Category Archives: つなげるツボ

ISO9001キーワード 文書化した情報7 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年2月12日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.544 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 7:AIエージェントと文書管理 ***
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AIエージェントに「DR(デザインレビュー)」の補助役をやってもらうという話をしてい
ます。ISO9001箇条7.5「文書化した情報」で要求されている「文書の最新化」とAIエー
ジェントの活用には強い関係があります。AIに教え込む文書には最新の状況が記載されて
いなければなりません。AIエージェントは遅かれ早かれ企業の中で使われると思います。
その時に重要になるのが組織固有の規定文書です。

■□■ コンプライアンス規定 ■□■
人間が行う場合は状況に合わせて仕事をしますが、AIエージェントには人間のような冗長
性は無く、教えられたことだけをベースに仕事をします(教え方により人間に近くなるか
もしれませんが・・・)。
例えば、「コンプライアンス規定」が最新化されず古い状態だとどうなるでしょうか。DR
に提出されるデータには、日程確保に関係するGo要素がたくさん含まれています。社会
におけるコンプライアンスの要求は、年々厳しいものになっています。コンプライアンス
規定が最新化されていないと、DR意思決定において不正、隠蔽、実行不可能日程などを
見過ごし甘い結果(Go)を出しやすくなります。

産業界のすそ野が広い自動車産業、航空宇宙産業、防衛産業などでは、世界的な競争から
納期プレッシャーが強く、DRにおいて「見込みGo」で進めたくなる局面があります。コ
ンプライアンス規定に近年の「品質不正」などについての対応が織り込まれていないと、
(1) データ改ざんや都合の悪い結果の未報告、(2)測定条件の恣意的変更、(3)外注の工程変
更の黙認、(4)不適合品の混入や手直しの未記録などが起きる可能性があります。
従来のDRでは、ともすると「問題を出すと遅れるから言わない」、「記録すると面倒だか
ら残さない」という雰囲気ができDRが甘いと後から言われる場面があります。AIだった
らこうした「空気を読むことはしない」であろうと期待していたことが、「文書が最新化さ
れていない」という思わぬ落とし穴によって裏切られるリスクがあります。

■□■ 顧客情報の文書管理 ■□■
顧客取引に関係する文書、例えば、図面、コスト情報、競合情報、外注取引データなどの
管理が甘いと次のような問題をAIエージェントは起こすかもしれません。例えば「複数
顧客の図面を同一フォルダで管理する」、「見積根拠に顧客機密を混在させる」、「外注先に
必要以上の顧客情報を渡す」といったようなことが起きるかもしれません。
AIエージェントにDRを補助させるならば、顧客情報については次のことを教え込んでお
かなければならないでしょう。
「顧客IDごとにファイルを作成し顧客IDに合った情報を適切に管理する」、「次のものは
機密事項であるから見積情報には含めない」、「次のものは機密情報であるから外注先には
出さない」など『次のものを明確にして』文書管理することを教え込むことが必要です。

■□■ 法規関係情報が古いと・・・ ■□■
法規情報が最新化されていないと、AIエージェントの行うDRチェック項目から法令、規
制、提出義務などに抜け漏れがでます。金属部品製造では、材料成分、表面処理薬品、洗
浄剤、防錆油、廃液処理、輸出入規制、化学物質管理など、法令に規制値が書かれている
ことが多くあり、チェックを確実にしなけれなりません。法規関係情報が更新されていな
いと、「使用禁止物質の見落とし」、「材料証明や成分証明の取得漏れ」、「外注工程が規制
に抵触」、「表示・トレーサビリティ要件の未充足」など重要な事項がDRで検知されなく
なってしまいます。DRが終った後になって、「適合証明が出せない」とか「顧客要求書類
が揃わない」などの問題が発覚し、出荷停止や緊急切替、あるいは回収や取引停止にまで
至ることもあり得ます。
法令は「誰が最新情報を収集し、どのタイミングで設計、工程に反映するか」が要点にな
ります。責任者、確認頻度、改訂手順などをAIにチェックさせることも大切です。EU
(欧州連合)では、化学物質への規制が厳しく何百種類もの化学物質に規制の網がかかっ
ています。金属部品加工では表面処理条件の微変更や、材料の代替(供給逼迫時)などが
起きやすいので、EU規制の最新化の仕組みをしっかりとしておかないと法令適合性への
信頼性が崩れかねません。

