Monthly Archives: 12月 2021

平林良人の『つなげるツボ』Vol.340

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.340 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査44***
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ここまで10回にわたって、第4ステップ (発見された問題:不
適合、観察事項、気づき事項などを解決する)の手段として新し
い物語を作ることをお話ししてきました。今回は物語の起承転結
の「結」になります。この新しい物語は、実際に実践してみるこ
とが大切であるということで、このたび10社の組織の皆様に実践
していただくべく「ナラティブ内部監査実践研究会」を立ち上げ
ました。

すでに「ナラティブ内部監査実践研究会」のメンバー登録は終わ
らせていただいていますが、「つなげるツボ」では、今後時々実践
研究会の動きをフォローしていきたいと思いますので実践研究会
のメンバーでない方も興味をもってフォローしていただけると内
部監査の実効性向上に寄与するのではないかと思います。

■ ナラティブの概念 ■
物語の終わりが「結」です。前回「承」ではいろいろな物語を語
ることが出来ることをお話ししました。ベストセラーとなってい
るハラリの「サピエンス全史」に出てくるナラティブを例にして、
空想豊かな未来を語ろうとお話ししました。人類が他の動物と決
定的に違うところは「考える」ことにあり、そのなかでも「物語
る」ことが人類発展の要点であった、ともお話ししました。
しかし、人類の発展史は1万年単位での物語です。内部監査にそ
のまま応用できる術は誰も知りません。前回ハラリの「サピエン
ス全史」を持ち出したのは、ナラティブの活用、応用、概念が時
を超えて適用できると考えたからです。

■ 結は文字通り終結 ■
「起」における「いま」と「承」で語られた「いままで」をベー
スにすると現実的な物語を作ることが出来ます。そうすることで
空想ではなく具体的な計画を作ることが出来ると前回申し上げま
した。

具体的な計画とは実行計画のことですが、その内容について触れ
てみたいと思います。
物語の最後(結)に書きたい記述は次のようなものです。
「内部監査で発見された〇〇の問題は、□□の方法で△△の新し
い手順に変更され××の改善を実現させることができる。」
実行計画には、この□□の方法で△△の新しい手順に変更するこ
とを書きます。ここで重要なことは「転」の記述に基づいて目標
を立てることです。

■ 目標は絵にかいた餅ではない ■
目標の上位には目的があります。目的は「起」でおかしいと思っ
たことを改善することです。「起」からスタートして、いままで
の経過を調べることにより情報を多角的に補強するのが「承」で
すが、「いま」プラス「いままで」のことを「いまから」改善す
ることを計画にするのが「転」と「結」になります。基本計画は
「転」に、詳細計画は「結」に書くことがよいのではないかと思
います。
これらの計画には、重要なこととして、目標を実現させるための
方法、手段も書くことが必要です。方法は実行する過程で修正す
ることがあります。「転」と「結」で考えた方法が実践段階で修
正されてなお実効性の高い方法に変化するということは多くあり
得ることです。
一度決めたからといって、いつまでも拘泥していては目標を実現
できない場合があります。反対に一度決めた方法を諦めるのでは
なく徹底してやり抜くことも重要です。矛盾するようなことを言
っていますが、これは決して相反することではありません。とい
うのは、我々の経営環境は目まぐるしく変化するので、前提とし
て変化に対応することを考えなければならないからです。

■ 物語の実践 ■
下記はナラティブ内部監査のステップです。今までも何回かステ
ップの説明をしてきましたが、今回は第4ステップの発見された
問題を解決するための「新しい物語」について、「起承転結」に
沿った話をしてきました。
・第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
・第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべ
         きかを組織内でコンセンサスを得る。
・第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
・第4ステップ : 発見された問題(不適合、観察事項、気づき
         事項)などを解決する。
・第5ステップ :解決したことを水平展開、歯止めして改善する。
         さらに、改善したことを革新へのインプットにする。

ここから、第4ステップのポイントである「起承転結」に沿った
新しい物語をどのように実践するかに話題を進めていきたいと思
います。
実行計画が出来たのだから後は計画に沿って実践あるのみ、と短
絡して考えると思わぬ問題にぶつかります。

