ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」9 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年6月18日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.561 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」9 ***
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ヒューマンエラー防止の基本は、決められたことを決めたとおりに行うことです。
ISO9001の8.5.1 c)は、プロセス又はアウトプットの管理基準、並びに製品及びサービス
の合否判定基準を満たしていることを検証するために、適切な段階で監視及び測定活動を
実施することを求めています。ISO9001の8.5.1 c)は、g)「ヒューマンエラーを防止する
ための処置を実施する」と関連しています。

■□■工程内検査、次工程受入れ検査によるヒューマンエラー防止■□■
「工程内検査」は、製造・サービス提供の途中段階でプロセスやアウトプットが要求事項
を満たしているかを確認する活動です。ISO90018.5.1 c)の要求事項を具体化する代表的手
段です。
一方、「次工程受入れ検査」は、前工程からきた製品(半製品、情報、サービス成果物)
を後工程側が受入基準に照らして合否判断し、合格品のみを自工程に流す仕組みです。言
い換えると、「後工程はお客様」という考え方を前工程及び後工程の2つに展開したもの
です。ここで重要なのが「ゲート化」の視点です。ゲート化とは、工程節目に関所を作る
ことを言います。
 ・合格なら次へ進める
 ・不合格なら止める、隔離する、戻す、修正する
  という分岐を明確にすることです。
ゲートがない工程では不適合品が流れていきます。流れた不適合品は、次工程で発見され
た瞬間に、手戻り、ライン停止、再段取り、出荷遅延、顧客クレームへと波及していきま
す。工程内検査及び次工程受入れ検査の特徴は、まさにこの「波及」を最小化する点にあ
ります。
さらに工程内検査は「品質保証部門が最後に検査する」最終検査とは根本的に性格が異な
ります。工程内検査の狙いは工程能力の安定ですから次の観点が重要です。
 (1)異常を早期に発見する
 (2)異常が下流に流れないようにする
 (3)原因を再現性あるうちに是正する

次工程受入れ検査は、責任を明確にするということに繋がります。前工程が「作ったから
受け取る」のではなく、「基準を満たしているから受け取る」という責任を明確にする活動
をすることになります。前工程は基準を守らないと流せなくなるため、人の注意力に頼ら
ずに品質を保つという8.5.1 gヒューマンエラー防止の対策になります。

■□■ 工程内検査及び次工程受入れ検査の有効性 ■□■
工程内検査及び次工程受入れ検査がヒューマンエラー防止に有効である理由は、ヒューマ
ンエラーの性質にもあります。人のミスは、(1)起きる、(2)気づかない、(3)気づいても流
す、という三段階で重大化します。ゲート化は、このうち(2)(3)を狙って抑えます。つまり
「ミスをゼロにする」より、「ミスが起きても欠陥に大きくしない」仕組みです。「ポカヨ
ケ」がミスを起こせないという根本に手を打つのと異なり、生ぬるいのですが、人間が間
違いを起こす存在であるという本質がある限り次善の策も有効です。

「工程内検査及び次工程受入れ検査」のヒューマンエラー防止への有効性は大きく4つに
整理できます。
(1) 早期発見による被害最小化
 エラーは早く見つけるほど、影響範囲が小さい。例えば、材料投入ミスを最終検査で見
 つければ全ロット廃棄になり得ますが、投入直後の工程内検査で見つければ、止めて隔
 離し、損失を限定できます。これは品質コスト(COQ)の観点で、内部失敗コストを劇
 的に減らします。
(2)流出防止
 次工程受入れ検査は「自工程のエラー防止」です。自工程に不適合が流れてくると、作
 業者の負荷を増やし、焦りを生み、二次エラーを誘発します。流出を止めることは、品
 質だけでなく安全、納期、士気にも効きます。
(3)原因が特定しやすい
 工程内でエラーが留まると、原因はそのままになっているいることが多いでしょう。設
 備設定、材料ロット、作業者、治具、環境などの条件がその場に残っているため、原因
 究明がしやすいはずです。これが下流で見つかると原因にまで遡れず、エラー再発防止
 資源の投入が多くなります。

