ISO9001キーワード リーダーシップ6 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年6月11日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.513 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード  リーダーシップ 6 ***
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前回は、リーダーの行動が状況に応じて変化すべきだという「条件適応理論
(コンティンジェンシー理論)」の必要性が生まれた背景をお話ししました。今
回はその理論の中身を掘り下げながら、組織や部下の状態に応じたリーダーシッ
プの取り方について考えていきたいと思います。

■■  リーダーシップのかたち  ■■
まず、環境の安定性と組織構造との関係に注目した研究から見ていきましょう。
(1)1961年:バーンズ&ストーカー(イギリス)
彼らは企業の組織構造を、「機械的組織」と「有機的組織」という2つに分類し
ました。
 ・機械的組織:外部環境の変化が少ない安定的な環境下で形成される。ここ
  では命令系統が明確で、ピラミッド型の縦割り組織が機能します。リーダー
  の役割は「命令と指示」の徹底です。
 ・有機的組織:外部環境の変化が激しい時代や業界では、柔軟で水平的なネッ
  トワーク型の組織が求められます。リーダーは「支援と助言」を重視し、部
  下の自律性を高める関わりが必要とされます。
この研究は、近年のVUCA(不確実性・複雑性の高い)時代の組織にも通じるも
ので、変化に強いリーダーの条件を示唆しています。
(2)1967年:ローレンス&ロッシュ(ハーバード)
彼らは、環境が不安定になると、組織は「分化」していくと述べました。
 ・分化とは、各部門がより専門性を高めて独立的に動くようになること。
 ・一方で、組織が安定していれば、「統合」的な管理体制でまとめる方が効率
  的とされました。
このように、組織構造や環境の性質に応じて、リーダーに求められる行動も変化
するという考え方が定着していきます。

■■ リーダーの個性と状況のマッチング ■■
(3) 1964年:フィドラー(イリノイ大学)
フィドラーは、リーダーの「個性」と「状況」の相性に着目しました。
彼の理論では、組織の成果は以下のような数式で説明されます:
組織の業績 = 状況変数 × LPCスコア
 ・状況変数
  1) リーダーが部下に受け入れられているか(人間関係)
  2) 仕事の明確さ(構造の明確性)
  3) リーダーの権限の強さ(影響力)
 ・LPC(Least Preferred Coworker)スコア
  苦手な部下をどのように評価するかで、リーダーのスタイルを分類します。
  -高LPC:人間関係重視型。苦手な相手でも好意的に見る。
  -低LPC:課題志向型。苦手な相手は避けたがる。
彼の主張では、「状況変数が非常に高いか低い」環境では、課題中心のリーダーが
効果的であり、「状況変数が中程度」のときには、人間関係重視型のリーダーが有
効であるとされました。
つまり、どんなリーダーが優れているかは状況次第で変わる、という現実的な視
点が骨格をなす理論です。

■■ SL理論の登場 ■■
(4) 1977年:ハーシー&ブランチャード
彼らが提示したこの理論は、部下の「成熟度(業務への習熟度や意欲)」に応じて、
リーダーの関わり方を変えるべきという考え方です。これが「SL理論(Situational
Leadership Theory)」の核心です。
リーダーの行動は、2つの軸で整理されます。
 ・指示行動:業務内容を明確に伝え、指示するスタイル
 ・支援行動:部下の感情面に寄り添い、相談や助言を行うスタイル

■■ リーダーの要件は状況による ■■ 
ここまでご紹介してきたように、1960年代以降のリーダーシップ研究は、「すべて
の場面で通用する万能なリーダー像は存在しない」という前提のもとに展開されて
きました。
環境の安定性、組織の構造、部下の成熟度、リーダー自身の特性など、リーダーシ
ップが有効に機能するためには、常に「状況を読み、適応する力」が求められます。
この考え方は、ISO9001のようなマネジメントシステムにおいても重要です。環境
変化を踏まえて最適な方法を選び、関係者の力を引き出す。その柔軟性と応用力こ
そが、近年のリーダーに必要な資質といえます。