ISO9001キーワード  品質マネジメントシステムの「維持する2」 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年10月29日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.531 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:維持する2 ***
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「継続は力なり」とはよく言われるものの、組織において継続、すなわち「維持
(Maintain)する」ことが最も難しい課題であることは、多くの皆様が実感されている
ことと思います。

■■ 動機づけのステップ ■■
ISO9001:2015の箇条4.4.1では、品質マネジメントシステム(QMS)について「確立
し、実施し、維持し、かつ継続的に改善しなければならない」と定めています。
前回は、この“維持する”に必要な動機づけの要素として、自己決定感、有能感、関係性
の3つについてお話ししました。今回はもう一歩進めて、「動機づけの内在化」に着目
したお話をしたいと思います。
これは、もともと外から与えられた理由で始めた行動が、やがて「自分の意志」として
定着していくプロセスを意味します。
つまり、「やれと言われたからやる」から「自分がそうしたいからやる」へ――この変
化が、維持と定着の核心です。

心理学では動機づけの内在化は次のようなステップを経て進行するとされています。

ステップ 動機の種類 行動理由の例
(1)外発的動機づけ 報酬や罰 「怒られるからやる」「昇進のためにやる」
(2)取り入れ的動機づけ 不安や恥 「できないと不安」「みんなやってるから」
(3)同一化的動機づけ 重要性と必要性 「この活動は自分にとって意味がある」
(4)統合的動機づけ 価値観との一致 「自分の信念やスタイルに合っている」
(5)内発的動機づけ 興味や関心 「楽しいから」「成長したいから」

このステップで、最も強くかつ持続的な行動の源になるものが、(5)「内発的動機づけ」
です。
すべての仕事や活動が最初から「好き」で始まるわけではありません。むしろ多くの業務
は、(1)や(2)の外発的なきっかけから始まります。
では、どうすればこの外発的動機を内在化させていけるのでしょうか?

■■ ステップ別に考える「動機づけの内在化」 ■■
(1) 外発的動機づけ(報酬・罰)
この段階では、「やらないと損/怒られる」といった動機が中心です。業務指示、ルール、
評価制度などが関係します。
【「結果が出ること」を早期に実感させる】
 ―短期的なゴールや達成指標を用意する。
 ―小さな成功体験をすぐにフィードバックする。
 ―称賛をタイミングよく与える。
(2)取り入れ的動機づけ(不安・恥)
ここでは「やらないと周囲から取り残される」「恥ずかしい」という社会的プレッシャーが
動機になります。
【「仲間との一体感」を強める】
 ―成果をチーム単位で見える化する。
 ―仲間の実践を共有・称賛する場を設ける。
 ―「私もやってみようかな」と思える雰囲気づくり
(3)同一化的動機づけ(重要性・必要性)
この段階では、「この活動は私にとって意味がある」と理解している状態です。
改善活動や5S、ヒヤリハット報告なども「自分の職場をよくするため」と納得して行って
いる状態です。
【「意味づけ」を丁寧に伝える】
 ―目的や背景を具体的に説明する。
 ―「これがなぜ大切か」を現場目線で語る。
 ―成果事例を共有して、やる意味を実感させる。
(4)統合的動機づけ(価値観・信念との一致)
ここまでくると、「これは私のスタイル」「私の信念に合っている」と感じて行動しています。
仕事の一部として違和感なく行動できる段階です。
【「語れる場」をつくる】
 ―改善ストーリーや実践経験を語る場を設ける。
 ―自分のやり方として人に伝える経験をさせる。
 ―QMSの中でロールモデルを紹介する。
(5)内発的動機づけ(興味・関心・やりがい)
「やっていて楽しい」「面白い」「やりがいがある」と感じられる段階です。
このレベルに達すると、指示がなくても自然と行動するようになります。
【「自由と裁量」を与える】
 ―やり方や手順を一部委ねる。
 ―自ら課題を見つけて取り組む余地をつくる。
 ー新しいチャレンジや提案の機会を与える。

■■ 動機が深まる構造 ■■
QMSに限らず、業務の仕組みが「形だけ」になるか、「実のある組織文化」となるかは、
動機づけを深めることができるかどうかで決まります。
 ・やらされ感で維持する仕組みは、いつか崩れます。
 ・意味を感じて自ら動く仕組みは、進化していきます。
ISO9001の「維持」とは、ただ形を保つことではなく、「人がその仕組みに納得し、関わ
り続けたくなるような土壌を整えること」なのです。

■■ 行動は内面の共鳴で続いていく ■■
動機づけの内在化とは、強制や報酬から始まった行動が、やがて「これは自分にとって必
要だ」→「これは自分のやりたいことだ」へと内面で共鳴していくプロセスです。
その共鳴を仕掛けること――それが、QMSを“維持”する上で、リーダーや管理者に求めら
れる最大の役割です。