ISO9001キーワード「組織の知識」AI | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月29日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 567 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「組織の知識」AI ***
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いまメディアに「AI」という言葉が登場しない日はありません。アメリカ、中国の大手テ
ック企業が莫大な投資をしてAI開発を進めています。AI開発の長い歴史(1956年~)
は、第1期、第2期、第3期と脚光を浴びては静かになり、再び脚光を浴びるという流れ
を繰り返してきました。しかし、第4期ともいわれる2022年頃からの生成AIブームは静
かになるどころか、この分野はどこまで行くのか予測できない勢いで発展しています。
特に2022年のOpenAIによるChatGPTの登場は記憶に新しいところです。
今回からISO9001キーワード「組織の知識」を取り上げます。組織の知識の代表例として
AI、とりわけ「生成AI」を取り上げていこうと思います。

■□■ 組織の知識 ■□■
ISO 9001箇条7.1.6「組織の知識」は次のようなものです。
「組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合を達成するため
に必要な知識を明確にしなければならない。この知識を維持し,必要な範囲で利用できる
状態にしなければならない。
変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知
識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければな
らない。」

ここに要求されている「組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知識及び要求される
更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。」は、正
しく生成AIにピッタリ当てはまるものです。「必要な追加の知識」としてAIに関する最低
限の知識をこれからお話ししていきたいと思います。

■□■ ChatGPTの出現 ■□■
2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開すると、AIの世界にこれまで考えられなかっ
たような世界規模での反応や動きが起こりました。翌2023年になると次から次と生成AI
製品が公開されました。
 ・2023年2月 Meta Llamaを公開
 ・2023年3月 Google Bardを公開
 ・2023年3月 OpenAI GPT-4を公開
 ・2023年7月 Meta Llama 2を公開
 ・2023年12月 Google Geminiを公開

その後もMicrosoftのCopilotやAnthropicのClaudeが加わり米国勢が優勢ですが、中国
勢も猛烈な勢いで米国に追い付こうとしています。日本をはじめ欧米諸国は何をしている
のかという疑問が湧きますが、指をくわえて見ているわけではありません。このシリーズ
の後半で日本の動きもお話ししたいと思います。

■□■ ChatGPTの衝撃 ■□■
私は2024年5月頃にChatGPTを使ってみましたが、わずか数秒で回答が出てくることに
非常に驚きました。なにしろ早いのです。いろいろと質問をしてみても数秒以内に回答を
返してきます。これはいったいどのような方法で回答を作っているのか、と興味を持った
のはある意味当然のことでした。私だけでなく、ChatGPTに触れたことのある人は皆不
思議に思ったことと思います。
それまではAIが世界のチェスチャンピオンを負かしたとか、碁とか将棋の世界でもAIが
勝ったというような話題でした。その頃聞いた言葉に「機械学習」「ニューラルネットワ
ーク」「ディープラーニング(深層学習)」などがありました。
2024年から各種展示会にAI特集が組まれるようになり、昨年2025年には社会現象の一
つとして数えられるようになりました。
一方でAIの負の側面も報道されるようになりました。AIを使った偽情報、詐欺、倫理観
のないAIをどう制御するのかなど、これからの世界の大きな課題として捉えられるように
なりました。

■□■ 生成AIの作動原理 ■□■
生成AIがどういう原理で動くのかを知りたくて、2024年、2025年には東京ビッグサイ
ト、有楽町国際フォーラム、幕張のイベント会場などの展示会に参加しました。どの展示
会でも多くの企業がAI製品を展示し、説明をしていましたが、動作原理についての知識
を得ることはできませんでした。ChatGPTに聞いてみても、いろいろな新しい用語で説
明されるだけで、いまひとつ腑に落ちませんでした。
そうこうするうちに、展示会場には共通した名前のブースが3~4か所あることに気づき
ました。それは「松尾研スタートアップ○○」というものです。○○には会社名が書かれ
ているのですが、その前の松尾研というのが気になり、早速ネットで検索すると東京大学
松尾研究室の出身者が設立した企業であるということがわかりました。
ネット検索の副産物と言ってもよいかもしれませんが、松尾研では社会人向けの公開講座
を開催していました。これからのお話はその講座で得た知識をもとに難しい話を私なりに
ギューッと簡単にしてお伝えしようと思います。
私の理解不足、勘違いがあるかもしれませんが、その点についてはご容赦ください。

