ISO9001キーワード「組織の知識」AI_9 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年9月30日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 575 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「組織の知識」AI_9 ***
  AIが国際数学オリンピックで金メダルを取った
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生成AIが東京大学の医学部理科三類の入試合格点をクリアした同じ年、2025年、もう一
つ理系のAI成果のニュースがありました。海外の国際数学オリンピックにチャレンジし
たAIが金メダルを取ったというニュースです。正確には6問中5問を解いて金メダルクラ
スと同じ力量を示したということですが、AIは文系の知識だけかと思っていたら理系の力
量も高いようです。

■□■ Google DeepMindのGeminiモデル ■□■
AIが大量の文章を学習し、言葉と言葉の関係を身につけたのであれば、人間らしい文章を
作れるようになるのは分かる気がします。ところが数学しかも高等数学となると話は違う
ように思えます。
数学には正解と不正解があります。解答文章が自然だからといって、答えが正しいとは限
りません。しかも国際数学オリンピック(IMO)で出題される問題は、公式を覚えて数字
を当てはめれば解けるような問題ではありません。世界各国から選ばれたトップクラスの
高校生が、代数、幾何、整数、組合せなどの非常に難しい問題に挑みます。
そのIMOで2025年、Google DeepMindのGemini Deep Thinkの実験モデルは6問中5
問を完全に解き、42点満点中35点を獲得しました。2025年大会の金メダル基準はちょう
ど35点でしたから、金メダル水準です。答案はIMO関係者によって学生と同じ基準で採
点されたということです。
(Google DeepMind(2025)「Gemini Deep Think、IMOで金メダル水準を達成」)

■□■ AIは数学の論理にも相性が良い ■□■
言葉から生まれたAIが数学にここまで強くなったのはなぜでしょうか。現在のAIにとっ
て数学は完全な別世界ではありません。数学の問題も、「この条件から何が言えるか」、
「この式をどう変形するか」、「この定理は使えるか」、「仮定すると矛盾しないか」
というように、記号と言葉を使って論理をつないでいく作業ととらえています。つまり数
学には、非常に複雑ではありますが関係をたどるという性質があります。これはAIが得意
としてきたものとかなり相性がよいのだそうです。

もう一つ、数学にはAIを訓練するうえで大きな利点があります。正しいか間違っているか
を比較的確認しやすいことです。例えば、「この小説は感動的ですか」という質問には、唯
一の正解はありません。しかし、「この計算結果は正しいか」、「この証明に論理的な矛盾
はないか」なら、かなり明確に評価できます。
AIの学習でも、「この考え方では間違えた」、「こちらの方法なら正解した」という形で、
より良い問題の解き方を学ばせやすくなります。そして最近のAIでは、ただ一つの考え方
に飛びつくのではなく、複数の解き方を検討するそうです。Google DeepMindは2025年
のIMOについて、Gemini Deep Thinkが複数の可能な解法を並行して探索し、それらを
組み合わせる「parallel thinking」を利用したと説明しています。多段階の推論や定理証明
のデータを使った強化学習も行われたということです。
(Google DeepMind(2025)「Gemini Deep Think、IMOで金メダル水準を達成」) 

■□■ 強化学習とは何か ■□■
強化学習とは聞きなれない言葉です。人間の数学者を想像してみてください。難問を見て、
「この方法ではどうだろう」、「いや、うまくいかない」、「それなら、この条件を別の角度
から見たらどうか」と試行錯誤します。
AIも計算資源を使って複数の候補を探索し、より良い答えを探す方向へ進化してきました。
人間と同じ方法で考えているわけではありません。しかし、ここにはAIならではの強み
もあります。人間が同時に何十通りもの計算をするのは時間がかかり、場合によっては不
可能なこともあります。コンピュータなら、あまり時間を気にせず大量な計算を試すこと
ができます。
もちろん、「大量に試せば数学が解ける」というほど単純ではありません。どの方向を試せ
ばよいかを選ぶ能力も必要です。その能力自体が学習によって改善されてきたのです。
ただし、IMOで金メダル水準になったから、「AIは数学でもう間違えない」と考えるのは
早すぎます。

