Author Archives: 良人平林

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」12 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月8日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 564 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」12 ***
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前回ヒューマンエラーを減らすアプローチとして「色分け、形状分け、置き場による管理
」を説明しましたが、今回はその方法の具体的な事例を紹介します。
ヒューマンエラーのタイプに応じて色や形、置き場を工夫することがポイントです。

■□■ 色分け、形状分け、置き場による管理の事例■□■
製造、物流業務、検査業務、サービスなどの現場で行われている具体例を挙げてみます。
(1) 合格、不合格、未検査の識別(混入防止)
 ・エリアの色分け(床ライン、棚の色、箱の色)
  緑=合格、黄=保留、赤=不合格、青=未検査など、色で区分し、置ける場所を物理
  的に限定します。混在が起きた瞬間に違和感が出るため、流出防止に効果的です。
 ・現品票、タグの色分け
  同じ部品でも状態が違う(検査待ち/検査済み/特採/不適合)の場合、タグの色を
  変える。タグがないものは扱えないルールにします。
(2) 品番取り違え、ロット混在防止
 ・棚番+ロケーション固定(定位置)
  品番ごとに棚を固定し、棚札に品番、写真、バーコードを表示する。取り出し位置が
  固定されるだけで、間違えたピッキングが大きく減ります。
 ・容器形状の分離(異形容器、専用トレイ)
  似た部品を同じ箱に入れないように、形が合わないと入らないような専用トレイにす
  る(軽いポカヨケ)。ピッキングの取り違えを抑えます。
(3) 工具取り違え、戻し忘れ防止
 ・シャドーボード(工具の影絵)
  工具の形を板に描き、置く場所を固定する。欠品が一目で分かり、戻し忘れを減らし
  ます。工具紛失は異物混入リスクにも直結するため効果が大きい。
 ・用途別の色分け(トルクレンチ、ドライバなど)
  例えば、校正済みは緑シール、期限切れは赤シール。あるいは工程別に色テープを巻
  き、他工程へ持ち出すとすぐ分かるようにして、誤った工具の使用を防ぎます。
(4) 異物混入、汚染防止
 ・清掃用具の色分け(ゾーニング)
  床用、機械用、食品用など、用途を色で分け、交差汚染を防ぎます。製造だけでなく
  医療、飲食でも有効です。
 ・清掃点検の定置化(清掃箇所の見える化)
  清掃箇所を地図化し、清掃用具の置き場とセットで管理する。清掃漏れが減り、粉塵
  や異物の早期発見につながります。
(5) 作業の抜け防止(定量、補充ルール)
 ・定量表示(Min/Max、カンバン)
  箱に上限、下限ラインを引き、下限を切ったら補充する。欠品による段取り替え、代
  替品使用、焦りを減らします。間接的にヒューマンエラーを抑える代表的な例です。
 ・書類、情報の定置(トレイ運用)
  サービス業では、申請書類を「未処理」、「処理中」、「完了」、「差戻し」のトレイで定
  置管理する。書類紛失や二重処理、処理漏れを減らします。

■□■ それでも防げないヒューマンエラー ■□■
色分け、形状分け、置き場管理をしても防げないヒューマンエラーがあります。人間の本
質からくる限界を理解し、他の仕組みと組み合わせることで、よりヒューマンエラー防止
を図ることを目標にします。
(1) 戻さないという問題
 定められた場所があっても、忙しいと一時置きが発生します。一時置きが常態化すると
 混在が起き、効果が落ちます。対策は、一時置き場を公式に設ける、戻しやすいレイア
 ウトにする、戻さないと次工程へ進めないルール(ゲート)を作るなどです。
(2) 色の意味が共有されない
 色分けは、色の意味が増えすぎると混乱します。部署ごとに色が違うと、応援者は間違
 えます。色ルールの統一、掲示、教育が必要です。
(3) 形状分けできない、似たものが多すぎる
 部品形状が似ている場合、形状分けだけでは限界があります。ここはバーコード照合、
 専用容器、品番写真表示などを組み合わせます。
(4) 置き場に正しく置かない
 正しい棚に置いてあっても、中身が違う、ロットが混ざる、ということが起きます。置
 き場管理は「混在の見える化」には強いのですが、正しい内容かを別手段で確認するこ
 とが必要です(照合、ラベル、ロット管理)。
(5) 汚れや破損、環境変化による見えにくさ
 表示が剥がれる、床ラインが消える、照明が暗い、粉塵で見えないなどの状況になると、
 視覚管理は効きにくくなります。維持管理(清掃、補修、点検)が必要です。
(6) 意図的逸脱(近道行為)
 定置に戻さない方が早い、という動機で逸脱が起き得ます。ここは作業設計(戻す距離、
 動線、時間)と評価制度、マネジメントが影響します。
 
