2025年11月26日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.535 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:維持する6 ***
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ISO9001:2015における「維持しなければならない」という言葉は、非常に重みがあります。
「一度やれば終わり」ではなく、「やり続ける仕組みを持て」という規定です。規定のよう
にしたいと仕組みを考えますが、人は続けることが苦手です。始めたはいいが、数ヶ月後
には元通りになっている、これが多くの職場に見られる現象です。
■■ シェイピング法 ■■
ISO9001の“維持する”について「行動を続けさせる技術」のひとつであるシェイピング法に
ついて調べてみました。
シェイピング(shaping)とは、「目標行動に至るまでの段階的なスモールステップを設定し、
それぞれの時点で強化(ほめる・認める)を行う方法」です。この方法のポイントは「でき
ていないところだけを強化する」ことです。すでにできている行動をほめ続けても、新たな
成長は生まれません。
人が新しい行動に挑戦したとき、そのタイミングを逃がさずに「素晴らしい」と強化するこ
とで、次の段階へ進もうという意欲が高まります。
■□■ シェイピング法の応用 ■□■
職場へのシェイピング法の応用について説明します。最初は「文書の最新化」についての例
です。文書の最新化の業務を3つのステップに分けます。
【ステップ1】文書を読んで理解する。
【ステップ2】現状を調べ文書との間にギャップが無いかチェックする。
【ステップ3】文書を改訂する。
この3つのステップの過程をフォローしステップ終了ごとに声を掛ける(行動を強化する)。
2番目の例を「新人教育」で説明します。
【ステップ1】マニュアルの1章を読む。
【ステップ2】実際に手順通りやってみる。
【ステップ3】応用できるようになる。
この3つのステップの過程をフォローしステップ終了ごとに声を掛ける(行動を強化する)。
3番目の例を「改善提案制度」で説明したいと思います。
【ステップ1】内容にいかんにかかわらず改善提案を出す。
【ステップ2】具体的に実施する。
【ステップ3】効果を確認する。
この3つのステップの過程をフォローしステップ終了ごとに声を掛ける(行動を強化する)。
このように、「次に何をすれば褒められるか」を明確にすることで、人は段階的に目標に近
づく行動を行い、仕組みは維持されるようになっていきます。
■□■フォワードとバックワード ■□■
上記シェイピング法では、ステップ1からだんだん行動を強化する(注目する、ほめる)
ことを説明しました。このようなステップ1から行動を順次強化する方法をフォワードシェ
イピングと呼びます。
この方法はステップが比較的短い場合に有効ですが、長い場合はフォローする方も大変です
し、実施する方も長いステップの途中で力が削がれてしまうケースも出てくるでしょう。そ
のような場合には、後ろの行動(結果の行動)から順次前に遡って行動を強化する(注目す
る、ほめる)方法が考えられます。後ろの行動からといっても現実は前の行動から進みます
から、現実と仮想との組み合わせを考えることになります。
【ステップ1】で最初の行動が終った時、最初の行動を強化すると同時に仮想的行動(達成
したと仮定した行動)を組合せで誉めます。【ステップ2】では、2番目の行動(現実)と後
ろから2番目の行動(仮想)を組み合わせて強化します。このような方法をバックワードシ
ェイピングと呼びます。
ISOの仕組みを維持するには、プロセスそのものを“行動の連続”として観察し、分割し、強
化することが必要です。
■□■ 維持するポイント ■□■
行動はスモールステップの一連の流れと考えます。ISO9001で規定されている「維持する」
は、「行動を定着する」と言い換えられます。
行動の定着をどう支えるかは、現場マネジメントに委ねられています。一気に完璧を求めず、
行動をステップに細かく分けて強化することがポイントです。
これが、行動心理学の知恵を活かした「維持する仕組みの作り方」です。
