ナラティブ内部監査12 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.308 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ― 
*** ナラティブ内部監査12 ***
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前回、ディスコース(discourse)という言葉を紹介し、ディス
コースの日本語訳として「言葉による思想の伝達」をお伝えしま
した。東北大震災の時にいろいろなことが伝達されたという事例
を説明させていただきました。しかし、ディスコースとは何かよ
く分からないという声がありましたので、さらに実務的な意味、
使い方を紹介したいと思います。

■□■ ディスコース実際編 ■□■
臨床心理士である国重浩一氏の「ナラティブ・セラピーの会話術」
(金子書房)には次の一説があります。
「血液型によって性格が判断できるということは、日本以外の国
ではあまり信じられていません。血液型が性格を決める要因であ
るとみなすのが「本当」であれば、他の国の人たちが間違ってい
ることになります。この真偽はどうなっているのでしょうか?
このような時に社会的な解釈は、どこにも「真実」はないとします。
ただ、その時の社会に存在する一連の意味付け、表象、イメージ、
ストーリー、声明文などが私たちにある特定の理解をするように
もたらすのです。

血液型について、大変多くのストーリーが語られており。それを
説明するためのテキストも相当量存在します。また、社会的に「人
の性格を血液型で判断すること」が許容されているので、非科学
的なことを話す人と見下されることはありません。そのような理
解が当然とされているのです。筆者はあまり信じないようにして
いますが、時に、あまりにも見事な実例だと思わされる場面に遭
遇すると、なるほどと思ってしまうことがあります。
このとき、これは日本における「血液型におけるディスコース
なのだという表現をすることができます。このディスコースは、
あたかもそれが真実であるかのように、私たちに迫ってきます、
時には人間関係やカップルの人間関係の行く先まで予言します。
そして、実際にうまくいかなかったときなど、それを主たる原因
とみなすこともできます。」

この日本における血液型で性格を判断するという「通説」をディ
スコースといいます。

■□■ ディスコースとは世間体 ■□■
国重氏の説明からディスコースとは真実、論証、証明などとは関
係なく社会で広く信じられている言説をいうようです。内部監査
は認証審査のための記録作りであるという言説もディスコースと
いってよいようです。内部監査は監査の1種類です。監査は利害
を持つ人が自分の立場から相手の状況を調査する方法です。国税
調査はその代表的なものですが、小企業でも地元の税務署から時々
監査を受けることがあります。
ISOマネジメントシステム監査は税務監査に比較すれば、その厳
しさは相当の違いがありますが、何かの基準をもってその基準通
りに仕事を行っているかを確認するという本質は何ら変わりあり
ません。

■□■ 内部監査のディスコース ■□■
内部監査の目的をどこに置くのかによって活動の中身は変化します。
組織が内部監査をどんな目的で行おうとするかは組織の決定ですの
で、実施の仕方もおのずから変わってきます。
ナラティブ内部監査はその目的を組織のパフォーマンス向上に置い
ていますが、ある組織にとっては従来もパフォーマンス向上を目的
において内部監査を実施してきたとすると、ディスコースはそのま
ま同じであるということになります。しかし、ある組織にとっては
少し変わるかもしれません。この場合従来の内部監査しだいですが、
もし認証審査のために実施していたとすると、内部監査のディスコ
ースは「認証審査のための記録作り」ということになります。
この「認証審査のための記録作り」というディスコースを一度考え
直してみたいという視点が心療内科などで活用しているナラティブ
セラピーにおける応用ということになります。

■□■ ディスコースに反することは難しい ■□■
再び国重氏の著書からです。
「ディスコースが、ものごとの理解の仕方や考え方に影響を及ぼし
ているという側面を見てきましたが、もう一歩踏み込んで私たちの
行動にさえも影響を及ぼしているとみなしていきます。社会にある
特定の考え方(ディスコース)が存在するとき、私たちがそのディ
スコースに反して行動することは難しくなります。ディスコースの
中にも、少数派的な存在感しか示さないものもありますが、圧倒的
な存在感を示すものがあります。この、世の中に強力にはびこって
いる存在であるディスコースを「支配的なディスコース」と呼びま
す。このような存在感のあるディスコースが言わんとしていること
に反して行動することは、私たちはたいへん難しく感じられます。」
支配的ディスコースは世の中で当たり前と思われていることなので、
それに反した行動をとることは抵抗が大きいのでなかなかできな
いことである、と著者は言っています。