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平林良人の『つなげるツボ』Vol.164

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.164 ■□■
*** JIS Q 45100労働安全衛生MS規格 ***
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本年2018年6月~8月の60日、経済産業省JISCから
「労働安全衛生マネジメントシステム規格JIS Q 45100」についての
意見公告が出されました。
意見公告については前号で説明をしましたが、本号からはJIS Q 45100
についてお話ししたいと思います。

■□■ 厚労省指針 ■□■

労働安全衛生マネジメントシステム(OH&SMS)の構築は、世界的には
OHSAS 18001を基準規格として行われてきました。
日本でも例外ではありませんでしたが、厚生労働省からは、労働安全
衛生マネジメントシステムに関する指針(以下「厚労省指針」)が出さ
れています。

厚労省指針とは、2001年にILOから出されたOS&HMS(OH&SMSと表記が
異なることに注意)に関するガイドライン(ILO-OSH 2001)と同時期
に出された国内向けの指針で、ILO-OSH 2001と整合しているものです。

2001年といえば、OHSAS 18001が発行された時期であり、ILO/厚労省
指針は明らかにOHSAS 18001を意識したものであると言っていいでしょう。

この背景には1994年以来の労働安全衛生規格の国際規格化の主導権を
どちらが取るかというILOとISOの葛藤があったと言われています。

■□■ 日本の労働安全衛生の活動 ■□■

日本では戦後3千人とも4千人ともいわれた職場での死亡事故を無く
そうと、5年おきに労働災害防止計画を制定してきました。

今年は第13次(2018年4月~2023年3月)のスタートの年です。
そこで求められているものは、働き方改革が目立ちますが、その底流
には日本が戦後培ってきた組織における日常の労働安全衛生の活動が
あります。

例えば、5S、ヒヤリハット訓練、危険予知訓練(KYT活動)、現場パトロール、
リスクアセスメント等は、死亡者数を1千人のレベルにまで引き下げた
原動力となったものです。

日本はこのような多くの事業場で実践されてきた日常的な安全衛生
活動等をこれからも推進していくべきですが、同時にグローバル標準
と整合した労働安全衛生マネジメントシステムにも取組んでいく必要
があります。

ISO 45001:2018は、日本が推進してきた日常的な安全衛生活動等は
明示的には要求されていません。このため、ISO 45001の翻訳JIS
(JIS Q 45001)とは別に、日本で実績のある要求事項を入れ込んだ
規格の開発が行われてきました。それがJIS Q 45100:2018です。

また、JIS Q 45100:2018 の認証を行う審査員の力量に関する規格も
JIS Q 17021-100として開発されました。これはISO 17021-10を
ベースに開発されたものです。

■□■ JIS Q 45100国内普及委員会 ■□■

JIS Q 45100及びJIS Q 17021-100の2つのJISを活用して、日本の
OH&SMSを更に推進、発展させようとする委員会が発足し、2016年から
活動を進めています。

「ISO 45001に基づく日本独自のOHSMS普及推進会議」がそれです。
以下がそのメンバー構成です。

議長:向殿 政男 明治大学名誉教授

・(一社)日本経済団体連合会 
・日本労働組合総連合会 
・(一社)日本鉄鋼連盟
・(一社)日本化学工業協会
・中央労働災害防止協会
・建設業労働災害防止協会 
・林業・木材製造業労働災害防止協会 
・港湾貨物運送事業労働災害防止協会
・陸上貨物運送事業労働災害防止協会 
・厚生労働省
・経済産業省
・(公財)日本適合性認定協会(JAB) 
・日本マネジメントシステム認証機関協議会(JACB)
・審査員研修機関連絡協議会(JATA)
・(一財)日本規格協会

■□■ 日本で実績のある活動 ■□■

日本では多くの企業が従来からKY(危険予知)活動、5S活動といった
独自の安全衛生活動を実施してきており、わが国の労働災害防止に大きな
効果をあげてきています。
これらの活動は厚労省指針にも安全衛生計画に盛り込む事項として記載
されています。