■□■ 社内ルールの最新化 ■□■
繰り返しになりますが、AIがDRにおいて「この材料で問題ない」、「この処理でOK」と
推論しても、根拠となる社内ルールが古ければ誤った結論を導いてしまいます。法令/規制
は施行令、省令などの細部になると頻繁に変更がありますので、AIがGo決定をしたあと、
「最新情報の参照元」、「不明確な時は人が判断」、「最終確認の責任者」などについて社内
ルールを作っておくことが必要です。
さらに、DRからは離れますが、法規関係情報が最新化されていないと会社のガバナンス
に影響を及ぼします。AIによる内部監査が行なわれる場合、内部統制監査、ISO監査(第
1者、第2者/顧客監査、第3者)などは、係わる法規関係情報に準拠して行う必要があり
ます。法令、規制違反は、一度違反を起こすと経営ダメージが大きく、AIによる監査に関
しては厳密な社内ルールを必要とします。最低限、「法令要求の抽出」、「(2)社内業務への反
映」、「実施記録の保存」、「最終結論の承認者」などについての社内ルールを作っておく必
要があります。

ISO9001キーワード 文書化した情報6 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年2月4日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.543 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 6:AIエージェントと文書管理 ***
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ISO9001箇条7.5.「文書化した情報」には、今まで述べてきたように多くの要求が規定さ
れています。その中でも重要と思われる要求が「文書の最新化」です。ISO9001では「最
新化」とは言わずに「更新」と言っていますが、組織によっては古い文書が改訂されずに
放置されていることが時々見られます。当然のこととして現状とのギャップが生じている
のですが、どうしたことか業務にはさほど問題にならないケースが多いようです。

■□■ 文書に基づいて仕事をしていない ■□■
規定文書と現実との間にギャップがあっても問題無く業務が進んでいるのは、人が最新の
状況に合わせて仕事をしているからだと思います。規定文書をいちいち見ながら仕事をし
ているわけではありません。しかし、昨年来日本でも喧伝されている「AIエージェント」
を使う段になるとそうはいきません。AIエージェントとは無縁だと思われている組織も多
いと思いますが、遅かれ早かれ世の中の動きは使わざるを得ない方向に進んでいきます。
その時に重要になるのが組織固有の規定文書です。AIに教え込む文書には最新の状況が記
載されていなければなりません。人間が行う場合は前述のように状況に合わせて仕事をし
ますが、AIには人間のような冗長性は無く、教えられたことだけをベースに仕事をします。
例えば、AIエージェントに「DR(デザインレビュー)」の補助役をやってもらうとしまし
ょう。AIがDRをサポートする或いは実質的にリードすることは、これから2,3年後に
は現実化すると思っています。例えば、金属部品加工会社で組織内規定文書が古いとどの
ようなことが起きるかを考えてみたいと思います。

■□■ 「文書管理規定」が古いと・・・ ■□■
文書管理規定が最新化されずに実態と乖離していると、DRは最初から「根拠が確定でき
ない会議」になります。新製品DRで扱う情報は、顧客図面、社内図面、材料仕様書、工
程フロー図、治工具図面、検査基準書、外注仕様書など多岐にわたります。これら文書の
版管理が甘いと、例えば材料仕様書は最新版、検査基準書は旧版、外注仕様書は中間版と
いう多重版運用が発生することになります。AIエージェントがDRで「Go」と判定して
も、どの基準に対するGoなのかが曖昧になります。
AIは教えられた文書が正しいことを前提に推論しますから、旧版が混入すると古い公差、
古い外部発注条件、過去の検査方法などを正として結論を出し、DRの判定品質、証跡品
質は信頼性の高いものとして担保することができなくなります。

■□■ 工程フロー図が古いと・・・ ■□■
さらに工程フロー図が古いとDRの結論は「口頭合意」に流れやすく、条件付きのクロー
ズ条件が曖昧になります。例えば、熱処理歪みの評価が条件付きでも「後でやる」で通
り、結果として、製造では金属部品の仕上げ寸法が出ないので再加工をしなければならな
くなります。AIが明確に議事録/判定理由などの記録をしっかりと残すことをしなくなる
可能性も高まります。工程フローが古いとどのプロセスでどんな記録を取らないといけな
いかがずれてしまい、後日から問題が発生した時にトレースすることができず、原因解析
をしづらくしてしまいます。さらに、記録がずれていると、組織に顧客からの監査(二者
監査)が入った場合などでは、「いつ、誰が、どの版で承認したか」を問われても説明が明
確にできなくなり、顧客からの信頼を低下させてしまう要因になってしまいます。このよ
うに古い工程フロー図をAIに教え込んでDR補助をさせると、AIは文書の書かれた工程
フローに基づいて仕事をしますから、DRゲートが形骸化し、後工程に多大な迷惑をかけ
ることになります。