■□■ AIの答えは毎回同じでない? ■□■
2025年のGeminiも6問すべてを解いたわけではありません。5問を完全に解いた一方
で、1問は解けませんでした。
(Google DeepMind(2025)「Gemini Deep Think、IMOで金メダル水準を達成」)
さらに不思議なことがあります。同じ数学の問題をAIに何回か聞いてみると、一回目は正
解したのに、二回目には違う方法を使い、場合によっては間違えることさえあります。
人間なら、「さっき正解したのだから、同じ答えを出せばいいのに」と思います。
しかし生成AIは、答えを保管しておいて、そのまま取り出しているわけではありません。
AIはその仕組み上、質問を受けるたびに毎回答えを新しく作っているのです。なんと非効
率的な仕組みになっている、と考える方が多いと思いますが、AIは人間の言葉を理解しな
く、AIが理解する機械語に変換して答えを作成しているので、そのような、つまり同じ質
問なのに答えが変わるということが起きるのです。そこを知ると、「生成AI」という名前
の意味が少し分かってきます。
(つづく)

ISO9001キーワード「組織の知識」AI_8 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年9月16日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 574 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「組織の知識」AI_8 ***
     AIは東大医学部に合格できる?
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AIは膨大なデータから学習しており、その学習内容をもとにさまざまな質問に答えること
ができます。最新の知識には答えてくれないと思っていましたが、最近では、インターネ
ット検索機能を備え、昨日や今日起きた出来事についても最新情報を調べながら答えられ
るAIサービスが登場しています。ときどき間違えることがありますが、AIは概して優秀
な秘書であると言えます。

■□■ 最難関の「理科三類」の入試問題を解かせてみた ■□■
昨年2025年、生成AIに東京大学の入試問題を解かせる興味深い試みが行われました。
正確には「東大医学部の入試」に参加したわけではなく、東大医学部医学科への進学者が
多い最難関の東京大学「理科三類」の入試問題を解かせてみたということです。ChatGPT
o1とDeepSeek R1に問題を解かせ、東大入試に詳しい河合塾の講師が答案を採点したと
ころ、共通テストと二次試験を合わせて、両AIとも理科三類の合格最低点を上回る水準
に達しました。
(株式会社LifePrompt(2025)「東京大学に生成AIは合格できるのか?」)

これは驚くべきことです。少し前まで、AIというと「人間が事前に学習させた知識を繰り
出すコンピュータ」というイメージだったからです。ところが東大の入試問題は、覚えた
知識をそのまま答えるだけでは解けない内容になっています。文章を読み、何を聞かれて
いるか理解し、必要な知識を選び、いくつかの条件を組み合わせ、途中の考え方を組み立
て、最後に答案として表現しなければなりません。
なぜAIにそんなことができるのでしょうか。

■□■ 幾つかの理由がある ■□■
一つ目の理由は、これまでお話ししてきた膨大な学習量です。AIは学習の過程で、教科
書、論文、解説文、問題と解答など、さまざまな文章に含まれる関係を学びます。しか
し、それだけなら「非常に物知りなAI」が構築されるだけです。東大の難問を解くには、
もう一段階上のステップに上がる必要があります。それが推論する能力です。
例えば、
「AならばBである」
「今回はAといえる」
「ゆえにこれはBと考えられる」
というように、情報を何段階かにつなげて結論へ進む必要があります。最近のAIは、質問
を受けてすぐ答えを出すだけでなく、複雑な問題についてより多くの計算を行い、いくつ
かの可能性を検討しながら答えを作る「推論型」の仕組みが大きく進歩しています。

■□■ 人間に例えるならば ■□■
人間においても少し難しそうな問題になりますと、「問題を見てすぐ答える」というわけ
にはいきません。「ちょっと待ってください。順番に考えてみます。」というように思考す
ることになります。AIもその能力が強くなったと考えると分かりやすいと思います。
また、AIは一つの分野だけを勉強しているわけではありません。人間で言えば、文章を読
む能力、英語を扱う能力、数学の知識、物理や化学の法則など、多くの種類の知識を一つ
の大きなモデルの中に入れています。
そのため、
「問題文を読む」
↓
「何を求められているか整理する」
↓
「必要な知識を取り出す」
↓
「計算する」
↓
「文章で答える」
という作業を、かなり広い範囲でAIは行います。

