ISO9001キーワード 文書化した情報2 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年12月24日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.539 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 2 ***
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前回からISO9001:2015のキーワードとして「文書化した情報」を取り上げています。
ISO9001:2015年版に登場した「文書化した情報」とは何でしょうか。改めて日本語とし
てちょっと聞きなれない「文書化した情報」とは何かをお話ししてみたいと思います。

■■ 英語ではDocumented Information ■■
英語では “Documented Information”と言っていますが、JISでは「文書化した情報」と
素直に訳しています。ここでJISとは何かについて簡単に説明いたします。今更という方は
読み飛ばしてください。
JIS( Japanese Industrial Standard)は日本産業規格と呼ばれ日本の諸産業の標準化を担って
いる文書で「日本産業標準化法」という法律に基づいて経済産業省から発行され、今までに
約12,000規格くらい発行されています。日本産業標準化法の目的は第一条に次のように謳
われています。
(法律の目的)
第一条 この法律は、適正かつ合理的な産業標準の制定及び普及により産業標準化を促進す
 ること並びに国際標準の制定への協力により国際標準化を促進することによつて、鉱工業
 品等の品質の改善、生産能率の増進その他生産等の合理化、取引の単純公正化及び使用又
 は消費の合理化を図り、あわせて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。

文中に「国際標準」という言葉が出てきますが、これがISO(International Organization
for Standardization)です。ISOは1926年にジュネーブに民間組織(NGO)として設立された
国際組織で、これまでに約22,000件くらいの規格を発行してきていますが、多くのISO規
格がJIS規格になっています。JISにするためには英語を日本語に翻訳しなければなりません
が、ISO9001規格はJISQ9001という規格に翻訳されています。

■□■ 文書化した情報 ■□■
Documented Informationという英語は、私の知る限りISOで使い始めた用語で「組織が
管理し、維持するよう要求されている情報及びそれが含まれている媒体」と定義されていま
す。そして;
(1)文書化した情報は、あらゆる形式及び媒体の形をとることができ、あらゆる情報源か
  ら得ることができる。
(2)文書化した情報には、次に示すものがあり得る。
  ・関連するプロセスを含むマネジメントシステム
  ・組織の運用のために作成された情報(文書類)
  ・達成された結果の証拠(記録)
(3)情報とは意味あるデータである。
(4)媒体としては紙、磁気、電子式若しくは光学式コンピュータディスク、写真、マスター
  サンプルなどがありえる。
などということがISO9000:2015に説明されています。

■□■ 文書化した情報の最新化 ■□■
文書化した情報を最新化して維持する方法については前号で述べましたが、文書の内容の吟
味も重要です。特に近い将来AIエージェントに教師データとして供することを考えると今か
ら確実に行うことが大切であると思います。
文書最新化の際に必ず行うべき中身の充実については次のようなことがあります。
 ・実際の運用手順と一致しているか。
 ・最新の顧客要求/法令/設備/システムなどと整合しているか。
 ・誤解を招く表現や陳腐化した記載がないか。
 ・関係する文書との整合性を確認し、関連部門からレビューを受けているか。
文書管理マニュアルの別紙として1枚程度の「レビューガイドライン」を作成しておくこと
をお勧めします。

このような最新化の仕事はどうしても後送りされる仕事になりがちですが、「小さな修正」か
ら始めて最新化仕事のハードルを下げることも工夫の一つでしょう。例えば、文書の全てを見
直すのではなく、「表記の統一」とか「法律/制度名称の更新」とか「部門名・担当名の修正」
などを行うことが文書見直への認識を高めます。
さらにせっかく最新化しても承認ルートが複雑で時間がかかりすぎると現場が疲弊します。
電子承認フローを導入すれば、印鑑待ち/メール遅延などの「紙の壁」も解消されると思います。

