Category Archives: つなげるツボ

マネジメントシステムには良い設計が必要2 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.24  ■□■

  *** マネジメントシステムには良い設計が必要2 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回も「マネジメントシステムには良い設計が必要」について
その2のお話をしたいと思います。

■□■ 多様なニーズによって影響を受ける ■□■

ISO9001:2008序文の2番目にある“b)多様なニーズ”とは、
経済状況、社会的要求、利害関係者のニーズ、顧客の嗜好など、
まさしく多様なものを指します。

経済状況とは主に景気の変動により経済がいろいろ変化しますが、
そのおかれた状況をいいます。

社会的要求には2つタイプがあります。1つは法律のような
強制的な要求です。社会はいろいろな要素により進化していきます。
例えば、技術進歩、思考変化、年齢構成変化などです。
もう1つは、自主的な要求です。これはゆるやかな規制ともいう
べきもので、要求に従っても従わなくてもいいのですが、従わないと
仲間はずれにされてしまうようなものです。

利害関係者のニーズは、顧客、株主、従業員、行政、住民の
ような利害関係者から期待される事柄をいいます。

市場における顧客の嗜好は、把握することが難しいものですが、
組織の製品の販売に即影響を及ぼす重要なものです。

■□■ 経済状況 ■□■

組織を取り巻く状況は刻々と変わっていきます。特に経済状況は
ちょっと目を離すと、もう変化しているということがよくあります。

景気変動は必ず起きます。しかも先を見越すことはかなり困難
です。それは景気変動が人々の気ままな行動の総合として起こる
ため、経済理論すなわち理屈では説明がつかないためである
といわれています。

景気変動には短期と長期があります。短期的な変動は政府の
政策に影響を与えます。政府の予算などその年ごとどちらかと
いえば細かな調整が行われます。それによって組織の販売戦略
なども影響を受けます。

長期的な変動は、ここでは5~10年位の変動を意味していますが、
経済学では30年変動説が有名です。変動の年数は別として組織は
長期的変化を意識しなければなりません。

■□■ 社会的要求 ■□■

社会的要求で最近強いものが環境への配慮です。ISOで作成中の
CSR(Corporative Social Responsibility)規格ISO26000の中でも
環境への戦略は重要な位置付けとなっています。

特に物作り組織においては環境配慮はいまやトップマターで、
長期的な製品戦略に欠かすことにできない要素です。

次いで最近要求の強いものが「社会的倫理」であろうかと思い
ます。社会が落ち着き、成熟化してきますと皆あまりガツガツ
しなくなり、倫理に基づいた行動が要求されます。

話しは変わりますが、先週所用でモンゴルへ行ってきました。
モンゴルはちょうど30~40年前の日本と同じ社会事情ですので、
社会的要求も現在の日本とは全く異なるものを感じました。

■□■ 利害関係者のニーズ ■□■

これには行政からの規制、労働界からの要請、金融市場のニーズ、
大学・学会などからのリクエスト、地域社会・NGOなどの意見、
海外からのプレッシャーなど種々雑多なコンテンツが混ざり
合っています。

これら多くの中から組織は自分たちに必要なもの(ニーズ)を
選ばなければなりません。

常日頃どのような利害関係者の動向をチェックしておくべきか
決めておき、それらを定期的にフォローすることも必要なこと
です。

■□■ 顧客の嗜好 ■□■

顧客は気ままです。決してあなたの組織から物を買ったり、
サービスを受けたりしたいと思っていません。どこの組織の物、
サービスでもよいのです。要は自分の欲しい物がある組織、
会社から買うだけのことです。

しかも、顧客は自分の買いたいものを明確に分かっていない
場合が多いのです。勿論漠然とは分かっているのですが、供給者側
からいわれて始めて買うつもりになるケースが多いのです。
このことは自分自身のことを考えてみれば直ぐにわかることです。

では顧客に自分の会社の製品、サービスを買ってもらうには
どうすればよいのでしょうか。それへの結論は、自分の製品を買って
もらうことを考えるのではなく、顧客のニーズに合った製品を供給する
ことを考えることです。

