ハラリの「サピエンス全史1」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.343 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 新刊書3冊 ***
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令和4年の正月はコロナウイルスも小康状態になったと思いまし
たが、また第6波の渦中に引き込まれそうです。現在はデルタ株
に続くオミクロン株が猛威を振るいつつあり、安心はできません
が、長い人類の歴史を振り返ると人類はこのくらいの出来事はこ
とごとくやり過ごしてきたということが理解できます。というの
は、正月に読んだ3冊の新刊書の中の一冊(上下巻合わせて2冊)
にそのようなことが分かり易く書かれていたからです。その本は
ユバル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」です。
正月には、その他にブライアン・グリーン著「時間の終わりまで
・・物質、生命、心と進化する宇宙」、ローレンス・クラウス
「宇宙が始まる前には何があったのか」、また読み返した本に
ジェレシー・リフキン「エントロピーの法則」、その他AI関係
の本を乱読しました。

■ 「サピエンス全史」■
昨年、上下巻の本書は世界で500万というベストセラーになりま
した。宇宙が出来て135億年、地球が出来て45億年、人類の先
祖がアフリカに現れたのが250万年前、今の我々と変わらないホ
モ・サピエンスが現れたのが20万年前、体力・頭脳が現代人と
変わらないほどにサピエンスが進化したのが7万年前である、と
いう時間の流れに沿って人類の進化を説明する壮大な歴史物語が
本書の全体像です。1万3千年前にはホモ・サピエンスが唯一生
き残っている人類種となりました。サピエンスが多くの他の人種、
例えばネアンデルタール人、ホモ・デニソワ人、ホモ・エレクト
ス人などの人類種の中から生き残ったのはなぜか、をハラリは多
くの客観的な事象から明快に説明しています。ここでいう客観的
な事象とは洞窟に残された人骨、壁に刻まれた絵、考古学者の研
究などですが、著者の溢れんばかりの博学には大変驚かされます。

■ 3つの革命 ■
人類は3つの革命を経て現代の状況を築くまでになったと説明し、
その功罪を鋭く分析しています。
3つの革命とは、認知革命、農業革命、そして科学革命です、認
知革命は7万年前に起き数万年の間に緩やかに人類種を他の動物
を凌駕する存在へと押し上げていった革命です。認知革命は言語
を発達させ、今我々が知る歴史的現象の多くを引き起こします。
農業革命は1万2000年前に起きました。これにより植物の栽培
化と動物の家畜化がすすみ、人々は永続的に定住するようになり
ました。
科学革命は500年前に起きました。いままでの革命が10,000年
単位で行われたのに対して、科学革命は数100年の短い時間の中
で起きました。その中には200年前に起きた産業革命も含まれま
す。
2022年の今日、サピエンス全史を読んでいると、1600年代はち
ょっと手を伸ばせば触れるような近さにあることを実感させられ
ます。地球の全体史45億年、人類種の歴史250万年からみると
産業革命以降の200年は極めて短い特異な時代であると改めて思
います。
昔の物語だと思っていた、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の世界
もこの特異な時代である科学革命500年の中にあるということで
す。
時間の長さを実感するために、地球誕生45億年が1日24時間で
あるとすると、2022年の今日は23時59分59秒過ぎの1000万
分の1という気の遠くなるほんの瞬間に位置付けられ、我々はそ
の一瞬の時間の中に生きているということになります。

■ 認知革命 ■
8万年前、すなわち認知革命が始まる前のサピエンスは外見から
は今日の私たちとそっくりで、脳の大きさも同じくらいであった
が、脳の構造は私たちとは比べ物にならない低いものであったと
いう。それが7万年前から3万年前にかけてホモ・サピエンスは
非常に特殊なことを始めました。その結果、多くの研究者が賛同
しているように、ネアンデルタール人を絶滅させ、オーストラリ
ア大陸に移り住み、シュターデル洞窟に象牙彫「ライオン人間」
を残すほどになったといいます。その当時の人々は私たちと同じ
くらい高い知能を持ち、創造的で、繊細であったと研究者たちは
言い切ります。もしシュターデル洞窟の芸術家たちに出会ったと
したら、私たちは彼らの言語を習得することができ、彼らも私た
ちの言語を習得することが出来るであろう、とまで説明していま
す。

■ 非常に特殊なこと ■
ここで非常に特殊なこととは何か、気になるところですが、それ
は「新しい思考と意思疎通の方法の登場」のことであると説明し
ます。
最も多くの説は、本当かどうか定かではないと断りながら、たま
たま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わ
り、それまでにない形で考えたり、全く新しい言語を使って意思
疎通したりすることが可能になったのだといいます。それがなぜ
ネアンデルタール人ではなくサピエンスのDNAに起こったのか?
研究者の多くはまったくの偶然であったと説明しています。どん
な動物も何かしらの言語を持っていますが、サピエンスの言語
(基本的な言語;英語もヒンディー語も中国語もその他の言語も
サピエンス言語の一変種)は驚くほど柔軟であったといいます。
また私たちの言語は噂話のために発達したという説も多くの支持
を得ているといいます。私たちにとって社会的な協力は、生存と
繁殖のカギを握っています。自分の集団の中で、誰が誰を憎んで
いるか、誰を愛しているか、誰が正直か、誰がずる賢いかなどの
ためにほかの動物には見られない言語の発達があったのが認知革
命のコアであるといいます。