ISO9001キーワード 文書化した情報 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年12月17日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.538 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 ***
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ISO9001:2015の箇条7.5.2には、「文書化した情報の作成および更新」に関して以下の3
点が規定されています。
a) 適切な識別及び記述(例えば、タイトル、日付、作成者、参照番号)
b) 適切な形式及び媒体(例えば、言語、ソフトウェアの版、図表、紙、電子媒体)
c) 適切性及び妥当性に関する、適切なレビュー及び承認

■■ a)とb)は比較的運用しやすい ■■
この3つの規定のうちa)とb)については比較的取り組みやすい項目です。しかしc)の文書
の適切なレビュー及び承認は、滞っている組織が圧倒的に多いように思います。
更新されていない手順書、古い版のまま棚に眠るマニュアル、実態と乖離した規定類など、
こうした形骸化文書は、QMSの根幹である「実行可能なルール」そのものを損なう存在に
なります。
新しい文書はそれなりに作りますが、作った文書を見直すことはどうも苦手な組織が多い
ようです。これはVol.537までお話ししてきた「維持する」ことが苦手であるということ
と繋がります。新しい文書は何らかの理由から「待ったなしの目の前にある課題」で実施
しないと組織が困るのでしょう。しかし、すでに作った文書を見直して最近化することは
直ちに困ることにならないということが見直しが進まない理由であると思います。
困ることがないならば形骸化文書はそのままで良いとのご意見もあるかもしれませんが、
AIエージェントの時代には困ること必至です。

■□■ 文書の最新化が進まない組織の共通点 ■□■
AIが人間に変わって仕事をする時代がすぐ目の前にあります。定型化した仕事はAIの方
が効率良くこなします。複雑な仕事、変化する仕事、相手の心を忖度しなければならない
仕事などは人間が行う仕事として集約されていきます。

なぜ、文書の見直しはされないのでしょうか。いくつか思い当たる要因を掲げてみます。
きちんと見直しされている組織もあると思いますが、私が経験した要因は次のようなもの
です。
(1)「誰が見直すか」が曖昧
 → 作成者や部署長が“なんとなく”担当とされており明確な役割分担がない。
(2)レビューの基準が不明瞭
 → 何をもって「見直すべきか」の判断が人によって異なる。
(3)“期限管理”がない
 → 見直し時期が設定されておらず、「必要になったら見直す」が常態化。
(4) 運用と乖離していて見直し自体が困難
 → 現場のやり方と文書がズレすぎて手がつけられなくなっている。
(5)更新に至るプロセスが煩雑
 → 変更申請→レビュー→承認→再配布の流れが重たく手を出しにくい。
これらの状況が積み重なることで、「古いけどそのまま使うしかない」文書が量産されてい
るのだと思います。

■□■ 最新化を維持するポイント ■□■
ではどうすればよいかということになります。「維持する」シリーズでも述べましたが、や
らなければ困る状態を作ることに尽きると思います。それは、すべての文書に「見直し責
任者」と「見直し周期」を明記することが一つの案です。
 ・責任者は必ず個人名で設定(例:部門責任者、文書作成者本人など)
 ・見直し周期は「最大○年」と上限を決めておく(例:2年以内に一度は確認)
例:手順書のフッターに以下を記載
【見直し責任者:○○部長 最終レビュー日:2025年12月 次回レビュー期限:2027 
年12月】

更に、最新化をイベント化することも考えられます。単に「2年に1度見直しよう」では
確実に行われませので、「定期レビュー」により強制力をつけることが考えられます。
実務での方法の例:
 ・年度初め/上期末などに「文書レビュー月間」を設定
 ・総務または管理責任者がチェックリストを配布/督促
 ・未実施者にはリマインド通知+次回マネジメントレビューで報告
部門ミーティングで「この手順は今も現場で使えてる?」という雑談から始めてもいいと
思います。まずは最新化することに気持ちを傾くことが第一歩です。

ISO9001キーワード  品質マネジメントシステムの「維持する8 最終回」 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年12月10日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.537 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:8 最終回 ***
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今まではマネージャーの立場から自部署組織の部下に「維持する」ことを徹底させる方法
について述べてきました。最終回はマネージャーの方々自身が「維持する」ことを継続す
る方法について述べたいと思います。この方法は部下を指導する場合においても参考にな
ると思います。

