ISO9001キーワード 非差別的(社会的要因)―多様性2 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年2月5日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.495 ■□■
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*** ISO9001キーワード 非差別的(社会的要因)―多様性2 ***
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多様性 (Diversity) という英文のDが頭に使われている DEI(ディーイーアイ)
がトランプ大統領によって否定され、世界で混乱が広まっています。それはさ
ておき、私が「多様性」という言葉を最初に知ったのは「生物多様性」からで
した。それから半世紀が経ちましたが、生物多様性の重要性を認識させた最初
の国際条約を紹介します。

■■ ラムサール条約 ■■ 
ラムサール条約という名前を聞いたことがあるでしょうか。ラムサール条約は、
約半世紀前に採択された、先駆的な生物多様性に関わる国際条約です。今のよ
うに生物多様性の重要さが一般的に知られていなかったずいぶん昔の1971年
に国連により採択されました。
イランのラムサールという都市で採択された湿地に関する条約ですが、正式な
名称は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といい
ます。採択の地にちなみ、一般に「ラムサール条約」と呼ばれています。
世界には湿地がいくつもありますが、湿地は国境を越えて暮らす水鳥たちの生
息地として、重要な役割を果たしています。こうした湿地と、そこに生息する
動植物の保全を目的に策定されたのが、本条約です。日本がラムサール条約に
基づき登録した湿地は50か所あります。

■■ ワシントン条約 ■■
生態系保全/生物多様性を目的にした条約は、そのほかにワシントン条約があり
ます。ワシントン条約は、絶滅するおそれのある野生生物を保護する国際条約
のことで、正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関す
る条約」です。1973年にアメリカ・ワシントンにおいて、米国政府および国際
自然保護連合(IUCN)が中心に働きかけ国際条約として採択されました。
ワシントン条約が対象としているのは、絶滅のおそれのある野生動植物ですが、
これらの動植物は、保護の必要性に応じて3つの区分に分けられ、それぞれの
レベルに応じて国際取引の規制が行なわれています。

■■ 生物多様性条約 ■■
ラムサール条約とワシントン条約は、野生生物の種の絶滅やその原因となってい
る生態系の破壊に対して一定の効果を及ぼしました。しかし、特定の地域や特定
の種のみを守るだけでは、多様な生態系全体を保護することはできないことが問
題視されるようになりました。このような背景から、さらに包括的な取り組みを
行うための議論が、1992年5月、ケニアのナイロビで準備会議として行われ、
同年6月、ブラジルのリオデジャネイロ「環境サミット(国連環境開発会議)」で
他の多くの地球環境に関する条約と一緒に採択されました。「生物多様性条約」が
日本を含む196ヶ国が署名しました。ただし、アメリカは批准をしていません
(条約に対する国内承認)。
人間は、多様な生物による絶妙なバランスのなかで、現在の生活を維持しています
が、人間の増加と経済活動活発化により生態系の破壊が進み、生物の多様性が失わ
れようとしています。

■■ カルタヘナ議定書 ■■
「カルタヘナ議定書」とは、生物多様性条約のもと、遺伝子組換生物(Living Modified
Organisms、LMO)による国境を越える移動について定めた国際的な枠組みのこと
です。科学の進歩によって、生物の構造がだんだん明確にされてきました。人間も
含めてすべての生物には遺伝子設計図があり、親から子に生物の特質が伝達され、
その情報はDNAの中に書き込まれているということが分かってきました。その結果、
遺伝子の設計図を修正することで子の特質を変えることができるとして、例えば、数
が多くできるジャガイモとか、甘いイチゴとか多くの植物に適用がされ始まりました。
しかし、遺伝子情報を組み換えることの副作用はいまだ明確でなく、多くの人に不安
を与えています。日本では、カルタヘナ議定書にもとづき、「遺伝子組換え生物等の使
用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称、カルタヘナ法)」を制定し、
2004年から施行されています。

■■ 人間の多様性 ■■
以上、生物多様性に関する国際的な取り組みについて説明してきました。人間も生物
の一つですが、日ごろ文明の利器に囲まれて、つい自然との関係に無頓着になりがち
ですが、人間も決して自然から離れた存在ではありません。生物の一種に過ぎない人
間にも多様性の重要度は他の生物に勝るとも劣ることはありません。

(つづく)

