ISO9001キーワード  認識 12 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年10月16日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.529 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識12(最終回)~組織文化への定着 ***
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これまで、「認識とは何か」「どのように人の行動を生み出し、変え、定着させるか」を
行動心理学の知見を軸にお話ししてきました。
今回は総まとめとして、望ましい行動を習慣化させ、組織文化として定着させるプロセ
スに焦点を当てたいと思います。

■■ 行動が「習慣」になる3つのステップ ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」では、「組織は,組織の管理下で働く人々が,次の事項に関
して認識をもつことを確実にしなければならない。」ことが求められていますが、それが
一時的な行動で終わるのではなく、行動パターンとして根づいて組織の文化になることが
理想です。
では、どのようにして行動は習慣となり、文化へと変わっていくのでしょうか。
(1)意識段階:きっかけと成功体験を与える
 新しい行動は、意識しなければ生まれません。最初は強化(報酬・称賛)や指示によっ
 て行動を起こすきっかけをつくります。
 ・例:「5S活動を始める」「改善提案を出す」「是正処置を共有する」
  ここで重要なのは、「行動したことで何か良いことが起こった」という成功体験をす
  ぐに与えることです。
(2)反復段階:環境と仕組みで繰り返させる
 人間の行動は、繰り返しによって自動化すなわち習慣化されます。このとき必要なのは、
 継続しやすい環境を作ることです。
 ・例:日程表にリマインドスペースを作る。
 ・例:毎朝5分だけ整理整頓の時間を設ける。
 ・例:改善提案を週1回提出するルールをつくる。
(3)自動化段階:自分からやる、人に広げる(一番難しい)
 ある行動が当たり前になると、それは「習慣」になります。やがてそれが個人の枠を超
 えて、周囲の人に影響を与え始めると、それは「文化」になります。
 ・例:誰に言われなくても声かけ、確認をしている。
 ・例:ミスの共有が自己保身ではなく、チームのためという空気になっている。
 ・例:新人が先輩に「これって改善したほうがよくないですか?」と自然に聞ける。
 行動→習慣→文化というステップで、「認識を組織に根づかせていくこと」を目的に全員
 で意識して継続的に声掛けをします。

■■ 行動を習慣化する4つのポイント ■■
(1)トリガー(きっかけ)を明確にする
 「○○のときは□□をする」というように、行動を始める合図(きっかけ)を明確にし
 ます。
 ・例:「朝礼のあとに前日のヒヤリハットを共有する」
 ・例:「業務終了5分前に机を片付ける」
(2)行動を“簡単”にする
 難しい行動は続きません。「最初の一歩」をできる限り小さくすることがコツです。
 ・例:「一言でもいいから改善提案を書く」「机の上の一枚だけでも整理する」
(3)行動の“意味”を伝え続ける
 ISOの意義や品質方針との関係など、「なぜこの行動が重要か」を定期的に伝え直すこと
 が不可欠です。意味がわからないと習慣は形骸化します。
(4)定期的に振り返る仕組みを入れる
 習慣を定着させるには、「どれだけ続いているか」を可視化したり、評価したりする機会
 が必要です。
 ・例:毎月の5S点検、改善提案の提出数ランキング、習慣化チェックリスト

■■ 組織文化への定着のためには ■■
行動の習慣化が進むと、組織の空気そのものが変わってきます。これが「組織文化」です。
組織文化は、以下のような点に現れます:
(1)見えないルール(暗黙知)が共有される
 ・例:新人でも自然に挨拶・報告ができる。
(2)行動を起こした人が自然に評価される
 ・例:小さな気づきも「いいね」と言える雰囲気がある。
(3)守られないと違和感がある
 ・例:あれ、最近5Sできてないね」と社員同士が声をかけ合う。

「認識」が組織文化にまで定着することに向けて組織全体に働きかけていきましょう。
行動は放っておいても育ちません。しかし、「行動を始めるきっかけ」「継続する仕組み」
「振り返る場」を意図的に設計することで、行動は習慣となり、やがて組織文化として
根づいていくことが期待できます。
ISO9001の箇条7.3「認識」は、方針暗記、マニュアル理解ではありません。それは、
「品質を守る行動が“当たり前”になる組織をつくること」です。そのために、私たちが組
織においてできることは以下の3つだと思います。
(1)きっかけをつくる(行動を促す)
(2)続けやすくする(環境を整える)
(3)定期的に意味を再確認する(価値づけをする)
この12回にわたる『つなげるツボ』では、行動心理学をベースに「認識」がどのように
人と組織を変えていくかを考えてきました。これらが職場での改善や教育、マネジメント
にお役立ていただければ幸いです。