■□■ AIは東大生と同じ能力を持った? ■□■
ただし、ここで知っておくことがあります。東大理科三類の入試で合格水準の点を取った
からといって、AIが東大生と同じ能力を持った、という意味にはなりません。
実際、2025年の検証では、AIは数学の途中説明を省略して失点したり、図表や図形の読
み取りに苦戦したりしました。河合塾講師による採点でも、「答えだけでなく、そこへ至
る道筋を書く」という入試特有の要求はAIの弱点として分析されています。
(株式会社LifePrompt(2025)「ChatGPT o1とDeepSeek R1に2025年度東大受験を解かせた結果と答案分析」)

ここが面白いところです。
私たちは人間を見るとき、「東大に合格できる人なら、中学校の問題は当然できるだろ
う」と考えます。しかしAIには、必ずしもこの常識が当てはまりません。非常に難しい問
題を解いた直後に、意外に簡単な問題で間違えることがあります。AIの能力は、人間の知
能をそのまま大きくしたものではないからです。

例えば自動車は、人間よりはるかに速く走りますが、階段を上ることはできません。
「自動車は人間より運動能力が高い」と単純には言えません。AIにも少し似たところがあ
ります。ある種類の知的作業では驚くほど高い能力を発揮する一方で、人間なら簡単にで
きることにつまずく場合があります。
ですから「AIは東大に合格した」というニュースから本当に注目すべきは、「AIが人間と
同じ頭脳を持ったのではなく、人間がこれまで高度な思考だと思っていた作業のかなりの
部分を、AIでも実行できるようになってきた」ことだと思います。
(つづく)

ISO9001キーワード「組織の知識」AI_7 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年9月9日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 573 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「組織の知識」AI_7 ***
     AIは聞かれるとWEBを調べる?
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前回は、AIがどのように学習するのかをお話しし、AIは大量の知識を持っているが、ユ
ーザから問われるたびに返事を作っているのだということを解説しました。そして最後に
「学習して知っていること」と「インターネットで調べること」とは違うことをお話しし
ました。

■□■ AIは聞かれるたびにWEBを調べているのか ■□■
ChatGPTなどに質問すると、数秒後には答えが返ってきます。例えば、
「富士山の高さは?」
「ISO9001とは何ですか?」
「徳川家康について教えてください」
と聞けば、すぐに説明してくれます。

これを見ると、多くの人は、「AIがインターネットをものすごい速さで検索して、答えを
まとめているのだろう」と思うかもしれません。しかし、生成AIの基本的な仕組みは、
検索エンジンとは違います。前回お話ししたように、AIはあらかじめ大量の文章などを使
って学習しています。その学習によって形成された内部の数値的な関係を使い、質問に対
する答えをその場で、都度作っています。つまり、質問されるたびに必ずインターネット
へ繋がって、答えの書いてあるページを探しているわけではありません。

「物知り自慢の人」に、「日本で一番高い山は?」と聞けば、今までの知識で「富士山で
す」と答えられます。すでに身につけている知識だからです。一方、「今日の東京の気温
は?」、「昨日の日経平均株価は?」、「今朝発表されたニュースは?」と聞かれても、物知
り自慢の人でも答えの載っていそうなところを調べなければ答えられません。
AIも、これに似たところがあります。学習によって身につけた知識については、その知識
を利用して答えることができます。しかし、学習が終わった後に起きた出来事を、自動的
にすべてを学習しているわけではありません。

■□■ AIも進化している ■□■
現在では、生成AIに検索機能や外部の情報源を調べる機能を組み合わせることができる
ようになりました。例えば「今日の天気」を聞かれたとします。AI自身が過去に学習した
知識だけでは、今日の天気、すなわち雨雲の状況は分かりません。そこで天気情報を提供
するサービスから現在のデータを取得し、その情報を使って、「今日は午後から雨になる可
能性があります」などと答えます。
つまり、現在のAIには大きく分けて二つの答え方がある、と考えると分かりやすいと思
います。一つは、すでに学習によって身につけたものを使って答える方法です。もう一つ
は、必要に応じて外部の情報を調べ、その結果を使って答える方法です。