■□■ 古い経営方針が文書化されている ■□■
経営者にとって経営方針は重要かつ必須なもので毎年最新化しているはずです。しかし、
文書管理がしっかりしていないと古い経営方針が残っている場合があります。そのような
古い経営方針を読み込んだAIは、例えば品質とコスト及び環境保全の優先順位が振れて
いる、すなわち「トレードオフ判断が明確でない」ので、勝手に判断をして最新の経営判
断に合わない結論を出してしまう可能性があります。
例えば、金属部品製造会社のDRにおいて、今は品質最優先の方針なのに2年前の経営方
針で投資抑制が謳われていたとすると、必要な設備、自動検査装置などを先送りし、必要
であるはずの工程能力を確保しないまま量産を開始するという失敗を起こしてしまうこと
が考えられます。あるいは、2年前の経営方針で顧客納期最優先となっていたのでDR判
定の根拠は品質より納期となってしまい、例えば、熱処理歪み問題を未収束のまま製造許
可を出してしまい、工程混乱を起こす原因を作ってしまうこともあります。

■□■ DRは技術評価だけではない ■□■
DRは技術評価だけに基づくものでなく経営判断にも基づくものです。AIが古い方針に基
づいてDT補助を実施すると、DRの結論が会社の意図から逸脱し、長期的には取引先評
価、利益体質、投資判断までに影響を及ぼすことがあり得ます。経営方針によって「どの
リスクは Goなのか」、「どのリスクはNoなのか」「条件付きGoの条件はどこまで厳しく
するか」を決めます。AIエージェントが論点抽出、リスク評価、判定案提示などのDR補
助をする場合、AIは経営方針をリスク評価の「重み付け」として使います。方針が古いと、
上述のようにAIは古い優先順位でリスクを評価し、例えばコスト削減が方針に乗っている
と、品質についての重大論点を軽視する可能性があります。経営方針の最新版には、経営
が直面する課題で優先する価値の順序、例えば、安全・法令・顧客要求は最上位、次に品
質、納期、原価、環境と言ったような枠組みが必要になります。

ISO9001キーワード 文書化した情報5 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年1月28日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.542 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 5 ***
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ISO9001箇条7.5.3.2には、a)配布、アクセス、検索及び利用 b)読みやすさが保たれる
ことを含む保管および保存 c)変更の管理 d)保持及び廃棄 に関する要求事項がありま
す。要求事項それぞれについて解説をしたいと思います。

■□■ 7.5.3.2 a)配布、アクセス、検索及び利用 ■□■
a) 配布、アクセスに、検索及び利用ついて解説します。
<狙い>
現場で使われる情報は「そこにある」だけでは不十分で、必要な人が、必要なときに、最
新版に確実にアクセスできることが必要です。
<実務ポイント>
 ・配布周知をする。そこにはアクセスの仕方が明示されている。
 ・現場にはいろいろな制約があるのでそれ等への配慮が必要である。
 ・最新版のみ閲覧できるようにする。
 ・配布先の管理をする。
<良い事例>
 ・工場工程内においてタブレットで手順書を見ることができる。
 ・紙で運用の場合、掲示場所/ファイル設置場所を限定する。改訂時には旧版の回収
  を徹底する。
<悪い事例>
 ・情報がサーバ内の深い階層にあり探すことが困難である。
 ・サーバー内フォルダが共有で誰でも上書きできる。
 ・重要な基準変更があっても配布周知がない。それに伴う教育も実施しない。
<改善のコツ>
 ・AIを活用して検索性を向上する(RAG:Retrieval-Augmented Generation検索拡
  張生成)。
 ・改訂時は「通知+教育+旧版回収」をセットで扱う。

