Category Archives: つなげるツボ

日本だけがおかしい?-その2 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.107 ■□■   
*** 日本だけがおかしい?-その2 ***
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■□■ 先進国の中で異なる日本の3つの動き ■□■

前回に続いて、IIOCの事務局長ロングさん(Mr. Marcus Long)との情報交換での
話です。

3つの動きとは、一つは過去10年の認証数の動き、二つ目は認証価格の下落の
動き、三つ目は政府機関での活用の動きというものでした。

■□■ 認証価格の下落 ■□■

二番目の、先進国と比較して日本における認証価格の下落が著しいということに
関しては、客観的なデータが手に入りづらいので何とも言えないと思います。

そもそも、認証価格の定義からしてあやふやです。開発途上国は別として、先進
国の間でもこの種のデータについての議論をあまり知りません。

皮膚感覚?では日本においては安くなったとは感じます。データに基づく数字が
あれば今後の業界の健全な発展のために生かせるのではないかと思います。

一度業界で、ということはそれぞれの認証機関の保有データを収集して分析を
すると良いのではないでしょうか。

■□■ なぜデータが必要か ■□■

国ではいろいろなデータを収集しています。これらはすべて日本の今後の成長
のために使用されます。データは特定の数字はクローズされ、統計処理された
ものが活用されます。全体の動きを見誤らないようにするため、統計データに基
づいて今後への対応が計画されます。

総理府統計局では、次のようないろいろなデータを収集し処理し発表しています

・人口・世帯に関する統計
・住宅・土地に関する統計
・家計に関する統計
・物価に関する統計
・労働に関する統計
・文化・科学技術に関する統計
・企業活動・経済に関する統計
・経済構造・波及効果分析や各種経済統計の基準値となる統計
・経済・金融に関する統計(IMF 公表基準掲示板)
・地域に関する総合統計

などです。

■□■ 企業活動・経済に関する統計 ■□■

データはすべて調査員が一定の基準で収集します。関係がありそうな「企業活
動・経済に関する統計」についてもう少しお話をします。企業活動・経済に関する
統計には次のものが含まれています。

1.経済センサス

「経済センサス」は、事業所及び企業の経済活動の状態を明らかにし、日本の
包括的な産業構造を明らかにしています。

2.事業所・企業統計調査

「事業所・企業統計調査」は、日本すべての事業所を対象として行われる国の最
も基本的な統計調査の一つです。
この調査は、我が国における事業所及び企業の産業、従業者規模等の基本的
構造を明らかにしています。平成18年の調査を最後とし、平成21年から経済セ
ンサスに統合されました。

3.サービス業基本調査

「サービス業基本調査」は、日本においてサービス業の事業・活動を行っている
事業所・店舗・施設の経理事項や業務の実態に関する事柄などを把握していま
す。
産業別事業所数、従業者数、収入額など、各種行政施策等のための基礎資料
となる結果を5年ごとに発表しています。

■□■ ISOマネジメントシステム分野 ■□■

ISOマネジメントシステム分野も上記3.サービス業基本調査に含まれるものと
思われます。場合によっては、認証サービスの価格調査なども可能かもしれま
せん。

ISO認証業界で一度「認証サービス業の事業・活動を行っている機関の経理事
項や業務の実態に関する事柄などを把握することにより、機関ごとの認証数、
認証サービス価格、従業者数、収入額など」のデータ把握を実施するとよいので
はないでしょうか。

現状を正しく認識し今後への対応を事実に基づいて考えることがビジネスの世
界においては重要であることはいうまでもありません。

ISO9001が9月23日に改正された | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.106 ■□■   
*** ISO9001が9月23日に改正された ***
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■□■ 今回は4回目の改正 ■□■
ISO9001が2015年9月23日に改正されました。ISO9001 の初版は1987年に発行されましたが、1994年に第1回目の改正、2000年に2回目の改正、2008年に3回目の改正、そして今回は4回目の改正になります。

■□■ 今回は画期的な改正 ■□■
 多くの人が言うように、今回の改正はISO9001改正の歴史の中で一番大きな改正です。2000年改正では、ISO9001が取り組む対象が品質保証から品質マネジメントに変わり、大きな改正であると言われましたが、今回の改正はISOマネジメントシステム規格(MSS:Management System Standard)すべてを網羅することに関係しての改正であり、大きな変化をISOマネジメントシステムの世界に及ぼすものです。