■ 実践のための準備 ■
多分と言っていいか、必ずと言っていいか迷うところですが、実
践にはほとんどの場合「新たな資源」が必要となります。「転」
の基本計画、「結」の詳細計画に書かれている方法、手段から必
要資源が導かれるはずです。
その資源を準備してから実践に移ることが大切です。

平林良人の『つなげるツボ』Vol.339

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.339 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査43***
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このシリーズではナラティブ内部監査の新しい物語作りについて
発信させていただいています。
「承」においては、おかしいと感じたことが、いままでどうだっ
たかを調べると良いとお話ししました。今回は、起承転結の「転」
についてお話しします。転はこれまでの話から一転して異なった
視点からの物語を作ることになりますが、「一転して」と言われ
てもあまりにジャンプすることは薦められません。

■ 転は今からのことを書く ■
起でおかしいと感じたことはどうしたらいいのでしょうか。承で
「いままで」の経過を知り、おかしいと感じたことを深めていく
ことができた結果はどのように活用していくのが良いのでしょう
か。おかしいことの正体は何なのかが明確になったとしたなら、
次の物語を作ることを考えます。
問題が明確になったら、その問題をどのように解決して改善につ
なげるのかを施行します。問題が解決され改善されれば組織のパ
フォーマンスに大きく貢献することが出来ます。
承における「いままでの」ことは過去の事象を調査することです
ので、根気とエネルギーがあれば何とかできることだと思います。
しかし、転を物語として作るには「創造性」が必要になります。
創造性というと固くなりますが、空想する力が必要となるのです。
この空想力はどこからくるかを考えてみましょう。

■ ハラリのサピエンス全史 ■
ハラリのベストセラー「サピエンス全史」には次のくだりがあり
ます。
「認知革命以降は、ホモ・サピエンスの発展を説明する主要な手
段として歴史的なナラティブが生物学の理論に取って代わる。」

解説が必要だと思います。
ユヴァル・ノア・ハラリは1976年生まれ、45歳のイスラエルの
新進気鋭の歴史学者、彼の著書で世界的ベストセラーになってい
る「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」は世界で500万
部売れているそうです。世界中で、ビル・ゲイツやマーク・ザッ
カーバーグを始め、前アメリカ大統領のバラク・オバマなど有数
の経営者やリーダーたちがこぞって絶賛しています。
ホモ・サピエンス(Homo sapiens)とは、現代の人類のことで
す。
ラテン語でホモとは「同じ」という意味、サピエンスとは「賢い
人」という意味であり、人類が属する種の学名です。

認知革命とは、7万年から3.5万年前にかけて人類に起きた新し
い思考と意思疎通の方法のことをいいます。この数万年の間に人
間は考えるという行動を始めるようになり、この「考える」こと
によって他の動物と差別化することが出来るようになったと言わ
れます。

ハラリが主張するのはこの認知革命の中でも「ナラティブ」が重
要な役割を果たしたということです。
「サピエンスが発明した想像上の現実の計り知れない多様性と、
そこから生じた行動パターンの多様性は、ともに私たちが<文化>
と呼ぶものの主要な構成要素だ。」

■ 空想する、神話を作る ■
ハラリのサピエンス全史には、多くの場面に空想の話が出てきま
す。巫女、神官、占い師などがいろいろな空想を語ります。いか
にも現実にあるような調子で未来の出来事を話すのですが、その
話が時代の経過とともに現実化していった世界がその後現れてく
るという話が書かれています。

ナラティブ内部監査でも、誤解を恐れずに言うと空想することが
大切です。空想にもいろいろあります。できればある程度根拠の
ある空想が望ましいのですが、あまり根拠にこだわると新しい物
語は作れなくなります。自分が望ましいと思う姿を空想してそこ
に到達する道筋を考えます。
起における「いま」と承で語られた「いままで」をベースにする
と現実的な物語を作ることが出来ます。そうすると空想ではなく
具体的な計画と言ってもいい物語が作れます。