ISO9001キーワード  認識 11 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年10月8日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.528 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識11 ~自己強化/弱化で変わる行動 ***
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これまで、行動心理学に基づいて「行動を増やす(強化)」「やめさせる(弱化・消去)」
「行動を形成する(シェイピング)」など、さまざまなお話をしてきました。これらは
主に外部からの働きかけによって人の行動を変えていくものでした。

■■ 自分自身が、自分の行動を強化する仕組み ■■
今回は視点を変えて、人が自らの内面から、自分の行動を強化したり弱化させたりする
「自己強化・自己弱化」というテーマを取り上げます。
ISO9001の箇条7.3「認識」では、社員一人ひとりが「自分の業務の重要性」や「品質
マネジメント方針」との関係性を理解することが求められますが、理解した上で、自分
で行動し続ける力こそが、認識の定着において欠かせない要素です。
この「自分で行動を継続する力」の正体が、「自己強化」です。
「強化」とは、ある行動の直後に“良いこと”があることで、その行動が再び起こりやす
くなることです。
通常、強化の“良いこと”は、他者の評価や報酬によって与えられるケースが多くありま
す。たとえば:
 ・ 上司に褒められる
 ・ 給料が上がる
 ・ 表彰される
これらは「外発的強化」と呼ばれるもので、組織マネジメントでは重要な手段です。
一方、「自己強化」はその逆で、行動の直後に“自分の内側”で何らかの快を感じることで、
行動を継続するメカニズムです。
たとえば:
 ・ 「あ、今日は予定どおりできた!」という達成感
 ・ 「これが終わったらお茶を飲もう」と自分で報酬を決める
 ・ 小さな目標をクリアしたときに自分に「よくやった!」と言う
 ・ 丁寧に仕上げた報告書を見て「いい仕事をした」と感じる
これらは他人に認められなくても、「自分で自分の行動を評価・強化している」という点
で、極めて安定的かつ持続可能な動機づけとなります。

■■ 自分自身が自分の行動を止めてしまう仕組み ■■
「自己弱化」は、行動の後に自分の内面で不快が生じることにより、その行動をしなくな
るという現象です。たとえば:
 ・ 努力したが、目標に届かなかった → 自信をなくす
 ・ 失敗して自分を責める → 行動を避けるようになる
 ・ 達成できない目標に挑み続けて疲弊 → あきらめ癖がつく
このような経験が繰り返されると、人は「やっても無駄だ」「自分には無理だ」と感じるよ
うになり、行動そのものを避けるようになります。
この自己弱化は、努力する力、挑戦する意欲、学習の意欲などに深刻な影響を与えます。
とくに注意すべきなのは、高齢者の体力維持やリハビリ、あるいはベテラン社員のモチベ
ーション維持などの場面です。年齢とともに達成が困難になる目標をそのまま掲げてしま
うと、繰り返し失敗 → 自己弱化 → 行動停止という悪循環に陥ってしまいます。

■■ 「自己強化を促す設計」が重要 ■■
組織での行動定着や「認識を伴った行動」を持続させるにはどうすればいいのでしょうか。
それは、外部からの強化と合わせて、自己強化のスキルを引き出す支援を行うことです。
ポイントは以下の通りです:
(1)達成可能な目標を設定する(成功体験をつくる)
  ・ 難しすぎる目標は、失敗体験=自己弱化につながる
  ・ 小さな達成を積み重ねることで、「できる自分」を自覚できる
(2)達成の瞬間に“気づかせる”
  ・ 部下が行動できたときに、「今、自分で気づいた?できたよね?」と声をかける
  ・ 「この瞬間を自分で褒めていいんだ」と認識させる
(3)自分への報酬を設計させる
  ・ 仕事を終えたらカフェに行く、音楽を聴く、など自己報酬を決めておく
  ・ 「ご褒美を用意しておく」こと自体が、行動を起こすきっかけになる
(4) 自己評価スキルを育てる
  ・ 1日を振り返って「今日は何ができたか?」を習慣化
  ・ 自分の良い行動を言語化できるようにする(例:日報や日記)
これらの支援を通じて、“認識を伴う行動”が、自己強化によって自然と続くようになります。

