ISO9001キーワード 文書化した情報 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年12月17日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.538 ■□■
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 ***
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ISO9001:2015の箇条7.5.2には、「文書化した情報の作成および更新」に関して以下の3
点が規定されています。
a) 適切な識別及び記述(例えば、タイトル、日付、作成者、参照番号)
b) 適切な形式及び媒体(例えば、言語、ソフトウェアの版、図表、紙、電子媒体)
c) 適切性及び妥当性に関する、適切なレビュー及び承認

■■ a)とb)は比較的運用しやすい ■■
この3つの規定のうちa)とb)については比較的取り組みやすい項目です。しかしc)の文書
の適切なレビュー及び承認は、滞っている組織が圧倒的に多いように思います。
更新されていない手順書、古い版のまま棚に眠るマニュアル、実態と乖離した規定類など、
こうした形骸化文書は、QMSの根幹である「実行可能なルール」そのものを損なう存在に
なります。
新しい文書はそれなりに作りますが、作った文書を見直すことはどうも苦手な組織が多い
ようです。これはVol.537までお話ししてきた「維持する」ことが苦手であるということ
と繋がります。新しい文書は何らかの理由から「待ったなしの目の前にある課題」で実施
しないと組織が困るのでしょう。しかし、すでに作った文書を見直して最近化することは
直ちに困ることにならないということが見直しが進まない理由であると思います。
困ることがないならば形骸化文書はそのままで良いとのご意見もあるかもしれませんが、
AIエージェントの時代には困ること必至です。

■□■ 文書の最新化が進まない組織の共通点 ■□■
AIが人間に変わって仕事をする時代がすぐ目の前にあります。定型化した仕事はAIの方
が効率良くこなします。複雑な仕事、変化する仕事、相手の心を忖度しなければならない
仕事などは人間が行う仕事として集約されていきます。

なぜ、文書の見直しはされないのでしょうか。いくつか思い当たる要因を掲げてみます。
きちんと見直しされている組織もあると思いますが、私が経験した要因は次のようなもの
です。
(1)「誰が見直すか」が曖昧
 → 作成者や部署長が“なんとなく”担当とされており明確な役割分担がない。
(2)レビューの基準が不明瞭
 → 何をもって「見直すべきか」の判断が人によって異なる。
(3)“期限管理”がない
 → 見直し時期が設定されておらず、「必要になったら見直す」が常態化。
(4) 運用と乖離していて見直し自体が困難
 → 現場のやり方と文書がズレすぎて手がつけられなくなっている。
(5)更新に至るプロセスが煩雑
 → 変更申請→レビュー→承認→再配布の流れが重たく手を出しにくい。
これらの状況が積み重なることで、「古いけどそのまま使うしかない」文書が量産されてい
るのだと思います。

■□■ 最新化を維持するポイント ■□■
ではどうすればよいかということになります。「維持する」シリーズでも述べましたが、や
らなければ困る状態を作ることに尽きると思います。それは、すべての文書に「見直し責
任者」と「見直し周期」を明記することが一つの案です。
 ・責任者は必ず個人名で設定(例:部門責任者、文書作成者本人など)
 ・見直し周期は「最大○年」と上限を決めておく(例:2年以内に一度は確認)
例:手順書のフッターに以下を記載
【見直し責任者:○○部長 最終レビュー日:2025年12月 次回レビュー期限:2027 
年12月】

更に、最新化をイベント化することも考えられます。単に「2年に1度見直しよう」では
確実に行われませので、「定期レビュー」により強制力をつけることが考えられます。
実務での方法の例:
 ・年度初め/上期末などに「文書レビュー月間」を設定
 ・総務または管理責任者がチェックリストを配布/督促
 ・未実施者にはリマインド通知+次回マネジメントレビューで報告
部門ミーティングで「この手順は今も現場で使えてる?」という雑談から始めてもいいと
思います。まずは最新化することに気持ちを傾くことが第一歩です。