ISO9001キーワード  品質マネジメントシステムの「維持する4」 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年11月12日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.533 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:維持する4 ***
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人は「始める」ことよりも「続ける」ことが苦手です。そして続けるには、行動を支える
“動機づけ”が必要不可欠です。
QMSも全く同じで始めてみたが維持ができないことが多くあります。ISO9001では「品
質マネジメントシステム(QMS)を、確立し、実施し、維持し、かつ継続的に改善しなけ
ればならない」と要求されていますが、この中で最も難しいのが「維持」です。

今回は、維持に必須の「動機づけ」を高める方法を調べましたので、それらをどのように
現場の活動や運用に適用させるのかをお話ししていきます。

■■ 目標を明確にする ■■
人は「もっと頑張ろう」とか「品質を良くしよう」とか、あいまい声掛けなどでは動けま
せん。目標は、誰が見ても同じように理解できるレベルまでブレークダウンさせて明確に
することが必要です。
たとえば、「報連相を徹底する」ではなく、
 ・「朝10時までに前日の作業報告を上司に送る」
 ・「納期3日前までに顧客に納品確認を行う」
といったように、“いつ、誰が、何を、どのように”を明確にすることが必要です。

■■ 方針の共有■■
人はなぜやるのかが、腹落ちしていないとその行動を続ける行動を弱化させます。どれだ
け目標が明確であっても、「その目的が分からない」と感じるとやる気が湧いてきません。
「動機づけ」を高めるには、「組織の方針や理念が、現場で具体的に語られること」が重
要です。
たとえば、品質方針が「顧客満足の向上」であれば、
 ・「なぜ5Sを続けるのか」→「顧客に安心感を持ってもらうため」
 ・「なぜ報告書が必要か」→「納品トラブルを減らし、信頼につなげるため」
というように、一人ひとりの行動を方針につなげる説明が求められます。

■■ 方法の明示 ■■
人は「やってみよう」と思ってもどうやって?が分からないと前に進めません。そのため
に、目標を達成する方法を可視化することが必要です。
 ・業務改善の工程表を作る。
 ・人材育成のステップを明示する。
 ・「達成のためのツールや手順」をマニュアル化する。
達成するまでの道のりを示すことで、安心して行動できる環境が生まれます。

■■  自己決定感 ■■
人は「やらされる」より「選べる」とやる気が出ます。目標や方法を自分で決めたという
感覚(自己決定感)によって人の内面には自然と動機づけが高まるベクトルが生まれます。
たとえば:
 ・目標設定に本人の意見を取り入れる。
 ・育成計画の一部を本人が選べる形式にする。
 ・改善テーマを職場単位で決めさせる。
「選べる」「任されている」と感じる仕組みづくりが、長く続く行動の土台になります。

■■ 動機づけを維持する ■■
動機づけを維持するには、挑戦と成功体験のバランスがカギになります。挑戦する目標が
高すぎると自分にはできないと思いますし、低すぎると自分がやるまでもないと思います。
高すぎず、低すぎずという目標設定が重要です。目標設定が適度な難易度であると、小さ
な成功体験を積み重ねることができ、「やればできる」感覚、すなわちバンジュールが言
う「自己効力感」が育まれます。
 ・「5S活動の徹底」より「まずは机の引き出しから」
 ・「年間20件の提案」より「毎月2件の提案」

■■ 失敗のとらえ方 ■■
目標を達成できなかったとき、人は「自分に能力がない」と思いがちですが、そんな時に
は能力ではなく他の要因に目を向けさせることも必要です。
失敗した多くのケースの要因にありがちなものに「努力(時間や準備)」です。努力の問題
だったと本人が認識すれば次回のチャレンジにつながります。
人は何度も失敗を繰り返すと、「どうせやっても無駄」と感じ行動をやめてしまいます。こ
れを心理学では「学習性無力感」というそうですが、このような状態になった人には、「目
標の高さを思いきり下げる」ことで対処することが良いそうです。まずは「できた!」と
いう感覚を取り戻すことが最優先です。

■■ 努力をほめる ■■
うまく行ったときには結果もさることながら、結果に至ったプロセスを誉めることが次の
行動を引き出します。「すごいね、早かったね」よりも「コツコツ続けてたね」「工夫して
たね」と、努力や準備に良さ(行動プロセス)を誉めることがポイントです。
結果が出なかったときも、「ここまでよく取り組んだ」と声をかければ、「またやってみよ
う」と思えるのです。
「やる気が出ないから始められない」という声はよくあります。心理学的には事前の行動
が「やる気を生む」のだそうです。
 ・少しだけ手をつけてみる
 ・過去の記録を読み返す
 ・話し合ってみる
こうした行動のきっかけが、やる気の火種になります。「やる気を出してもらう」のでは
なく、「やる気が出る環境をつくる」ことが、マネジメントの役割です。