■□■ それでも防げないヒューマンエラー ■□■
工程内検査及び次工程受入れ検査というゲートがあるのに流出するケースは日常の活動で
経験することです。人は間違いを起こす存在であることを理解して補完策を講じることが
重要です。
(1) 検査自体の見落とし
 外観判定、感覚検査、判断を伴う検査は、疲労や慣れで見落とし、誤判定が起きます。
 限度見本、画像検査、照明条件の標準化、自動化(AI)など、検査そのものを強化し
 ます。
(2) 基準の曖昧さ
 合否判定基準を数値化しないと、曖昧な検査になります。OK/NG例を明示し、測定方
 法も標準化します。
(3) 工程を 止められない文化
 ゲートがあっても、納期や上司の圧力で、とりあえず流すことが起きます。これは仕組
 みだけでなくマネジメントの問題で、停止を評価する文化、例外承認の可視化が必要で
 す。
(4) 例外処理・特採の乱用
 特採や暫定処置が増えるとゲートは形骸化します。特採基準、承認権限、記録、再発防
 止のセット運用が不可欠です。
(5) 検査対象外の潜在不良
 工程内検査は、測っていない特性は保証できません。内部欠陥、長期信頼性、環境スト
 レスで出る不良などは、妥当性確認、工程能力管理、信頼性試験など別の管理が必要で
 す。
(6) 混入・取り違え
 ゲートで合格しても、保管・搬送で混入が起きれば意味が薄れます。識別、隔離、先入
 先出、ラベル、バーコード追跡が必要です。
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」8 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年6月10日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.560 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」8 ***
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どんな仕事にもカンコツ(勘こつ)と呼ばれる要所があります。ベテランと呼ばれる人
は、今までの経験から仕事のどこを押さえれば大きな問題は起きない、ということを知っ
ています。ベテランが知っている知識を暗黙知といいますが、暗黙知を形式知と呼ばれる
共有知識にすることがヒューマンエラー防止の役に立ちます。

■□■ チェックリストと属人化 ■□■
ベテランが行うとミスは出ないのに経験の少ない人が行うとミスが出る、という状況はい
ろいろな領域で見られることです。この「特定の人が行うとミスは出ない、そうでないと
出る」状態を「業務の属人化」といいます。チェックリストは本来、属人化を減らすため
の道具ですが、誤った運用は逆に属人化を強めます。その典型は、ベテランだけが「どこ
がミスしやすいか」を知っていて、チェックリストにはそれが反映されておらず、新人は
チェックリストに沿って仕事をしているのに問題を起こすケースです。
チェックリストの属人化対策として次の3つが鍵です。
 (1)暗黙知の吸い上げ:ベテランの経験から作業の「勘こつ」を抽出する
 (2)チェックリストに項目化する:「勘こつ」をその作業ポイントに項目化する
 (3)チェックリストの詳細化:「勘こつ」箇所を分割し詳細な記述にする
暗黙知の吸い上げでは、例えば、ベテランは「この品番は末尾違いが多い」「この工程は締
付け漏れが出やすい」「このラベルは位置がズレる」と経験的に知っています。これらを
「注意する」ではなく、チェック項目として作業ポイントに記載すれば個人の経験が組織
能力になります。チェックリストに、写真、OK/NG例、バーコード照合、測定値などを
組み合わせると、属人化はさらに減り、ヒューマンエラーも少なくなります。

■□■ ダブルチェックと属人化 ■□■
ダブルチェックの属人化に関しては「独立性と複数者対応」がキーとなります。ダブルチ
ェックは独立性が薄まるとエラー減少の効果が減ります。またダブルチェック者がいつも
同じベテラン熟練者だと、そのベテランが居ないと作業が停滞して仕事が回らなくなりま
す。ダブルチェックを属人化させないためには、ダブルチェック者のローテーション、技
能認定、教育、そしてダブルチェック内容を標準化(作業者とは異なる確認方法)するこ
とです。誰がダブルチェックしても同じ結論になるように、ダブルチェック基準と方法を
明確にします。
ダブルチェック基準は固定されてしまうと使い物になりません。新製品、材料変更、設備
更新、作業者入替えなどがあると、チェックポイントは変化します。変化すると問題が出や
すくなりますので、問題が出ないように管理しなければなりませんが、問題が出たら10.2
(是正処置)の要求にあるように、
 ・なぜ問題が出たか(チェック項目がない/基準が曖昧/チェックポイントが悪い)
 ・どのチェックポイントで止めるべきか(受入/工程内/出荷)
などを検討して、ダブルチェック項目を更新します。