■□■7.5.3.2 b)読みやすさが保たれることを含む保管および保存■□■
7.5.3.2 b)「読みやすさが保たれることを含む保管および保存」について解説します。
<狙い>
「文書化した情報」は情報を含む媒体は紙をはじめ、電子、写真など多様なものがありま
す。媒体ごと情報(品質・法規・顧客情報・ノウハウなど)に応じて、保管、保守する仕
組みを作っておく必要があります。
<実務ポイント>
 ・アクセス権設定(閲覧/編集/承認の分離)
 ・改ざん防止(編集権限、ログ、電子署名、書き込み禁止PDF等)
 ・バックアップ/復旧体制(サイバーテロ、誤削除なども想定)
 ・物理的保護(紙情報の場合の施錠保管、持出管理、耐火、湿度)
 ・機密区分の徹底(社外秘、顧客提供、個人情報など)
<良い事例>
 ・手順書は閲覧は全員、編集は管理者のみとする。改訂する場合は、ワークフローで
  ログが残る。
 ・記録はスキャン保存+原本保管とする。スキャンデータは改ざん検知できる設定。
 ・顧客仕様書は権限者以外閲覧できない。持ち出す場合は権限者許可が必要である。
<悪い事例>
 ・全員が共有フォルダにアクセスでき誰でも削除・改訂できる。
 ・重要記録が個人PCやUSBに散在している。
 ・機密情報の印刷物が机上に放置され、写真撮影されても気づけない。
<改善のコツ>
 ・保管、保存について最初から完璧を狙わず、まずは編集権限の厳格化、バックアッ
  プ体制を最優先に実施する。

■□■7.5.3.2 c)変更の管理 ■□■
変更管理(改訂・履歴・旧版の扱い)について解説します。
<狙い>
変更した場合、「なぜ変えたか/何が変わったか/影響はどこか」が明確になっていること
が重要です。後から問題が起きたときに究明でき、問題の再発防止につながります。
<実務ポイント>
 ・改訂理由(是正処置、クレーム、工程改善、法規対応など)
 ・変更点の要約(差分)
 ・影響評価(対象製品・工程・教育・設備・検査方法)
 ・旧版の扱い(廃止、参照用保管、保管期間)
 ・有効開始日(いつから新ルールか)
<良い事例>
 ・「Rev.4:測定頻度を1回/ロット→2回/ロットに変更。理由:工程能力低下した
  ため。影響:検査工数が30分増える、帳票変更がある。開始日:2026-01-10」
 ・改訂履歴が文書末尾に簡潔にあり後から追跡可能である。
<悪い事例>
 ・いつの間にか文書が変わっている。
 ・旧版が現場に残っており、新旧が混在している。
 ・有効開始日が曖昧で、「いつからどっちで運用したのか」が不明である。
<改善のコツ>
 ・履歴は「何を、どうして、どんな影響、いつから」を短く記載する。
 ・旧版を残す必要がある場合は「参照用(使用禁止)」の明示を徹底する。

■□■7.5.3.2  d)保持及び廃棄 ■□■
保持及び廃棄について解説します。
<狙い>
記録、仕様書、契約関連などは「いつまで」「どの形で」「どう廃棄するか」が決まってい
ないと、事業運営において困ります。残しすぎてもリスク(漏えい、検索性悪化、管理コ
スト増)となります。
<実務ポイント>
 ・保持期間の根拠:法規、顧客要求、保証期間、製品寿命、紛争リスクなど
 ・保存形態:原本/スキャン/電子原本化
 ・保管場所:集中保管か、部門保管か
 ・廃棄:シュレッダー、溶解、データ消去(復元不可)
 ・廃棄記録:いつ何を廃棄したか(機密文書は特に)
<良い事例>
 ・記録保持一覧(マトリクス)が作られており、帳票ごとに「保持年限/保管場所/責
  任部門/廃棄方法」が明確。
 ・紙原本は年次で箱管理(箱番号・内容・期間)、期限到来で溶解処理し廃棄証明を
  保管。
 ・電子情報は、期限が決められ自動的にアーカイブになる、削除申請に回るなど。
<悪い事例>
 ・念のため全部永久保存するとフォルダが肥大化、必要な記録が見つからない。
 ・廃棄が個人判断で行われ、後日「証拠がない」状態になる。
 ・USBや個人PCに残ったデータが放置され、漏えいリスクが増大している。
<改善のコツ>
 ・重要記録(品質・法規・顧客)から保持ルールを決め、段階的に範囲を広げる。

ISO9001キーワード 文書化した情報4 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年1月14日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.541 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 4 ***
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ISO9001箇条7.5「文書化した情報」の要求には、以下のような細分化された要求事項が
あります。
箇条7.5.2に「a)適切な識別及び記述」、「b)適切な形式及び媒体」、「c)適切性及び妥当性
に関する適切なレビュー及び承認」という規定があります。