■□■ 外部品質保証 ■□■
ISOが最初に発行したMSSは,1987年発行の品質保証の規格ISO9001 / 9002 / 9003です。
その1980年代,イギリスにおいてはBS5750(ISO9001のベース規格の一つであるといわれている)を審査基準とした認証制度が既に実施されていました。
この制度は、イギリス国内規格BS(British Standard)が国際規格ISOに格上げされると、順調に発展し今日の世界的な第三者認証制度につながりました。当時、世界各国の製造メーカは製造工程における品質保証について熱心に取り組んでいましたが、この取組みのことを総称して「内部品質保証」と言っていました。

それに対して、「外部品質保証」という言い方で、顧客からの視点で品質保証をすべきであるという考え方が広まりました。

■□■ 組織の能力 ■□■
顧客は現在の品質だけでなく今後とも同様な品質、できればなお向上された品質の製品、サービスを欲しいと期待しています。そのような顧客の期待に応えるためには、現在の状態を良くするとともに、今後もその状態が維持できるようにしておかなければなりません。
そして、このような意図で構築した仕掛けを「組織の能力」として社会にアピールするとよいという考えが出てきました。1987年に発行されたISO9001規格には、規格の骨子としてどのような仕掛け(システム)を構築すればよいのかが規定されていました。それは次のような考え方に沿ったものでした。

(1) 良い状態を明らかにする。
(2) 関係者に見えるようにする。
(3) 関係者が守るようにする。
(4) 途中で確認する。
(5) 成果を確認する。
(6) よくない成果については直す。
(7) 以上を繰り返す。

 筆者は1986年から1992年までイギリスの製造メーカの工場長をしていましたが、当時のヨーロッパのメーカの実態を知る者として、この考え方は大方の産業人の同意を得るものでした。

■□■ 二者監査の代替 ■□■
当時、多くのメーカは部品購入において二者監査を頻繁に行っていました。この二者監査は、する方もされる方も時間、要員及び書類作成などに多くの負担を組織に強いるものであり、その効率化の推進は当時の多くの企業の要望でした。
その二者監査に代わりうるとして登場したのが当時の認証制度でありました。
第三者がメーカに代わって客観的な目でサプライヤーを評価し,その結果を証明する認証制度はイギリスを中心にヨーロッパに広まり,次第に世界に浸透していきました。この制度が世界的に確立したのはこの1995年くらいですが、以来、世界中でISOマネジメントシステム規格に基づく第三者認証制度が急速に広まりました。

筆者はイギリスの工場長時代、1,000人くらいの工場でISO9002の認証を取った経験があります。
その時に戸惑ったのが「品質マニュアル」の作成でした。当時のISO9002規格には品質マニュアル作成の要求事項はありませんでしたが、認証機関の要求で言われるがまま品質マニュアルの作成に取り掛かかりました。

■□■ 品質マニュアルとは ■□■
しかし、品質マニュアルのコンセプトがよく分かりませんでした。
審査員に質問すると返ってきた回答は次のようなものでした。

「御社はプリタの製品取り扱いマニュアルを作成していますが、それと同じ要領で御社の品質取扱いマニュアルを作成してください。それは詳細なものではなくて考え方でよいですよ。」

その後のやりとりを纏めると次のようなものになるでしょう。
・ISO9002はフィクションである。きれいごと、すなわち理想のストーリーを書いている。
・リアリティが存在するのは御社のプロセスであって、そのプロセスに理想のモデルであるISO9002要求事項を入れ込んでもらいたい。
・設計に関する要求事項は、御社の設計プロセスへ入れ込むことでよいが、コミュニケーション、力量などに関することはすべてのプロセスに入れ込んでもらいたい。
・ただし、全てのプロセスで実施するということは、どこのプロセスでも実施しないことにつながるので、特に必要であると思われるプロセスに入れ込むことがよいであろう。

このような経験をした3年後には筆者は日本に帰任することになりますが、当時工場で発生していたクレームが激減したことを覚えています。

日本だけがおかしい? | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.105 ■□■   
*** 日本だけがおかしい? ***
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■□■ IIOCの事務局長 ■□■

