すると、ポイントは次の3つになります。
1. 情報(Information)
情報とは意味あるデータです。単なる数値や文字列(データ)は、目的・文脈・解釈が
与えられて初めて「情報」になります。たとえば、温度「23.4」というデータは、それ
が“どの工程の、どの設備の、どの時刻の測定値か”等が紐づいて、初めて品質を管理す
るための情報になります。
2.媒体(Medium)
紙だけではなく、磁気・電子式・光学式ディスク、写真、マスターサンプルなどが媒体
になり得ます。すなわち「PDF」「Excel」「画像」「動画」「データベース」「実物サンプ
ル」も、要求事項に適合する形で管理できていれば“文書化した情報”となります。
3.管理(Control)
文書化した情報は、作っただけでは不十分で、「管理されていること」が求められます。
どこにあるか分からない手順書、最新版が特定できない帳票、改ざんや紛失リスクが放
置されたデータなどは、存在していても「管理」されていないためISO9001規格に適合
したことになりません。
■□■ 「あらゆる形式・媒体」「あらゆる情報源」 ■□■
附属書SL(共通テキスト)「文書化した情報」の定義の注釈1に「あらゆる形式媒体」「あ
らゆる情報源」という表現が出てきます。あらゆるという意味は、組織が自分たちの業務
にとって最適な形を選べることを意味しますが、その選択は妥当なもので運用上も管理が
適切になされていることが必要です。
たとえば「紙の手順書をやめて、タブレットで閲覧する」ことは近年多くの組織に見られ
ることですが、
・通信できない場所で閲覧できる。
・閲覧権限(編集できる権限)は限定されている。
・改訂時に旧版は現場に残らない。
・バックアップや復旧ができる。
といった管理が伴わないと、かえって問題を起こすことになります。
■□■ 文書化した情報の3つの例 ■□■
「文書化した情報」定義の注釈2には次のことが「文書化した情報の例」として書かれてい
ます。
-関連するプロセスを含むマネジメントシステム
-組織の運用のために作成された情報(文書類)
-達成された結果の証拠(記録)
1.関連するプロセスを含むマネジメントシステム
ここにおける「文書化した情報」は、単なる「標準類のファイル」ではなく、プロセス
がどう繋がり、どう運用され、どう成果に結びつくかが見える形で情報が整備されてい
る状態を意図しています。プロセス関連図、工程フロー、役割分担、指標、変更管理の
仕組みなどが典型な「文書化した情報」です。
2.組織の運用のために作成された情報(文書類)
いわゆる手順書、作業標準、規程、チェックリスト、教育資料、仕様書、帳票の記入要
領などです。ここは「現場が迷わない」「同じ結果が再現できる」レベルで必要十分に
整えるのがポイントで、やみくもに作ると“守れない文書”になりやい点に注意が必要で
す。
3.達成された結果の証拠(記録)
検査成績、測定結果、校正記録、教育訓練記録、監査記録、是正処置の記録、会議議事
録、顧客クレーム対応履歴などが該当します。記録は「やったことの証拠」であり、後
から検証できることがその価値です。よって、改ざん防止、追跡性(いつ・誰が・何を)、
保管期間、検索性が管理上のポイントになります。
■□■ 文書化の問題点と改善 ■□■
35年前、日本にISOが上陸した時(1990年ころは黒船とも評された)には、文書化の
必要性が大々的に喧伝されました。欧米では人々の多様性(人種、階級、ジェンダー)に
よるコミュニケーションの必要性からなんでも文書にすることが多く、その部分が誇張化
されて日本に紹介され多くの組織でマニュアル作りが行われました。しかし、文書を作っ
ても守れないものであったり、現場で維持できないものであったり、結果最新化されない
形骸化した文書が多く存在することとなり、今でもその状態が続いている組織も多いと思
われます。認証を受けるために初期に審査機関向けに作成した文書の多くが形骸化してい
ることがあると思います。
ISO9001が伝えている核となるメッセージは、「文書化した情報は、“紙の文書”に限定され
ず、意味あるデータとしての情報が、適切な媒体で、組織として管理されている状態にし
ておく」ということです。
「文書化した情報」を整えることは、単なるマニュアル作りではなく、組織の運用を安定
させ、再現性を高め、結果の証拠を残し、継続的改善を回すためのインフラ整備であると
仕事の目的を再認識することが大切だと思います。