よく言われているように、プロダクトアウトからマーケットインに
考え方を変えていかなければなりません。

■□■ ISO9001:2008の要求事項 ■□■

ISO9001:2008の要求事項には、「多様なニーズ」にフォーカスして
QMSを設計する場面が幾つかありますが、例えば、「7.2.1
製品に関連する要求事項の明確化」においては、次のような
要求がされています。

“組織は,次の事項を明確にしなければならない。
a)顧客が規定した要求事項。これには引渡し及び引渡し後の
活動に関する要求事項を含む。
b)顧客が明示してはいないが,指定された用途又は意図され
た用途が既知である場合,それらの用途に応じた要求事項
c)製品に適用される法令・規制要求事項
d)組織が必要と判断する追加要求事項すべて”

ここで要求されているa)~d)は、経済状況、社会的要求、利害
関係者のニーズ、顧客の嗜好などに関係するものばかりで、
まさしく組織の品質マネジメントシステムに影響を及ぼす多様な
ニーズから導き出されるものといっていいものです。

マネジメントシステムには良い設計が必要 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.23  ■□■

  *** マネジメントシステムには良い設計が必要 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

前回は「いいものは設計がいい」お話をしましたが、このことは
工業製品だけでなく、マネジメントシステムにも同様に言える
ことです。

今回は「マネジメントシステムには良い設計が必要」について
お話をしたいと思います。

■□■ ISO9001:2008序文 ■□■

ISO9001:2008の序文の「0.1一般」には、「品質マネジメント
システムの設計(design)」という表現が次の一節に出てきます。

【品質マネジメントシステムの採用は,組織の戦略上の決定に
よることが望ましい。組織における品質マネジメントシステムの
設計及び実施は,次の事項によって影響を受ける。
a)組織環境,組織環境の変化,及び組織環境に関連するリスク
b)多様なニーズ
c)固有の目標
d)提供する製品
e)用いるプロセス
f)規模及び組織構造
この規格は,品質マネジメントシステムの構造の画一化又は
文書化の画一化を意図していない。
この規格で規定する品質マネジメントシステムについての要求
事項は,製品に対する要求事項を補完するものである。】

改めて読むと、「品質マネジメントシステムの設計」の部分は、
ある意味で新鮮なものです。

ある意味で新鮮とは、歴史ある組織ほど、既に運用されている
システムを「設計(design)」という感覚で見ることはなかった
のではないか、と思ってのことです。

■□■ ISO9001:2008序文の意味するところ ■□■

従来ISO9001規格の序文はあまり注目されてきませんでした。
しかし、マネジメントシステムの有効性が強調されるように
なってから、序文の中の「一般」、「プロセスアプローチ」などが
注目を集めています。

品質マネジメントシステムの設計と規格本文の7.3「設計・
開発」とは直接関係ありませんが、設計(design)と
いう表現、そして以降に羅列されているa)~f)は、「7.3.2設計・
開発へのインプット」を彷彿とさせるものです。

【7.3.2 設計・開発へのインプット
:製品要求事項に関連するインプットを明確にし,記録を維持
 しなければならない(4.2.4参照)。インプットには,次の事項を
含めなければならない。
a)機能及び性能に関する要求事項
b)適用される法令・規制要求事項
c)適用可能な場合には,以前の類似した設計から得られた情報
d)設計・開発に不可欠なその他の要求事項
製品要求事項に関連するインプットについては,その適切性を
レビューしなければならない。要求事項は,漏れがなく,あいまい
(曖昧)でなく,相反することがあってはならない。】

ここに掲載したISO9001:2008規格の「7.3.2設計・開発への
インプット」は製品・サービスの設計をするときに、考慮せねば
ならない要素を上げています。

文中に「・・・を含めなければならない。」とあるように、これらの
インプット要素は最低限のものであって、これが総ての
インプットではありません。

組織は固有のものですから、規格が一律要求するインプット以外、
組織には多くの設計へのインプットがあることは当然のことです。

このことと同様に、マネジメントシステムの設計に影響を与える
要素、ここでいう設計へのインプットは序文で上げているa)~
f)だけではありません。

組織のマネジメントシステムの設計へのインプットには、組織固有の
インプットがあってよいわけで、むしろ固有のものがあるべき
だと思います。

■□■ 組織環境・・によって影響を受ける ■□■

序文0.1一般には、品質マネジメントシステムの設計がa)~f)に
よって影響を受けるとありますが、a)~f)は設計する際に考慮
すべきインプット要素であるといえます。一つずつみてみましょう。