平林良人の『つなげるツボ』Vol.338

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.338 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査42***
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このシリーズではナラティブ内部監査の新しい物語作りについて
発信させていただいています。
今回は「承」の2回目ですが、まだ承に入っておらず起を受けて
承に入るべきかどうかの入口の話をしているところです。
前回はドラッカーもその著書で触れている禅問答について触れま
した。物理的には音はしているが、そこに誰もいなければ、すな
わち音を聞くことが無かったら、たとえ木が倒れたとしても、音
はしなかったということになる、というものです。

■ 内部監査で問題に気が付く ■
職場の中に問題があったとしても、誰も気が付かなければ問題は
ないと同じことになります。森で木が倒れたのと違って、職場で
の問題に誰かが気が付いて手を打てば問題の改善につながるかも
しれません。
問題の存在に気が付くにはどんな秘訣があるのでしょうか。
内部監査している中で、被監査者の仕事に何か問題があるのかど
うか、ある人は気が付く、ある人は気がつかない、この差はどこ
から来るのでしょうか。

まず言えることは、問題意識を日頃持っているかどうかというこ
とです。なんとなく持っているという場合もありますし、ある程
度範囲を絞った問題意識を持っている場合もあります。何らかの
意識があるところへ具体的な現象、場面に接すると、それが自分
の感じていたことであると気が付くことになります。それに反し
て、まったく問題意識を持っていないと、目の前に展開されてい
ることに何ら疑問も感じることはなく、そのまま通り過ぎていく
ことになります。

■ 例えば探し物の場合 ■
例えば、何かを失くした場合を考えてみましょう。探し物をする
ときはいつものと違う目で周りを見ます。鵜の目鷹の目といいま
すが、まさしく問題意識をもって周りを見渡すことになります。
おなかがすいている場合もそうです。何か食べるものはないか周
りを見ることになります。何かやりたいことがある場合も同様で
す。やりたい事が何であれ、そのことに関係することには誰より
も敏感になります。
このように問題の存在に気が付く人は日頃から脳の中にアウトプ
ットしたいことが存在しているので、目の前にそれに関係するこ
とが現れるとすぐに結び付いて、何かを出したいという脳内力学
が働きます。さて、そのような状況の下で問題に気が付いたとし
て、どのように承を展開していくのかを次に話したいと思います。

■ 承の内容は ■
例えば、Aという活動に疑問を感じたとします。なんとなくおか
しいというイメージを大切にします。なぜおかしいと感じたかを
突き止めることが必要です。チームメンバーの内部監査員に聞い
てみる前に、まずは自問自答します。私は次のような観点から物
事を見ることにしていますが、そこからおかしいと感じることが
多いように思っています。
1.直感から
・前に見た時と違う。
・ほかの人と違う。
・自分の体験と違う。
2.思考から
・やる意味・目的が違う。
・付加価値がつかない。
・やり方が違う。
3.仕事環境から
・設備が保全されていない。
・整理整頓がされていない。
・もののフロー(流れ)が長い。
・人的動きが鈍い。
・物理環境がよくない。
 -温湿度、音、照明
・廃棄物が多い。

■ いままでと違う? ■
上の項目はいずれも「(1)いままでと違う」に代表される、比較す
る尺度を持っています。(2)自分の考えと違う、(3)常識と違う、
(4)理屈と違うといった具合です。
ナラティブ内部監査では、承において、何がおかしいのかを突き
止める最初として、(1)を推奨しています。すなわち、おかしいと
思ったことについて「いままではどうだったか」を調べてみます。
過去をどこまで遡って調べるかは、対象となっている事象によっ
て異なりますが、できれば3~5年位前まで遡って調べてみると
新しい物語りの要素が得られると思います。

平林良人の『つなげるツボ』Vol.337

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.337 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査41***
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このシリーズではナラティブ内部監査の新しい物語作りについて
発信させていただいています。
物語を作るには「起承転結」に沿って行うことが良いという話を
進めています。前回は最初の「起」についてお話ししました。今
回は「承」ですが、起を受けて物語が進展していく様子を書くこ
とになります。テーマに関しての様子、今に至った過去の出来事
などを書きます。

