Author Archives: 良人平林

ISO9001キーワード リーダーシップ8 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年6月25日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.515 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ 8 ***
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前回は「サーバント・リーダーシップ」という支援型リーダーの在り方を紹介
しました。今回は、より実践的なリーダーシップ理論として、メンバーのモチ
ベーションを高めるリーダーシップ(パス・ゴール理論)と、逆に「リーダー
が不要になる場面」=リーダーシップの代替状況という考え方についてお話し
します。
現場のマネジメントにおいて、「どのように部下を動機づけるか」「どんな時に
リーダーが介入すべきか」は非常に重要な視点です。

■■  サーバント・リーダーシップとは?  ■■
1970年、アメリカのロバート・K・グリーンリーフは、従来のリーダーシップ
観に一石を投じました。彼は、「サーバント(奉仕者)こそが、真のリーダーで
ある」と説き、部下に奉仕することを第一に考える、新しいリーダー像を提示
しました。
これまでの多くの組織では、リーダーは「上に立ち、命令を出す存在」である
ことが前提でした。しかしサーバント・リーダーシップはその逆です。リーダ
ーは部下を支え、部下が成長することを達成することで、組織全体が高い成果
を生み出すべきであるという考え方です。

■■ パス・ゴール理論とは何か ■■
1971年にアメリカの心理学者ロバート・ハウスによって提唱された「パス・
ゴール理論」は、リーダーの役割を「メンバーが目標に到達するまでの“道すじ
(パス)”を明確にし、必要な支援を与えること」と定義しました。
この理論では、リーダーがメンバーの能力や状況に応じてスタイルを柔軟に変え
ることが求められます。つまり、「リーダーの行動は一つではない」という前提
に立っています。リーダーは“道案内人”であり、目標にたどり着くための最適な
支援者となるべきであるという考えです。

■■ 4つのリーダーシップスタイル(パス・ゴール理論) ■■
パス・ゴール理論では、リーダーのスタイルを以下の4つに分類しています。
それぞれに適した状況もセットで理解すると良いと思います。
(1) 指示型リーダーシップ
・内容:課題の手順や方法を具体的に示すスタイル
・適した状況:メンバーの経験やスキルが浅く、仕事の内容が曖昧なとき。
チームのまとまりが弱い場合にも有効です。
・実践例:「まずこの順番でやってみて」「手順はこの通りで、注意点はここ」
など、明確なガイドを与えます。
(2) 支援型リーダーシップ
・内容:メンバーの心理的状態や満足度に配慮するスタイル
・適した状況:仕事の手順が明確で、メンバーとの関係がある程度整ってい
  るチームに有効です。
・実践例:「最近疲れてない?」「困ったことがあれば相談して」など、信頼
 関係の構築に重きを置きます。
(3) 参加型リーダーシップ
・内容:メンバーの意見を取り入れ、意思決定に参加させるスタイル
・適した状況:メンバーのスキルが高く、自律性がある場合
・実践例:「このプロジェクト、どう進めたらいいと思う?」「それぞれの視
  点から案を出してみよう」など、対話的関与を重視します。
(4) 達成志向型リーダーシップ
・内容:高い目標を提示し、挑戦を促すスタイル
・適した状況:業務が難しく曖昧だが、メンバーの能力が高い場合
・実践例:「このレベルの成果を目指そう」「君ならこのチャレンジを乗り越
えられる」など、信頼と期待を伝えます。
このように、リーダーはメンバーの状態や業務の性質を見極め、それに応じたア
プローチを選択することが求められます。