【a)組織環境,組織環境の変化,及び組織環境に関連する
リスク】
このインプット要素は、例えば、組織がどんなインフラストラ
クチャーを必要とするか、設備するかに関係します。

【6.3 インフラストラクチャー
組織は,製品要求事項への適合を達成するうえで必要とされる
インフラストラクチャーを明確にし,提供し,維持しなければ
ならない。インフラストラクチャーとしては,次のようなもの
が該当する場合がある。
a)建物,作業場所及び関連するユーティリティー(例えば,
 電気,ガス又は水)
b)設備(ハードウェア及びソフトウェア)
c)支援体制(例えば,輸送,通信又は情報システム)】

認証審査において、上記「必要とされるインフラストラクチャーを
明確にし,提供し,維持しなければならない。」の部分を
審査するのはあまり意味が無いと考えている審査員が多いと
思います。しかし、組織がa)でいう「組織環境,組織環境の変化,
及び組織環境に関連するリスク」をどのように考えているのかを
審査で確認することになるならば意味があると思います。

序文の2番目“b)多様なニーズ”以降は、次回でお話したいと思いま
す。

いいものは設計がいい | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.22  ■□■

  *** いいものは設計がいい ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回は「いいものは設計がいい」についてお話をしたいと思い
ます。「設計(design)」は工業製品だけでなく、サービス提供
あるいはマネジメントシステム構築にも重要なものです。

今回も宜しくお願いいたします。

■□■ 高層建築時代 ■□■

この不景気な時代に首都圏では続々と高層ビルが建設されて
います。首都圏のみならず地方都市にもこの波は順次波及して
いくとみてよさそうです。

狭い国土を有効に使おうとすれば、上に伸びていかざるをえない
ということで、技術の進歩とともに日本にも本格的な高層建築
時代がきたようです。

そこで心配になるのは、地震対策です。震度7とか8とか、
大きな地震が来たときに本当に大丈夫なのでしょうか。

素人からみても免震構造だとか耐震設計だとかいわれると、
ポイントは構造設計にあると感じます。

残念ながら、よい構造設計とはどんな設計かは我々にはよく
分かりません。数年前、偽装構造計算問題(姉歯問題)が発覚
したとき、専門家でも本当のところは見抜けないことが分かり
ました。

■□■ 最近の家電は故障が多い ■□■

家電製品について、ここ10年くらいの実感ですが、昔はなかった
ような故障がけっこう多く目立ちます。

データを持ち合わせているわけではありませんが、いろいろな
家電製品が次から次へと市場に登場するなか、品質管理が
しっかりできているか心配です。

新製品サイクルが短くなる、すなわち直ぐに次製品を立ち上げ
ざるを得なくなってくると、初期流動品質を把握、改善する時間が
確保できなくなります。

設計者に初期流動時に起きた品質不良情報が的確に伝わらない
と、次期新製品へのフィードバックがされなくなります。

マーケット構造の変化、すなわちハイスピード社会に適合した
製品設計が望まれるところです。

■□■ 電子化された自動車 ■□■

私はここ数年の間に自動車を2回替えました。少ない経験ですし、
日本車、外車による違いもありますので一概には言えないの
ですが、電装関係のトラブルが多いような気がします。

私が経験したトラブル4件のうち、半分は自分が新しい機能を
理解していなかったことが原因でした。しかし残り2回は明らかに
車の方の問題であったと思っています。

昨今の車のコンピュータ化には目覚しいものがありますが、
それに対するユーザーの知識は十分ではないように思います。
私が特殊なのではなく、60歳代のユーザーは大体私程度の知識
しかないのではないかと思います。

かつての自動車はもっとわかり易かった、単純で機能本位で
あったかと思います。ところが、コンピュータ(マイコン)の発明で
いろいろな機能が追加され、しかも以前からあった機能との
オーバーラップが存在します。