■■ 認識は自分で強化する ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、マネジメント層が部下に知識を教えるだけでは不十分です。
本当の意味での認識とは、理解された内容が行動となり、その行動が本人の内面で強化され
ていく状態です。最終的に人は自分で自分を動かすようになります。それが、「認識が根づ
いた人材が育った」状態です。組織の全員で考え、行動をしましょう。
 ・ 成功体験を設計する。
 ・ 行動した瞬間を見逃さず強化する。
 ・ 自己強化を促す言葉や関わりを持つ。

ISO9001キーワード  認識 10 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年10月1日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.527 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識10 ~組織風土の正体 ***
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「なぜこの会社では誰も新しいことに挑戦しないのか」、「なぜ改善提案を出す人がい
るのか」。このような組織の行動パターン、すなわち組織風土とも言える現象は、偶
然に生まれているのではありません。

■■ ABC分析とは何 ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」では、方針や業務の重要性を理解してもらうことが求め
られていますが、本当に大切なのは「理解されたことが、望ましい行動として現れて
いるか」です。その点で、ABC分析は実践的なツールです。
ABC分析とは、行動がどうして起こり、どう定着するかを次の3つの要素で説明する
ものです。

項目 英語 内容
A(先行条件) Antecedent 行動の前に起こる出来事や状況(きっかけ)
B(行動) Behavior 実際に人が取った行動
C(結果) Consequence 行動の後に起こる出来事(報酬や罰など)

この3つの要素を理解することで、「なぜその行動が生まれ、続いているのか、また
は消えたのか」を明らかにすることができます。

■■ 事例で理解するABC分析 ■■
以下のようなシンプルな事例で考えてみます。
(1) 前例がない仕事で新しい方法を使ってみた
 ・A(先行条件):過去にやったことのない仕事
 ・B(行動):独自のやり方で取り組んでみる
 ・C(結果):上司に「よく工夫したね」と褒められる → 行動が強化される
(2) 前例がある仕事で新しい方法を使ってみた
 ・A:過去にもやったことがある仕事
 ・B:独自のやり方で進める
 ・C:上司に「なんで勝手なことをするんだ」と叱られる
    → 行動が弱化・消去される
この2つを比較すると、「どんな状況(A)で、どんな行動(B)をとったとき、どん
な結果(C)が返ってきたか」によって、社員の学習が変わることがわかります。
前者では、新しいことに挑戦すると褒められるため、その後も社員は創意工夫を続け
るようになります。
後者では、慣例を変えると否定されるため、「何も変えない方が安全だ」と学習され
てしまいます。

■■ ABCの蓄積が組織風土になる ■■
このように、組織内で日々起きている無数のA-B-Cのサイクルの蓄積が、組織風土を
つくり出していきます。
 ・挨拶をする→反応されない→挨拶がなくなる
 ・報告をする→面倒くさがられる→報告が減る
 ・改善提案を出す→採用される→提案が活発になる
 ・成果を出す→誰も気づかない→モチベーションが下がる
つまり、人の行動は組織内のフィードバック環境(=C)によって形成されるのです。
そのため、「行動が変わらない」「認識が浅い」と感じたときに、部下や社員を責める
前に、「どんな先行条件や結果が存在しているか?」というABCの視点で見直すこと
が必要になります。

■■ ABCの視点から職場を見直す ■■
では、どうすれば職場で望ましい行動が定着し、「行動によって認識が深まる」ように
できるのでしょうか?
ポイントは以下の3つです。
(1) 先行条件(A)を整える
 ・明確なルールや役割の提示
 ・成果を出すための環境(時間・道具・協力体制)の整備
 ・行動を起こす動機づけとなる「ビジョン」「目標」の共有
(2) 行動(B)を具体的に観察・記録する
 ・「努力している」「頑張っている」ではなく、「どんな行動が取られているか」
   を明確にする。
 ・小さな行動(例:報告、声かけ、整理整頓)を記録・可視化する。
(3) 結果(C)で強化を与える
 ・目標に近づいたら即時にフィードバックを与える。
 ・成果だけでなく「プロセス」にも報酬を与える(行動に反応する)。
 ・認められないまま放置しない(無反応は消去につながる)。
これらを意識的に回していくことで、「よい行動」が増え、自然と「認識のある組織」
へと育っていきます。

■■ 認識は行動として育てるもの ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、単に社員が方針を知っているという表層的な理解で
は不十分です。ABC分析の視点から組織を見直すことで、「なぜこの行動が起きたの
か?」、「なぜこの行動が起きないのか?」が明確になり、改善の手が打ちやすくなり
ます。