■□■ チェックポイントの具体例 ■□■
ヒューマンエラーが多い領域に関して(製造業)のチェック項目の例を示します。
(1)ピッキングチェック
 ・指示書のバーコードをスキャン
 ・取り出した部品のラベルをスキャン
 ・システムがOKを表示したらその場でチェック欄に自動記録する。
  → 目視確認を減らし、証跡が残るチェックにする。
(2) ロット混在防止チェック
 ・作業者が投入前にロットを確認
 ・別者が投入直前に、投入物のラベルと投入記録を照合して、投入してしまうと戻せ
  ない工程をダブルチェックする。
(3) 工程開始前の指差呼称
 ・「品番○○、条件△△、治具□□、良し」のように、重要箇所だけに限定して呼称
  確認をする。
(4) 段取り替えチェックリスト
 ・圧力○kPa、温度:○度、安全カバー閉など、最後にまとめチェックするのではな
  く、段取り変更箇所ごとにチェックする。
(5) 締付け完了のダブルチェック
 ・作業者はトルク確認しそこをマーキングする。
 ・独立したダブルチェックがマーキング位置と作業本数を確認し、「締めたつもり」
  「数えたつもり」を無くす。
(6) 梱包前チェック
 ・製品シリアル番号と伝票とを照合する。
 ・ラベル貼付位置を写真基準と照合する。
 ・同梱物(説明書、保証書、付属品)をチェックする出荷ポイントを止め所として作
  る。
(7) 出荷ラベルを指差呼称して2人で確認する(ダブルチェック)
 ・作業者は「宛先○○、品名○○、数量○、良し」と呼称する。
 ・検証者は伝票と箱ラベルを独立して読み合わせし、宛先違い、品名違いなどの重大
  クレームに繋がる事故を防止する。
(8) 送品前ダブルチェック
 ・宛先、添付ファイル、機密区分、本文の個人情報など
 ・チェック後でなければ送品できないシステムを構築する。

これらの例で共通するのは、チェックを「形式」ではなく、工程中の管理ポイントとして
必須箇所(コントロールポイント)にすることです。チェック結果はログデータ(自動記
録、署名、タイムスタンプなど)に残るシステムにします。
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」7 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年6月3日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.559 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」7 ***
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ヒューマンエラー防止にはポカヨケ(vol.553、554)のように非常に効果的なものがあり
ますが、ポカヨケはある状況下には使えても異なった環境では使えないという限定的なも
のです。多くの仕事に有効なものにチェックリストとダブルチェックがあります。チェッ
クリストとダブルチェックは有効でないという人が多くいますが、工夫すればヒューマン
エラー防止に有効になると思います。

■□■ チェックリストの詳細さ ■□■
チェックリストの詳細さは、ヒューマンエラー防止に大きく影響を与えます。チェックリ
ストの詳細さがエラーを防ぐに必要なチェック情報が過不足なく揃っているかを確認する
ことが必要です。ISO9001の8.5.1では、管理された状態で製造・サービス提供を実行す
るため、(a)文書化した情報の利用(c)監視・測定(e)力量ある人の配置などを求めて
います。チェックリストは、このうち特に「c)適切な段階での監視・測定・検証」を、現
場で実践するツールです。しかし、チェックリストの詳細さが甘いと「形だけのチェッ
ク」になり、逆にチェックしているつもり、あるいは責任の曖昧化をまねきます。
チェックリスト詳細さは次の観点で決めることが良いと思います。
 (1)何をチェックするか:品番、ロット、数量、設定値、外観、締付け、ラベル、添付書
  類など
 (2)どのようにチェックするか:目視、スキャン、測定器、治具、記録照合、相互確認など
 (3)どうして合格なのか(基準):OK/NG判定基準、許容範囲、合否条件、例外条件