先月、IIOCの事務局長Mr. Marcus Long 氏が来日した折りに、1時間ほど
情報交換をさせていただきました。

IIOCとはIQネットと並んで国際的に活動している世界的な認証機関の連合
体のことで、"Independent International Organization for Certification" が
正式名です。
 http://www.iioc.org/

Long氏の来日の目的は、世界の先進国において日本が他国と異なった動
きをしているのでその実態について情報交換をしに来たというものでした。

■□■ 他の先進国と違った動きとは何か? ■□■

Longさんの話では、一つは、過去10年の認証数の動きをみると、他の先進
国と比較して日本が特に下降線をたどっている。

二つ目は、これも先進国と比較して認証価格の下落が著しい。

三つ目は、他国と比較して政府機関で使用されていない、というものでした
。

いずれもきちんとした調査が必要であると思いますが、IIOCにはインターナ
ショナルに活動している認証機関、例えばBSI、ロイド(LRQA)、DNV、SGS
、TuVなどがメンバーになっていますので、ほぼこの情報に大きな齟齬は
無いのではないかと思います。

■□■ ISO9001の認証数の過去推移 ■□■

一番目の認証数については、自分でISO9001について調べてみました。
 日本:   2006年 80,518件 → 2013年 58,836件

  イギリス: 2007年 35,517件 → 2013年  44,585件
  ドイツ:    2007年  45,195件 → 2013年  56,303件
  フランス:  2006年  21,349件 → 2013年  29,598件
  イタリア:  2007年 105,799件  → 2013年 160,966件
  スペイン:  2005年  47,445件  → 2012年  59,418件
  アメリカ    2010年  25,101件 → 2013年  34,869件

私の調べた数字は、基準年が異なるので正確さには欠けますが、認証の
絶対数への評価は別として、過去5~10年の推移をみますと、明らかに日
本の認証数は他の先進国と比較して異なる動きをしています。

第二、三の視点についても引き続き調べたいと思いますが、第一の視点
から私が引き出した仮説は次のようなものです。

 ■□■ 平林の仮説 ■□■

私の最初の仮説は次のものです。

「日本国内において、ISO9001の認証書の価値は経営者に認められていな
い。」

この仮説については、私はいろいろな事象からほぼ正しいのではないかと
信じています。

■□■ 二つ目の仮説 ■□■

二つ目に次の仮説もあります。ISOがシステムという概念を持ち出したのは
約30年前でした。

「当時、日本においては既に品質保証に関するシステムは存在していたか
ら何もISO規格を使う必要はなかった。貿易上欧米からの圧力に付き合っ
てきただけである。」

自分で仮説を立てながら、この仮説には違和感を覚えます。

たとえ当時はそうであっても時代は30年経っています。今日の日本の企業
に本当の意味での「システム」は存在しているのでしょうか。ここでいうシス
テムとは、品質という側面から永遠に企業が成功を収める組織の能力の
実証を意味します。

有能な人がいなくなっても、ベンダーが変わっても、機械設備が劣化して
も、常に顧客に満足を提供する能力を実証できると胸を張って言えるでし
ょうか。

第2、3の視点に関する問題は、私たちの業界にとって長年の課題になって
います。
また機会を改めて論じたいと思います。

■□■ 超ISO企業研究会 ■□■

本当の意味でのシステムを構築するという目的で研究活動を行ってきてい
る団体として、私自身が副会長を務めている超ISO企業研究会(会長は飯
塚悦功東京大学名誉教授)があります。

超ISO企業研究会では、企業が永遠に成功を収める品質マネジメントシス
テムについての研究を行っています。

超ISO企業研究会では、民間企業各社様に過去1年~3年にわたって共同
研究を行って参りました。

今般その成果報告会を5社様にお願いしてご発表頂きます。
9/14(月)午後1時から午後3時30分、場所は東海大学高輪キャンパス、ご
参加は無料です。

ご興味を持たれた方は下記サイトからお申し込みください。
https://www.tqm9000.com/?p=314&preview=true

ISO45001労働安全衛生MSSの論点 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.104 ■□■
*** ISO45001労働安全衛生MSSの論点 ***
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■□■ リスクと機会 ■□■
7月にアイルランドのダブリンでPC283(ISO45001労働安全衛生マネジメントシステ
ム規格専門員会)の国際会議が開かれました。これは2013年の初回総会から数え
て4回目の総会になります。