■□■ 生成AIは人間の脳の真似をしている ■□■
人間は何か話をしようとする時には、次にどんな言葉を選べばよいかを考えながら話を続
けています。70年に及ぶAIの歴史は、まさにこの人間の脳(ニューロン:脳神経細胞、
約860億)の動きを機械(コンピュータ)で再現しようとした研究の連続です。生成AI
は、その70年に及ぶAI研究の数ある流れの一つですが、どうやら本流となる大きな川へ
と成長していきそうです。ただ、この始まったばかりの流れが正しい方向に流れていくこ
とが重要であり、今後の研究に重大な関心が注がれています。次回は、ChatGPTのLLM
(大規模言語モデル)についてお話しします。

(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」14 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月22日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 566 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」14 ***
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ヒューマンエラー防止には、前回述べたように、「業務プロセスを核にした教育訓練と技能
認定の実践」が有効ですが、そのためには事前に現場で運用できる仕組みを構築する必要
があります。今回は、製造業とサービス業の双方で使える具体的な仕組みをお話しします。

■□■ 教育訓練と技能認定の仕組み ■□■
製造業とサービス業の双方で使える具体的な仕組みの例は次のようなものです。
1. スキルマップの作成
 ◆ 工程ごとの技能マトリクス
 マップの縦軸:工程(受入、加工、組立、検査、梱包など)
 マップの横軸:作業者
 評価軸は、未経験0、補助可1、監督下で可2、単独可3、指導可4とします。このス
 キルマップを現場に掲示したり、電子回覧板に掲載することで、現場管理者が作業者の
 配置判断に活用します。重要工程(重要特性、法的規制など)への配置は「3以上のみ」
 などの配置制約を設けます。
2.OJT記録の作成
 ◆ OJTチェックシート
以下の項目ごとにチェックする記録作成ルールを作ります。
  ・手順遵守(順序、工具、治具など)
  ・品質基準理解(OK/NG、限度見本など)
  ・重要ポイント(取り違え防止、締付け、清掃など)
  ・異常時対応(止める、呼ぶ、隔離など)
  ・記録の付け方(トレーサビリティ)
 作業ごとに各項目を評価し、合格基準に達するまで繰り返します。評価者は指導者認定を
 受けた人に限定すると信頼性が上がります。
3.実技試験による技能認定制度
 ◆ 模擬作業での実技試験
  例)締付け工程なら、規定トルクやマーキングなどの評価項目を満たしているかを確認
  します。
   検査工程なら「測定点、測定方法、記録」が正しいかを確認します。合格したら資格
   を付与し、認定番号や有効期限を設定します。そうすることで期限までは有効な仕組
   みになることが期待できます。

4. 変更・新製品立上げ時の再認定
 ◆ 変更点の教育と限定付きの認定
  新製品、材料変更、設備更新のときは、従来認定を自動的に流用せず、変更点に関する
  短い訓練と確認を行い「限定認定」を付与します。ISO9001箇条8.5.6(変更管理)と
  箇条7.2(力量管理)の要求に応えることができます。

5.指導者認定(教える人の品質保証)
 ◆ トレーナー制度
 教える人のばらつきがあると、育成品質が不安定になります。一定レベル(4=指導がで
 きる)の人を指導者として認定し、教え方(手順の分解、フィードバックの方法、評価の
 基準)も標準化します。これにより教育の属人化を減らすことができます。

6.サービス業の例
 ◆ 電話応対、契約処理の認定
 決められた応対文で応答するだけでなく、相手の本人確認、個人情報の取扱い、例外時
 の上司への報告などを訓練し、ロールプレイで実務能力を評価します。合格した人だけ
 が単独で電話応対や契約処理を行なえるようにします。