■□■ 7.5.2 a)適切な識別及び記述 b)適切な形式及び媒体 ■□■
細分箇条7.5.2の要求「a)適切な識別及び記述」及び「b)適切な形式及び媒体」について
解説をしたいと思います。
<狙い>
「情報がどのような内容なもので、いま使うべき最新版はどれか」を誰が見ても分かる状
態にすることである。識別が適切でないと、現場は旧版を参照したり、似た文書を取り違
えて使用したりして、品質事故を起こす要因となる。特に最近話題のAIエージェントを
活用しようとするとフローの中身の吟味(情報最新化)は必須である。
<実務ポイント>
 ・文書名(短くても意味が通る)
 ・文書番号(アルファベットと数字の組合せ QP-12、WI-23 等)
 ・版(Rev.)と発行日(または改訂日)
 ・作成部門/責任者
 ・適用範囲(工程・製品・拠点・対象者)
 ・関連文書(上位規程、関連手順、帳票)
 ・媒体(PDF、Excel、写真、サンプル、DBなど)が異なっても同じ考えの識別
<良い事例>
 ・作業手順書:
  「WI-PRD-014 最終検査手順(対象:製品A、B/拠点:本社工場/Rev.3/
  2025-10-01)」のように、表紙またはヘッダに一目で分かるで情報を記載。現場の
  棚・端末においても“WI-PRD-014”で検索ができ旧版は閲覧不可になっている。
 ・検査記録(Excel):
  ファイル名に「製品A_最終検査_2025-12_Rev.1」、シートにも版・帳票番号を記載
  し、印刷されても識別ができる。
<悪い事例>
 ・「検査手順(最新版)」というファイルが複数のフォルダに点在し、どれが正か分
  からない。
 ・帳票を印刷すると版数や帳票番号がどこにも表れず、記録基準が明確でないため結
  果を追跡ができない。
 ・写真や動画が「JPG_0001」だけで場所・日付・対象などが特定できない。
<改善のコツ>
 ・“紙になっても識別できる”ことを基準に、ヘッダ/フッタに「文書番号・版・日付」
  を固定表示しておく。
 ・ルールを難しくしすぎない(番号体系は“検索と一意性”があれば十分)。

■□■ 7.5.2 c)適切性及び妥当性に関する適切なレビュー及び承認 ■□■
「c) 適切性及び妥当性に関する適切なレビュー及び承認」における「承認」について解説
します。
<狙い>
承認の目的である「この内容で運用してよい」という組織としての意思決定を記録として
明確にしておくとともに、誤った手順や曖昧な基準が使われることを防ぐ。
<実務ポイント>
 ・ “誰が何を確認して承認するか”を明確にする。
    〇 技術妥当性:製造技術、品質保証、設計など
    〇 運用妥当性:現場責任者(実行可能性)
    〇 最終承認:部門長、管理責任者など
 ・電子承認の場合:承認ログ(日時・承認者・版)が残る仕組み
 ・軽微な改訂の扱い(誤字修正は簡易承認、基準変更は正式承認 など)
<良い事例>
 ・検査基準書:品質保証課長が基準妥当性を確認、製造課長が運用可能性を確認、最
  終承認は品質責任者が行う。改訂理由と範囲(対象製品・工程)を承認時にチェッ
  クする。
 ・製造教育資料:内容を技術課長が、表示/安全/法規などコンプライアンス視点を品
  質保証課長がそれぞれレビューし、承認記録を残す。
<悪い事例>
 ・「現場が便利だから」と担当者が手順書を更新、承認なしで配布使用。後日、内部
  監査で“基準を権限者でない者が勝手に変えていた”と判明した。
 ・承認印はあるが、誰がいつ押したかが不明(押印欄が空欄)、電子文書において権限
  者以外が直せる、修正履歴が残る仕組みになっていない。
<改善のコツ>
 ・“承認は、押印ではなく、「新規/変更の責任を引き受けた証拠として扱う」という考
  えを持つ。
 ・承認フローは短くする(現場が勝手に運用する時間を無くす)。
 ・旧版は隔離して対象外にする仕組みを持つ。
 ・紙文書は回収する仕組みを持つ。
 ・発行日をYYYY-MM-DDにより記載する。

ISO9001キーワード 文書化した情報3 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年1月7日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.540 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード:文書化した情報 3 ***
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“Documented Information(文書化した情報)”は、従来の「文書(document)」と「記録
(record)」を一本化しましたが、現実には文書と記録は分けて考える方が理解しやすいと
思います。ただ近年、企業では紙だけでなく、電子データ、写真、サンプル、クラウド上
のログ、チャット履歴など、情報の形が多様化していますので、2015年版では「消えずに
残り管理できる情報」として文書と記録を規定しています。