ユーザーにわかり易い、使い易い製品の設計こそがよい設計
です。

■□■ 組織のシステム ■□■

組織構造を考えるときにも「設計」に留意する必要があります。
歴史ある長い組織では往々にして、継ぎ足しの組織構造に
なっています。

現実の組織構造は無視できないものですが、純粋に論理的に
組織構造を設計してみることも重要なことです。

組織のシステムは、多くの要素からできています。例えば、人、
設備、建物、材料、部品、手順書、規定書などですが、それらが
お互いに「繋がっている」ことがポイントです。

システムとは繋がっていること、このメルマガのタイトルは
「つなげるツボ」ですが、つながるように設計することが重要
です。

マネジメントシステムも同様です。例えばQMS(品質マネジメン
トシステム)ですと、組織にあるQMSに必要な「プロセス」を明
確にすることから設計は始まります。

負のスパイラル | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.21  ■□■

  *** 負のスパイラル ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回は「ISOの世界の、負のスパイラル」についてお話をしたい
と思います。

今回も宜しくお願いいたします。

■□■ マネジメントシステムと中身 ■□■

最近、ISOの世界では有効性審査ということがいわれています。
ISOマネジメントシステムに関して5年前に話題に上がった「負の
スパイラル」について話をしたいと思います。

これはISO9001(品質)、ISO14001(環境)の仕組み構築の実効性
を問題にした議論でした。

例えば、環境問題は地球温暖化に留まらず、今や全世界の人に
とって無視できない問題になっています。小学生も学校の授業の
中で様々なことを学んでいます。

ISO14001規格は、環境に関するマネジメントシステムを扱って
います。その根本原則は、組織の中にシステム(仕組み)を作る
ことですが、環境マネジメントシステム活動の結果、何らかの
具体的な成果が得られることを期待しています。

しかし、組織が環境マネジメントシステムを構築しISO認証を得て
いるからといって、かならずしも環境に関して良い結果を
もたらしているとは言えないことが問題視されています。

マネジメントシステムは結果を保証しているものではありませんが、
結果を得るためには必要なものです。しかし、マネジメントシステムが
「必要条件」であっても、「十分条件」ではないことは、関係者以外に
十分理解されていません。特に一般国民、消費者には理解されて
いないので、第三者認証制度のもつ意味が正しく一般に伝わって
いないと思います。

認証を取ったからOKということではなく、それを出発点として、
如何に地球環境のために活動をしていくか、中身が問われて
いますが、組織でのこの認識の甘さが問題に拍車をかけています。

■□■ 環境について学ぶには  ■□■

テクノファでは、環境について学ぶ様々なコースを取り揃えて
おります。

CERA承認 ISO14000リフレッシュコース(TE23)
http://www.technofer.co.jp/training/iso14000/te23.html

ISO14000CPDコース(TE24)
http://www.technofer.co.jp/training/iso14000/te24.html

温室効果ガス排出量算定・取引コース(TM79)
http://www.technofer.co.jp/training/management/tm78.html

他にも、多数ございます。

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■□■ QMSに係る負のスパイラル ■□■

だいぶ前(5年前)の資料ですが、
経済産業省から出た「MSS専門委員会報告書」の中に、『負の
スパイラル』とネーミングされた、ISO 認証の世界では有名な
図があります。

タイトルは「QMS(品質マネジメントシステム)に関する負の
スパイラル」となっていますが、環境マネジメントシステムなど
他のマネジメントシステム(情報セキュリティ、労働安全衛生)
に関しても共通的の話題でした。

負のスパイラルという言葉は、簡単に言えば、形ばかりで中身が
伴っていないことを、行政側からISO業界に対して痛烈に警鐘を
鳴らしたものです。

ある時期、ISO関連ビジネスは儲かるという認識が広まり、
非常に多くの方々(企業)がこの業界に参入してきました。

私たちの研修セミナーにも大勢のお客様が足を運んでください
ました。しかし、「皆様に、十分ISOの真髄をお伝えできたか」
と今、思い返してみると、反省すべきことが山ほどあります。

■□■ 山ほどある反省 ■□■

組織の方々も、ISOの認証さえ取れば受注拡大につながる、
会社の評判が上がるといった、見かけ上の効果に気を取られて、
認証取得後の会社発展のために、マネジメントシステムをどの
ように使いこなしていくか、ということにまで十分な検討を行なわ
なかったというところもあるのではないでしょうか。