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」11 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月1日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 563 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」11 ***
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ヒューマンエラーを減らすアプローチの一つに「色分け、形状分け、置き場管理」があり
ます。作業標準とかチェックリストのような「文書、手順書」による管理とは異なり、作
業環境そのものを工夫する方法で、ISO9001の8.5.1 d)「適切なインフラストラクチャ及
び環境を使用する」ことに沿う方法です。

■□■ 色分け、形状分け、置き場管理 ■□■
「色分け」とは、例えば「工程別」「品種別」「用途別」「合格/不合格」「校正済み/期限
切れ」などを色で区別し、視覚的に識別できるようにすることです。
「形状分け」とは、似たものを誤って選ばないように、容器、トレイ、治具、コネクタな
どを形状で区別し、物理的な取り違えを起こしにくくすることです(ポカヨケ)。
「置き場管理」とは、「何が」「どこに」「いくつ」あるべきかを決め、置き場を固定し(定
置管理)、在庫や工具の状態を即時に分かるようにすることです。

色分け、形状分け、置き場管理の特徴は次のようです。
(1) 視覚による管理:正しい状態、間違った状態が一目で分かる。
(2) 選択の削減:迷う余地を減らし、取り違えを起こしにくくする。
(3) 異常の顕在化:欠品、混在、置き間違いを見える化する。
(4) 探し物の削減:探す時間が減ることで「焦り」というミスの誘因を減らす。

これらは単体でも効きますが、共通する考えは「情報を書くのではなく現場の環境に埋め
込む」ことです。作業者が手順書を見なくても、置き場と色を見れば判断できる状態を作
っておくことです。これは、ヒューマンエラー対策として効果のある方法です。
これ等の方法は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)と同じで、しばしば精神論と見
なされがちです。しかし、正常を見える化し、標準状態を維持するための仕組みとして
「整理(不要物の排除)」は、取り違えの温床を無くす重要な要素です。不要物がなければ
選択肢が減り、取り違えは起こりにくくなります。

■□■ 色分け、形状分け、置き場管理の有効性 ■□■
色分け、形状分け、置き場管理がヒューマンエラーに効く理由は、人間の認知特性と作業
現場の現実にあります。人は、忙しいときほど、探す、選ぶ、確認する、戻すという行為
をスキップします。色分け、形状分け、置き場管理の有効性を具体的に考えてみます。
(1)「取り違え」の選択肢を減らす
部品棚に似た部品が混在している、工具箱に同じような工具が複数入っている、ラベルが
見えにくいというような状態では、取り違える可能性は高くなります。整理整頓で不要物
を排除し、定置化で置き場を固定し、色や形で区別すると間違えることが少なくなります。
(2) 異常がすぐ見える
定置管理の重要な効果は、異常が目に入ることです。工具が欠品している、在庫が減って
いる、違う箱が置かれている、合格品エリアに未検査品が混じっている――これらが一目
で分かれば、間違えは早期に止められます。バーコード照合は「機械で検出」ですが、定
置管理は「環境で検出」するという考えです。
(3) 探す時間が減ると焦りも減る
現場のヒューマンエラーは、作業者の技能よりも、時間のプレッシャーによることが多い
と言われています。探し物が多い現場は、常に焦りを生みます。定置化により探し物が減
れば、作業が落ち着き、確認行為が決められたとおりに行われやすくなります。これは見
落とされがちですが、ヒューマンエラー対策として大きい効果です。
(4) 標準化しやすい
置き場が決まっていれば、標準状態が明確になります。標準状態が明確なら、監査や巡回
で「崩れているかどうか」を誰でも判断できます。属人化が減り、維持の仕組みが回りま
す。
ただし、ヒューマンエラー対策としての有効性を最大化するには、定置管理を「決めた」
だけで終わらせず、守らことができる仕組みにすることが必要です。例えば、置き場表
示、定量表示、影絵(工具の影)、色帯、ラインマーキング、補充ルール(カンバン)など
をセットにして、元に戻す行為が自然にできるように設計します。「しつけ」は精神論では
なく、仕組みとしてやることになる構造を作ることがポイントになります。
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」10 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年6月24日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 562 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」10 ***
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製造・サービス提供の現場ではプロセス初期にいろいろな条件値を設定します。この設定
値を間違えると、「発見までに時間がかかる」ことからその影響には大きいものがあります。
例えば、温度設定をするときに0点以下でも数を間違えると、化学反応などに大きく影響
します。同様に、単位を間違える、品番を間違える、古い検査値にしてしまうなどは、プ
ロセスの中で気がつかず、結果として大量の製品が不適合になることがあります。これら
の設定値を「マスター管理」することはヒューマンエラー防止に役立ちます。