ISO9001キーワード 非差別的(社会的要因)―多様性 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年1月29日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.494 ■□■
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*** ISO9001キーワード 非差別的(社会的要因)―多様性 ***
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アメリカトランプ大統領が「多様性」を否定する考えを表明してびっくりしま
した。この10年、DEI(ディーイーアイ) Diversity(多様性)、Equity(公平性)、
Inclusion(包括性)は、その3用語の頭文字を組み合わせた言葉として、SDGと
並んで世界のトレンドとなっていました。

■■ プロセスの運用に関する環境 ■■ 
ISO9001箇条7.1.4 「プロセスの運用に関する環境」には、次のような記述が
あります。
「組織は,プロセスの運用に必要な環境,並びに製品及びサービスの適合を達
成するために必要な環境を明確にし,提供し,維持しなければならない。
注記 適切な環境は,次のような人的及び物理的要因の組合せであり得る。
a) 社会的要因(例えば,非差別的,平穏,非対立的)
b) 心理的要因(例えば,ストレス軽減,燃え尽き症候群防止,心のケア)
c) 物理的要因(例えば,気温,熱,湿度,光,気流,衛生状態,騒音)
これらの要因は,提供する製品及びサービスによって,大いに異なり得る。」

a)社会的要因―非差別的―が今回のキーワードの出所になります。
私たちは子供のころから自分を中心として他者を次の2つ、すなわち仲間と仲
間でない者に分類してみています。これは無意識のうちに行われる人間の防衛
本能です。

■■ 自分の仲間か仲間でないか ■■
小中学校ではいまでも「いじめ」問題があり、新聞の社会面記事になっていま
す。いじめは無くさなければいけない、と思いますが、人間の本能に根差して
いますので、抜本的な解決はなかなか難しいのが現状です。
無くすことをあきらめるのではなくあくまでも目指すべきですが、現実的には
いじめはあるのだと認識して、そこから芽生える小さい芽、すなわち初期のう
ちに起きる問題を摘み取ることが対応策として適切であると思います。
今回のキーワード ―社会的要因 ―非差別― も同じであり、会社/組織/社会
にもいじめと言ってもよい差別が存在します。差別は区別であり、物事の本質
に迫れば必ず現れるものでもあります。層別という言葉がTQM(Total Quality
Management)にあります。品質関係の言葉ですが、多くのデータを分析すると
きの手法として広く使われています。

■■ 層別の目的 ■■
層別とは特徴によって区別することです。例えば、国別、男女別、年代別、地
域別、人種別に区別してデータを分析すると多くの事実が見えてきます。デー
タにはいろいろな特性を持った数値が入り交ざっていますので、同じ仲間だけ
を集めると数値全体の姿が見えてくるのです。
このツールを使用する時に(区別はしますが)、差別はしません。層別の目的
はあくまでも特徴によってデータを理解しやすいようにすることですので、こ
の作業の中には差別という概念は含まれません。データの区別の例の一つとし
て「人種」を上げましたが、ここでは区別するだけで、区別属性の差を意識し
て議論することはありません。

社会にはいろいろな人がいます。人間の行動様式を分析することは、社会学に
おいていろいろな目的を果たすために有用なことです。
分析に当たっては、データ一つ一つを見ることはしません。国別、男女別、年
代別、地域別、人種などに層別して分析すると、層別する前には見えなかった
事実が浮かび上がってきます。男の人は○○、女の人は△△という区別を明ら
かにすることで目的は果たせます。

■■ 非差別の目的 ■■
ISO9001箇条7.1.4において、職場環境において差別はあってはならないこと
を記述している目的は、人々の働くモチベーションを落とさせることが無いよ
うにすることにあります。社会においても多様性のある人々が混在している人
の集まりに区別を必要とする場合はありますが、その結果差別を生じさせては
なりません。差別をなくすスタートは多様性、すなわち区別を認めることです。
人々のグループにはこのような区別できる人々がいるということを構成する人々
に明確にすることが重要で、陰に隠してしまうと差別の温床を作ることになり
ます。多様性を認め、多数派、少数派と区別しても決して差を問題にして対応
を変えることの無い社会、組織にしたいものです。

(つづく)

ISO9001キーワード 認識 量子もつれ2 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年1月22日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.493 ■□■
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*** ISO9001キーワード 認識 量子もつれ2 ***
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昨年暮れにNHKスペシャル「アインシュタインの誤りー量子もつれ」を観て考
えさせられました。今回は新春の夢物語として聞いていただきたい、人間の意識
は量子もつれかもしれないというチョット現実離れしたお話をします。