例えば製造業においては、チェックリストに「規定トルク(○N?m)」、及び「トルクレン
チのクリック確認」の2項目をチェックするという詳細さまで書くと、単に「締め付け確
認」と書くよりチェックの信頼性は高まります。さらに、チェックするポイントも重要で
す。人は、作業の最後にまとめてチェックしようとすることが多いのですが、その状況で
は記憶が薄れていて見落としが増えます。チェックのポイント(製造業)は次のように分
散させると良いと思います。
 ・受入時(材料・ロット)
 ・工程開始前チェック(設備設定・治具)
 ・重要工程後チェック(締付け・測定)
 ・梱包前チェック(ラベル・同梱物)
8.5.1 c)には「適切な段階で監視及び測定活動をする」という要求されていますが、「適切
な段階」は組織固有なものなので、組織が自分で明確にしなければなりません。さらに必
要なことは、3番目の「重要工程」とは何かも明確にするとよいでしょう。
 ・顧客に影響する工程
 ・安全に影響する工程
 ・発生頻度が高い工程  
 ・検出が難しい工程(後では気づかない)

チェックリストの詳細さを決める実務的な基準には「過去の不適合」にするとよいと思い
ます。多くのことを何でもチェック項目に入れると、現場はチェック疲れを起こし、形骸
化したチェックになりがちです。逆に、重大な取り違えや流出リスクがあるのに項目がな
いとエラーが流出する可能性が高くなります。

■□■ ダブルチェックの独立性 ■□■
ダブルチェック(2重確認)は、チェックリストの詳細さを補強する方法です。すべての
工程をダブルチェックすることは現実的ではありませんので、「失敗したら戻せない」「流
出すると重大」な工程をダブルにチェックします。ここでダブルチェック(2重確認)は2
番目の人の独立性が重要です。
 ・A:作業者が自己チェック(実施者視点)
 ・B:別の人が独立チェック(検証者視点)
独立性とは、前の人と異なる方法で同じ内容を確認することを意味します。むかし算数で
教えられた、「足し算したら引き算して答えが同じになるか確認する」と同様な考え方で行
うとよいと思います。独立性がないと、二人に同じ思い込みが共有され、チェックの意味
が薄れます。
ダブルチェックの変形に指差呼称があります。目で確認した上に声でも確認する方法です。
「注意を対象に向け、声を出して言語化して確認する」方法で、鉄道、航空、重工業、プ
ラントなどで事故防止に用いられてきた手法です。この方法はこれらの製造業に限らず、
サービス業でも推奨されるヒューマンエラー防止の方法です。

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」6 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年5月27日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.558 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」6 ***
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ヒューマンエラーへの対応の一つとして手順書の作り方を工夫することが考えられます。
前回手順書の粒度の話をしましたが、書くだけでは効果的な防止にならないので、動画で
手順を説明することが多くの現場で活用されています。また手順書の使われる状況に応じ
て書き方を工夫することも必要です。

■□■「手順」と「基準」と「異常時対応」 ■□■
組織の標準書を「手順」と「基準」及び「異常時対応」に分けて考えてみます。
(1)手順:どのような順ですすめるか(工程順など)
(2)基準:どこまでできたら合格とするか(品質、安全、数量など)
(3)異常時対応:作業中迷ったらどうするか(止める、呼ぶ、隔離するなど)
標準書を読むものから、実践的に使うものにする工夫、即ち“現場を動かす仕組み”として
考えてみます。特に、(3)異常時対応がない標準書は考え直した方が良いと思います。現
場では必ず例外が起きるため、「異常の見つけ方」「止め方」「誰に連絡するか」「記録には
どう書くか」を標準書にはっきりさせておくことで、ヒューマンエラーを防いだり、拡大
させたりしないことに役立ちます。

