2025年8月6日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.520 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識3 ~心理学の分類と認識の関係 ***
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前回(Vol.519)は、心理学の歴史を振り返りながら、人間の認識や行動に対す
る理解の広がりをたどりました。今回はその続編として、現代の心理学がどの
ように体系化され、私たちの実務や組織づくりにどう応用できるのかを考える
ために、心理学の分類についてご紹介します。
■■ 心理学は2つに大別できる:基礎心理学と応用心理学 ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」では、組織の管理下で働く人々が「自分の仕事の意
味」や「業務が品質目標にどう関係するか」などを理解・実感していることが求
められます。これを実現するには、人の心の動きや行動特性を科学的に理解する
必要があります。その道しるべが、心理学です。
心理学は大きく2つの分野に分かれます。
(1) 基礎心理学:人間の心と行動の仕組みを理論的に解明する学問。
(2) 応用心理学:基礎心理学の知見を現実の課題解決に応用する実践的な学問。
それぞれにどんな分野があるのか説明をします。
■■ 基礎心理学の主要分野 ■■
基礎心理学は、「人間とは何か?」を科学的に明らかにすることが目的です。以下
のような分野があります。
(1) 認知心理学
人間の情報処理能力に注目し、「記憶」「思考」「判断」「問題解決」などを研究す
る分野です。たとえば、同じ情報でも人によって受け取り方が異なるのはなぜか?
といった問題に答えます。ISOの方針を「どう伝えると理解されやすいか」という
場面に直結します。
(2) 学習心理学
経験によって行動がどう変わるかを研究します。有名な例が「パブロフの犬」で、
刺激と反応の関係から条件づけの仕組みを明らかにしています。教育や訓練の方法
設計に不可欠な知識です。
(3) 行動心理学(行動主義)
目に見える「行動」を科学的に観察・分析する分野です。たとえば、特定の行動が
何によって引き起こされ、どう強化されるかを追究します。フィードバックや報奨
制度の設計に役立ちます。
(4) 知覚心理学
視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚など、人の五感に関する認知プロセスを研究します。
安全標識やマニュアルの色づかい、音声指示の有効性など、職場環境の設計にも影
響します。
(5) 神経心理学
脳の損傷や異常が精神や行動に与える影響を研究する分野で、神経疾患のリハビリ
や認知症への理解にも活用されます。
(6) 生理心理学
脳波・心電図・皮膚電気反応などの生体反応から、人の心理状態を探る学問です。
たとえば「うそ発見器」もこの研究分野に含まれます。
(7) 発達心理学
人間の心理が年齢とともにどのように変化していくかを研究します。新人や若手、
中堅、ベテランといった年齢や経験に応じた指導法の設計に役立ちます。
(8) 人格心理学
人の性格・パーソナリティと行動の関係性を探る学問です。性格検査やチーム編成
など、人材配置やリーダー育成の基礎にもなります。
(9) 社会心理学
人間が他者や集団と関わる中で、どのように行動や意識が変化するかを研究します。
たとえば「集団の中だと人はなぜ無責任になるのか」など、組織運営に直結する課
題を扱います。
■■ 応用心理学の主要分野 ■■
応用心理学は、基礎心理学の知見を現実社会の課題に活かす実践的な分野です。
(1) 臨床心理学
うつ病や不安障害など、精神的な問題を抱える人へのカウンセリングや心理療法に
関わります。メンタルヘルス支援において重要な分野です。
(2) 犯罪心理学
犯罪者の心理、再犯の防止、予防教育などを扱います。組織内の不正防止教育など
に応用が可能です。
(3) 産業心理学
職場における人間関係、モチベーション、労働環境、リーダーシップなど、企業活
動に直結するテーマを扱います。ISO9001の運用にも非常に関係の深い分野です。
(4) 教育心理学
学習者の理解度や成長に応じた教育方法、学びの設計を行う分野です。社内教育や
OJTの設計に役立ちます。
(5) 災害心理学
地震や事故、パンデミックなどの災害発生時における人間の心理や行動を研究しま
す。安全衛生やリスクマネジメントに応用されます。
(6) スポーツ心理学
選手のモチベーション管理、チームづくり、目標設定などに関わる分野で、ビジネ
スにおけるパフォーマンス向上にも応用が可能です。
■■ 心理学の全体像を知ることは「認識」を支える力になる ■■
このように心理学は非常に幅広い分野を持ち、人の“認識”や“行動”を深く理解する手
がかりにあふれています。ISO9001箇条7.3「認識」を実践的に進めるには、こうし
た心理学の知見をマネジメントに活かすことが極めて有効です。
たとえば、
・どう伝えれば相手に届くか(認知心理学)
・どうすれば人は行動を変えるのか(行動心理学・学習心理学)
・なぜ人によって反応が異なるのか(人格・発達心理学)
・チーム内の認識の差をどう埋めるか(社会・産業心理学)
こうした視点を持つことで、単なる知識の伝達を超え、「意味ある認識」を組織に根
づかせることが可能になります。