ISO9001キーワード  認識 9 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年9月24日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.526 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識9 ~改善行動を根づかせ方法 ***
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前回まで、行動を「強化」して増やす方法、「弱化」や「消去」によって止めさせる
方法を紹介してきました。
今回はまだできていない新しい行動、改善行動を、どうやってできるように育てて
いくかについて考えてみたいと思います。

■■ 新しい行動を導く3つのアプローチ ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、社員が「自分の業務の重要性」や「方針との関係性」
を理解し、それを自発的な行動に結びつけることを期待しています。しかし、「理解し
たから行動できる」というわけではありません。新しい行動は段階的に、丁寧に教え、
成功体験と結びつけて強化していくことが必要です。
(1) 言葉による指示
もっとも一般的な方法です。上司や先輩が「これをこうしてください」と口頭やマニ
ュアルで指示する形です。
 ・例:新人に「日報には○○を必ず記入してください」と伝える
 ・流れ:指示 → 行動 → 強化(ほめる)→ 行動が定着するよう繰り返す
注意点としては、相手が理解しているようでも、実際の行動に移せるとは限らないた
め、以下の(2)、(3)の補完手段と組み合わせることが有効です。
(2) モデリング(模範提示)
これは、見せて学ばせる方法です。熟練の先輩や教育用のビデオなどを通じて、「こう
すればいい」というモデル行動を提示し、それを模倣させます。
 ・例:接客対応をビデオで学ぶ、先輩の見積説明を同席して観察する
 ・流れ:モデリング → 模倣行動 → 強化(ほめる)→ 行動が定着するよう繰り返す
人は他人の行動を見て学習する「観察学習」の能力を持っており、職場教育でも非常に
有効です。
(3) 身体的誘導(フィジカルガイド)
言葉や模範でも行動ができないときは、実際に手取り足取り教える方法が有効です。特
に身体を使う作業や操作を伴う業務で有効です。
 ・例:工作機械の操作を直接指導する、電話応対のセリフを一緒に練習する
 ・流れ:身体的誘導 → 行動 → 強化(ほめる)→ 行動が定着するよう繰り返す

■■ シェイピング(形成) ■■
新しい行動がいきなり完璧にできることはありません。そこで使われるのが、行動の
「スモールステップ化」です。
「シェイピング法」では、目標行動に至るまでの段階的な行動を設計し、それぞれを強
化していくことで、やがて理想の行動にたどり着けるようにします。
 例:C=訪問先で営業プレゼンができる
  → A=あいさつができる
  → B=商品紹介が言える
  → C=提案とクロージングができる
A(あいさつ)→ 強化 → B(紹介)→ 強化 → C(提案)→ 強化 を繰り返す
このとき大事なのは、「少しできた」瞬間に、即、強化(ほめる)ことです。すでにでき
ている行動を褒めても強化にはつながりません。今までできなかったことが、少しでき
た瞬間こそがチャンスなのです。

■■ チェイニング(連鎖) ■■
「チェイニング法」は、一連の行動プロセスをひとつの行動のまとまりとして扱い、段
階的に強化していく方法です。
たとえば、「訪問 → 説明 → 見積 → 契約 → 納品」という営業プロセスを、すべて個
別ではなく、連続したチェーンとみなしてトレーニングします。
次の2つの方法があります。
(1) フォワード・チェイニング(前方連鎖)
 訪問 → 説明 → 見積・・・と最初から順に強化していく方法。
 ただし、達成感が得られるまでに時間がかかるため、途中でやめる(消去)可能性も。
(2) バックワード・チェイニング(後方連鎖)
 納品 → 契約 → 見積・・・と逆から強化していく方法。
契約や納品という成果の出やすいところを最初に経験させることで、達成感を早期に与
え、モチベーションを持続させることができます。
この「達成感を起点に逆算して行動を強化する」考え方は、教育やマネジメントで非常
に有効です。

■■ 認識から“行動が生まれる”構造を設計する ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、働く人々に「自分の仕事の意義」を理解させることが
目的ですが、最終的には自発的な行動を引き出すことがゴールです。
そのためには、以下のようなアプローチが効果的です。
(1) マニュアルや口頭指示は最初のきっかけにすぎない。
 → モデリングや実践を通じて実感へ落とし込む。
(2) できることを段階的に増やして、自己効力感を高める。
 → 小さなステップで「できた」を繰り返す。
(3) 成功体験を早く与え、モチベーションを保つ。
 → バックワードチェイニングの活用。
(4) “できて当たり前”ではなく、“できたら即強化”を徹底する。
 → 行動を見逃さず、即座に反応する文化をつくる。

