2025年11月19日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.534 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:維持する5 ***
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ISO9001:2015箇条4.4.1には、「組織は品質マネジメントシステム(QMS)を確立し,実
施し,維持し,かつ継続的に改善しなければならない」とあります。
「確立」や「実施」は、比較的わかりやすく取り組めます。しかし、時間が経つほどに忘
れ去られ、形骸化しがちなのが「維持」です。
■■ 行動を見る ■■
この「維持」を実現するために、行動心理学の知見をご紹介します。行動心理学では人の
行動は“習慣”であり、行動は“仕組み”を変えることで変えられると説きます。QMSの「維
持」もまた、“仕組みで人の行動を継続させる”ことに近づけると考えます。そのためには
人の行動分析が必要です。
行動分析とは、人の行動を「性格」や「気持ち」からではなく、何等かからの“反応”とし
て捉える考え方です。
つまり、
・✕「あの人はやる気がない」←気持ち
・〇「決められたタイミングで報告していない」←決められたことへの反応
・〇「決められた手順を2回に1回忘れている」←同上
といったように、行動そのものに注目します。
この視点がISO9001の「維持」と深く関係するのは、「維持されない=決めた行動が続い
ていない」という問題だからです。
■■ 望ましい行動がとれない状態 ■■
行動心理学では、行動を観察・分析・調整することで、行動を組織に定着するように設計
できると説きます。私たちはときに「この人は仕事ができない」と包括的に言ってしまい
がちですが、行動分析の観点では、「仕事ができない」とは「ある場面で、適切な行動が
とれていない」と想定します。
そう想定する前提には、「行動は訓練/環境の整備によって変えられる」という考え方があ
ります。
つまり、「行動は変えられない/変えることは大変」と考えるのではなく、「行動が訓練され
ていない」あるいは「行動する環境が整っていない」からだと考えます。
■■ 行動変化の流れ ■■
行動を変えるには、大きく次の2つの方法があります。
(1)行動を増やす(強化)
(2)行動を減らす(弱化・置換)
この基本フローは以下のように説明することができます。
たとえば、「日報を出す」という行動を増やしたいときには:
・動機を高める(目的を明示、達成感を提供)
・取り組みやすい刺激を与える(テンプレート、音声入力)
・行動を繰り返す仕組みを作る(毎日15時のリマインダー)
・継続的に評価・称賛する(「読んだよ」「ありがとう」のフィードバック)
逆に、望ましくない行動(例:報連相の遅れ)を減らしたいときは:
・行動の原因(怒られる不安、面倒さ)を軽減
・行動を誘発する刺激(曖昧な業務指示など)を減らす
・他の行動(即座のチャット報告など)に置き換える
このように、「行動は変えられる」と考えることで、QMSの“維持”は実行可能な現実的テ
ーマとなります。
■■ 刺激と結果が“行動”を強化する ■■
人は「この行動をすると良いことが起きる」と感じたとき、その行動を続けます。
・報告したら上司が「ありがとう」と言った → 次も報告しよう(正の強化)
・手順通りに作業したらミスが減って楽になった → 続けよう(負の強化)
逆に「この行動をすると悪いことが起きる」と感じたとき、その行動を止めます。
・チェックリストを出したら「手抜きか」と言われた → やめる(弱化)
・報告しても無視された → もう報告しない(消去)
このように、人の行動は周囲の反応によって左右されます。だからこそ、適切な訓練と環
境を職場に設計することが重要になります。
ISO9001において、「文書を整えること」や「教育記録をそろえること」も大切ですが、
それ以上に大事なのは、「人が正しく行動する」訓練と環境を整えることです。
具体的には以下のアプローチが有効だと思います。
(1)行動目標の明確化
→ 「時間を守る」より「朝9:00までに日報送信」と具体的に
(2)小さな成功体験の提供
→ 初期は目標を低く設定し、成功感を得ることを優先
(3)行動に対する即時フィードバック
→ 上司や仲間から「できてるね」の声がけを習慣に
(4)望ましい行動の見える化
→ 行動頻度の記録や、取り組み内容の掲示をする。
(5)望ましくない行動の刺激や動機の除去
→ 面倒な手続き、曖昧なルールなど“やらなくなる原因”を見直す。