■□■ それでも防げないヒューマンエラー ■□■
教育訓練は重要ですが万能ではありません。訓練して認定しても、次のようなエラーは残
ります。
(1) 疲労、焦り、割込みによるミス
 力量があっても、過負荷や割込みが多いとミスは起きます。対策は、作業量平準化、休
 憩、段取り時間確保など、作業環境・運用側の改善が必要です。
(2) 知っているのにやらない
 教育訓練を行うことは「知識・技能」を増やすことになりますが、納期圧力や評価制度
 が歪むとルール逸脱が起きます。文化、マネジメントの領域ですが、作業を止めることを
 評価する、例外作業を可視化する、内部監査で起こりそうな逸脱を抽出する、などの対応
 が必要です。
(3) 標準、設備、材料が変わったのに教育が追いつかない
 変更が多い現場では、教育が遅れると旧知識で作業をすることになりミスが起きます。変
 更管理と教育の連動が必要で、改訂点の教育は最優先で行う仕組みが必要です。
(4) 認定の形骸化
 認定が一度取得しただけで終わりにすると、技能は劣化します。更新制度、抜き打ち観
 察、再認定が必要です。評価者のばらつきも形骸化要因なので、評価基準を統一する必要
 があります。
(5) 教育で扱えない潜在的問題
 作業者が正しくやっても、設備が不全だと不良は出ます。作業内容に応じて設備保全、校
 正、工程能力管理、ポカヨケ、ゲート化などで潜在問題を顕在化します。教育だけで品質
 は守れません。

結論として、教育訓練と技能認定は、「できる人を任命する」ための根拠づくりとして非常
に有効で、属人化を減らし、変化に強い現場を作ります。しかし、状況要因(疲労、焦り
など)により、ルール逸脱、変更の遅れ、認定の形骸化、設備不全などの潜在的な問題は
避けられません。こうした問題が常に存在し得ることを認識し、教育訓練だけに頼らず、多
面的な対策を講じることが重要です。

(ヒューマンエラー終わり)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」13 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月15日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 565 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」13 ***
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今回は、8.5.1 g)「ヒューマンエラーを防止するための処置」の重要な柱としての教育訓
練、技能認定についてお話しします。「教育を実施した」だけでは、ヒューマンエラーは
無くならないとおっしゃる方も多いのですが、力量を見える化し、任せてよい作業と任せ
てはいけない作業を線引きすることで、ヒューマンエラーを減らすことができます。

■□■ 教育訓練と技能認定 ■□■
教育訓練は、ISO9001の7.2(力量)において、「適切な教育,訓練又は経験に基づいて,
それらの人々が力量を備えていることを確実にする」ことが求められています。
8.5.1 e)でも「必要な適格性を含め力量を備えた人々を任命する」と明記されており、教育
訓練と「力量を備えた人の任命」は一体となる要求です。ここでのポイントは、単なる座
学やOJTの実施ではなく、技能認定(資格付与)とその記録によって、誰がどの作業を実
施できるかを組織として保証することにあります。
教育訓練と技能認定の組み合わせは、次の5点に整理できます。
(1)任命の根拠
  基準に基づいて力量のある人を任命したことを示す記録(証拠)を残す。
(2)属人化の抑制
  熟練者の暗黙知を標準化し他者へ移転する仕組みをつくる。
(3)作業の線引き
  認定されていない作業はできないようにする。
(4)変化に強い
  人の入れ替え、応援などの変化に対応できるようにする。
(5)継続性
  時間とともに劣化する技能を維持させていく。

■□■ 教育訓練と技能認定の区分け ■□■
当然のことですが「教育訓練」と「技能認定」は違います。教育訓練は学ぶ機会ですが、
技能認定はその結果の証明です。教育を受けても、実務ができるとは限りません。ヒュー
マンエラー対策としては、認定基準(合否)と評価方法(試験・実技評価)の厳格な適用
によって、認定されるまで単独作業を許可しないという運用が核になります。
訓練におけるOJTの役割も重要で、単に「実施しました」という記録ではなく、どの作業
要素をどのレベルで習得したかを記録に残すことが必要です。例えば「OJT実施:○月○日
」だけではなく、次の内容を含む記録が望まれます。