■□■ 手順書と属人化について ■□■
属人化とは、仕事が特定の人の経験・勘・記憶に依存している状態を言います。その人が
いないと品質や納期が不安定になる状態です。手順書は属人化を減らすための基本手段で
すが、作り方を誤ると逆に属人化を助長します。例えば、標準が形式的で現場実態とズレ
ていると、作業者は標準を見ずに“できる人のやり方”を参考にし始めます。すると標準は
飾りになり、暗黙知が温存され、属人化が固定化されてしまいます。
属人化を減らす標準づくりのポイントは、標準を「熟練者のコツの翻訳」として扱うこと
です。熟練者は、作業の中で無意識に重要ポイントを見ています。例えば、締付けの感
触、音、振動、わずかなズレ、材料の状態などです。これらを、写真・NG例・注意点と
して言語化/視覚化することで、暗黙知が形式知化され、属人化が減ります。ここでの肝
は、標準を品質保証部門が机上で作るのではなく、現場と一体で作り、現場の言葉と現場
の絵を取り入れることです。
また、標準と属人化の関係で重要なのが「標準=最低ライン」ではなく「標準=最良のや
り方(現時点で)」という位置づけにすることです。標準が最低ラインだと、上手い人は標
準を無視して自分のやり方で作業をしてしまいます。標準が最良のやり方として更新され
続ければ、上手い人の工夫は標準に吸収され、組織能力になります。つまり、標準は固定
文書ではなく、改善の器にするべきです。ISO9001の10.3(継続的改善)と結びつけると
マネジメントシステムの定着に繋がります。

■□■ 手順書の限界と補完策 ■□■
(1)見ない、読まないという問題
 標準があっても、見ない人が多くいます。最初は読んでも慣れてくると見なくなりま
 す。それへの対策は、標準遵守を工程の完了条件に組み込むことです。標準をチェック
 したり、標準を記録に結び付けたりすることを完了の条件にします。
(2)例外処理、変化に弱い
 材料変更、設備変更、人員入替、特急対応などがあると標準が使い物にならなくなりま
 す。いろいろな変更をどのように管理するかについても標準に書き込むことが必要です。
(3)判断の良し悪しが求められる
 標準は通常の作業には強い一方、異常に弱いことは前述のとおりです。標準どおりにい
 かない場合の判断が重要になりますが、エラー、ミスにならないようにするには判断が
 適正であることが必要になります。場合によっては止めることも判断の一つです。
(4)標準自体が間違っている
 標準が誤っていれば、標準通りにやって不良が出ます。標準は検証(レビュー、現場試
 行、結果確認)とセットで運用しなければなりません。
(5)標準ではうっかりを防げない
 部品は正しいが締付けトルクが足りない、ラベルは貼ったが剥がれたり、組んだが表裏
 が反対などは標準だけでは防げません。前回までに述べたポカヨケで補完します。

結論として、手順書の見える化は「理解」と「再現性」を大きく高めますが、見ない、読
まない、守らない、例外に弱い、判断が必要など限界があります。手順書を単独で活用す
るのではなく、バーコード照合やポカヨケ、工程内検査、力量管理、変更管理などと組み
合わせて「管理された状態」を構築することが必要です。

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」5 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年5月20日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.557 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」5 ***
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「ヒューマンエラーを防止するための処置」の一つとして、手順書の見える化がありま
す。手順書には誰もが理解できるように写真を張り付けたり、イラストを付けたり、又は
動画で手順を説明するなどの工夫がされます。要点は「手順書を作ること」ではなく、人
間の迷いを無くし、解釈差が出ないようにし、記憶に依存しない作業の進め方を支援する
ことです。誰がやっても同じ結果に近づけるような「情報設計」された標準を作ることで
す。

■□■ 手順書の詳細さ ■□■
手順書の詳細さとは、作業者が迷わず再現できるために必要な情報が過不足なく揃ってい
る状態を指します。ISO9001の8.5.1 a)では、製造・サービス提供を管理された状態で実
行するために、1)「特性」2)「達成すべき結果」を定めた文書化した情報を利用できるよ
うにすることが求められます。つまり手順書は「やり方(How)」だけでなく、「何を満た
すべきか(What/Acceptance)」まで含めて初めて機能します。
手順書をどこまで細かく書くべきかは次の3つの要素を考えることで決まってきます。
(1)初心者でも単独でできる:初見で迷わない、手戻りしない。
(2)熟練者でも省略できない:慣れによる“飛ばし”が起きにくい構造である。
(3)監査で検証可能:標準が守られているか、結果が担保されているかが追える。