いままでの議論を通じて労働安全衛生マネジメントシステム規格ISO45001の論点
が明確になってきています。いくつかの論点があります、一番課題となりそうな論点
が、附属書SLから採用した(採用しなければならなかった)「リスクと機会」です。

■□■ 附属書SLの要求 ■□■
2012年5月、ISOは国際規格作成のルールブックである「ISO/IEC専門業務用指針 
第1部(ISO/IEC Directives, Part 1)」を改訂しました。その中に「上位構造,共通の
中核テキスト及び共通用語定義」が,付表2(Appendix 2)という形で含まれました。
これが今後の全てのISO マネジメントシステム規格における開発において、共通テ
キストを使用せねばならないという専門家に向けての指示です。

単一の組織が複数のマネジメントシステムを運用するときに、それぞれの規格の要
求事項や用語及び定義が異なっていると,ユーザーは不便を感じます。分野別に
いろいろなマネジメントシステム規格がありますが,利用する組織は同じ経営者が
統率する集団です。

この指針は、「共通テキスト」、「附属書SL」、「HSL:High Level Structure」などと呼
ばれます。呼称が統一されておらず不便ですが、しばらくはいろいろな言い方がさ
れると思ってください。ただし、共通テキストは,企業などの規格ユーザー向けの文
書ではありません。あくまでもISOのマネジメントシステム規格を作成するTC(専門
委員会)、SC(分科委員会)などの規格を作成する専門家が利用するものです。

■□■ どんな論点があるのか ■□■
共通テキスト(附属書SL)は、マネジメントレベルの視点から「リスクと機会」を決定
することを求めています。一方OH&Sマネジメントシステムにも伝統的なリスクとい
う概念があります。

同じリスクという言葉ですが、その意味するところは似てはいますが、異なっていま
す。共通テキスト(附属書SL)でいうリスクは、「今後何が起こるか分からない、それ
に対して予測をしてもし何かが起きても被害が最小になるようにしておこう」というも
のです。

一方、OH&Sリスクは、「ハザード(危険源)を特定し、それが起こる時のひどさと起
こり得る可能性の組み合わせ」というもので、前者よりも焦点が事故、災害にフォー
カスされています。

「機会」については、OH&Sでは従来扱ってきませんでしたので、あまり問題にならな
いと思います。共通テキスト(附属書SL)においても、機会の定義はありませんので
、「物事を前進させる状況を言う」と思えばよいと思います。

■□■ OH&Sリスクにはアセスメントがある ■□■
 OH&Sリスクに関してはリスクアセスメントが付いてまわります。すなわち、「ハザ
ード(危険源)を特定し、それが起こる時のひどさと起こり得る可能性の組み合わせ
」を評価してその大きさを決めます。そして大きいものから手を打ち、リスクの大きさ
を低減させます。この対策をリスクが許容できる小ささになるまで行います。

よく言われることですが、リスクは決してゼロにはできません。組織が自身で判断し
て「これくらいのリスクであれば止むなし」というレベルにまで低減させるのですが、
この残ったリスクのことを残存リスク(residual risk)といいます。

論点は、このアセスメントをマネジメントシステムのレベルでも、すなわち「リスクと
機会」ども行うということです。

■□■ 附属書SLリスクでアセスメントが必要か■□■
 ここでは、便宜的に前者のリスクを「附属書SLリスク」と呼ぶことにします。共通
テキスト(附属書SL)でのリスクの定義にはアセスメントとの関係はないように理解
できますので、今後ISO45001の審議においてこの論点がどのようになっていくのか
注目していきたいと思っています。

私自身、ISO45001のエキスパートですので、国内委員会の大勢を見極めながら国
際会議に臨みたいと思っています。

参考までに「附属書SLリスク」の定義を下記に示します。
「リスク:不確かさの影響」

以上

2013年2月、ILOはISOとMOU(Memorandum of Understanding:行政機関等の組織
間の合意事項を記した文書であり、通常、法的拘束力を有さない;了解覚書といわれ
る)を結びました。これは、労働安全衛生マネジメントシステム規格の新規作成に関
するものでした。