 ・対象作業(工程、設備、製品群)
 ・教育内容(手順、品質基準、異常時対応、安全)
 ・実施回数、立会い回数
 ・評価結果(合格、要再訓練)
 ・評価者(認定者)の署名
 ・次の課題(改善点)

「力量の見える化」は、個人の能力を序列化するためではありません。目的は、品質と安
全を守るために、適切な人を適切な作業に配置することです。見える化がないと、現場は
経験年数や雰囲気で配置を決めがちで、特に繁忙期や欠員時においては無理が出ます。
技能マトリクス(スキルマップ)を用い、工程ごとの必要能力と個人の保有レベルを可視
化し、リスクの高い工程ほど厳格に運用するのが実務におけるポイントになります。

■□■ なぜヒューマンエラーが減るのか ■□■
教育訓練は一般に「知識が増える」効果として語られますが、ヒューマンエラー対策とし
ての有効性は構造的なものです。教育訓練と技能認定がヒューマンエラー対策として機能
するためには、次の4つのメカニズムを構築する必要があります。
(1) できない人が行わない状態を作る。
エラーの多くは、未熟な作業者が単独で実施したとき、または新しい作業に急に投入され
たときに増えます。技能認定があると、「この工程は認定者のみ」「認定が取れるまで監督
下で実施」というルールが成立し、誤作業の入口が塞がれます。これはポカヨケの一種と
考えることができ、人的資源面のポカヨケ、すなわち「できない化」です。
(2) 暗黙知を移転し、ばらつきを減らす。
熟練者は、手順書に書かれていない“勘所”を知っています。教育訓練では、この勘所を言
語化・視覚化し、標準に落とし込みながら伝えます。技能認定で評価項目に組み込めば、
勘所は適切に移転され、個人差が縮まります。結果として、作業のばらつきが減り、工程
が安定することで、ヒューマンエラーも減ります。
(3) 異常対応を早くする。
多くの品質事故は「異常に気づいたが止めなかった」「迷ったがそのまま進めた」から重
大化します。教育訓練に異常時対応(止める、隔離、連絡、記録)を組み込み、技能認定
においても評価することで、異常を早期に止める行動を定着させます。これは8.5.1 g)の趣
旨に直結します。
(4) 配置の意思決定を合理化する。
繁忙期や欠員時、現場は「誰でもいいから入れる」判断をしがちです。スキルマップをベ
ースに必要力量を満たす人を客観的に選び、リスクの高い工程は認定者を優先配置するこ
とができます。結果として、突発的な配置変更によるミスを減らすことができます。
さらに、教育訓練と技能認定は、品質だけでなく安全やコンプライアンスにも波及しま
す。危険作業や法規制のある作業は、認定なしにやらせない仕組みが必須です。
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」12 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月8日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 564 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」12 ***
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前回ヒューマンエラーを減らすアプローチとして「色分け、形状分け、置き場による管理
」を説明しましたが、今回はその方法の具体的な事例を紹介します。
ヒューマンエラーのタイプに応じて色や形、置き場を工夫することがポイントです。