残念ながら、そのような背景の下に、ISOに係るビジネスモデル
は、産業界の発展、国益向上に多くつながらず、弊害の方が
目立つようになってきてしまいました。

ISO認証を得たのに、製品の品質は向上しない、利益につながら
ない、審査のためだけにシステムがあり実際に活用されて
いない、などの声が挙がるようになりました。

時間とお金を使って、ISOの認証を取得し、維持しているにもか
かわらず、それが企業活動におけるリターン(売上、利益など)
につながっていないということなのです。

国、自治体などの強制法規にもとづく認証とどこに違いがある
のか考えさせられました。

その結論は、競争原理のコントロールに大きな違いがあると
いうものです。ISO認証制度においては、競争原理が適切にコント
ロールされていないのではないかということです。

■□■ 認証制度に競争を持ち込むと・・・ ■□■

『負のスパイラル』のポイントの一つに認証機関同士の競争が
あります。

競争に勝つには顧客を多く獲得する、すなわち市場シェアを多く
取らなければなりませんが、そのために顧客に迎合する認証が
行われる傾向が出てきます。

現在日本で活動している認証機関の数は60とも70とも言われて
います。これだけの認証機関が存在し、かつある一定以上の
認証数を確保しなければ存続が困難であるという状況下では、
負のスパイラルに陥ることは十分にありえます。

5年前に負のスパイラルの議論がされて以来、そうならないために
いろいろな対策が議論されてきました。しかし、なかなか成果に
結びつかないのが現状です。

本来認証行為の役割は、利益を度外視した社会基盤構築にある
といっていいと思います。認証機関の数の多さが負のスパイラル
の要因の一つになっていると思います。

資格試験合格と職業適性 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.20  ■□■

*** 資格試験合格と職業適性 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回は「資格試験合格と職業適性」についてお話をしたいと
思います。

今回も宜しくお願いいたします。

■□■ ISOの審査員研修コースの合格率 ■□■

東京都検証主任者試験の合格率は20%位か?と、かつて書き
ました。これは国家資格試験並みの難関ですが、今後試験内容が
明らかになるにしたがって、徐々に合格率は上がっていくのでは
ないかと思います。

翻って、ISO審査員研修コースの合格率はどうでしょうか。

コースの種類(品質、環境、情報セキュリティなど)や、研修機関
によって当然異なりますが、海外他国の状況も含め検証主任者
試験の逆というところです。すなわち、80~90%程度の合格率
になっているのではないかと思います。

あえて極言すれば、勉強すれば合格できる試験であるといえる
ものです。審査員資格を取得すること自体は、現在の枠組み
では、それ程ハードルは高くなく、多くの人が突破できる道なの
です(当然のことながら、一生懸命勉強しなければ合格できま
せん)。

20%と80~90%の違いは、後者に5日間研修コースが試験の前段階
に用意されているところにあるのだと思います。つまり、受験前に
5日間 ISO規格の要点などを学び、質問にも懇切丁寧に答えて
もらえるという過程が存在することが大きく合格率を押し上げている
のだと思います。