■■ 自己強化:本人の内側から生まれる力 ■■
維持継続には外的な指示や評価だけでなく、「本人の内側から生まれる力=内発的動機づ
け」が不可欠です。その中核となるのが自己強化と自己弱化です。
自己強化とは「よし、できた!」と自身を鼓舞する気持ちが行動を維持する力として働く
メカニズムです。自己強化は、ある行動の直後に、他人ではなく「自分自身が快感や満足
を感じること」によって、その行動が継続する心理的構造です。

これは、たとえば以下のような瞬間に起こります。
 ・整理整頓を終えて「気持ちがスッキリした」と感じる。
 ・クレーム対応がうまくいって「達成感」を得る。
 ・難しい報告書をまとめて「やればできる」と思える。
 ・自分で自分に「よく頑張った」と声をかける。
この「内側から湧き上がる満足感」があるからこそ、他人の評価がなくても人は行動を続
けられるのです。
今までの例に加えて次のようなこともあります。
 ・改善提案が採用されなくても、「考えをまとめられた」と自分を評価できる。
 ・手順を守って作業したあと、「ミスなく終わった」と自分を誉めることができる。
 ・文書管理を丁寧に行い、「整っている環境」に満足できる。
こうした自己強化の感覚が職場全体に根付くことで、他者からの指示や報酬がなくても、
自律的な行動が続く組織になります。

■□■ 自己弱化:もうやってもムダだ ■□■
一方、自己弱化とは、行動の直後に本人が“不快/落胆/失望”を感じることで、行動が減少
または消去されてしまう心理現象です。
特に注意したいのは、「努力したのに報われない経験」が繰り返されることで、次第にや
る気そのものが消えてしまうことです。これはいわゆる「学習性無力感」にもつながりま
す。
具体的にはこんな場面です。
 ・提案を出したがまったく反応がない →「意味がない」と思ってやめる。
 ・品質記録を丁寧に書いたのに見てもらえない →「どうせ誰も見てない」
 ・不具合を報告したら逆に責められた →「もう黙っておこう」
このように、行動の直後に自分自身が「嫌な気持ち/むなしさ」を感じると、本人の中で行
動を止める力が働くのです。

■□■ 自己強化と自己弱化は「設計」できる ■□■
私たちは往々にして、行動を他人から褒められたり叱られたりすることで行動をコントロ
ールします。しかし、行動心理学的には本人内面にある「評価システム」が継続を決定づ
けているようです。この評価システムをISO維持のために活用しようとすると、「自己強
化を促し自己弱化を防ぐ仕組み」を設計することが必要になります。
(1)自己強化を促す実務的アプローチ
 a. 小さな成功を実感させる。
  目標を「完璧」ではなく「できた部分」に焦点を当てる。(例)「毎日報告書を書く」
  →「まず3日間続けることを目指す」
 b. 内発的動機付けをする。
 (例)「この書類、整理されていて気持ちがいいね」と伝えることで、気持ちよさを意
  識させる。
 c. 振り返りで達成感を言語化する。
  週次の振り返りで「できたこと」を自分で書き出す。(例)「何が嬉しかった?何に満
  足した?」と問う場を設ける。

(2)自己弱化を防ぐ実務的アプローチ
 a. 努力の可視化と評価
  成果が出なくても、「そこまでの努力」を上司が認知する。(例)「提案の中身はすぐ
  には実現できないけど、ここまで考えたことは素晴らしいね。」
 b. 過度な期待を避ける段階設計
  最初から高すぎる目標を与えない(“できない”が続くと自己弱化)(例)難しい業務は
  ステップを分けて評価する(Vol.535のシェイピング参照)。
 c. 結果以外の視点を与える
  「失敗したけど、ここは工夫してたね」「ここで躓いた理由は何だろう?」と成長の視
  点を提供する。