■□■ 色分け、形状分け、置き場による管理の事例■□■
製造、物流業務、検査業務、サービスなどの現場で行われている具体例を挙げてみます。
(1) 合格、不合格、未検査の識別(混入防止)
 ・エリアの色分け(床ライン、棚の色、箱の色)
  緑=合格、黄=保留、赤=不合格、青=未検査など、色で区分し、置ける場所を物理
  的に限定します。混在が起きた瞬間に違和感が出るため、流出防止に効果的です。
 ・現品票、タグの色分け
  同じ部品でも状態が違う(検査待ち/検査済み/特採/不適合)の場合、タグの色を
  変える。タグがないものは扱えないルールにします。
(2) 品番取り違え、ロット混在防止
 ・棚番+ロケーション固定(定位置)
  品番ごとに棚を固定し、棚札に品番、写真、バーコードを表示する。取り出し位置が
  固定されるだけで、間違えたピッキングが大きく減ります。
 ・容器形状の分離(異形容器、専用トレイ)
  似た部品を同じ箱に入れないように、形が合わないと入らないような専用トレイにす
  る(軽いポカヨケ)。ピッキングの取り違えを抑えます。
(3) 工具取り違え、戻し忘れ防止
 ・シャドーボード(工具の影絵)
  工具の形を板に描き、置く場所を固定する。欠品が一目で分かり、戻し忘れを減らし
  ます。工具紛失は異物混入リスクにも直結するため効果が大きい。
 ・用途別の色分け(トルクレンチ、ドライバなど)
  例えば、校正済みは緑シール、期限切れは赤シール。あるいは工程別に色テープを巻
  き、他工程へ持ち出すとすぐ分かるようにして、誤った工具の使用を防ぎます。
(4) 異物混入、汚染防止
 ・清掃用具の色分け(ゾーニング)
  床用、機械用、食品用など、用途を色で分け、交差汚染を防ぎます。製造だけでなく
  医療、飲食でも有効です。
 ・清掃点検の定置化(清掃箇所の見える化)
  清掃箇所を地図化し、清掃用具の置き場とセットで管理する。清掃漏れが減り、粉塵
  や異物の早期発見につながります。
(5) 作業の抜け防止(定量、補充ルール)
 ・定量表示(Min/Max、カンバン)
  箱に上限、下限ラインを引き、下限を切ったら補充する。欠品による段取り替え、代
  替品使用、焦りを減らします。間接的にヒューマンエラーを抑える代表的な例です。
 ・書類、情報の定置(トレイ運用)
  サービス業では、申請書類を「未処理」、「処理中」、「完了」、「差戻し」のトレイで定
  置管理する。書類紛失や二重処理、処理漏れを減らします。

■□■ それでも防げないヒューマンエラー ■□■
色分け、形状分け、置き場管理をしても防げないヒューマンエラーがあります。人間の本
質からくる限界を理解し、他の仕組みと組み合わせることで、よりヒューマンエラー防止
を図ることを目標にします。
(1) 戻さないという問題
 定められた場所があっても、忙しいと一時置きが発生します。一時置きが常態化すると
 混在が起き、効果が落ちます。対策は、一時置き場を公式に設ける、戻しやすいレイア
 ウトにする、戻さないと次工程へ進めないルール(ゲート)を作るなどです。
(2) 色の意味が共有されない
 色分けは、色の意味が増えすぎると混乱します。部署ごとに色が違うと、応援者は間違
 えます。色ルールの統一、掲示、教育が必要です。
(3) 形状分けできない、似たものが多すぎる
 部品形状が似ている場合、形状分けだけでは限界があります。ここはバーコード照合、
 専用容器、品番写真表示などを組み合わせます。
(4) 置き場に正しく置かない
 正しい棚に置いてあっても、中身が違う、ロットが混ざる、ということが起きます。置
 き場管理は「混在の見える化」には強いのですが、正しい内容かを別手段で確認するこ
 とが必要です(照合、ラベル、ロット管理)。
(5) 汚れや破損、環境変化による見えにくさ
 表示が剥がれる、床ラインが消える、照明が暗い、粉塵で見えないなどの状況になると、
 視覚管理は効きにくくなります。維持管理(清掃、補修、点検)が必要です。
(6) 意図的逸脱(近道行為)
 定置に戻さない方が早い、という動機で逸脱が起き得ます。ここは作業設計(戻す距離、
 動線、時間)と評価制度、マネジメントが影響します。
 
(つづく)

ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」11 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年7月1日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 563 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」11 ***
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ヒューマンエラーを減らすアプローチの一つに「色分け、形状分け、置き場管理」があり
ます。作業標準とかチェックリストのような「文書、手順書」による管理とは異なり、作
業環境そのものを工夫する方法で、ISO9001の8.5.1 d)「適切なインフラストラクチャ及
び環境を使用する」ことに沿う方法です。

■□■ 色分け、形状分け、置き場管理 ■□■
「色分け」とは、例えば「工程別」「品種別」「用途別」「合格/不合格」「校正済み/期限
切れ」などを色で区別し、視覚的に識別できるようにすることです。
「形状分け」とは、似たものを誤って選ばないように、容器、トレイ、治具、コネクタな
どを形状で区別し、物理的な取り違えを起こしにくくすることです(ポカヨケ)。
「置き場管理」とは、「何が」「どこに」「いくつ」あるべきかを決め、置き場を固定し(定
置管理)、在庫や工具の状態を即時に分かるようにすることです。

色分け、形状分け、置き場管理の特徴は次のようです。
(1) 視覚による管理:正しい状態、間違った状態が一目で分かる。
(2) 選択の削減:迷う余地を減らし、取り違えを起こしにくくする。
(3) 異常の顕在化:欠品、混在、置き間違いを見える化する。
(4) 探し物の削減:探す時間が減ることで「焦り」というミスの誘因を減らす。

これらは単体でも効きますが、共通する考えは「情報を書くのではなく現場の環境に埋め
込む」ことです。作業者が手順書を見なくても、置き場と色を見れば判断できる状態を作
っておくことです。これは、ヒューマンエラー対策として効果のある方法です。
これ等の方法は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)と同じで、しばしば精神論と見
なされがちです。しかし、正常を見える化し、標準状態を維持するための仕組みとして
「整理(不要物の排除)」は、取り違えの温床を無くす重要な要素です。不要物がなければ
選択肢が減り、取り違えは起こりにくくなります。

■□■ 色分け、形状分け、置き場管理の有効性 ■□■
色分け、形状分け、置き場管理がヒューマンエラーに効く理由は、人間の認知特性と作業
現場の現実にあります。人は、忙しいときほど、探す、選ぶ、確認する、戻すという行為
をスキップします。色分け、形状分け、置き場管理の有効性を具体的に考えてみます。
(1)「取り違え」の選択肢を減らす
部品棚に似た部品が混在している、工具箱に同じような工具が複数入っている、ラベルが
見えにくいというような状態では、取り違える可能性は高くなります。整理整頓で不要物
を排除し、定置化で置き場を固定し、色や形で区別すると間違えることが少なくなります。
(2) 異常がすぐ見える
定置管理の重要な効果は、異常が目に入ることです。工具が欠品している、在庫が減って
いる、違う箱が置かれている、合格品エリアに未検査品が混じっている――これらが一目
で分かれば、間違えは早期に止められます。バーコード照合は「機械で検出」ですが、定
置管理は「環境で検出」するという考えです。
(3) 探す時間が減ると焦りも減る
現場のヒューマンエラーは、作業者の技能よりも、時間のプレッシャーによることが多い
と言われています。探し物が多い現場は、常に焦りを生みます。定置化により探し物が減
れば、作業が落ち着き、確認行為が決められたとおりに行われやすくなります。これは見
落とされがちですが、ヒューマンエラー対策として大きい効果です。
(4) 標準化しやすい
置き場が決まっていれば、標準状態が明確になります。標準状態が明確なら、監査や巡回
で「崩れているかどうか」を誰でも判断できます。属人化が減り、維持の仕組みが回りま
す。
ただし、ヒューマンエラー対策としての有効性を最大化するには、定置管理を「決めた」
だけで終わらせず、守らことができる仕組みにすることが必要です。例えば、置き場表
示、定量表示、影絵(工具の影)、色帯、ラインマーキング、補充ルール(カンバン)など
をセットにして、元に戻す行為が自然にできるように設計します。「しつけ」は精神論では
なく、仕組みとしてやることになる構造を作ることがポイントになります。
(つづく)