Monthly Archives: 5月 2019

標準化―ISO 9001-6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.212 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-6 ***
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ISO 9001箇条4.3にある「適用可能性」について述べています。
例えば、箇条9における監視、測定はどんな対象に対して行うのかは
組織が決めることですが、どのように決めるのかの方法に
「ギャップ分析」があります。

ギャップ分析は「正当性」を示す方法の一つでもあります。
正当性とは、箇条4.3に記述されている組織が勝手に“監視、測定を
適用しない”と決めてはいけないことを要求しているキーとなる言葉です。

■□■ Vol.209における「~するために」 ■□■

組織が監視、測定することができる対象は、無限に近いといって
いいほど多くあります。
Vol.209では、規格にはたくさんの「~するために」という表現が
あると述べました。いま話題にしている監視、測定についても
次のように書かれています。

「9.1.3 分析及び評価 :
組織は,監視及び測定からの適切なデータ及び情報を分析し,
評価しなければならない。 分析の結果は,次の事項を評価するために
用いなければならない。

a) 製品及びサービスの適合
b) 顧客満足度
c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性
d) 計画が効果的に実施されたかどうか
e) リスク及び機会への取組みの有効性
f) 外部提供者のパフォーマンス
g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性」

■□■ ギャップ分析の例 ■□■

「9.1.3 分析及び評価」に関するギャップ分析をした例を示します。

AをISO 9001要求事項、Bを組織の実態とします。また、ギャップが
ある場合は○(適用する)、ギャップがない場合は×(適用しない)、
ギャップが少しある場合は△(適用する)で示します。

a) (分析)毎月の品質会議で「製品及びサービスの適合」状況を確認している。
確認のために、品質管理部では監視、測定データを収集しグラフ化して製品
及び・サービスの適合状態を見える化している。
 (結論)× AとBの間にはギャップはない 
  → 既に該当のISO 9001要求事項は実施しているので、新たに
    行うことはしない。

b) (分析)毎月の品質会議で「顧客満足度」状況は確認している。
現状は、顧客からの要望、苦情、クレームなどをまとめている。
しかし、積極的に顧客の声を収集していないので、販売店チャンネルを
活用することを考える。
 (結論)△ AとBの間には少しギャップがある 
  →顧客満足度のデータを収集することを検討し、実行する。

c) (分析)現状は、「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性」
を評価することは行っていない。どんな情報、データを収集することで品質
マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を評価するのかを検討する。
 (結論)○ AとBの間にはギャップがある 
  →品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関しての監視、
   測定をどんな対象に対して行うのを検討し、実行する。

d) (分析)現状は、「計画が効果的に実施されたかどうか」は評価している。
事業部長方針が各部門に展開され、課実行計画により各種課題の達成、
各種問題の解決に向けて業務を行い、その結果は四半期ごとに評価している。
 (結論)× AとBの間にはギャップはない 
  → 既に該当のISO9001要求事項は実施しているので、新たに行うことはしない。

9.1.3 分析及び評価 のe) リスク及び機会への取組みの有効性 、
f) 外部提供者のパフォーマンス 、g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性に
ついては、来週ギャップ分析してみたいと思います。

標準化―ISO 9001-5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.211 ■□■    
*** 標準化―ISO9001-5 ***
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前号から箇条9の要求を組織に適用させる場合に、どのような例が
あるのかについて述べています。
マネジメントシステムは、組織経営のいろいろな要素を結び付け、
目的を達成するために組織が一体となって活動するための仕組み
ですから、規格の要求をどのように組織に適用させるかは大切な
問題です。

箇条9.1は「組織は,a) 監視及び測定が必要な対象を決定しなければ
ならない」と要求しています。

■□■ 箇条9の適用可能性 ■□■

組織が監視、測定することができる対象は、無限に近いといって
いいほど多くあります。前号では主要プロセスについての監視、
測定の例を上げましたが、支援プロセス、経営プロセスにも監視、
測定の対象例を考えてみましょう。

まず支援プロセスについてですが、支援プロセスにおいても組織が
目的を達成するためにどんな指標を監視、測定しなければならないかの
視点から対象を決めます。

-人事プロセス
 ・従業員数(入社、退社、総人数)
 ・総労働時間(過重労働防止)
 ・社員保有資格
 ・総教育時間
 ・社員モチベーション

-総務プロセス
 ・安全に関する指標(無災害時間、災害度数、重篤災害、休業災害、
  ヒヤリハット件数)
 ・環境に関する指標(公害に関する数値、CO2排出量、エネルギー
  使用量(源単位)
 ・設備補修費
 ・車両点検
 ・福利厚生費