■■ 行動は“設計”できる ■■
人は意識だけでは動きません。「どう行動するか」を周囲がどう設計するかによって、人
の認識と行動は結びついていきます。
その設計には、言葉の使い方、模範の示し方、手取り足取りの支援、段階的な強化、早
期の達成感なども含まれます。
これらの工夫こそが、ISO9001における“認識の定着”の具体的手段です。

ISO9001キーワード  認識 8 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年9月17日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.525 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識8 ~「やめさせる」マネジメント ***
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職場には、ときに「その行動はしないでほしい」「その習慣はとめた」というケース
が存在します。ISO9001の箇条7.3「認識」を踏まえ、組織内の好ましくない行動を
どう減らすか、またその際に避けるべき事柄についてお話しします。

■■ やめさせたい行動 ■■
たとえば――
 ・報連相の不足
 ・品質ルールを不順守
 ・同じミスの繰り返し
このような問題に対して、どのように“やめさせる”のか。やめさせることを体系的に
教えてくれるのが、「消去(extinction)」と「弱化(punishment)」という行動心理
学における考え方です。
これらは、「行動を定着させる(強化)」とは逆の見方ですが、「行動を減らす、やめ
させる」ということを考えてみます。これは、ISO9001の箇条7.3「認識」において、
好ましい認識を定着させるために、不要な認識を無くす働きかけとして説明すること
ができます。

■■ 何も起こらなければ行動はやがて消える ■■
「消去」とは、ある行動をしても報酬(強化子)が得られなくなることで、その行動
が次第に見られなくなる現象です。
代表的な例を見てみましょう:
 ・子どもが宿題を見せても褒められない → 次は持ってこない
 ・新人が相談しても解決されない → 徐々に相談しなくなる
 ・挨拶をしても無視される → そのうち挨拶しなくなる
このように、行動の直後に無反応が続くと、行動はやがて消えていきます。しかし、
この過程では「反応バースト(Extinction Burst)」という現象に注意が必要です。消
去を始めると、一時的に行動が逆に強まることがあります。
例:
 ・子どもが宿題を見せて無視される → より強くアピールする
 ・相談しても無視される → 何度もしつこく相談してくる

これは、「今までこの行動をすれば何か得られたはずだ!」という記憶が強いため、
「どうしても反応を引き出そうとする行動」が一時的に増える状態です。
この時に根負けして反応してしまうと、行動は強化され、消去が非常に困難になりま
す。
たとえば、根負けして「1度だけ」と相談に応じてしまうと、その経験が次にもいき
て再び好ましくない行動が戻ってきてしまいます。

■■ 行動の直後に“不快”があると減る ■■
「弱化」とは、ある行動の直後に不快なことが起こる、または快いことが減ることで、
その行動の頻度が減少するプロセスです。
ここでは2つのタイプがあります:
(1) 正の弱化:嫌なことを“与える”
 例:ルール違反に対して罰や注意を与える → 再発が減る
(2) 負の弱化:行動を“褒めない”(ネガティブに効く)
 例:報告(忖度内容)したのに褒めなかった → 次は報告しない

いずれも、「その行動をやめさせたい」という時に使われる手法です。

■■ 弱化と消去、どう使い分ける? ■■

比較項目 消去 弱化
方法 無反応で報酬を断つ 行動後に不快を与える、または快を失わせる
効果の現れ方 徐々に 比較的早い(ただし副作用あり)
注意点 反応バーストに注意 恐怖や反発を生むリスクあり

消去は穏やかで持続的な方法ですが、反応バーストに耐える忍耐が必要です。一方、弱
化は即効性がありますが、副作用として関係悪化や萎縮、モチベーション低下のリスク
もあります。
職場で活用する際は、「強化」とのバランスを考え、望ましい行動を強化しながら、不
要な行動を消去・弱化するという多角的なマネジメントが効果的です。

■■ 認識と結びつける ■■
好ましい行動が残り、不適切な行動は消えるマネジメントはISO9001の箇条7.3「認識」
を日常の業務に定着させる方法として活用できます。
「望ましい行動にはしっかりと反応し、望ましくない行動には反応しないか、適切に弱
化する」ことで、組織の行動パターンは自ずと整っていきます。
職場でよく見られる「悪しき慣習」「やる気の低下」「報連相の欠如」などは、個人の問
題ではなく、組織がどんな行動にどんな反応を返してきたかによって作られた結果です。
 ・行動は強化によって増え
 ・弱化・消去によって減り
 ・無反応によって消えていきます
つまり、「どんな反応をするか」で、組織文化も認識もその定着度合いが決まってくるの
です。