■■ リーダーが「いらなくなる」状況とは? ■■
1978年、カー(Kerr)は、画期的な問いを投げかけました。
「もし、チームや部下が十分に成熟し、自律的に動ける状態であれば、リーダー
の存在は必要なのだろうか?」
彼は、「リーダーシップには代替される状況が存在する」とし、次のような状況
を挙げました。
(1) 仕事中心型リーダーが不要となる状況
・メンバーの経験・能力が高い
・業務が手順化・マニュアル化されている
・目標や課題が明確に設定されている
(2) 人間中心型リーダーが不要となる状況
・メンバーが動機づけを必要としない(内発的にやる気がある)
・チームがすでに高い結束を持ち、自律的に機能している
(3) 仕事・人間両面でのリーダーが不要な状況
・チームが成熟しており、構造も整っている
・作業がシステム化・機械化されており、人的介入が少ない
このような状況下では、リーダーが「何かをしなければならない」こと自体が組
織の効率を下げるリスクにもなりかねません。

■■ 必要な時に、必要なだけリーダーシップを発揮する ■■
この2つの理論が教えてくれるのは、「リーダーとは常に前面に出る存在ではな
い」という事実です。
パス・ゴール理論は、リーダーがどのように行動すれば、メンバーのやる気と成
果を最大限に引き出せるかを示してくれます。一方、リーダーシップの代替理論
は、「あえて何もしない」ことが最善である場面があることを教えてくれます。
つまり、リーダーに求められるのは、「常に指揮を取ること」ではなく、状況を見
極めて最適な距離感と関わり方を選ぶ柔軟性なのです。
ISO9001の視点でも、これは非常に重要です。マネジメントシステムがうまく機
能している組織では、「管理のための管理」は不要になります。むしろ、現場やメ
ンバーが自律的に改善・創造できるように整えることが、リーダーの役割になり
ます。

ISO9001キーワード リーダーシップ7 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年6月18日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.514 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ7 ***
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これまでの連載では、「リーダーは資質ではなく行動であり、状況に応じてその
スタイルを変化させるべき」という現代的なリーダーシップの基本原則を見て
きました。今回は、その集大成の一つとして注目されている「サーバント・リ
ーダーシップ」についてお話しします。

■■  サーバント・リーダーシップとは?  ■■
1970年、アメリカのロバート・K・グリーンリーフは、従来のリーダーシップ
観に一石を投じました。彼は、「サーバント(奉仕者)こそが、真のリーダーで
ある」と説き、部下に奉仕することを第一に考える、新しいリーダー像を提示
しました。
これまでの多くの組織では、リーダーは「上に立ち、命令を出す存在」であるこ
とが前提でした。しかしサーバント・リーダーシップはその逆です。リーダーは
部下を支え、部下が成長することを達成することで、組織全体が高い成果を生み
出すべきであるという考え方です。

■■ 支配型と支援型の違い ■■
下の表は従来の支配型リーダーシップと、サーバント・リーダーシップ(支援型)
の比較をしたものです。

項目 支配型リーダーシップ サーバント・リーダーシップ
リーダーの目的 部下を管理・統制する 部下を支援し成長させる
行動基準 組織の伝統や経験則 部下の自主性や価値観
モチベーション 高い地位への到達 他者への奉仕と信頼構築
成果への姿勢 自らの評価を求める メンバー全体の成功を称える
影響力の源泉 権限・力による指導 信頼関係による共感と協働
コミュニケーション 一方的な説明・命令 傾聴を基本とした対話
部下育成 指示と管理 共に学び、共に育つ姿勢
失敗時の対応 責任追及と罰 失敗から共に学ぶ姿勢

支配型リーダーシップは、メンバーの行動を義務感や恐れによってコントロール
しようとします。一方でサーバント型リーダーシップは、リーダーは問題があれ
ば支援しますが、メンバーには主体的に動き、創意工夫し、課題を追い求めるこ
とを要求します。そうすることでメンバーには、自然と自立して課題解決に向か
う姿勢が育くまれます。

■■ ピラミッドを逆さにする組織構造 ■■
サーバント・リーダーシップは、経営者の考え方によりますが、組織構造そのも
のにも影響を与えます。従来の「社長が最上位に立つピラミッド型構造」ではな
く、「顧客が最上位に位置し、その下に現場社員、さらにその下にリーダーや管理
者が位置し、社長は最下位に位置する“逆ピラミッド型”」が考えられます。
逆ピラミッド型の組織になると、顧客の声やニーズは必ず一番接触の多い現場を
通じて組織内に流されることになり、現場の声が確実に経営者に伝わりやすくなり、
現場主導のスピードある意思決定や改善行動が可能になります。

