2025年6月18日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.514 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード リーダーシップ 7 ***
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これまでの連載では、「リーダーは資質ではなく行動であり、状況に応じてその
スタイルを変化させるべき」という現代的なリーダーシップの基本原則を見て
きました。今回は、その集大成の一つとして注目されている「サーバント・リ
ーダーシップ」についてお話しします。
■■ サーバント・リーダーシップとは? ■■
1970年、アメリカのロバート・K・グリーンリーフは、従来のリーダーシップ
観に一石を投じました。彼は、「サーバント(奉仕者)こそが、真のリーダーで
ある」と説き、部下に奉仕することを第一に考える、新しいリーダー像を提示
しました。
これまでの多くの組織では、リーダーは「上に立ち、命令を出す存在」であるこ
とが前提でした。しかしサーバント・リーダーシップはその逆です。リーダーは
部下を支え、部下が成長することを達成することで、組織全体が高い成果を生み
出すべきであるという考え方です。
■■ 支配型と支援型の違い ■■
下の表は従来の支配型リーダーシップと、サーバント・リーダーシップ(支援型)
の比較をしたものです。
項目 | 支配型リーダーシップ | サーバント・リーダーシップ |
---|---|---|
リーダーの目的 | 部下を管理・統制する | 部下を支援し成長させる |
行動基準 | 組織の伝統や経験則 | 部下の自主性や価値観 |
モチベーション | 高い地位への到達 | 他者への奉仕と信頼構築 |
成果への姿勢 | 自らの評価を求める | メンバー全体の成功を称える |
影響力の源泉 | 権限・力による指導 | 信頼関係による共感と協働 |
コミュニケーション | 一方的な説明・命令 | 傾聴を基本とした対話 |
部下育成 | 指示と管理 | 共に学び、共に育つ姿勢 |
失敗時の対応 | 責任追及と罰 | 失敗から共に学ぶ姿勢 |
支配型リーダーシップは、メンバーの行動を義務感や恐れによってコントロール
しようとします。一方でサーバント型リーダーシップは、リーダーは問題があれ
ば支援しますが、メンバーには主体的に動き、創意工夫し、課題を追い求めるこ
とを要求します。そうすることでメンバーには、自然と自立して課題解決に向か
う姿勢が育くまれます。
■■ ピラミッドを逆さにする組織構造 ■■
サーバント・リーダーシップは、経営者の考え方によりますが、組織構造そのも
のにも影響を与えます。従来の「社長が最上位に立つピラミッド型構造」ではな
く、「顧客が最上位に位置し、その下に現場社員、さらにその下にリーダーや管理
者が位置し、社長は最下位に位置する“逆ピラミッド型”」が考えられます。
逆ピラミッド型の組織になると、顧客の声やニーズは必ず一番接触の多い現場を
通じて組織内に流されることになり、現場の声が確実に経営者に伝わりやすくなり、
現場主導のスピードある意思決定や改善行動が可能になります。
■■ サーバント・リーダーシップの中核 ■■
グリーンリーフが示したサーバント・リーダーシップには次の10の特性があります。
(1) 傾聴:部下の声に真摯に耳を傾け、相手が本当に求めていることを理解します。
(2) 共感:他者の立場に立ち、その気持ちや背景を理解しようと努めます。
(3) 癒し:メンバーの不安や葛藤を受け止め、健全なメンタル状態へ導きます。
(4) 気づき:自己と他者の行動に鋭敏になり、必要な変化や成長を促します。
(5) 納得:権威が弱まり、合意と納得による行動変容を引き出します。
(6) 概念化:目の前の課題だけでなく、将来を見据えたビジョンを描き、共有します。
(7) 先見力:過去の経験と現在を結びつけて、未来を予測し、備えます。
(8) 執事役(スチュワードシップ):自らの利益よりも、チームや組織の利益を優先
します。
(9) メンバーの成長:一人ひとりの可能性に光を当て、成長に力を注ぎます。
(10) コミュニティづくり:信頼と協力に満ちた人間関係を築き、共に成長できる場
を創出します。
これらは「ビジョンを共有」し、組織の力を最大限に引き出す深い洞察と戦略性を秘
めたリーダー像です。
■■ サーバント・リーダーシップの留意点 ■■
もちろん、サーバント・リーダーシップにはいくつか留意点があります。
(1)信頼関係の構築に時間がかかる。
指示・命令型よりも関係構築に多くの時間と対話が必要になります。
(2) メンバーに一定の成熟が必要
自律性や責任感が未成熟な組織では、自由が逆効果になる場合があります。
(3) リーダー自身の内省と成長が不可欠
他者に奉仕するには、まず自分自身の価値観や行動を常に見直す姿勢が求められます。
サーバント型リーダーシップ導入においては、リーダーがまず自らの在り方を見つめ
直すこと、そして日々の対話を重ねることが出発点となります。
■■ これからの時代に必要なリーダー像 ■■
近年は、かつてないほどの不確実性と複雑性に満ちた時代です。その中で求められる
のは、単に「指示を出す」だけのリーダーではなく、メンバーを支え、引き出し、育
て、「共に成果を生む仲間」としての関係を築くことができるリーダーです。