■■ Googleでの研究 ■■ 
2025年1月1日(元旦、海外は日本と違って元旦は普通に過ごす)、科学学術雑
誌サイエンスに次の記事が載りました。
「Googleの研究者ら、人間の意識が量子もつれから生まれる可能性を検証する実
験を提唱ー脳と量子コンピュータを結合する画期的な実験プロトコルを発表。
GoogleのQuantum AI研究所を率いるHartmut Neven 氏らの研究チームは、人
間の意識が脳内の量子もつれから生まれるという仮説を実験的に検証する画期的
な方法を提案した。この研究は、意識の本質に迫る新しいアプローチとして注目
を集めている。」
というものです。

意識とは何か?と、正面から問われるとそれなりに応えられる人は、あまり居な
いのではないでしょうか。わたしも30代頃「心(意識)とは何か」を考えたこと
がありました。それ以来、なぜこんなことが心に浮かぶのかを真剣にではありま
せんが、時々思って今日まで答えの見つからないまま来ています。したがって、
ISOで「認識する」と言われても軽く考え、「人間、忘れることだってあるさ」な
んて不遜な気持ちをもっていました。

■■ 意識は脳内の量子もつれから生まれる ■■
人間の意識が脳内の量子もつれから生まれるという仮説を実験的に検証する実験
は以下のようなものです。

「研究チームが提案する実験は、これまで科学的な検証が困難とされてきた意識
の本質に迫る画期的な実験手法だ。この手法の核心は、人間の脳と量子コンピュ
ータを直接接続し、両者の間で量子もつれを実現することにある。
従来の意識研究では、主観的な体験を客観的に測定することが大きな課題とされ
てきた。しかし、この計画では、量子状態の重ね合わせを利用することで、意識
体験の「豊かさ」を定量的に評価できる可能性が開かれる。具体的には、脳内の
N次元ヒルベルト空間と量子コンピュータ内のM次元ヒルベルト空間を結合する
ことで、N×M次元という高次元の状態空間で意識体験を実現することを目指し
ている。」

何のことかよく分かりませんが、ここで、ヒルベルト空間という聞きなれない言
葉がでてきます。生成AIによると、英国のダビット・ヒルベルトがユークリッド
空間の概念を一般化したもので、数学における無限次元の空間への拡張として使
える空間で、そこで角度や長さを測るというものです(よくわかりません)。
サイエンスでは以下のようにも論評しています。
「この実験プロトコルの実現には、脳内の特定の構造と量子コンピュータの間で
コヒーレントな結合を確立する必要がある。研究チームは、窒素空孔中心を用い
た量子センシング技術と光遺伝学的手法を組み合わせることで、この課題に取り
組もうとしている。これは技術的に非常に困難な挑戦だが、実現すれば意識研究
における画期的なブレークスルーとなる可能性を秘めている。」

量子もつれが存在することが確認されたことで、従来から仮説として述べられて
いた肉体と心(意識)は別のモノである、ということが改めて事実かもしれない
と考える人が出てきたのです。

これらの実験結果は、人の意識と量子効果の役割を解明する重要な手がかりとな
る可能性があります。近代のAI開発にも意識との関係で重要な示唆を与えるか
もしれません。従来の半導体で動作するAIシステムは、量子で動作する可能性
も秘めています。現実に開発されている量子コンピュータもその開発が加速するで
しょう。NHKスペシャル番組では東京大学で量子コンピュータ開発を行い世界的
権威者であると紹介された古澤さんも同様なコメントを述べていました。さて、
ここからはアインシュタインのいうオカルトの世界ですが、「肉体と意識が別物
であるとすると、肉体は滅びても量子で生成されている意識は残るので、その結
びつきが継続されているならば魂は死後も記憶をもって漂っている?」かも知れ
ません。正月の夢物語でした。

(つづく)

ISO9001キーワード 認識 量子もつれ | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年1月15日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.492 ■□■
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*** ISO9001キーワード 認識 量子もつれ ***
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ISO9001箇条7.3には「認識」というワードが出てきます。それとどう関係する
のかは次号でお話ししたいと思いますが、昨年暮れにNHKスペシャル「アイン
シュタインの誤りー量子もつれ」を観て考えさせられました。今回は新春の夢物
語として聞いていただきたい、チョット現実離れしたお話しをします。