両機関が協力して一つの国際規格―労働安全衛生マネジメントシステムに関する
―を作ろうというもので、従来のILOとISOの関係からすると画期的なものでした。

■□■ PC283の設立■□■
2013年10月、このMOUに基づきISOに新たにPC283が新設されました。PC(Project
Committee)というのはTC(Technical Committee)と異なり、一つの規格だけを扱う
規模の小さな技術専門委員会のことです。

初回の会議はイギリスで行われました。以来、モロッコ、ドバイ、トリニダートトバ
コ、そしてアイルランドと国際会議が開かれてきました。

現時点、ISO45001 はDIS(Draft International Standard)にいくことが承認された状
態にいます。ダブリンでもDISに向けての規格作成への基礎検討がされました。
当然のことですが、CD(Committee Draft:委員会原案)がベースとなって検討がさ
れましたが、次回9月の会議までに、各国は規格内容の検討をしていくことが要請さ
れた状況になっています。

次回は、規格の中から重要と思われる懸案事項をお話ししたいと思います。

ISO45001労働安全衛生MSS | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.103 ■□■
*** ISO45001労働安全衛生MSS ***
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■□■ ダブリン会議 ■□■

6月28日~7月5日までアイルランドのダブリンでPC283の国際会議が開かれ参加してき
ました。

労働安全衛生マネジメントシステムは、国際的には長い間OHSAS18001というOHSASグ
ループが作成した規格に基づいて審査が行われてきました。OHSASグループとは、イ
ギリスのBSIが中心となって設立した労働安全衛生OHSAS18001規格を運用するために
設立した組織です。日本からは日本規格協会などが参加しています。


■□■ 日本国内は中災防などの規格がある ■□■

しかし、日本国内には中災防(中央労働災害防止協会)、建災防(建設業労働災害防
止協会)などが運用しているOHSAS18001とは異なる基準があります。

それはILO(国際労働機構)が定めた労働安全衛生マネジメントシステムガイドであ
り、中災防、建災防などはこれに整合した自分たちの基準を作成し、それに基づいて
審査を行ってきました。

ILOは、1919年に、ベルサイユ条約第13編(後のILO憲章)によって設立された国際機
関です。労働条件の改善を通じて、社会正義を基礎とした世界平和の確立に寄与する
ことを目的としています。ILOは、スイスのジュネーブに本部があり政府、労働者、
使用者の三者構成で運営されています。

ISO(国際標準化機構)も1926年に設立された国際機関でやはりスイスのジュネーブ
に本部があります。ただし、こちらは国連の一部ではありません。


■□■ なぜ、ダブルスタンダードなのか ■□■

その背景は、2000年ころに戻ります。当時、ISOはBSIが提案してきた労働安全衛生規
格を国際規格にするかについて、何回もNWIP(New Work Item Proposal)の審議、そ
れにつづく採択するかの投票を行いましたが、そのたびにILOが反対して国際規格制
定の実現が図られませんでした。

ILOが反対した理由は、労働安全衛生はILOの専管事項であり、それに関係する規格も
またILOが主導すべきものである、というものです。


■□■ ILOの方針転換 ■□■

2013年2月、ILOはISOとMOU(Memorandum of Understanding:行政機関等の組織間の合
意事項を記した文書であり、通常、法的拘束力を有さない;了解覚書といわれる)を
結びました。これは、労働安全衛生マネジメントシステム規格の新規作成に関するも
のでした。

両機関が協力して一つの国際規格―労働安全衛生マネジメントシステムに関する―を
作ろうというもので、従来のILOとISOの関係からすると画期的なものでした。


■□■ PC283の設立■□■

2013年10月、このMOUに基づきISOに新たにPC283が新設されました。PC(Project
Committee)というのはTC(Technical Committee)と異なり、一つの規格だけを扱う
規模の小さな技術専門委員会のことです。

初回の会議はイギリスで行われました。以来、モロッコ、ドバイ、トリニダートトバ
コ、そしてアイルランドと国際会議が開かれてきました。

現時点、ISO45001 はDIS(Draft International Standard)にいくことが承認された
状態にいます。ダブリンでもDISに向けての規格作成への基礎検討がされました。当
然のことですが、CD(Committee Draft:委員会原案)がベースとなって検討がされ
ましたが、次回9月の会議までに、各国は規格内容の検討をしていくことが要請され
た状況になっています。

次回は、規格の中から重要と思われる懸案事項をお話ししたいと思います。