■■ サーバント・リーダーシップの中核 ■■
グリーンリーフが示したサーバント・リーダーシップには次の10の特性があります。
(1) 傾聴:部下の声に真摯に耳を傾け、相手が本当に求めていることを理解します。
(2) 共感:他者の立場に立ち、その気持ちや背景を理解しようと努めます。
(3) 癒し:メンバーの不安や葛藤を受け止め、健全なメンタル状態へ導きます。
(4) 気づき:自己と他者の行動に鋭敏になり、必要な変化や成長を促します。
(5) 納得:権威が弱まり、合意と納得による行動変容を引き出します。
(6) 概念化:目の前の課題だけでなく、将来を見据えたビジョンを描き、共有します。
(7) 先見力:過去の経験と現在を結びつけて、未来を予測し、備えます。
(8) 執事役(スチュワードシップ):自らの利益よりも、チームや組織の利益を優先
します。
(9) メンバーの成長:一人ひとりの可能性に光を当て、成長に力を注ぎます。
(10) コミュニティづくり:信頼と協力に満ちた人間関係を築き、共に成長できる場
を創出します。
これらは「ビジョンを共有」し、組織の力を最大限に引き出す深い洞察と戦略性を秘
めたリーダー像です。

■■ サーバント・リーダーシップの留意点 ■■
もちろん、サーバント・リーダーシップにはいくつか留意点があります。
(1)信頼関係の構築に時間がかかる。
 指示・命令型よりも関係構築に多くの時間と対話が必要になります。
(2) メンバーに一定の成熟が必要
 自律性や責任感が未成熟な組織では、自由が逆効果になる場合があります。
(3) リーダー自身の内省と成長が不可欠
 他者に奉仕するには、まず自分自身の価値観や行動を常に見直す姿勢が求められます。
サーバント型リーダーシップ導入においては、リーダーがまず自らの在り方を見つめ
直すこと、そして日々の対話を重ねることが出発点となります。

■■ これからの時代に必要なリーダー像 ■■
近年は、かつてないほどの不確実性と複雑性に満ちた時代です。その中で求められる
のは、単に「指示を出す」だけのリーダーではなく、メンバーを支え、引き出し、育
て、「共に成果を生む仲間」としての関係を築くことができるリーダーです。

ISO9001キーワード リーダーシップ6 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年6月11日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.513 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ 6 ***
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前回は、リーダーの行動が状況に応じて変化すべきだという「条件適応理論
(コンティンジェンシー理論)」の必要性が生まれた背景をお話ししました。今
回はその理論の中身を掘り下げながら、組織や部下の状態に応じたリーダーシッ
プの取り方について考えていきたいと思います。

■■  リーダーシップのかたち  ■■
まず、環境の安定性と組織構造との関係に注目した研究から見ていきましょう。
(1)1961年:バーンズ&ストーカー(イギリス)
彼らは企業の組織構造を、「機械的組織」と「有機的組織」という2つに分類し
ました。
 ・機械的組織:外部環境の変化が少ない安定的な環境下で形成される。ここ
  では命令系統が明確で、ピラミッド型の縦割り組織が機能します。リーダー
  の役割は「命令と指示」の徹底です。
 ・有機的組織:外部環境の変化が激しい時代や業界では、柔軟で水平的なネッ
  トワーク型の組織が求められます。リーダーは「支援と助言」を重視し、部
  下の自律性を高める関わりが必要とされます。
この研究は、近年のVUCA(不確実性・複雑性の高い)時代の組織にも通じるも
ので、変化に強いリーダーの条件を示唆しています。
(2)1967年:ローレンス&ロッシュ(ハーバード)
彼らは、環境が不安定になると、組織は「分化」していくと述べました。
 ・分化とは、各部門がより専門性を高めて独立的に動くようになること。
 ・一方で、組織が安定していれば、「統合」的な管理体制でまとめる方が効率
  的とされました。
このように、組織構造や環境の性質に応じて、リーダーに求められる行動も変化
するという考え方が定着していきます。