■□■ 資格試験と職業適性 ■□■

現行のISO審査員資格制度では、意欲を持つ人であれば、資格取得
はまずできるのではないかと思います。

問題は、それらの方々が、たとえ優秀な方々であっても、審査員
という職業に向いているかどうかということです。

ISO審査員に求められる力量については、ISO19011などの規格
にも示されています。

現実的な言い方をすれば、勉強だけできる人では、務まらない
仕事です。質問する力、聞く力、判断する力、それも、人を相手
にした仕事です。

さらにごく限られた時間の中で、そのやり取りを相手として、
その上で、都度判断して、進めていかなければいけない仕事
です。

じっくり腰を据えて行なう仕事(例えば調査・研究業務)とは
かなり異なります。観察力、判断力、対人折衝力に加え敏捷力
などが求められる仕事なのです。

■□■ 職業適性をどうみる ■□■
審査員という職業の適性を見抜くには、残念ながら従来型の筆記
試験だけでは不足です。

そこに風穴を開けるべく、3年前よりJRCA(財団法人日本規格
協会マネジメントシステム審査員評価登録センター)では面談
形式の力量試験を取り入れました。

この力量試験、私自身も試験員として時々対応しますが、意義
深い、効果のある試験形式と思っています。

受講生が試験員(たいていの場合は講師)と1対1で、まさに審査
さながらのやり取りをする中から、適合、不適合の判断をして
いく試験です。

制度発足当初、たった10分間の面談形式の力量試験で何を見る
ことができるのか、評価できるのか、と疑問を呈する声も上がり
ました。

ですが、実際にその試験問題を作成、設定し、実施してみると、
10分間あれば、十分です。

これから審査という仕事を専門にされていく方のQMS(品質マネ
ジメントシステム)に対する理解度を含めた適性を見る、という
点では、極めて有効な試験です。

多くの方にとって、このような体験は初めてであるが故に、緊張
されるのをみて気の毒に思いますが、審査員という職業を考え
れば、実際の審査先ではこれ以上の緊張感を味わうことになります。

■□■ 面談形式の力量試験 ■□■

いざ面談形式の力量試験が始まると、その方の癖が様々な面で
表れてきます。

おとなしい性格の方、遠慮深い性格の方など、なかなか質問が
てきぱきと繰り出せずに苦労されます。

一方、思い込みの激しい方、自信満々の方などは、自分の予想
内の問答であればよいのですが、ちょっと予想外の返答が返って
くると、一気に詰まってしまわれます。

そして、中にはごく少数ですが、非常に不愉快なコミュニケー
ションをとってこられる方もいらっしゃいます。

管理職として、部下の教育などの現場でもまれてきた方、営業
経験の中で苦労されてきた方であれば決してとらないであろう
コミュニケーションスタイルをお持ちの方は、たとえどれほど
規格についての知識をお持ちであっても、サービス業である
審査員には残念ながら向きません。

そういった、様々な点がこの10分間の力量審査の中でよく見る
ことができるのです。

■□■ フォローアップ研修の必要性 ■□■

現在の力量試験を発展させると、既存の審査員のトレーニング
及び評価として面白いものができそうです。

認証機関(審査登録機関協議会:JACB)と、要員認証機関(JR
CA、CEAR、IRCAなど)、また被認証組織(各種工業会)も加え
て、自分たちに役立つ審査員トレーニング制度を作っていく必要
があります。

一番重要なことは、認証を受ける組織の声を必ず入れるように
することです。

審査は、何よりも、審査を受ける組織が、価値を見出してこそ、
存在意義があります。どのような点に価値を見出すかは、組織
によって様々です。

残念ながら、ISO審査員に組織経営の経験者はそう多くはおられ
ないと思います。そうであれば、審査員には、もっと組織経営
について知ってもらう教育をすべきです。

その上で、審査員はマネジメントシステムをどのように使い
こなすか、経営者の目線になって、その組織の審査を品質
なり、環境なり、情報セキュリティなりの分野を評価するのです。

■□■ 期待される審査員象 ■□■

経営者の目線になれることこそが、プロセスアプローチ審査
の真髄なのです。経営というプロセスを理解した上で、品質経営、
環境経営、情報セキュリティ経営などを評価するのです。

同時に、現場におけるプロセスも評価できなければなりません。
企業競争力は現場力で決まる要素を多く持っているからです。
規格要求事項の細部も決しておろそかにしない審査も一方では
大事なのです。

いってみれば、トップの視点と現場監督の視点の両方(組織
総てのプロセスの理解)を兼ね備えた審査員が必要なのです。

そのような力量を持った審査員は、現時点でももちろんいますが、
残念ながら少数です。いま、審査員の淘汰が始まっています。

優秀な審査員には、どんどん仕事が依頼される。一方、力量
不足の審査員は、いつまで経っても仕事にありつけない。

当然のことといえば当然ですが、このような期待される審査員
を如何に多く育成していくのかが、第三者審査制度を更に意義
あるものにしていく一つの道です。

もし、ご希望があれば、テクノファで、このようなことを議論
する勉強会を立ち上げてもよいと思っております。