■□■ 3要素の決め方 ■□■
3要素を満たすためには、手順書の「粒度」とその「判断ポイント」を決めなければなり
ません。粒度とは、仕事の1ステップの細かさを言います。例えば「部品Aを取り付け
る」を1ステップとするか、もっと細かくして「部品Aを刻印面を上にする」「部品Bの
ピンに合わせる」「カチッと音がするまで押し込む」のように3ステップに分けるか、と
いうことです。
どこまで細かくするのかの判断ポイントは、作業者が迷う箇所があるか、ミスが起きる可
能性があるか、の2つです。手順書に手の動きすべてを書くことは特別の例を除いてはか
えって煩雑になるので、「全部を書く」のではなく、間違えやすい箇所を重点的に見える化
することが効果的です。見える化(動画、写真、イラスト)を使う意義は、煩雑さを減ら
し人による解釈差を無くすことにあります。
文章だけだと、作業者は頭の中でイメージを描きますが、その描き方が人によって違って
しまいます。動画、写真やイラストは、正しい状態(OK)と間違った状態を(NG)をよ
り万人に伝えやすくします。
特に動画は、工具の動かし方、速度、姿勢、手の順番など、文章、写真、イラストでは伝
え難い欠点を的確に改善します。ただし、動画は確認するに時間がかかるため、現場では
「短いクリップ動画+要点の静止画+チェック項目」の組合せが実務的です。

■□■ 手順書における見える化 ■□■
手順書における見える化で特に効果を発揮する例をミスのタイプ別に説明します。
(1)取り違え、向き間違いに効く例
 ・部品の向き(表裏・左右)のOK/NG写真
  「刻印が見える側が上」「爪の位置が右」など、文章だけでは誤解が起きる箇所を、
  OK/NGで並べて提示。似た部品の識別点もアップ写真で示します。
 ・ラベル貼付位置のテンプレート図
  ラベルの位置ズレは多い不良要因です。製品外形図に貼付位置を寸法入りで示し、許
  容範囲(枠線)も描く。貼付後のチェック項目(剥がれ、気泡、傾き)を写真で示し
  ます。
(2)抜け(未実施)に効く例
 ・手順ステップの“完了条件”を明記したチェックリスト
  「締付ける」ではなく「トルクレンチのクリック音を確認」「締付け完了マーキング
  を付ける」など、完了判定を標準に埋め込みます。
 ・治具・工具の使い方を動画で示す
  工具の当て方、角度、力の入れ方は、文章より動画が有効。10~20秒の短いクリップ
  をQRで手順書に紐づけると現場で使われやすいです。
(3)設定・段取りミスに効く例
 ・設定画面のスクリーンショット+入力例
  設備条件やシステム入力は桁ミスが起きやすい。画面キャプチャに赤枠で入力欄を示
  し、正しい値の例、単位、NG例(0の数が違う等)を示します。
 ・段取り替えの“戻し忘れポイント”一覧
  段取り替え後に戻し忘れや設定残りが起きやすい箇所を、写真付きで「ここを必ず戻
  す」リスト化。作業者の記憶に頼らない。
(4)検査・判定ばらつきに効く例
 ・外観判定の限度見本(写真集)
  キズ、汚れ、色ムラなど、文章で規定しにくい特性を写真で基準化。OK/NG境界
  (限度見本)を作ると判定が揃います。
 ・測定姿勢・測定点のイラスト
  ノギス、マイクロ、ゲージの当て方、測定点がズレると値が変わります。測定点を図
  示し、「当てる角度」「ゼロ点確認」などをセットにします。
このように、見える化は「文章では誤解が起きる」「動きが伴う」「判断が分かれる」領域
で特に有効です。ヒューマンエラーを無くす手順書はつぎの要素と一体になって効果を発
揮します。
 ・目的(何を保証する作業か)
 ・準備(工具・治具・材料・安全)
 ・手順(写真付き、1ステップ短く)
 ・品質基準(OK/NG例、測定点)
 ・異常時対応(止める・呼ぶ・隔離)
 ・記録(何をどこに残す)
                                    以上