■■ リーダーの個性と状況のマッチング ■■
(3) 1964年:フィドラー(イリノイ大学)
フィドラーは、リーダーの「個性」と「状況」の相性に着目しました。
彼の理論では、組織の成果は以下のような数式で説明されます:
組織の業績 = 状況変数 × LPCスコア
 ・状況変数
  1) リーダーが部下に受け入れられているか(人間関係)
  2) 仕事の明確さ(構造の明確性)
  3) リーダーの権限の強さ(影響力)
 ・LPC(Least Preferred Coworker)スコア
  苦手な部下をどのように評価するかで、リーダーのスタイルを分類します。
  -高LPC:人間関係重視型。苦手な相手でも好意的に見る。
  -低LPC:課題志向型。苦手な相手は避けたがる。
彼の主張では、「状況変数が非常に高いか低い」環境では、課題中心のリーダーが
効果的であり、「状況変数が中程度」のときには、人間関係重視型のリーダーが有
効であるとされました。
つまり、どんなリーダーが優れているかは状況次第で変わる、という現実的な視
点が骨格をなす理論です。

■■ SL理論の登場 ■■
(4) 1977年:ハーシー&ブランチャード
彼らが提示したこの理論は、部下の「成熟度(業務への習熟度や意欲)」に応じて、
リーダーの関わり方を変えるべきという考え方です。これが「SL理論(Situational
Leadership Theory)」の核心です。
リーダーの行動は、2つの軸で整理されます。
 ・指示行動:業務内容を明確に伝え、指示するスタイル
 ・支援行動:部下の感情面に寄り添い、相談や助言を行うスタイル

■■ リーダーの要件は状況による ■■ 
ここまでご紹介してきたように、1960年代以降のリーダーシップ研究は、「すべて
の場面で通用する万能なリーダー像は存在しない」という前提のもとに展開されて
きました。
環境の安定性、組織の構造、部下の成熟度、リーダー自身の特性など、リーダーシ
ップが有効に機能するためには、常に「状況を読み、適応する力」が求められます。
この考え方は、ISO9001のようなマネジメントシステムにおいても重要です。環境
変化を踏まえて最適な方法を選び、関係者の力を引き出す。その柔軟性と応用力こ
そが、近年のリーダーに必要な資質といえます。

ISO9001キーワード リーダーシップ5 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年6月4日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.512 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ 5 ***
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前回は、「リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、行動によって形成され
る」というリーダーシップ行動論をお話ししました。今回はその続きとして、
リーダーシップ研究のさらなる発展と、その後登場する「状況理論」について
お話しします。

■■  2つの軸:「課題達成」と「人間関係」  ■■
1950年代以降、リーダーシップ研究では「リーダーの行動スタイル」が多角的
に分析されるようになりました。ここで鍵となるのが、「課題達成」と「人間関
係(社会的要素)」という2つの軸です。
(1) 1954年:ハーバード大学の研究
この研究では、リーダーには大きく2つのタイプがあるとされました。
 ・課題解決リーダー:グループの目的達成を推進する。問題解決に向けてチー
  ムを組織し、行動を促すタイプです。
 ・社会・感情的リーダー:グループ内の関係性に目を向け、雰囲気や士気を整
  えることで集団のまとまりをつくるタイプです。
ここで示された2分類は、その後の研究でも基礎的な視点となり、「業績重視」
と「人間関係重視」というリーダーシップの両面性の理解につながっていきまし
た。
(2) 1961年:ミシガン大学の研究
この研究ではリーダーシップを組織機能としてとらえ、2つのスタイルが提示さ
れました。
 ・生産性中心型リーダー:効率や成果を最優先とし、部下にルール遵守や業務
  遂行を徹底させるスタイルです。
 ・従業員中心型リーダー:従業員の人間性や意欲に配慮し、良好な関係を築く
  ことで目標達成を図ります。
この分類も「業績志向」と「人間尊重」の2軸構造となっており、リーダーは状
況に応じて両方をバランス良く使いこなす必要があるとされました。
(3) 1962年:オハイオ州立大学の研究
オハイオ州立大学では、さらに大規模なリーダー行動調査を実施し、リーダーの
行動を次のように2分類しました。
 ・構造づくり型(Initiating Structure):目標を達成するために、役割や手順を
  明確にするなど、構造的にグループを動かすスタイル。
 ・配慮型(Consideration):メンバー個々の気持ちや人間関係に配慮し、信頼
  関係を築くスタイル。
この研究では、「リーダーの有効性はこの2つの行動のバランスにある」とされ、
状況に応じた調整の必要性が示唆されるようになりました。