■■ 定義の核心 ■■
文書化した情報の定義を細分化すると、ポイントは次の3つになります。
1. 情報(Information)
 情報とは意味あるデータです。単なる数値や文字列(データ)は、目的・文脈・解釈が
 与えられて初めて「情報」になります。たとえば、温度「23.4」というデータは、それ
 が“どの工程の、どの設備の、どの時刻の測定値か”等が紐づいて、初めて品質を管理す
 るための情報になります。
2.媒体(Medium)
 紙だけではなく、磁気・電子式・光学式ディスク、写真、マスターサンプルなどが媒体
 になり得ます。すなわち「PDF」「Excel」「画像」「動画」「データベース」「実物サンプ
 ル」も、要求事項に適合する形で管理できていれば“文書化した情報”となります。
3.管理(Control)
 文書化した情報は、作っただけでは不十分で、「管理されていること」が求められます。
 どこにあるか分からない手順書、最新版が特定できない帳票、改ざんや紛失リスクが放
 置されたデータなどは、存在していても「管理」されていないためISO9001規格に適合
 したことになりません。

■□■ 「あらゆる形式・媒体」「あらゆる情報源」 ■□■
附属書SL(共通テキスト)「文書化した情報」の定義の注釈1に「あらゆる形式媒体」「あ
らゆる情報源」という表現が出てきます。あらゆるという意味は、組織が自分たちの業務
にとって最適な形を選べることを意味しますが、その選択は妥当なもので運用上も管理が
適切になされていることが必要です。
たとえば「紙の手順書をやめて、タブレットで閲覧する」ことは近年多くの組織に見られ
ることですが、
 ・通信できない場所で閲覧できる。
 ・閲覧権限(編集できる権限)は限定されている。
 ・改訂時に旧版は現場に残らない。
 ・バックアップや復旧ができる。
といった管理が伴わないと、かえって問題を起こすことになります。

■□■ 文書化した情報の3つの例 ■□■
「文書化した情報」定義の注釈2には次のことが「文書化した情報の例」として書かれてい
ます。
 -関連するプロセスを含むマネジメントシステム
 -組織の運用のために作成された情報(文書類)
 -達成された結果の証拠(記録)

1.関連するプロセスを含むマネジメントシステム
 ここにおける「文書化した情報」は、単なる「標準類のファイル」ではなく、プロセス
 がどう繋がり、どう運用され、どう成果に結びつくかが見える形で情報が整備されてい
 る状態を意図しています。プロセス関連図、工程フロー、役割分担、指標、変更管理の
 仕組みなどが典型な「文書化した情報」です。
2.組織の運用のために作成された情報(文書類)
 いわゆる手順書、作業標準、規程、チェックリスト、教育資料、仕様書、帳票の記入要
 領などです。ここは「現場が迷わない」「同じ結果が再現できる」レベルで必要十分に
 整えるのがポイントで、やみくもに作ると“守れない文書”になりやい点に注意が必要で
 す。
3.達成された結果の証拠(記録)
 検査成績、測定結果、校正記録、教育訓練記録、監査記録、是正処置の記録、会議議事
 録、顧客クレーム対応履歴などが該当します。記録は「やったことの証拠」であり、後
 から検証できることがその価値です。よって、改ざん防止、追跡性(いつ・誰が・何を)、
 保管期間、検索性が管理上のポイントになります。

■□■ 文書化の問題点と改善 ■□■
35年前、日本にISOが上陸した時(1990年ころは黒船とも評された)には、文書化の
必要性が大々的に喧伝されました。欧米では人々の多様性(人種、階級、ジェンダー)に
よるコミュニケーションの必要性からなんでも文書にすることが多く、その部分が誇張化
されて日本に紹介され多くの組織でマニュアル作りが行われました。しかし、文書を作っ
ても守れないものであったり、現場で維持できないものであったり、結果最新化されない
形骸化した文書が多く存在することとなり、今でもその状態が続いている組織も多いと思
われます。認証を受けるために初期に審査機関向けに作成した文書の多くが形骸化してい
ることがあると思います。
ISO9001が伝えている核となるメッセージは、「文書化した情報は、“紙の文書”に限定され
ず、意味あるデータとしての情報が、適切な媒体で、組織として管理されている状態にし
ておく」ということです。
「文書化した情報」を整えることは、単なるマニュアル作りではなく、組織の運用を安定
させ、再現性を高め、結果の証拠を残し、継続的改善を回すためのインフラ整備であると
仕事の目的を再認識することが大切だと思います。