■□■ 設定値の自動化・マスター管理 ■□■
製造・サービス提供では、設備条件、処理条件、システム設定、検査条件など、多数の
「設定値(パラメータ)」が品質を左右します。温度、圧力、時間、回転数、送り速度、電
流、濃度、混合比、乾燥条件、ソフトの構成、検査しきい値などは、わずかな誤りでも不
適合につながりやすく、しかも多くはプロセスの中に見えにくいため、最終段階で発見さ
れ、組織に大きな損失を与えます。
設定値の「自動化・マスター管理」は、これらの設定値を「作業者の手入力、手書き、記
憶」に依存させない方法です。
 ・品番、仕様、工程に対応した標準パラメータを「マスター登録」する。
 ・工程開始時に呼び出し、自動設定する。
 ・設定値の変更は権限、承認、履歴で管理する。
 ・実績値をログとして残す。
という一連の仕組みを構築します。マスター管理の特徴を整理すると次のようになります。
 (1)入力行為の削減 :手入力を減らせば、桁ミス、単位ミス、入力漏れが減る。
 (2)条件の固定化、再現性 :誰がいつやっても同じ条件を再現できる。
 (3)マスターの版数管理: 最新条件、顧客別条件、工程変更条件を区別する。
 (4)権限、承認、履歴: 勝手な変更を抑え、変更のログを残し、変更のトレーサビリテ
  ィ管理を行える。

ISO9001の8.5.1に「管理された状態」という要求がありますが、マスター管理はこの要
求に沿った仕組みと言えます。マスター管理の狙いは「人が注意深く入力する」ではなく、
そもそも入力しないことを考えます。現場では、入力欄が多いとショートカットで入力し、
結果として版違い、条件違いを起こすという失敗をします。

■□■ 入力ミスを根本から減らす ■□■
ヒューマンエラーの起こる確率は「やる回数」と「複雑さ」に比例します。入力機会を減
らし、選択肢を絞り、呼び出しに置き換えると、エラーの起きる頻度は減ります。
(1)多くの品種を扱うサービス業などでは「前の品番が残っていた」が典型事故です。マス
ターを品番に紐づけ、品物を移動する時に自動ロードする、あるいはロードしないと開始
できない(インターロック)ことにすると、前条件が残っているというミスを構造的に起
きにくくさせます。

(2)現場で条件を勝手にいじると、短期的に歩留りが上がっても、別の不良が増えたり、再
現できなくなったりします。マスター管理は、変更に承認が必要、変更履歴が残る、とい
う仕組みですので、属人的な「こっそり最適化」は出来なくなります。

(3)不具合が出たとき、「そのロットは温度何度で処理したのか」「どのマスター版を使った
のか」「途中で手動変更が入ったか」をログで追えると、原因究明が速くなります。逆にロ
グがないと、作業者の記憶に頼り、結局「注意徹底」で終わりやすいことになります。