■■ 1966年:三隅研究とPM理論の登場 ■■
日本においても、リーダーシップ研究は進展します。九州大学の三隅二不二(み
すみ じゅうじ)教授は、リーダーシップの機能を次の2軸でとらえ、これを「P
M理論」として提示しました。
 ・P(Performance)=課題達成機能:目標に向かって、計画を立て、的確に
  指示を出す能力。
 ・M(Maintenance)=集団維持機能:メンバー同士の関係性を良好に保ち、
  チームのまとまりを維持する能力。
この2軸によってリーダーは4つのタイプに分類されます。

タイプ 説明
PM型 課題も人間関係も高く、理想的なリーダーシップ
Pm型 課題達成は強いが、チームのまとまりが弱い
pM型 人間関係には配慮するが、課題達成力が弱い
pm型 両方とも弱く、リーダーとしての効果が低い

この理論では、リーダーが自らのタイプを把握し、不足している機能を意識的に
強化することで、理想の「PM型」へと近づく努力ができると説いています。つ
まり、リーダーシップは訓練や学習を通じて身につけられる能力である、という
考え方が日本においても確立されたのです。

■■ 状況に応じてリーダー像も変わる ■■
ここまでに紹介したリーダーシップ理論は、リーダーの行動スタイルとその有効
性の関係に注目していました。しかし、組織が複雑化し、多様な部下や業務が混
在するようになると、次のような課題が浮上します。
「同じリーダーが、ある部署ではうまくいくのに、別の部署では機能しないのは
なぜか?」
この問いに対する答えとして登場したのが、「条件適応理論(コンティンジェン
シー理論)」です。
この理論では、「有効なリーダーシップは、状況に依存する」とされます。つまり、
どんなリーダースタイルが効果的かは、以下のような条件によって変わるのです。

■■ 時代とともに進化するリーダーシップ像 ■■
このように、リーダーシップの理論は「資質 → 行動 → 状況」へと発展してき
ました。これは、組織や社会の変化に合わせて、リーダーの在り方も柔軟に進化
してきた証です。
近年のリーダーに求められるのは、固定されたリーダー像に自分を当てはめるこ
とではなく、状況を見極め、学びながら成長し続ける姿勢です。

ISO9001キーワード リーダーシップ4 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年5月28日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.511 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ 4 ***
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前回は、「リーダーとは何か」「リーダーシップとは何か」を取り上げ、リーダー
シップは特定の人に限られた資質ではなく、誰もが発揮できるものであることを
お話ししました。では、この「誰もがリーダーになり得る」という考え方は、い
つどのようにして生まれたのでしょうか。
今回は、リーダーシップの理解を深めるために、リーダーシップ研究の歴史をた
どってみたいと思います。。