-経理プロセス
 ・売上
 ・費用
 ・利益
 ・各種財務指標

-ITサービスプロセス
 ・サーバー稼働
 ・シャットダウン時間(ウイルス、セキュリティ)
 ・ホームページアクセス数

―法務プロセス
 ・内部通報件数
 ・コンプライアンス相談件数
 ・法規通達件数

■□■ 経営プロセスへの適用 ■□■

次は、経営プロセスについてですが、経営者が関心を持つ事象を監視、
測定することになります。
組織全体の姿を適切に捉える指標にはいろいろあります。

-売上高総利益率
-総資本経常利益率
-自己資本比率
-労働分配率
-株主数
-品質コスト
-クレーム数
-顧客満足度

■□■ 箇条4.3にある記述は? ■□■

ISO9001:2015 箇条4.3には次の一節があります。「組織が自らの
品質マネジメントシステムの適用範囲への適用が不可能であることを
決定したこの規格の要求事項全てについて,その正当性を示さなければ
ならない。」
“・・・and provide justification for any requirement of this
International Standard that the organization determines
is not applicable to the scope of its quality management system.”

“organization determines is not applicable:組織が適用できないと決めた”
ことは、適用しなくてよいが、その場合はなぜ適用しないのかの正当性を
示すことが必要です。

■□■ 正当性はどう示すのか? ■□■

正当性を示す一つの方法にギャップ分析があります。
箇条9でいえば、監視、測定をどんな対象に対して行うのかは組織が決める
ことであると言いました。でも組織が勝手に監視、測定はこれだけでよいと
適用する対象を決めたのでは、正当性を示したことになりません。
ではどのようにギャップ分析をすることがよいのでしょうか?
次回に述べさせていただきます。

標準化―ISO 9001-4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.210 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-4 ***
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ISO 9001箇条8.2は組織の受注プロセスへ適用させます。
箇条8.3は組織の設計プロセス、箇条8.4は組織の購買プロセス、
箇条8.5は組織の製造プロセスというようにISO 9001:2015 の
箇条8は適用する組織のプロセスが明確であり、ほぼ総ての組織は
この規格要求事項の適用について問題と感じることはないでしょう。

しかし、箇条9は組織のどのプロセスへ適用するのでしょうか。
また、箇条7についてはどうでしょうか。

■□■ 箇条9の適用可能性 ■□■

前号で述べたことは、箇条4.3の適用可能性についてでしたが、
上の記述、すなわち箇条9に関しての私の考え方を紹介したいと
思います。

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9.1 監視,測定,分析及び評価
9.1.1 一般
組織は,次の事項を決定しなければならない。
a) 監視及び測定が必要な対象
b) 妥当な結果を確実にするために必要な,監視,測定,分析及び評価の方法
c) 監視及び測定の実施時期
d) 監視及び測定の結果の,分析及び評価の時期
組織は,品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を
評価しなければならない。組織は,この結果の証拠として,適切な
文書化した情報を保持しなければならない。
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これが箇条9.1.1に書かれていることです。

■□■ 箇条9の適用 ■□■

箇条4.3に書かれている適用可能性の適用として、箇条9を取り上げて
いますが、箇条8の適用と異なり、組織のどのプロセスにこの箇条9の
要求を適用させるかは組織の考えによります。
マネジメントシステムは、組織経営のいろいろな要素を結び付け、
目的を達成するために組織が一体となって活動するための仕組みです。

組織は,a) 監視及び測定が必要な対象を決定しなければならない、
と要求していますが、組織の対象となる要素すべてを監視、測定することは
物理的、経済的にできません。

■□■ 必要な対象となる候補は何か 1 ■□■

組織には多くの監視、測定したい対象があります。次の例以外にも監視、
測定の対象になりうるものがあると思います。

・製品
 -受入製品
 -工程内製品
 -最終製品
 -手直し製品
 -出荷前製品
・プロセス
 -受注プロセス
 -企画プロセス
 -設計プロセス
 -購買プロセス
 -工程設計プロセス
 -製造プロセス
 -サービス提供プロセス
 -検査プロセス
 -搬送プロセス
 -アフタサービスプロセス など

■□■ 必要な対象となる候補は何か 2 ■□■

1で掲げたものは、お客様に提供する製品に関係するものばかりです。
すなわち、製品そのもの、そして製品に付加価値をつけるプロセス
(主要プロセス)についてです。
その他に、監視、測定の対象になりうるものには次のものがあります。

