2025年10月8日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.528 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:認識11 ~自己強化/弱化で変わる行動 ***
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これまで、行動心理学に基づいて「行動を増やす(強化)」「やめさせる(弱化・消去)」
「行動を形成する(シェイピング)」など、さまざまなお話をしてきました。これらは
主に外部からの働きかけによって人の行動を変えていくものでした。
■■ 自分自身が、自分の行動を強化する仕組み ■■
今回は視点を変えて、人が自らの内面から、自分の行動を強化したり弱化させたりする
「自己強化・自己弱化」というテーマを取り上げます。
ISO9001の箇条7.3「認識」では、社員一人ひとりが「自分の業務の重要性」や「品質
マネジメント方針」との関係性を理解することが求められますが、理解した上で、自分
で行動し続ける力こそが、認識の定着において欠かせない要素です。
この「自分で行動を継続する力」の正体が、「自己強化」です。
「強化」とは、ある行動の直後に“良いこと”があることで、その行動が再び起こりやす
くなることです。
通常、強化の“良いこと”は、他者の評価や報酬によって与えられるケースが多くありま
す。たとえば:
・ 上司に褒められる
・ 給料が上がる
・ 表彰される
これらは「外発的強化」と呼ばれるもので、組織マネジメントでは重要な手段です。
一方、「自己強化」はその逆で、行動の直後に“自分の内側”で何らかの快を感じることで、
行動を継続するメカニズムです。
たとえば:
・ 「あ、今日は予定どおりできた!」という達成感
・ 「これが終わったらお茶を飲もう」と自分で報酬を決める
・ 小さな目標をクリアしたときに自分に「よくやった!」と言う
・ 丁寧に仕上げた報告書を見て「いい仕事をした」と感じる
これらは他人に認められなくても、「自分で自分の行動を評価・強化している」という点
で、極めて安定的かつ持続可能な動機づけとなります。
■■ 自分自身が自分の行動を止めてしまう仕組み ■■
「自己弱化」は、行動の後に自分の内面で不快が生じることにより、その行動をしなくな
るという現象です。たとえば:
・ 努力したが、目標に届かなかった → 自信をなくす
・ 失敗して自分を責める → 行動を避けるようになる
・ 達成できない目標に挑み続けて疲弊 → あきらめ癖がつく
このような経験が繰り返されると、人は「やっても無駄だ」「自分には無理だ」と感じるよ
うになり、行動そのものを避けるようになります。
この自己弱化は、努力する力、挑戦する意欲、学習の意欲などに深刻な影響を与えます。
とくに注意すべきなのは、高齢者の体力維持やリハビリ、あるいはベテラン社員のモチベ
ーション維持などの場面です。年齢とともに達成が困難になる目標をそのまま掲げてしま
うと、繰り返し失敗 → 自己弱化 → 行動停止という悪循環に陥ってしまいます。
■■ 「自己強化を促す設計」が重要 ■■
組織での行動定着や「認識を伴った行動」を持続させるにはどうすればいいのでしょうか。
それは、外部からの強化と合わせて、自己強化のスキルを引き出す支援を行うことです。
ポイントは以下の通りです:
(1)達成可能な目標を設定する(成功体験をつくる)
・ 難しすぎる目標は、失敗体験=自己弱化につながる
・ 小さな達成を積み重ねることで、「できる自分」を自覚できる
(2)達成の瞬間に“気づかせる”
・ 部下が行動できたときに、「今、自分で気づいた?できたよね?」と声をかける
・ 「この瞬間を自分で褒めていいんだ」と認識させる
(3)自分への報酬を設計させる
・ 仕事を終えたらカフェに行く、音楽を聴く、など自己報酬を決めておく
・ 「ご褒美を用意しておく」こと自体が、行動を起こすきっかけになる
(4) 自己評価スキルを育てる
・ 1日を振り返って「今日は何ができたか?」を習慣化
・ 自分の良い行動を言語化できるようにする(例:日報や日記)
これらの支援を通じて、“認識を伴う行動”が、自己強化によって自然と続くようになります。
■■ 認識は自分で強化する ■■
ISO9001の箇条7.3「認識」は、マネジメント層が部下に知識を教えるだけでは不十分です。
本当の意味での認識とは、理解された内容が行動となり、その行動が本人の内面で強化され
ていく状態です。最終的に人は自分で自分を動かすようになります。それが、「認識が根づ
いた人材が育った」状態です。組織の全員で考え、行動をしましょう。
・ 成功体験を設計する。
・ 行動した瞬間を見逃さず強化する。
・ 自己強化を促す言葉や関わりを持つ。