ISO9001キーワード  認識 10 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年10月1日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.527 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識10 ~組織風土の正体 ***
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「なぜこの会社では誰も新しいことに挑戦しないのか」、「なぜ改善提案を出す人がい
るのか」。このような組織の行動パターン、すなわち組織風土とも言える現象は、偶
然に生まれているのではありません。

■■ ABC分析とは何 ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」では、方針や業務の重要性を理解してもらうことが求め
られていますが、本当に大切なのは「理解されたことが、望ましい行動として現れて
いるか」です。その点で、ABC分析は実践的なツールです。
ABC分析とは、行動がどうして起こり、どう定着するかを次の3つの要素で説明する
ものです。

項目 英語 内容
A(先行条件) Antecedent 行動の前に起こる出来事や状況(きっかけ)
B(行動) Behavior 実際に人が取った行動
C(結果) Consequence 行動の後に起こる出来事(報酬や罰など)

この3つの要素を理解することで、「なぜその行動が生まれ、続いているのか、また
は消えたのか」を明らかにすることができます。

■■ 事例で理解するABC分析 ■■
以下のようなシンプルな事例で考えてみます。
(1) 前例がない仕事で新しい方法を使ってみた
 ・A(先行条件):過去にやったことのない仕事
 ・B(行動):独自のやり方で取り組んでみる
 ・C(結果):上司に「よく工夫したね」と褒められる → 行動が強化される
(2) 前例がある仕事で新しい方法を使ってみた
 ・A:過去にもやったことがある仕事
 ・B:独自のやり方で進める
 ・C:上司に「なんで勝手なことをするんだ」と叱られる
    → 行動が弱化・消去される
この2つを比較すると、「どんな状況(A)で、どんな行動(B)をとったとき、どん
な結果(C)が返ってきたか」によって、社員の学習が変わることがわかります。
前者では、新しいことに挑戦すると褒められるため、その後も社員は創意工夫を続け
るようになります。
後者では、慣例を変えると否定されるため、「何も変えない方が安全だ」と学習され
てしまいます。

■■ ABCの蓄積が組織風土になる ■■
このように、組織内で日々起きている無数のA-B-Cのサイクルの蓄積が、組織風土を
つくり出していきます。
 ・挨拶をする→反応されない→挨拶がなくなる
 ・報告をする→面倒くさがられる→報告が減る
 ・改善提案を出す→採用される→提案が活発になる
 ・成果を出す→誰も気づかない→モチベーションが下がる
つまり、人の行動は組織内のフィードバック環境(=C)によって形成されるのです。
そのため、「行動が変わらない」「認識が浅い」と感じたときに、部下や社員を責める
前に、「どんな先行条件や結果が存在しているか?」というABCの視点で見直すこと
が必要になります。

■■ ABCの視点から職場を見直す ■■
では、どうすれば職場で望ましい行動が定着し、「行動によって認識が深まる」ように
できるのでしょうか?
ポイントは以下の3つです。
(1) 先行条件(A)を整える
 ・明確なルールや役割の提示
 ・成果を出すための環境(時間・道具・協力体制)の整備
 ・行動を起こす動機づけとなる「ビジョン」「目標」の共有
(2) 行動(B)を具体的に観察・記録する
 ・「努力している」「頑張っている」ではなく、「どんな行動が取られているか」
   を明確にする。
 ・小さな行動(例:報告、声かけ、整理整頓)を記録・可視化する。
(3) 結果(C)で強化を与える
 ・目標に近づいたら即時にフィードバックを与える。
 ・成果だけでなく「プロセス」にも報酬を与える(行動に反応する)。
 ・認められないまま放置しない(無反応は消去につながる)。
これらを意識的に回していくことで、「よい行動」が増え、自然と「認識のある組織」
へと育っていきます。

■■ 認識は行動として育てるもの ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、単に社員が方針を知っているという表層的な理解で
は不十分です。ABC分析の視点から組織を見直すことで、「なぜこの行動が起きたの
か?」、「なぜこの行動が起きないのか?」が明確になり、改善の手が打ちやすくなり
ます。