■□■ 行動を維持する力は「自分の中」にある ■□■
ISO9001が求める維持は、形だけの継続ではなく、人が主体的に動き続けられる状態をつ
くることです。
そのためには、
 ・自分の行動に意味を見い出せる。
 ・自分の努力に誇りを持てる。
 ・自分自身がやってよかったと思える。
こうした“自己強化”の連鎖をつくる職場環境こそが、QMSを息づかせ、長く続けていく鍵
になります。
「維持」は誰かにやらされるものではありません。「自分で続けられるようにする」ことが
本当のマネジメントです。

ISO9001キーワード  品質マネジメントシステムの「維持する7」 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年12月3日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.536 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:維持する7 ***
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「組織は、この規格の要求事項に従って、必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む品質
マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ継続的に改善しなければならない。」
これは繰り返し述べてきたISO9001:2015の箇条4.4.1の冒頭の記述です。

■■ ABC分析という行動心理学の枠組み ■■
「確立」や「実施」は目に見える行動・作業ですが、「維持」は、人の行動が日常的に繰り
返される状態を示しますので、その気になって観察しないと目に見えません。
この「行動の定着」を支える仕組みとして、ABC分析という行動心理学の枠組みを調べまし
たのでご紹介します。
ABC分析とは、人間の行動を以下の3要素で捉える分析手法です。

項目 内容 説明
A(Antecedent) 先行条件 行動の直前にあった状況・きっかけ
B(Behavior) 行動 実際に取った行動
C(Consequence) 結果 行動の直後に起きた出来事・反応

行動心理学ではこの3つの関係性を観察することで、人がなぜその行動を取ったのか、今後
も取るかどうかを分析できると主張しています。
例として次のようなものが載っています。

A(先行条件) B(行動) C(結果)
上司から「報告は10時まで」と指示される 朝9:30に報告書を提出する 上司から「ありがとう」と言われる
同じ指示 報告書を10:30に提出する 無反応または軽く注意される

このように、行動の直前と直後に何があるかによって、人の行動は強化されたり消去された
りします。

■□■ 「維持」は“行動の結果の設計”で実現する ■□■
ISO9001の運用現場では、手順通りに行わない、記録が残らない、改善提案が出てこないと
いった課題がよく聞かれます。
これらはすべて、「望ましい行動が結果によって強化されていない」ことが原因です。
 ・改善提案を出しても何も反応がない → 出さなくなる(行動の“消去”)
 ・報告書が雑でも通ってしまう → 丁寧な報告が減る(良い行動が強化されない)
 ・会議で意見を言うと軽く流される → 発言しなくなる(無力感が定着)
これを防ぐためには、次の3点に着目して行動を「維持」する仕組みを作る必要があります。
(1) 先行条件を整える(A)
 → 行動が起こりやすいように、ルール/習慣/場づくりを設ける。
 ・例:日報提出を“朝礼で共有”に組み込む。
 ・例:改善記録フォームを作業台のすぐ横に置く。
(2)行動を明確にする(B)
 → 何をすればいいか、誰でも理解できるように明文化/見える化する。
 ・例:記録の記入例を掲示する
 ・例:5Sルールを写真付きで提示する
(3)結果(C)をデザインする
 → 望ましい行動の直後に「強化」が返ってくるように構築する。
 ・例:報告が丁寧だったらその場で感謝を伝える。
 ・例:月初に改善提案の採用結果を全員に伝える。
 ・例:手順通りできたら、その都度進捗を記録し評価に反映させる。

■□■ ABC分析の視点は「組織の維持力」を育てる ■□■
人の行動は、先行条件によって始まり、結果によって続くかどうかが決まります。ISOの仕
組みを維持したいなら、毎日の行動の“前”と“後”をどう作るかが重要です。
ISO9001における“維持”とは、「継続してよい行動が選択される組織文化を育てること」で
あり、その文化はABC分析に基づいた行動の結果を構築することによって形成されます。
QMSの文書やルールを整えた後にこそ、
 ・どの行動が
 ・どんな場面で
 ・どんな結果をもたらすか
を徹底的に分析し、「人が自然と動く組織」を目指そうではありませんか。