■■  リーダーは「生まれつき」?~資質論(特性理論)の時代  ■■
リーダーシップに関する初期の研究は、19世紀末から20世紀前半にかけての
「資質論(特性理論)」にあります。この理論は、「リーダーとは生まれながらに
して特別な資質を備えた人物である」という考えに基づいています。
当時の研究者たちは、多くの偉大なリーダー(歴史的指導者や成功した企業家な
ど)を観察し、彼らに共通する資質を見つけ出そうとしました。代表的な資質に
は以下のようなものがあります。
(1) 知性
 学識や判断力、創造的な思考力など、高度な知的能力を有している。
(2)行動力
 困難にひるまず、最後までやり抜く力。環境に適応しつつも、状況を動かす
 エネルギーを持つ。
(3) 信頼感
 自信と責任感を持ち、周囲からの信頼を集め、良好な人間関係を築ける。
このような研究は、リーダーの人物像を浮き彫りにするという意味では一定の成
果を上げましたが、同時に大きな限界もありました。
なぜなら、特定の資質を持たない人がリーダーとして成功するケースや、資質を
持っていてもリーダーとして機能しないケースが数多く見られたからです。つま
り、「リーダーとしての成功は資質だけでは説明できない」という壁に直面したの
です。
さらに、文化や組織風土によって求められるリーダー像も異なることが明らかにな
り、「普遍的な資質を探す」アプローチ自体に限界があることがわかってきました。

■■ リーダーは「行動によって育つ」~行動論の登場 ■■
1950年代に入ると、資質論の限界を克服する新たな視点として、「行動論(ビヘイ
ビア理論)」が登場します。この理論は、「リーダーは生まれるのではなく、特定の
行動によって育つ」という考え方に立脚しています。
この動きの先駆けとしてよく知られているのが、1939年の心理学者クルト・レヴ
ィン(Kurt Lewin)によるアイオワ研究です。レヴィンは、リーダーシップのスタ
イルを次の3つに分類しました:
(1) 専制型リーダーシップ
 リーダーが全ての意思決定を行い、メンバーは指示に従うだけのスタイル。未熟
な集団では一定の効果を上げますが、創造性や自律性は育ちにくい傾向があります。
(2) 放任型リーダーシップ
 リーダーがほとんど関与せず、メンバーに自由を与えるスタイル。成熟した個人
が多い場合は自発的な行動が生まれやすい反面、方向性を見失うリスクがあります。
(3) 民主型リーダーシップ
 リーダーがメンバーの意見を尊重しながら意思決定を進めるスタイル。チームの
参加意識や責任感が高まり、最も安定した成果が得られるとされました。
この研究が重要なのは、「リーダーにとってどのような行動が有効か」という具体
的な方向性を示した点にあります。つまり、リーダーの資質に頼らなくても、適切
な行動を学び、実行することでリーダーシップは発揮できるということです。
また、この研究以降、リーダーシップは「訓練可能なスキル」として多くの組織で
注目されるようになりました。これは、近年の企業研修や人材育成プログラムにも
深く根付いています。

■■ 行動論の発展とその影響 ■■
その後、オハイオ州立大学やミシガン大学の研究によって、リーダーの行動はさら
に体系化されていきます。とくに、以下の2軸がリーダーシップにおいて重要であ
るとされました。
(1) 構造づくり(仕事志向)
 目標や役割を明確にし、メンバーが何をすべきかを具体的に示す行動。生産性や
業務の効率化に貢献します。
(2) 配慮(人間関係志向)
 メンバーの感情やニーズに注意を払い、信頼関係を築く行動。チームの満足度や
継続性に寄与します。
この2軸をバランスよく活用することで、より安定した成果と人間的なつながりの
両立が可能になるとされました。
これらの研究成果は、今日の多くの組織において「リーダー像の多様性」や「個人
の成長可能性」を尊重する考え方の土台となっています。

■■ 状況によって変わるリーダーシップとは? ■■
「資質論」から「行動論」への研究の展開を通じて、リーダーシップは固定的なも
のではなく、行動や環境によって形成されるという認識が広がりました。しかし、
これだけでは説明しきれない現実も存在します。
たとえば、同じ行動をとっていても、ある場面では成功し、別の場面ではうまくい
かないという現象が起こります。これを受けて登場したのが、「状況理論」や「コ
ンティンジェンシー理論」といった理論です。「状況によってリーダーシップはど
う変化するのか」という視点が重要になっています。