-市場クレーム
-品質コスト
-顧客満足度
-受注率
-失注率
-力量
-従業員モラール
-設備補修費
-点検履行度
-文書レビュー度
-記録保管数
-在庫回転率
-棚卸数 など

■□■ 必要な対象となる候補は何か 3 ■□■

2で掲げたものは、主要プロセスをサポートする、あるいは経営の
指標となるようなプロセス(支援プロセス)に関するものです。
この他に、経営に関するプロセスの監視、測定についても候補となる
対象がありますが、次回に述べさせていただきます。

標準化―ISO 9001-3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.209 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-3 ***
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前回は、令和最初の大型連休の前でしたので、忘れている方も多いと思い
Vol.208を若干振り返ってみたいと思います。

ISO 9001:2015には、“適用可能性(applicability)”の要求があります。
この用語はISO 9001の2015年版で初めて出てきた言葉です。
この言葉の意味、意図はいままであまり議論されたり、検討されたりして
こなかったと思います。

ISO 9001の活用の仕方にテーラリング(tailoring)という言葉があります。
“tailor”とは洋服屋さんのことで、tailoringとは洋服を仕立てることを
いいます。洋服屋さんは、洋服を仕立てる時、お客さんの体形を測りその
体形に合わせて服を作りますが、ISO 9001を導入する組織も同様なことを
行うことが推奨されます。

■□■ “該当する場合には” ■□■

適用可能性、テーラリングなどを考えるときには、それなりの要点が幾つか
あります。その一つが規格の本文に出てくる、“該当する場合には”という
語句です。率直に受け止めれば、該当しない場合は実施する必要はないと
いうことです。しかし、該当する、しないはどのように決めるのでしょうか。

もとより、それは組織が自身の判断で、該当するか、しないかを考える
ということになります。組織以外の人が該当する、しないを決めることは
ありえないことです。なぜならば、マネジメントシステムは組織のものだから
です。

「ありえない」というと言い過ぎかもしれません。原則は組織自身が決める
のですが、その過程で利害関係者の意見を聴くことは勧められることでしょう。
ちなみにISO 9001:2015 には、“該当する場合には”という語句は、7か所
でてきます。

■□■ “必要に応じて” ■□■

“必要に応じて”は、ISO 9001:2015 に6か所でてきます。
“as appropriate”が原文の英語ですが、2008年版規格では,“適切に”
と訳されていました。しかし,附属書 SL の訳で一貫して “必要に応じて”
と訳されたので、従来用いられていた“適切に”から変わって,
“必要 に応じて”という和訳が用いられています。

“適切に”と“必要 に応じて”とでは、どう違うのでしょうか。
言葉はしょせん使う人の思いでその意味が変わってきます。したがって、
人によって受け止め方が若干違うことは当たり前のことです。

ここでは、2つの訳には大きな差異はないとして先に進めていきたいと
思います。

■□■ “~するため” ■□■

ISO 9001:2015には多くの“~するため”の記述があります。
“~するため”は目的を示していますので、単に要求されたことを実施する
のではなく、“~するため”という目的に合致した実施内容であるか確認をする
必要があります。もし~する実施内容が組織の目的と合わなければ、~する
ことは本当に必要であるか考えることがよいでしょう。

■□■ 組織のプロセスへの箇条の適用 ■□■

適用可能性を考えるときは、その他、組織のどのプロセスに適用するのかを
検討するとよいでしょう。

例えば、箇条8.5は組織の製造プロセスへ適用させます。
箇条8.2は組織の営業プロセス、箇条8.3は組織の設計プロセス、箇条8.4は
組織の購買プロセスというようにISO 9001:2015 の箇条8は適用するプロセスが
明確であり、ほぼ総ての組織はこの規格要求事項の適用について異論はないでしょう。
しかし、箇条9は組織のどのプロセスへ適用するのでしょうか。
また、箇条7についてはどうでしょうか。

これについては次回以降述べていきたいと思います。

■□■ 組織のプロセス ■□■

このように考えると、一つ疑問がでてきます。
そもそも自分の組織のプロセスは明確になっているのでしょうか。
規格要求事項を組織のプロセスに適用させることを考えるその前提には、
組織のプロセスを明確にしてあると基本的な要件があります。

単純な言い方をすると、組織のすべての個人の仕事が明確になっている
必要があります。プロセスと言うとむずかしく聞こえますが、プロセスは
個人の活動であると考えることがよいと思います。