ISO9001キーワード  品質マネジメントシステムの「維持する6」 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年11月26日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.535 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:維持する6 ***
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ISO9001:2015における「維持しなければならない」という言葉は、非常に重みがあります。
「一度やれば終わり」ではなく、「やり続ける仕組みを持て」という規定です。規定のよう
にしたいと仕組みを考えますが、人は続けることが苦手です。始めたはいいが、数ヶ月後
には元通りになっている、これが多くの職場に見られる現象です。

■■ シェイピング法 ■■
ISO9001の“維持する”について「行動を続けさせる技術」のひとつであるシェイピング法に
ついて調べてみました。
シェイピング(shaping)とは、「目標行動に至るまでの段階的なスモールステップを設定し、
それぞれの時点で強化(ほめる・認める)を行う方法」です。この方法のポイントは「でき
ていないところだけを強化する」ことです。すでにできている行動をほめ続けても、新たな
成長は生まれません。
人が新しい行動に挑戦したとき、そのタイミングを逃がさずに「素晴らしい」と強化するこ
とで、次の段階へ進もうという意欲が高まります。

■□■ シェイピング法の応用 ■□■
職場へのシェイピング法の応用について説明します。最初は「文書の最新化」についての例
です。文書の最新化の業務を3つのステップに分けます。
 【ステップ1】文書を読んで理解する。
 【ステップ2】現状を調べ文書との間にギャップが無いかチェックする。
 【ステップ3】文書を改訂する。
この3つのステップの過程をフォローしステップ終了ごとに声を掛ける(行動を強化する)。
2番目の例を「新人教育」で説明します。
 【ステップ1】マニュアルの1章を読む。
 【ステップ2】実際に手順通りやってみる。
 【ステップ3】応用できるようになる。
この3つのステップの過程をフォローしステップ終了ごとに声を掛ける(行動を強化する)。
3番目の例を「改善提案制度」で説明したいと思います。
 【ステップ1】内容にいかんにかかわらず改善提案を出す。
 【ステップ2】具体的に実施する。
 【ステップ3】効果を確認する。
この3つのステップの過程をフォローしステップ終了ごとに声を掛ける(行動を強化する)。
このように、「次に何をすれば褒められるか」を明確にすることで、人は段階的に目標に近
づく行動を行い、仕組みは維持されるようになっていきます。

■□■フォワードとバックワード ■□■
上記シェイピング法では、ステップ1からだんだん行動を強化する(注目する、ほめる)
ことを説明しました。このようなステップ1から行動を順次強化する方法をフォワードシェ
イピングと呼びます。
この方法はステップが比較的短い場合に有効ですが、長い場合はフォローする方も大変です
し、実施する方も長いステップの途中で力が削がれてしまうケースも出てくるでしょう。そ
のような場合には、後ろの行動(結果の行動)から順次前に遡って行動を強化する(注目す
る、ほめる)方法が考えられます。後ろの行動からといっても現実は前の行動から進みます
から、現実と仮想との組み合わせを考えることになります。
【ステップ1】で最初の行動が終った時、最初の行動を強化すると同時に仮想的行動(達成
したと仮定した行動)を組合せで誉めます。【ステップ2】では、2番目の行動(現実)と後
ろから2番目の行動(仮想)を組み合わせて強化します。このような方法をバックワードシ
ェイピングと呼びます。
ISOの仕組みを維持するには、プロセスそのものを“行動の連続”として観察し、分割し、強
化することが必要です。

■□■ 維持するポイント ■□■
行動はスモールステップの一連の流れと考えます。ISO9001で規定されている「維持する」
は、「行動を定着する」と言い換えられます。
行動の定着をどう支えるかは、現場マネジメントに委ねられています。一気に完璧を求めず、
行動をステップに細かく分けて強化することがポイントです。
これが、行動心理学の知恵を活かした「維持する仕組みの作り方」です。