ナラティブ内部監査39 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.335■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査39***
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ナラティブ内部監査における問題解決、課題達成などにおいて大切
なことは、何が問題であるかを認識することです。我々は問題、課
題だらけの世界で仕事をしていますが、まずはそれらのことに気づ
くことが重要であると、話をしてきました。そして、それらの問題、
課題はどうして起きたのかを探る方法について「なぜ、なぜを5回
繰り返す」、「特性要因図」、「VTA」について話をしてきまし
た。いずれも、ナラティブ内部監査の新しい物語に活用できるツー
ルです。今回はもう一つの原因探索のツールである、FTAについ
てお話しします。

■ FTAとは ■
FTAはFault Tree Analysisの略で、日本語では「故障の木解析」と
呼ばれています。不具合の発生を上位事象として、それを部分へと
展開して不具合の起きる構造を木のように表現するツールです。世
の中には、不具合と呼ばれる、起きては困る事象はたくさんありま
すが、例えば、「品質不祥事」を取り上げるとすると、何が上位事
象になるのでしょうか。
一口に品質不祥事といっても起きている事象にはいろいろなものが
あります。起きた事象ごとに上位事象は異なります。上位事象に
「品質データ改ざん」を置くか、「事実の隠蔽」、「データの捏造」
あるいは「ルール違反」を置くかで下の展開が変わってきます。事
象の性質によって起きたことの推定される要因は異なるのですから、
上位事象に何を置くかはFTA活用の考えどころの一つです。

■ FTAの事例 ■
FTA を活用した事例として携帯用コンロの事例を図に示します。こ
こでの不具合である上位事象は、「点火しない」ということです。
点火しないのは、ガスが正しく流れてこずガス未噴出になっている
か、点火装置がおかしいかのいずれか、または、両方がある場合で
す。これを図中では、最初のOR構造(A or Bの構造)で表現し
ています。
またガスが流れないのは、ガスがない、パイプがおかしいなどが考
えられます。このように、不具合の発生を可視化して表現すること
で、未然防止、そして技術の蓄積に貢献し、また知識の共有に役立
つ手法として活用されています。FTAの展開時に落としやすい、又
は気を付けたいことは、対象機器の使用する環境条件、 使われ方な
どについてです。気温が低い冬には問題にならないことが、夏にな
ると大気温度の状況にともない不具合、例えば爆発するなどの事象
が起きることが考えられます。使用条件が変化することも同じよう
に配慮することの一つとして上げられます。

 図 携帯コンロのFTAの例(こちらをクリックしてください)
 出典:TQMの基本(日科技連出版社)

■ FTAは起きた事象の解析にも ■
FTAは元々設計などの上流工程で製品の故障未然防止のためのツー
ルとして広く活用されてきました。FTAは1960年代にシステムの
安全性・信頼性を予測、評価するために 開発されたものであり、望
ましくない結果を上位事象とし,事象が発生するための条件を論理
積と論理和を用いて演繹的に記述して,最下層の初期事象まで特定
をする手法です。

まだ起きてはいない事象を理論的に展開してみて最下層に現れた要
因に設計上対策を打つという考え方で戦後日本でも広く活用されて
きました。その後、予測的な分析にではなく、既に起きた事象の原
因分析にも利用されるようになりました。いろいろな労働災害や交
通事故など,実際に発生した事故の分析に多く適用されています。
この起きたことの要因分析をする場合には、予測的な分析を行う場
合とは異なり,ANDゲートの下には上位の事象が発生した理由を記
述することになります。

■ 起きた事故の分析 ■
起きた事故の分析を行う場合,最初から全ての情報が既知であるわ
けではなく,分析を行いながら、不足した情報を補うことが多くな
ります。しかし階層的な手法を用いて交通事故のような人的要因分
析を行う場合、結果の記載が難しくなります。設備建設のように多
くの人間が関与し,比較的長期にわたる事象を記述する場合とは異
なり,交通事故の分析は,特定個人の短時間の一連の行動を対象と
しており,判断や行動に個別の理由があるとは考えにくいからです。
結果的に下層で同じ要因に収束する傾向がありますが、これらは抜
け落ちた情報が存在した場合に多く現れる現象で,抜け落ちた要因
を事後に発見することはなかなか難しいものになります。
結果として、起きたことの分析、特にそこに人の要素が関係してい
る場合は活用に限界があると思います。