ISO9001キーワード  変革型リーダーシップ | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年7月2日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.516 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  変革型リーダーシップ ***
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ここまで資質論や行動論、状況対応型リーダーシップ、さらにはサーバント・
リーダーシップまで、様々なリーダー像について説明してきました。それぞれ
の理論が示すように、リーダーの在り方は常に「環境」と「人」に影響されな
がら変化してきました。
今回はその中でも、「変化の先頭に立ち、組織を未来へと導く」役割に焦点を
当てた「変革型リーダーシップ」についてお話しします。
これは1988年にジョン・P・コッター(John P. Kotter)が提唱して世界で話
題になった理論で、変革を成功させるための8つのステップが大きな特徴です。

■■ リーダーシップとマネジメントの違い ■■
コッターは、最初に「リーダーシップとマネジメントは別物である」という立
場を明確にしました。

項目 リーダーシップ(攻め) マネジメント(守り)
役割 変革の必要性を訴え、行動を促す 組織の統制と安定維持
領域 組織の方向性・人心の統合・動機づけ 計画と予算の策定・管理・統制

マネジメントは、既存の仕組みを安定させ、計画的に物事を遂行するために必
要不可欠な「守りの機能」です。一方、リーダーシップは、新たな未来を描き、
そこへ向けて組織を動かす「攻めの機能」です。
とくに現代のような変化の激しい時代においては、リーダーにはこの「変革を
先導する力」が求められます。

■■ 変革の8ステップ ■■
コッターは、組織が変革を成功させるためには、以下の8つのステップが不可
欠だと述べています。
(1) 変革の必要性を理解させる
まず、なぜ変革が必要なのかを組織内に浸透させることから始まります。市場
動向や競合状況、SWOT分析などを使って「このままではいけない」という危
機意識を共有することが重要です。
(2) 変革チームを発足させる
変革を推進するためには、信頼と影響力を持ったメンバーで構成される専任の
チームが必要です。権限だけでなく、現場との橋渡しができる多様なメンバー
を選出します。
(3) ビジョンを策定する
変革の方向性を示すビジョンを明確にします。単に「変わる」のではなく、ど
こを目指すのか、何を価値とするのかを具体化することが重要です。
(4) ビジョンを共有する
どんなに素晴らしいビジョンでも、メンバーに伝わらなければ意味がありません。
繰り返し、様々な方法で共有し、メンバーの「納得」を得ることが必要です。
(5) 実現をサポートする
現場でビジョンに沿った行動がとれるよう、妨げとなる制度や仕組みを取り除
きます。不要なルールの見直しや、柔軟な体制づくりが求められます。
(6) 計画・実行・報償を行う
具体的な行動計画を立て、着実に実行します。そして、成果が出た場合には適
切な報奨を与え、次への原動力とします。
(7) さらなる変革を行う
一度の成功に満足せず、継続的な改善と変革を繰り返すことが必要です。制度
や人材の見直しなど、第二・第三の変革を視野に入れます。
(8) 変革を組織文化に定着させる
最終的には、変革が「一過性のイベント」ではなく、組織の日常となるように
定着させていきます。変革の価値を伝え続けることが鍵となります。
この8つのステップを抜かさず丁寧に実行することで、抵抗の少ない、持続可
能な変革が実現されます。

■■ 変革リーダーに求められる資質とは? ■■
では、こうした変革を実現するリーダーにはどのような資質が求められるので
しょうか?コッターは2つの資質を特に重要視しています。
(1) 対人スキル(人間関係構築力)
変革は一人ではできません。組織の内外、部門の壁を越えた連携が必要です。
多様な関係者と信頼関係を築き、共に動けるコミュニケーション力が求められ
ます。
(2) 情熱(エネルギー)
変革には、時に大きな抵抗や障害が伴います。それでも軸がぶれず、情熱を持
って組織を引っ張る強さが必要です。冷静さと熱意、その両方を兼ね備えたリ
ーダーが、変革を成し遂げる鍵を握ります。

■■ 変革は「リーダーシップ」から始まる ■■
変革型リーダーシップは、決して特別な人にしかできないものではありません。
大切なのは、「変えたい」という意志と、「どうすれば人と組織が動くのか」を
理解し、段階的に行動することです。
ISO9001においても、「継続的改善」や「リーダーシップの発揮」は欠かせない
要素です。計画・実行・評価・改善(PDCA)のサイクルを回しながら、革新の
文化を根づかせていくことが求められています。