■□■ 設定値の自動化・マスター管理の具体例 ■□■
設定の自動化及びマスター管理の例を以下に示します。
(1)サービス業
 ・見積計算にパラメータ使用(税率、割引、手数料)
  担当者の手入力で誤計算が起きる領域を、商品コードで自動計算させる。割引は権限
  者承認を求める。見積条件の履歴が残り、後日説明責任が果たせる。
 ・帳票・申請のテンプレート管理
  顧客別の記載ルール、必須項目、選択肢をテンプート化し、誤記とか漏れを減らす。
  入力の自由度を下げることで、ミスの機会を減らす。
(2)製造業
 ・加工設備、例えば熱処理炉のマスター管理
  品番ごとに昇温曲線、保持温度、保持時間、冷却条件をマスター化する。作業者は品
  番を選ぶだけである。
 ・射出成形、プレス機の条件設定
  金型と製品の組合せに応じて、圧力、速度、冷却、型締力をマスター化。段取り替え
  時は金型ID読み取りで自動的に対応マスターを呼び出す。
 ・薬液調合のマスター化
  投入順序が品質に関係する場合、手順書だけではエラーが出やすい。秤、流量計と連
  動し、投入量が規定に達しないと次ステップに進めないようにする。投入物の品番は
  バーコードで照合させ、「順序違い」「投入量違い」を同時に抑える。
 ・画像検査のしきい値マスター
  しきい値の要求が顧客ごと異なる場合、手動設定は危険である。仕様に応じた検査マ
  スターを呼び出し、版数管理。検査ログには「マスター版」を必ず記録し、再現可能
  にさせる。
 ・電気検査(テスト項目、判定基準の自動切替)
  品番をスキャンしてプログラムを自動選択することで、誤プログラムで検査してしま
  う事故を防ぐ。検査結果はシリアルNoに紐づけして保存し、未検査品は次工程へ流
  れないようにする。
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」9 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年6月18日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.561 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」9 ***
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ヒューマンエラー防止の基本は、決められたことを決めたとおりに行うことです。
ISO9001の8.5.1 c)は、プロセス又はアウトプットの管理基準、並びに製品及びサービス
の合否判定基準を満たしていることを検証するために、適切な段階で監視及び測定活動を
実施することを求めています。ISO9001の8.5.1 c)は、g)「ヒューマンエラーを防止する
ための処置を実施する」と関連しています。

■□■工程内検査、次工程受入れ検査によるヒューマンエラー防止■□■
「工程内検査」は、製造・サービス提供の途中段階でプロセスやアウトプットが要求事項
を満たしているかを確認する活動です。ISO90018.5.1 c)の要求事項を具体化する代表的手
段です。
一方、「次工程受入れ検査」は、前工程からきた製品(半製品、情報、サービス成果物)
を後工程側が受入基準に照らして合否判断し、合格品のみを自工程に流す仕組みです。言
い換えると、「後工程はお客様」という考え方を前工程及び後工程の2つに展開したもの
です。ここで重要なのが「ゲート化」の視点です。ゲート化とは、工程節目に関所を作る
ことを言います。
 ・合格なら次へ進める
 ・不合格なら止める、隔離する、戻す、修正する
  という分岐を明確にすることです。
ゲートがない工程では不適合品が流れていきます。流れた不適合品は、次工程で発見され
た瞬間に、手戻り、ライン停止、再段取り、出荷遅延、顧客クレームへと波及していきま
す。工程内検査及び次工程受入れ検査の特徴は、まさにこの「波及」を最小化する点にあ
ります。
さらに工程内検査は「品質保証部門が最後に検査する」最終検査とは根本的に性格が異な
ります。工程内検査の狙いは工程能力の安定ですから次の観点が重要です。
 (1)異常を早期に発見する
 (2)異常が下流に流れないようにする
 (3)原因を再現性あるうちに是正する

次工程受入れ検査は、責任を明確にするということに繋がります。前工程が「作ったから
受け取る」のではなく、「基準を満たしているから受け取る」という責任を明確にする活動
をすることになります。前工程は基準を守らないと流せなくなるため、人の注意力に頼ら
ずに品質を保つという8.5.1 gヒューマンエラー防止の対策になります。

