2025年9月3日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.523 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識6 人の行動を変える ***
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「なかなか現場での行動が変わらない」「わかっているのに実践できていない」・・・。
品質マネジメントに携わる多くのリーダーが直面する課題です。
ISO9001の箇条7.3「認識」では、働く人々が品質方針や目標、自身の役割につい
て「認識」を持つことを求めています。しかし、どんなに丁寧に説明しても、人の
行動が伴わなければ、認識は根づいたとは言えません。
■■ 性格ではなく「行動」に着目する ■■
今回は、行動心理学に基づく「行動分析」を用いて、どうすれば人の行動を望まし
い方向に変化させることができるのかを考えていきます。
「人は変わらない」と言われがちですが、行動心理学は「人は行動から変えられる」
という確かな理論に基づいています。行動心理学の立場では、「性格が行動を決める」
のではなく、「行動の積み重ねが性格のように見える」と考えます。
つまり、「あの人はだらしない性格だ」と捉えるのではなく、「期限を守る行動が定着
していない」と行動に注目します。
このように捉えると、性格や価値観のように測定しにくい要素ではなく、観察できる
“行動”をベースに分析と改善が可能になります。これは、ISO活動においてPDCAを
回す際の「Check定性化→定量化」に通じる考え方です。
■■ 行動は「刺激」と「結果」によって変わる ■■
行動心理学では、行動の変化を「刺激 → 行動 → 結果」という流れで捉えます。
これは人間の基本的な学習メカニズムです。
刺激 | 行動が増える | 行動が減る |
---|---|---|
嫌なことが減る | ○ | × |
好きなことが増える | ○ | × |
嫌なことが増える | × | ○ |
好きなことが減る | × | ○ |
たとえば「改善して褒められた」という刺激→行動が増える(強化)
「ミスをしたら厳しく叱られた」という刺激→行動が減る(弱化)
このように、人の行動は環境からのフィードバック(刺激)によって自然に変わります。
■■ 段階的な行動変容とターゲット行動の設計 ■■
人の行動は一夜にして変わるものではありません。行動心理学では、「段階的にターゲ
ット行動の頻度を増やしていく」という方針をとります。
たとえば、「会議で必ず発言する」というターゲット行動を目指す場合、最初は「会議
に出席する」「メモを取る」「目を合わせる」など、小さな行動から徐々に強化してい
くことで、無理なく変化を促します。
■■ 行動を変える4ステップ ■■
行動を変えるには、以下の4つの要素を明確にし、戦略的に働きかけることが重要です:
(1) 動機(モチベーション)
なぜその行動をしたい(したくない)のか。内的・外的な欲求を整理します。
(2) 刺激(トリガー)
どんなとき・どんなきっかけでその行動が生まれるかを把握します。
(3) 行動(ターゲット行動)
具体的にどんな行動を「望ましい」とするか、観察可能な行動で定義します。
(4) 結果(フィードバック)
その行動のあとに、何が返ってくるか、報酬か、罰か無反応かを明確にします。
■■ 望ましい行動を増やす vs 減らすアプローチ ■■
行動の「強化」と「弱化」の使い分けがポイントです。
使い分け | 動機 | 刺激 | 行動 | 結果 |
---|---|---|---|---|
行動(強化) | 高める | 増やす | 反復練習させる | 報酬を与える |
行動(弱化) | 解消する | 取り除く | 代わりの行動を考える | フィードバック無 |
たとえば、行動(弱化)では、「遅刻を減らす」を考えると、
・動機:遅刻の動機(朝が苦手)を解消する支援を考える(例:柔軟出社)
・刺激:スマホゲームなどを無くす工夫をする
・代わりの行動:アラームを前倒を促す
・結果:叱責しない、何も起きないことで自然消滅(消去)を図る
こうした仕掛けが継続されることで、行動の変化が定着し、「認識」が深まっていき
ます。
■■ 「人は変えられない」は誤解である ■■
行動心理学は、「性格」や「考え方」のような捉えにくい要素を責めるのではなく、
「行動という現象に着目することで、人を科学的に支援する」方法論です。
ISO9001の箇条7.3「認識」において、伝えた内容が行動につながっていない場合、
それは人の問題ではなく、仕組みや環境の設計に課題があると思います。
・行動を見える化する
・小さな成功体験を積ませる
・結果を丁寧にフィードバックする
・モチベーションを支える環境をつくる
これらを戦略的に行うことが、認識を「形ある行動」に変えるための第一歩です。