■ ナラティブ内部監査の承 ■
ナラティブ内部監査の承は、起において何か課題を感じた時に展
開する物語です。もし、起の段階でなにも問題を感じなかったら
新しい物語はできないので、次のプロセス(活動)に移って内部
監査を行うべきです。いつまでも起と承の間に立ち止まっている
のは時間の無駄になります。

「これはおかしい」と感じたところから承がスタートします。こ
こでおかしいと感じるとはどのようなことなのでしょうか。以下
の話は飯塚先生(東大名誉教授、現JAB理事長)からの受け売り
です。

「いきなり拍手をして,どちらの手から音が出たかと聞くのです。
場面がガラッと変わります。相手には禅問答を知っていますか,
と聞きます。『双手を打って隻手の声を聞く』、二つの手を打っ
て,片方の手の音を聞くという禅問答がある、と言います。禅問
答では公案といいますが,このお題は,物事はすべて1つでは成
立しないとか,ものの見方は多面的だとか,いろいろディベート
できるのです。」

■ ドラッカーの公案 ■
「ドラッカーのマネジメントという著書に次のような話が披露さ
れています。誰もいない森で木が倒れて音がした。それを音がし
たといえるかという公案です。この問答の意味は,たとえ誰もい
なくても,絶対的な存在とか絶対的な真実,事実というのがある
という考え方もあれば,誰かに認知,認識されていなければ無き
に等しい,意味がないという考え方もある,つまりは絶対的認識
論,相対的認識論についてのお題です。

ドラッカーを読んだ方は,微かに覚えていらっしゃるかもしれま
せん。あの原書800ページにも及ぶ“Management”という大部の
本の38章だったか,確か「データと情報」という章の冒頭のつか
みに使われていました。この章の趣旨は「情報とは意味のあるデ
ータ(事実)」ということです。」

ここまでが飯塚先生の記事からの引用です。前半の両手打ちの話
は今回の承には関係ありません。後半の禅問答への導入部分とし
て面白い公案なので引用しました。
ここで考えたいのは後半のドラッカーも著書で紹介している「誰
もいない森で木が倒れた」という公案についてです。物理的には
音がしているはずですが、誰も聞いていなければ音がしたとはい
えない、ということについてです。
すなわち、絶対的認識論では音はしているということになります
が,相対的認識論ではだれも気が付かなければ音は無かったこと
と一緒である、という話です。

■ 絶対的認識論と相対的認識論 ■
プロセスの活動においても、絶対的認識論では問題があると言え
ますが、誰も気が付かなければ、すなわち相対的認識論では問題
はなかったとして現状は誰にも気が付かれずにそのまま行われる
でしょう。
プロセス(活動)においては価値が移動します。プロセスは,原
理的には(現実は違うでしょうが)価値の受け取り側が「ウン」
と言わなければ受け渡しはできません。内部監査で確認したいこ
とはいろいろありますが、一つは製品・サービスの品質の確認で
す。製品・サービスの品質の良し悪しは、まずは受け取り側が決
めることが原則です。ISO9000にある品質マネジメント7つの原
則の一つ「顧客満足」の原理です。禅問答との関連で言えば,内
部監査は,相対的認識論に立っているといえます。品質に絶対的
な良さはない,それは相対的に認識されるものだ,ということで
す。

■ 内部監査で問題に気が付く ■
以上のような話から、いま内部監査している活動に問題はあるの
かどうか、すなわち公案で言えば「音がした」と気が付くかどう
かという事が、ここでの議論の終着地です。ここには2つの必要
な要素があります。一つは音に気が付く人がいるかどうか、もう
一つは人が居るとしてその人にどの程度の聴力、すなわち感性、
感受性があるのか、という要素です。
内部監査には、音に気が付く人の存在は明確です。その人とは、
勿論、内部監査員のことです。ではもう一つの要素である感性、
感受性に関してはどうでしょうか。
次回は承に行く前提である問題に気が付くということについてお
話しします。