■□■ 工程内検査及び次工程受入れ検査の有効性 ■□■
工程内検査及び次工程受入れ検査がヒューマンエラー防止に有効である理由は、ヒューマ
ンエラーの性質にもあります。人のミスは、(1)起きる、(2)気づかない、(3)気づいても流
す、という三段階で重大化します。ゲート化は、このうち(2)(3)を狙って抑えます。つまり
「ミスをゼロにする」より、「ミスが起きても欠陥に大きくしない」仕組みです。「ポカヨ
ケ」がミスを起こせないという根本に手を打つのと異なり、生ぬるいのですが、人間が間
違いを起こす存在であるという本質がある限り次善の策も有効です。

「工程内検査及び次工程受入れ検査」のヒューマンエラー防止への有効性は大きく4つに
整理できます。
(1) 早期発見による被害最小化
 エラーは早く見つけるほど、影響範囲が小さい。例えば、材料投入ミスを最終検査で見
 つければ全ロット廃棄になり得ますが、投入直後の工程内検査で見つければ、止めて隔
 離し、損失を限定できます。これは品質コスト(COQ)の観点で、内部失敗コストを劇
 的に減らします。
(2)流出防止
 次工程受入れ検査は「自工程のエラー防止」です。自工程に不適合が流れてくると、作
 業者の負荷を増やし、焦りを生み、二次エラーを誘発します。流出を止めることは、品
 質だけでなく安全、納期、士気にも効きます。
(3)原因が特定しやすい
 工程内でエラーが留まると、原因はそのままになっているいることが多いでしょう。設
 備設定、材料ロット、作業者、治具、環境などの条件がその場に残っているため、原因
 究明がしやすいはずです。これが下流で見つかると原因にまで遡れず、エラー再発防止
 資源の投入が多くなります。

■□■ それでも防げないヒューマンエラー ■□■
工程内検査及び次工程受入れ検査というゲートがあるのに流出するケースは日常の活動で
経験することです。人は間違いを起こす存在であることを理解して補完策を講じることが
重要です。
(1) 検査自体の見落とし
 外観判定、感覚検査、判断を伴う検査は、疲労や慣れで見落とし、誤判定が起きます。
 限度見本、画像検査、照明条件の標準化、自動化(AI)など、検査そのものを強化し
 ます。
(2) 基準の曖昧さ
 合否判定基準を数値化しないと、曖昧な検査になります。OK/NG例を明示し、測定方
 法も標準化します。
(3) 工程を 止められない文化
 ゲートがあっても、納期や上司の圧力で、とりあえず流すことが起きます。これは仕組
 みだけでなくマネジメントの問題で、停止を評価する文化、例外承認の可視化が必要で
 す。
(4) 例外処理・特採の乱用
 特採や暫定処置が増えるとゲートは形骸化します。特採基準、承認権限、記録、再発防
 止のセット運用が不可欠です。
(5) 検査対象外の潜在不良
 工程内検査は、測っていない特性は保証できません。内部欠陥、長期信頼性、環境スト
 レスで出る不良などは、妥当性確認、工程能力管理、信頼性試験など別の管理が必要で
 す。
(6) 混入・取り違え
 ゲートで合格しても、保管・搬送で混入が起きれば意味が薄れます。識別、隔離、先入
 先出、ラベル、バーコード追跡が必要です。
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」8 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年6月10日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.560 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」8 ***
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どんな仕事にもカンコツ(勘こつ)と呼ばれる要所があります。ベテランと呼ばれる人
は、今までの経験から仕事のどこを押さえれば大きな問題は起きない、ということを知っ
ています。ベテランが知っている知識を暗黙知といいますが、暗黙知を形式知と呼ばれる
共有知識にすることがヒューマンエラー防止の役に立ちます。

