2025年5月14日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.509 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ISO9001キーワード リーダーシップ 2 ***
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ISO9001キーワード「リーダーシップ」についてお話ししています。能力のある
人の仕事に干渉、あるいは介入すると、その人はやる気をなくしてしまうかもし
れません。任せておく方がモチベーション高く業務の推進がはかどるかもしれな
い、という話をしました。
■■ 業務担当者の力量 ■■
反対に、能力がまだ不十分な人の場合は、指導あるいは支援が必要です。どの程
度の指導が適切なのかは、慎重に判断しなければなりません。ISO共通テキスト
(附属書SL)においては「-XXXマネジメントシステムの有効性に寄与するよう
人々を指揮し,支援する」とありますが、仕事をする状況に応じて「指揮し、支
援する」程度は変わってきます。
このような背景のもと、上司は部下の仕事遂行の状況を適切に判断することが求
められますが、そもそも仕事を適切に推進するために必要な要素とは何でしょう
か。当然のことながら、(仕事を行う)人に関する要素がまず挙げられます。
・ 経験(社歴)
・ 知識
・ 技能
・ やる気(メンタル)
リーダーは、部下の力量を日ごろから観察し、業務の指導・支援レベルを決める
ことが求められます。
■■ 仕事の準備状況 ■■
支援レベルを決める要素は他にもあります。人に関する要素に加えて、次のよう
な準備状態についても確認する必要があります。
・ 標準書類
・ 設備メンテナンス
・ 補助道具の用意
・ 材料
・ 電気、ガス、水道などのエネルギー
・ パートナ、請負業者
・ その他
多くの工場では、始業前点検でこのような項目の確認をしているでしょう。飛行
機、鉄道、自動車などの旅客輸送事業者、サプライチェーン運送会社などでは、
アルコール検査、体調検査、睡眠時間チェックなどを事前準備項目に加えている
と思われます。
リーダーは、担当者が仕事をスタートさせるにふさわしい状況・環境にあるかを
確認し、支援レベルを決める必要があります。
■■ レディネス ■■
海外のプロジェクトなどにおいては、よく “readiness(レディネス)” というこ
とが言われます。「準備は万端整っているか」「抜けはないか」「一度スタートする
ともう元へは戻れないぞ」などの言葉がその後に続きます。
我々の日常の仕事においてはあまり的確な例ではないかもしれませんが、仕事に
どの程度介入すべきかの判断の例として、業務の準備レベルを体系的に分析する
TRL をご紹介します。
Technology Readiness Levels(TRL) と呼ばれる「技術準備レベル」を決め
る基準ですが、JAXAなどでは「技術開発水準」と呼んでいます。もともとは、
NASAが体系的な分析に基づいて新技術の開発レベルを評価するために考えられ
たものです。
TRLは、異なる領域の技術間であっても開発水準に関する一貫性のある統一的な
議論を可能にするとされています。TRLは、プログラムコンセプト、技術要件、
実証済みの技術能力などを検討することで決定されます。
■■ Technology Readiness Levels ■■
TRLは1970年代にNASAにより開発されました。米国国防総省は2000年代初頭
から、物の調達においてこのレベル基準を採用しています。2008年までに欧州宇
宙機関(ESA)でも使用されるようになりました。欧州委員会は2010年、EU資金
による研究・イノベーションプロジェクトにこのスケールの採用を推奨しています。
2013年には、「ISO 16290:2013規格」の発行により、国際標準化機構(ISO)によ
ってTRLスケールの標準化が行われました。現在では、宇宙開発計画のみならず、
多くの分野の研究開発などにも広く用いられるようになっています。
■■ 状況対応リーダーシップ ■■
話はNASAにまで広がり、我々の日常からはやや離れてしまいましたが、ここでお
伝えしたいのは、リーダーシップとは一律に発揮されるべきものではないというこ
とです。
部下、あるいは同僚でも良いのですが、相手の仕事に取り組んでいる状況・環境・
レディネスに応じて、支援・指導・介入などのレベルを変えることが重要です。こ
の考え方を「状況対応リーダーシップ」といいます。
この考えは、「分散型リーダーシップ」にもつながるものです。前回のメルマガ最後
の部分でリーダーの多様化についてお話ししましたが、まさしくトランプ関税に代
表される「何が起こるかわからない時代」においては、もっとも仕事を知っている
人がリーダーとなって、その分野を引っ張っていくことが求められています。