人間でいえば、「自分の頭に入っている知識で答える」のと、「分からないので本やインタ
ーネットで調べてから答える」の二つです。
この違いを知らないと、AIを使うときに困ることがあります。例えば、「2020年のある出
来事について説明してください」という質問なら、AIが持っている知識だけでもかなり答
えられるでしょう。しかし、「現在、この法律はどうなっていますか」、「この会社の社長は
今誰ですか」、「今日、この製品はいくらですか」といった質問をする場合は、最新情報を
確認する必要があります。

■□■ AIをうまく使う方法 ■□■
AIを上手に使うことの一つに、この二つの仕組みを知っているとより便利に活用できま
す。「この質問は、昔から変わらない知識について聞いているのか。それとも、最新情報を
調べなければならない質問なのか」と考えることがポイントです。
例えば、AIに「水は何度で凍りますか」と、「今日のガソリン価格はいくらですか」と聞
くのでは、質問の性質が違うということを知っておくといいのです。

後者の質問をする時には、「最新情報を調べてください」、「出典を示してください」とAI
に頼むことが大切になります。生成AIは検索エンジンそのものではありません。しかし現
在では、AIが持っている知識と検索する能力を組み合わせることによって、以前よりはる
かに幅広い質問に対応できるようになっています。

こう考えると、AIとの付き合い方が見えてきます。AIを「何でも知っている先生」だと思
ってはいけません。むしろ、たくさんのことを学んでいて、考えを整理するのが得意で、
必要なら資料も調べられる助手くらいに考えるのがよいのではないかと思います。
ただし、この優秀な助手には不思議なところがあります。非常に難しい質問には見事に答
えるのに、ときどき驚くほど簡単なことを間違えるのです。
(つづく)

ISO9001キーワード「組織の知識」AI_6 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年9月2日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 572 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「組織の知識」AI_6 ***
      AIの大量な知識の取得方法
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AIは一体どのようにして大量の知識を身につけたのでしょうか。前回、最新生成AIモデ
ルでは国会図書館蔵書の約3倍の1.3億冊に相当する言語を学習しているとお話ししまし
た。AIが言語を処理する単位をトークンといいます。世界には歴史的に発展してきた多く
の言語がありますので、トークンを単純に説明できないのですが、「日本語」では、文字
や文字列をいくつかの単位に分けて処理しており、大体1文字が1トークン程度になる場
合もある、と考えると分かりやすいでしょう。

■□■ AIの大量な知識の獲得のしかた ■□■
AIを使っていると、「どうしてこんなことまで知っているのだろう」と驚くことがありま
す。歴史について質問すれば答えます。英文を渡せば翻訳します。ソフトウエアのプログ
ラムも書きます。料理の相談にも乗ります。人間なら、医学を学ぶだけでも何年もかかり
ます。法律も、工学も、文学ともなれば、一人の人間が一生かかっても全部を専門的に学
ぶことはほとんど不可能です。
ところがAIは、非常に幅広い分野について答えます。いったい、どうやってこれほど大量
の知識を身につけたのでしょうか。ここでまず知っておきたいのが、AI分野で説明される
「学習」です。人間が勉強するときには、本を読んで、「鎌倉幕府は……」「水の化学式は
……」などと知識を覚えていきます。
AIの学習は少し違います。例えば、「日本の首都は東京です」という文章を一枚のカード
に保存しておき、質問されたらそのカードを取り出す、という仕組みにはなっていませ
ん。大量の文章を材料にして、その中にある言葉、意味、文章構造、事実、考え方などの
関係を膨大な数値へと反映していって学習します。