■□■ チェックリストと属人化 ■□■
ベテランが行うとミスは出ないのに経験の少ない人が行うとミスが出る、という状況はい
ろいろな領域で見られることです。この「特定の人が行うとミスは出ない、そうでないと
出る」状態を「業務の属人化」といいます。チェックリストは本来、属人化を減らすため
の道具ですが、誤った運用は逆に属人化を強めます。その典型は、ベテランだけが「どこ
がミスしやすいか」を知っていて、チェックリストにはそれが反映されておらず、新人は
チェックリストに沿って仕事をしているのに問題を起こすケースです。
チェックリストの属人化対策として次の3つが鍵です。
 (1)暗黙知の吸い上げ:ベテランの経験から作業の「勘こつ」を抽出する
 (2)チェックリストに項目化する:「勘こつ」をその作業ポイントに項目化する
 (3)チェックリストの詳細化:「勘こつ」箇所を分割し詳細な記述にする
暗黙知の吸い上げでは、例えば、ベテランは「この品番は末尾違いが多い」「この工程は締
付け漏れが出やすい」「このラベルは位置がズレる」と経験的に知っています。これらを
「注意する」ではなく、チェック項目として作業ポイントに記載すれば個人の経験が組織
能力になります。チェックリストに、写真、OK/NG例、バーコード照合、測定値などを
組み合わせると、属人化はさらに減り、ヒューマンエラーも少なくなります。

■□■ ダブルチェックと属人化 ■□■
ダブルチェックの属人化に関しては「独立性と複数者対応」がキーとなります。ダブルチ
ェックは独立性が薄まるとエラー減少の効果が減ります。またダブルチェック者がいつも
同じベテラン熟練者だと、そのベテランが居ないと作業が停滞して仕事が回らなくなりま
す。ダブルチェックを属人化させないためには、ダブルチェック者のローテーション、技
能認定、教育、そしてダブルチェック内容を標準化(作業者とは異なる確認方法)するこ
とです。誰がダブルチェックしても同じ結論になるように、ダブルチェック基準と方法を
明確にします。
ダブルチェック基準は固定されてしまうと使い物になりません。新製品、材料変更、設備
更新、作業者入替えなどがあると、チェックポイントは変化します。変化すると問題が出や
すくなりますので、問題が出ないように管理しなければなりませんが、問題が出たら10.2
(是正処置)の要求にあるように、
 ・なぜ問題が出たか(チェック項目がない/基準が曖昧/チェックポイントが悪い)
 ・どのチェックポイントで止めるべきか(受入/工程内/出荷)
などを検討して、ダブルチェック項目を更新します。

■□■ チェックポイントの具体例 ■□■
ヒューマンエラーが多い領域に関して(製造業)のチェック項目の例を示します。
(1)ピッキングチェック
 ・指示書のバーコードをスキャン
 ・取り出した部品のラベルをスキャン
 ・システムがOKを表示したらその場でチェック欄に自動記録する。
  → 目視確認を減らし、証跡が残るチェックにする。
(2) ロット混在防止チェック
 ・作業者が投入前にロットを確認
 ・別者が投入直前に、投入物のラベルと投入記録を照合して、投入してしまうと戻せ
  ない工程をダブルチェックする。
(3) 工程開始前の指差呼称
 ・「品番○○、条件△△、治具□□、良し」のように、重要箇所だけに限定して呼称
  確認をする。
(4) 段取り替えチェックリスト
 ・圧力○kPa、温度:○度、安全カバー閉など、最後にまとめチェックするのではな
  く、段取り変更箇所ごとにチェックする。
(5) 締付け完了のダブルチェック
 ・作業者はトルク確認しそこをマーキングする。
 ・独立したダブルチェックがマーキング位置と作業本数を確認し、「締めたつもり」
  「数えたつもり」を無くす。
(6) 梱包前チェック
 ・製品シリアル番号と伝票とを照合する。
 ・ラベル貼付位置を写真基準と照合する。
 ・同梱物(説明書、保証書、付属品)をチェックする出荷ポイントを止め所として作
  る。
(7) 出荷ラベルを指差呼称して2人で確認する(ダブルチェック)
 ・作業者は「宛先○○、品名○○、数量○、良し」と呼称する。
 ・検証者は伝票と箱ラベルを独立して読み合わせし、宛先違い、品名違いなどの重大
  クレームに繋がる事故を防止する。
(8) 送品前ダブルチェック
 ・宛先、添付ファイル、機密区分、本文の個人情報など
 ・チェック後でなければ送品できないシステムを構築する。

これらの例で共通するのは、チェックを「形式」ではなく、工程中の管理ポイントとして
必須箇所(コントロールポイント)にすることです。チェック結果はログデータ(自動記
録、署名、タイムスタンプなど)に残るシステムにします。
(つづく)