ISO/PC283の国際会議において、日本は、わが国で効果をあげてきた
これらの安全衛生活動をISO 45001に記載するよう主張をし続けてきました。
この主張に賛同する参加国も見られたものの、ISO 45001に取り入れるには
活動内容が詳細すぎること及び発展途上国では対応が困難であるという
理由で採用には至りませんでした。

このようなことから、日本でISO 45001の効果的な運用を図るためには、
従来の日本独自の安全衛生活動とISO 45001を一体で運用できる規格が
必要と考えられました。
厚生労働省が経済産業省と協議した結果、日本独自の安全衛生活動等を
取り入れた新たなJISの開発を検討することになりました。

この新たな日本版マネジメントシステム規格は、JIS Q 45100と規格番号が
決まり、工業会、厚生労働省、経済産業省、日本経済団体連合会、日本
労働組合総連合会、労働災害防止団体、認証機関や審査員研修機関などが
委員となり、JIS Q 45100普及のために多角的な検討が行われてきています。

次回は、JIS Q 45100規格の内容の説明をしたいと思います。

平林良人の『つなげるツボ』Vol.140

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.140 ■□■
*** workerの日本語訳 ***
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■□■ 労働者の定義には社長もはいる ■□■
OH&SマネジメントシステムのISO化が進んでいます。
マレーシアでのISO/PC283(OH&Sマネジメントシステム)の
国際会議でISO45001がFDISへ進むことが決まりました。

労働安全衛生マネジメントシステムの会議を通じて気になる
言葉があります。それは“worker”と言う英語です。

■□■ 労働者と訳さない ■□■
ISO45001の中にはworkerという用語が随所に出てきます。
通常workerは「労働者」と訳すのですが、今回は「働く人」と
訳すのがよいのではないかと検討されています。

ISO/DIS2箇条3.3のworkerの定義は以下のようになっています。
「組織の管理下で労働又は労働に関わる活動を行う者」

ところが、定義の注記2には
「workerにはトップマネジメント(3.12),管理職及び非管理職が含まれる。」
とあり、組織に属する全員がworkerであると定義をしています。

■□■ 日本の意見は少数派 ■□■
日本からは、日本の労働安全衛生法のworkerの定義にはトップ
マネジメント、管理職は入っておらず、この定義には反対を主張
しました。しかし、国際会議ではworkerにはトップマネジメント
も含まれる、又は含めるべきであるという意見が圧倒的に多く、
日本の意見は採用されませんでした。

その背景は、組織で働く人は総て労働安全衛生の傘の下に入る
べきであり、トップマネジメント、管理職といえども安全という
システムの下では組織全員と全く同様な存在になる、或いは
なるべきであるという考えです。

■□■ JIS化国内委員会での検討 ■□■
現在、来年3月頃の国際規格発行を見越して、ISO45001の
JIS化の検討が進んでいます。

JIS国内委員会では、この用語を巡って活発な議論が交わされ
ましたが、国際的には多数決の原則を尊重してこの定義(worker)
を容認せざるを得ない、あとはJISの翻訳上の工夫で対応すべき
であるとの結論になりました。

■□■ 労働者に変わる良い日本語は? ■□■
workerの和訳案として、労働者でないものとしては次のような
ものが検討されました。

 ・労働者等
 ・ワーカー
 ・経営層・ボランティアを含む労働者
 ・勤労者
 ・就労者
 ・労働従事者
 ・管理労働者 / 実務労働者

しかし、なかなかぴったりとする和訳が見つかりません。

■□■ ILOの主張は ■□■
Workerには管理職も入るという背景には、ILOの考えもあります。
ILS(International Labor Standard)という、労働者保護の条約や
勧告を発行しているILOの条約155号では、“worker”を
“all employed”と定義しており雇用関係のあるすべての者を
広く定めているのです。

ある意味雇用されている“top management”も幹部も安全衛生の
保護対象になると考えられ、このILO条約に鑑みてこうした定義
が支持されたとも考えられます。