■□■ AIの学習のしかた ■□■
AIは学習の過程で、文章の一部を見ながら、「この後にはどんな言葉が来るだろう」とい
う予測を何度も繰り返します。
学習時に与えられた文章に対して予測が外れれば、内部の数値をほんの少し修正します。
また予測します。また修正します。これを膨大な回数行い、学習していきます。このとき
調整される数値を、一般にパラメータと呼びます。非常に大きなAIでは、このパラメータ
が莫大な数(何千億~何兆)になっています。
一つひとつのパラメータに、「これは富士山についての知識」、「これは夏目漱石についての
知識」と名前が付いているわけではありません。大量の数値が互いに働くことで、質問に
応じた文章を作れる状態を形成していくのです。ここは、人間にはイメージしにくいとこ
ろです。例えるなら、料理人の経験に似ているところがあります。熟練した料理人に「こ
の料理がおいしい理由は何ですか」と聞いても、「私の頭の中の○○レシピを使っているか
らです」とは答えないでしょう。長年、食材を見たり、調理したり、失敗したりした経験
が、全体として料理の腕になっています。
AIについても、人間とは仕組みが違いますが、「大量の経験が全体の能力として組み込ま
れる」という点では似たイメージを持つことができます。AIを巨大な百科事典だと思うと
違います。百科事典なら、一度書いた文章を探し出せばその文章を見つけることができま
すが、AIは学習によって形づくられた内部の数値関係を使って、その場で文章をその都度
新しく作ります。そのため、「同じ質問をしたら、いつでも同じ文章が出てくる」とは限り
ません。

■□■ AIにはその後の学習もある ■□■
AIの学習にはもう一段階あります。大量の文章を参考にして予測と修正を繰り返す基本的
な能力を身につけた後に、また学習をします。特定のユーザに向けて「利用者の質問に役
立つ形で答える」、「危険な要求には対応しない」、「指示に従って文章を書く」といった個
別の学習も行われます。学校に例えるなら、大量の文章を使った最初の学習が基礎教育で、
その後の学習が社会人教育のようなものと考えると、分かりやすいかもしれません。

この学習に関して重要なことがあります。AIが大量に学習したからといって、世界中のこ
とをすべて学習しているわけではありません。知識が不完全なこともあります。知識が古
いこともあります。言葉同士の関係についても、間違って身につけている場合があります。
このようないくつかの要因によって、AIは明確でないこと、知らないこと、間違っている
ことを含んだ、それらしい答えを作ってしまうことがあります。

学習に関して、私には一つ疑問がありました。ChatGPTを使っていて「おや?」と思うこ
とがあります。先週の「金1gの値段を教えて」と聞くと、ちゃんと数日前の正確な値段を
答えてくれます。ということは、AIは毎日最新のあらゆる知識を学習しているのか?とい
う疑問です。そこで調べてみました。どうも最近のAIは、学習していない最新の知識はネ
ットから得ているようなのです。
AIは質問を受けると、学習済みの知識で答えられるのか、インターネット検索して答える
のかを選別しているというのです。「学習して知っていること」と「インターネットで調べ
たこと」は、生成AIの仕組みは同じではありません。
(つづく)

ISO9001キーワード「組織の知識」AI_5 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年8月26日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol. 571 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「組織の知識」AI_5 ***
       なぜ人間と自然に話せる
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私たちがこれまで「考える」と呼んできた仕事のかなりの部分を、AIが行えるようになっ
てきました。最近では「AIエージェント」というような呼び方が業界の中では頻繁に使わ
れています。エージェントとは「代理人」という意味です。AIエージェントとは、人間か
ら与えられた目標を達成するために、必要な作業を計画し、AIが人に代わって実行する仕
組みのことです。つまり、AIが「考える」だけでなく、「行う」こともできるようになっ
てきたということです。前回お話ししたように、人間と同じように考えているわけではな
いAIが、なぜこんなに自然に話すことができるのでしょうか。

