ISO9001キーワード リーダーシップ5 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年6月4日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.512 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ 5 ***
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前回は、「リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、行動によって形成され
る」というリーダーシップ行動論をお話ししました。今回はその続きとして、
リーダーシップ研究のさらなる発展と、その後登場する「状況理論」について
お話しします。

■■  2つの軸:「課題達成」と「人間関係」  ■■
1950年代以降、リーダーシップ研究では「リーダーの行動スタイル」が多角的
に分析されるようになりました。ここで鍵となるのが、「課題達成」と「人間関
係(社会的要素)」という2つの軸です。
(1) 1954年:ハーバード大学の研究
この研究では、リーダーには大きく2つのタイプがあるとされました。
 ・課題解決リーダー:グループの目的達成を推進する。問題解決に向けてチー
  ムを組織し、行動を促すタイプです。
 ・社会・感情的リーダー:グループ内の関係性に目を向け、雰囲気や士気を整
  えることで集団のまとまりをつくるタイプです。
ここで示された2分類は、その後の研究でも基礎的な視点となり、「業績重視」
と「人間関係重視」というリーダーシップの両面性の理解につながっていきまし
た。
(2) 1961年:ミシガン大学の研究
この研究ではリーダーシップを組織機能としてとらえ、2つのスタイルが提示さ
れました。
 ・生産性中心型リーダー:効率や成果を最優先とし、部下にルール遵守や業務
  遂行を徹底させるスタイルです。
 ・従業員中心型リーダー:従業員の人間性や意欲に配慮し、良好な関係を築く
  ことで目標達成を図ります。
この分類も「業績志向」と「人間尊重」の2軸構造となっており、リーダーは状
況に応じて両方をバランス良く使いこなす必要があるとされました。
(3) 1962年:オハイオ州立大学の研究
オハイオ州立大学では、さらに大規模なリーダー行動調査を実施し、リーダーの
行動を次のように2分類しました。
 ・構造づくり型(Initiating Structure):目標を達成するために、役割や手順を
  明確にするなど、構造的にグループを動かすスタイル。
 ・配慮型(Consideration):メンバー個々の気持ちや人間関係に配慮し、信頼
  関係を築くスタイル。
この研究では、「リーダーの有効性はこの2つの行動のバランスにある」とされ、
状況に応じた調整の必要性が示唆されるようになりました。

■■ 1966年:三隅研究とPM理論の登場 ■■
日本においても、リーダーシップ研究は進展します。九州大学の三隅二不二(み
すみ じゅうじ)教授は、リーダーシップの機能を次の2軸でとらえ、これを「P
M理論」として提示しました。
 ・P(Performance)=課題達成機能:目標に向かって、計画を立て、的確に
  指示を出す能力。
 ・M(Maintenance)=集団維持機能:メンバー同士の関係性を良好に保ち、
  チームのまとまりを維持する能力。
この2軸によってリーダーは4つのタイプに分類されます。

タイプ 説明
PM型 課題も人間関係も高く、理想的なリーダーシップ
Pm型 課題達成は強いが、チームのまとまりが弱い
pM型 人間関係には配慮するが、課題達成力が弱い
pm型 両方とも弱く、リーダーとしての効果が低い

この理論では、リーダーが自らのタイプを把握し、不足している機能を意識的に
強化することで、理想の「PM型」へと近づく努力ができると説いています。つ
まり、リーダーシップは訓練や学習を通じて身につけられる能力である、という
考え方が日本においても確立されたのです。

■■ 状況に応じてリーダー像も変わる ■■
ここまでに紹介したリーダーシップ理論は、リーダーの行動スタイルとその有効
性の関係に注目していました。しかし、組織が複雑化し、多様な部下や業務が混
在するようになると、次のような課題が浮上します。
「同じリーダーが、ある部署ではうまくいくのに、別の部署では機能しないのは
なぜか?」
この問いに対する答えとして登場したのが、「条件適応理論(コンティンジェン
シー理論)」です。
この理論では、「有効なリーダーシップは、状況に依存する」とされます。つまり、
どんなリーダースタイルが効果的かは、以下のような条件によって変わるのです。

■■ 時代とともに進化するリーダーシップ像 ■■
このように、リーダーシップの理論は「資質 → 行動 → 状況」へと発展してき
ました。これは、組織や社会の変化に合わせて、リーダーの在り方も柔軟に進化
してきた証です。
近年のリーダーに求められるのは、固定されたリーダー像に自分を当てはめるこ
とではなく、状況を見極め、学びながら成長し続ける姿勢です。