■■ 量子もつれとは?  ■■
そもそも「量子」なんて言葉は久々に聞きました。大学で教えられたボア量子力
学には量子(光子)のぶつかりによるもつれ(Quantum Entanglement)は出て
こなかったと記憶しています。
アインシュタインにより強く否定され、オカルトの世界であるとまで酷評された
量子もつれが実は存在しているという2022年ノーベル物理学賞を話題に過去100
年に及ぶ論争を紹介した番組でした。
量子もつれを簡単にいうと「量子同士がシンクロする」ということですが、話は
壮大で、宇宙の端と他の端(この距離は何兆年光年?、誰もが推定、仮定できな
い話)に存在する2個の量子同士がお互いに同じように挙動するということが実
験で確認されたというのです。何のことを言っているのか、ということですが、
このことが認識→意識と大いに関係しているのだということをお話ししていきま
す。

■■ 人間の意識とは何か ■■
この番組を観るまでは、ISO9001(箇条7.3)に出てくる「認識」を踏み込んで
考えたことはありませんでした。要求事項として「組織は,組織の管理下で働く
人々が,次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。」
と書かれています。もちろん、ここで記述されていることは、組織の人が常に標
準を認識して行動することを求めており、それ以上深い意味はありませんが、理
屈っぽい私はつぎのような疑問を番組の後考えてしまいました。人間が認識する
とはどういうことなんだろう?という形而上の概念です。
ここからはISOを離れて読んでください。

■■ NHKの番組 ■■
NHKスペシャルでは、量子もつれの話を我々に分かり易く説明するために、ミク
ロ(量子)の世界の現象をマクロの世界(我々の現実世界)に置き換えて例えて
いました。量子の挙動を説明するために「だるまさんが転んだ」の例えが使われ
ていました。番組では、鬼が目をつぶっている画面でその間に仲間の子供たちは
どう動いているのか、本当はわからない、もしかすると消えているかもしれない、
とあまり詳しい説明もなく(トランスポーテーション:瞬時にある場所からある
場所に移動する)イメージ画像が登場していました。
量子というミクロなものの運動がそのままマクロの人間の動きと一緒のなってし
まうとオカルト?の世界の話になってしまいます。しかし、ミクロの世界がマク
ロの世界を作っていることもこの世の中の事実です。

■■ アインシュタインの誤り ■■
アインシュタインは量子力学の不完全性を証明するため、量子論(波動方程式)
を駆使して計算(又は思考)した結果、量子もつれの存在を指摘しました。その
後、物理学者ベルは量子もつれの実在の証明として、「ベルの不等式」を判定の
ツールとして論文発表します。このあたりの展開ストーリーは難しく私にはよく
わかりませんでしたが、大筋では「ベルの不等式」がその後の実験で否定されて
しまいます。私は量子もつれそのものが非現実的であり、ありえないことだと思
いましたが、何人かノーベル賞受賞者の実験では量子もつれは現実に存在し得て、
あり得ないと断じたアインシュタインが間違いであったという結論になっていき
ます。
アインシュタイン先生は、量子論が不完全だと決めつけたことから、計算(思考)
の過程で何か齟齬を起こしたのかもしれません。番組では、アインシュタインの
指摘に反し、量子もつれは存在することが証明されたことになっていますが、も
しアインシュタインが「量子もつれ」などという途方もない議論を提起しなかっ
たら、「量子もつれ」の議論そのものも起こらなかった、したがって量子コンピュ
ータの研究も起きなかった、ということになります。

■■ 人間の意識は量子? ■■
この宇宙において無数に起きている量子の動きは我々の脳内でも起きている?、
われわれの意識は心臓や脳と言った物質の働きの結果ではなく、脳に存在する量
子の働きである、という仮説を次回お話しします。

(つづく)

ISO9001キーワード 人々17 (雇用管理制度及び人事部門と事業部門との関係) | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年1月8日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.491 ■□■
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*** ISO9001キーワード 人々17 (雇用管理制度
        及び人事部門と事業部門との関係)***
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明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。本稿は昨年
からの続きで、内閣官房が2024年8月に発表したJOB型人事の指針の中から日
立製作所の事例を取り上げています。
新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ

■■ 3.雇用管理制度(3)等級の変更  ■■
(制度の理解促進と社員のパフォーマンス向上)
 〇ジョブ型人事の採用に際して、職務の大きさに応じた等級制度・報酬制度を
  整備しているため、職務が変更した場合は、それに応じて等級の上下の変更
  が発生する。
 〇従事する職務に応じた適正な格付を実施するためには、制度の理解促進と、
  各職場におけるマネージャーの評価能力の向上が社員のモチベーション維持
  の観点からも重要である。
 〇日立製作所では、職務の変更に伴い等級変更が生じる場合は、そのタイミン
  グでの丁寧な説明を心掛けている。継続的なパフォーマンス向上に向けて、
  マネージャーと部下で認識を合わせることが重要であり、パフォーマンスの
  評価面談や1on1 などを通じて、継続的な対話の機会を設けている。

(マネージャーの評価能力の向上)
 〇ジョブ型人事の導入により、マネージャーは、個々の社員に対する職務の割
  当や職務の大きさに応じた等級の格付など、以前よりもきめ細かな部下のマ
  ネジメントが求められるようになる。
 〇2022 年より、新たなマネージャー向けの研修制度を開始。ジョブ型人事の
  考え方を踏まえながら、ワーク型の手法も取り入れつつ、部下のマネジメン
  トに関する理解の促進を図っている。また、部下のキャリアの志向等を踏ま
  えたキャリアの導き方に関するノウハウ集の提供や、マネージャー専用の情
  報サイトの整備などを行っており、いずれも好評である。
 〇パフォーマンスマネジメントにおいても、部下を持つマネージャーは、自身
  の目標のうち30%は部下の育成・人材開発に関するものを設定することにし
  た。意識的に部下のマネジメントに取り組ませようとの考えによるものであ
  る。
  
■■ 4.人事部門と事業部門の権限分掌の内容 ■■ 
(人事部と各部署の権限分掌)
 〇採用・人員配置・昇格・処遇の権限は各事業部門に付与されており、人事部
  門がサポートしながら運営している。
 〇人事部門は、事業戦略の実現に向けた組織・人材戦略の提言・実行、人事の
  専門各領域におけるエキスパートである人材オペレーション遂行と効率化・
  高度化と、それぞれの機能を分け、経営戦略の実現に向けた人事施策の立案
  ・実行に注力している。

(事業部門のサポート)
 〇組織の戦略から逆算し、在るべき姿から各部署におけるポジションを設定す
  る手法については、経営側の部署に対する「このミッションを果たしてほし
  い」との視点と、それを実行するための人事部門のサポートが重要となる。
 〇このため、担当者を職場ごとに設置し、経営者と現場のマネージャーが連携
  して人事施策を推進できるようサポートを行っている。
  
■■ 5.導入プロセス ■■ 
(トップ主導の改革の推進と社員からの意見集約)
 〇人材マネジメントの基盤は、グローバルで段階的に導入していった。海外の
  グループ会社では、「新たな人事制度の内容は一般的な実務である」とスムー
  ズに受け入れられた一方、日立製作所本体や国内のグループ会社への導入に際
  しては、より丁寧な説明が求められた。当時のCEO が、「社会イノベーション
  事業をグローバルに進めていく前提で考えたときに、日本が変わっていかなけ
  ればならない」との強いメッセージを発し、トップダウンで改革を進めてきた。
 〇重要な人事施策ごとにワーキンググループを作り、コミュニケーションの場を
  設けた。制度の内容や導入方法について、多方面から意見を集約する方法を採
  用している。

(労使コミュニケーション)
 〇2017 年から、非管理職(組合員)のジョブ型人事の導入に向け、国内10 万
  人の労働組合・組合員と継続的に議論を行ってきた。
 〇コミュニケーションを開始した当初は、ジョブ型人事に対する誤解もあり、労
  使間で認識の相違も見受けられたが、何度もコミュニケーションを繰り返す中
  で、共通認識を築き、あるべき制度について議論を進めることができた。
 〇2024 年6 月より日立製作所本体における非管理職(組合員層)の職務給制度
  導入に際しては、労使それぞれの代表者による専門的な会議体にて、議論の機
  会を多く設けた。また、社員向けのコミュニケーションの機会も設け、会社側
  の情報発信を十分に行うことで、スムーズな制度移行を図ってきた。

(制度導入時のソフトランディング期間)
 〇新たな等級を導入するに際して、報酬が下がる社員に対しては、一定の調整給
  を支給している。調整給は一定期間をかけて徐々に減額していく仕組みとして
  いる。
  
(つづく)