■□■ AIは、なぜ人間とこんなに自然に話せる ■□■
AIは、なぜ人間とこんなに自然に話せるのでしょうか。初めてChatGPTを使った人が驚
くことの一つは、会話があまりにも自然なことです。「おはよう」と入力すれば、「おはよ
うございます」と返ってきます。毎日決まりきったような挨拶でもありません。時には
「おはよう」と少しくだけた返事が来ます。
「今日は仕事に行きたくないなあ」と言えば、「少し疲れているのでしょうか」と、人間
のような返事をすることもあります。
さらに、「もっと簡単に説明してください」と言えば、それなりに言い換えた返事が来ま
す。「小学生にも分かるようにしてください」と言えば、語彙を易しいものに変えた解説を
してくれます。
複雑な返事もしてくれます。例えば、「反対の立場から考えてください」などと頼むと、先
の返事とは反対の答え方をしてきたりします。

■□■ どうしてそんなことができるのか ■□■
不思議に思いませんか。どうしてそんなことができるのでしょうか。この秘密の大きな鍵
が、言葉同士の関係を大量に学習していることです。日本の国会図書館には約4,700万冊
の蔵書があると言われていますが、最新の生成AIは約13,000万冊(1.3億冊)の学習を
していると言われます。
例えば、
「春になると桜の花が……」という文章があったとします。この後には「咲きます」が来
そうです。
「冷蔵庫から冷たい……」なら、「水」「ジュース」「ビール」などが続きそうです。
人間も、ある程度は次に来る言葉を予想しながら文章を読んでいます。現在の文章生成AI
も、大ざっぱに言えば、これに似たことを非常に高度な形で行っています。
AIは学習の段階で膨大な文章に接し、「このような言葉の後には、どのような言葉が現れ
やすいか」という関係を学んでいます。ただし、「次の単語を当てているだけ」と理解する
と、少し単純化しすぎです。特に2017年にTransformerという技術が登場してから、文章
中の離れた言葉同士の関係や文脈を捉える能力が大きく発展しました。現在のAIは、一
つ前の言葉だけを見るのではなく、それまでの文章に含まれるさまざまな言葉の関係や文
脈を考慮しながら、次に現れる言葉を予測しています
例えば、
「太郎は冷蔵庫から牛乳を取り出しました。それをコップに入れて飲みました」
という文章では、「それ」が何を指しているのかを考える必要があります。「冷蔵庫」では
なく「牛乳」だと判断しなければ文章は理解できません。

■□■ Attention:注意機構 ■□■
こうしたときに大きな役割を果たしている仕組みの一つが、Attention:注意機構です。
Attentionとは、簡単に言えば、文章の中で「今の言葉を考えるとき、ほかのどの言葉に注
目すればよいか」を計算する仕組みです。
2017年に発表された「Attention Is All You Need」という論文から発展したTransformer
という仕組みが、現在の多くの生成AIの基礎になっています(本稿vol.568、569で詳し
く説明しています)。
例えば、
「昨日、私は京都で清水寺を見ました。とても美しい建物でした」とあれば、「建物」と
いう言葉と「清水寺」との関係に注目します。このような関係を一つ二つではなく、大量
の文章の中から学習します。
その結果、AIの内部では、
「医者」と「病院」
「教師」と「学校」
「雨」と「傘」
のような単純な関係だけでなく、「謝罪するときの文章」「相手に反論するときの言い方」
「難しい内容を簡単に説明するときの表現」といった複雑な関係まで扱えるようになりま
した。ここに、現在のAIの会話の自然さがあります。

■□■ 文章全体の関係性を捉える ■□■
私たちがAIに、「この説明、ちょっと難しいですね」と言うとします。人間なら、「もっと
簡単にしてほしいのだな」と察します。AIも、それまでの会話や言葉の関係から、「説明
の難易度を下げることが求められている」と判断し、それに合いそうな文章を生成します。
そのため、私たちには「こちらの気持ちを理解してくれた」ように見えるのです。
しかし、ここでは注意が必要です。
自然に話せることと、人間と同じように理解していることは同じではありません。
非常に自然な日本語で、間違ったことを説明する場合があります(ハルシネーション)。
人間は「こんなに自信たっぷりに説明するのだから正しいだろう」と思いがちですが、文
章の上手さと内容の正確さは別の問題なのです。
では、そもそもAIはどうやって、医学、歴史、法律、文学、プログラミングなど、これほ
ど幅広いことについて話せるようになったのでしょうか。それには、AIが行う「事前学習」
を知る必要があります。

(つづく)