Category Archives: つなげるツボ

SDGインパクト基準20 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.367 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準20 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標12についてです。

■■ 目標12 ■■
目標12. 持続可能な生産消費形態を確保する。
<12.1 開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費
と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導の
下、すべての国々が対策を講じる。>

ここには「持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)」
というものが出てきます。
ここで言う「持続可能」とは、人類が存続する限り(永続的)成り立
っていけるという意味ですから、消費と生産の関係性を永続的なもの
にする計画を作ろうという意味になります。

消費と生産の関係を永続的にしない、すなわち壊すものは何かという
と、最も影響を与えるものが「廃棄」です。消費には廃棄が付きもの
です。食べ物で言えばリンゴを食べてもその芯は廃棄されます(非可
食部廃棄)。衣服でも20年、30年着る人は少なく5年も経てば多く
の衣服は廃棄されるでしょう。住居もスクラップ&ビルドされて50
年も経つと街並みがかなり変わってしまいます。このような多くのも
の、温室効果ガスも含めて「廃棄問題」が目標12の最大の取組課題
です。

■■ 食料廃棄問題 ■■
その廃棄問題で強くフォーカスされているものが食料の廃棄問題です。
<2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの
食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーン
における食料の損失を減少させる。>
目標12には具体的に食料の廃棄を2030年までに半減させるとあり
ます。世界の食料廃棄の現状はどうなっているのでしょうか。
実は世界の食料廃棄の現状を調べようとしましたが、これがなかな
か把握しづらい問題であることが分かりました。Googleで検索し
てもズバリこれが食料廃棄量である、生産量に対する廃棄率である、
国別の廃棄率であるといった数字は出てきません。
農林水産省「平成 27 年度食品産業リサイクル状況等調査委託事業
:海外における食品廃棄物等の発生状況 及び再生利用等実施状況
調査、平成 28 年 3 月 11 日 公益財団法人流通経済研究所」に
詳しいのですが、
(1)食品廃棄の定義、
(2)対象プロセス(生産、流通、小売り、消費)区分、
(3)非可食部、潜在可食部、可食部
などの線引きなどが各国バラバラでなかなか比較が難しいという
ことです。

■■ 世界の食料廃棄の現状 ■■
そうはいっても辛うじて以下のような情報は読み取ることが出来
ました。
米国では、2010 年における小売・消費者段階での食料損失は、
6,033 万トンと推計される。これは、小売・消費者段階での供
給量である 1.95 億トンの 31%を占めるそうです。
31%のうち、10%が小売段階での損失であり、21% が消費者
段階での損失であるとしています。データが古いのですが大き
くいって3分の1が廃棄されているということになります。
EUの情報もありました。
EU では、年 9,000 万トン、1 人 当たり年 180kg の食品が
廃棄されている(2006 年データ)との数値が紹介されていま
す。 また、ECのホームページ「Sustainable Food」では、食
品廃棄物の削減に取り組まなければ、「2020 年には食品廃棄
物が 1 億 2,600 万トンに増加する」と述べられている、と
の調査記載があります。
このように160ページの報告書にはいろいろなデータが紹介
されていますが、各国の状況を理解するのはなかなか困難で
す。しかし、EUの例のように一人当たりの年間の食品廃棄
量の比較資料がありますので、それを眺めてみるのがいいか
と思います(平成24年度推計)。

■■ 日本の食料廃棄の現状 ■■
各国の年間一人当たりの食品廃棄物発生量を整理しますと
次のようになります(平成24年)。
 ・日本 134Kg
 ・米国 178Kg
 ・英国 187Kg
 ・フランス 149Kg
 ・ドイツ 136Kg
 ・オランダ 150Kg
 ・韓国 114Kg
 ・中国 76Kg

別の資料には、日本には2017年度時点で約570万tの食品
ロス(可食部)があると報告されています。一時、日本は食
品ロス大国と表現されましたが、今では上記の表のごとく先
進国の中で際立っているわけではありません。一人あたり年
間134kg、毎日お茶碗3杯分のご飯を捨てているのと同じこ
と、と例えられています。

SDGインパクト基準19 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.366 ■□■
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*** SDGインパクト基準19 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標11についてです。

■■ 目標11 ■■
目標11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市
及び人間居住を実現する。
<11.1 2030年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住
宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。>

目標11は住居に関する目標ですが、まず使用されている用語に聞き
なれない言葉があるので調べてみました。
まず、「包摂的(ほうせつてき)」という言葉です。包括的と変えて
も意味は通じそうですが、もう少し深い意味があるようです。
Goo辞書によると;
1.一定の範囲の中につつみ込むこと。
「知識はその中に包摂されている」〈倉田・愛と認識との出発〉
2.論理学で、ある概念が、より一般的な概念につつみこまれるこ
と。特殊が普遍に従属する関係。例えば、動物という概念は生物と
いう概念に包摂される。

「強靱(レジリエント)」という言葉は、SDGsにおけるキーワー
ドのようで、目標1,2,9その他、多くの箇所に出てきます。
Goo辞書によると;
しなやかで強いこと。柔軟でねばり強いこと。
「強靭な肉体」とか「強靭な意志」というような使用例が出てきま
す。

■■ スラムの定義 ■■
外国映画にはよく都市の周りに貧民が暮らす地域が映し出されます。
その一帯をslum(スラム)といいい、もともとは欧米の概念です。
日本にはスラムと呼ばれるような貧民街は、江戸時代に長屋があり
それらは近代にも存在していましたが、現在は無いと言っていいと
思います。

スラムの定義はそれらしきものがありますが、明確ではありません。
国連ではスラムではなくスラム居住者を次のように定義しています
(人間居住計画)。「耐久性のある住宅十分な居住空間安全な水
へのアクセス
適切な衛生設備へのアクセス立ち退きを強制され
ないための居住権の保障
の5つのうち、ひとつでも欠けている世帯」
であるとしている。

本来スラムの概念は、都市部で極貧層が居住する過密化した地区の
ことであり、他の都市地区が受けられる公共サービスが受けられな
いなど、居住者やコミュニティの健康や安全、道徳が脅かされてい
る荒廃した状況を指す言葉です。世界のスラム住民の数は増加傾向
にあり、国際連合人間居住計画の統計によれば、21世紀初頭での
およそ10億人から、2030年には倍の20億人に増えるとされてい
ます。

■■ スラムの発祥の地 ■■
ロンドンが「slum」という言葉が生まれた地であると言われてい
ます。産業革命以降、ロンドン中心部の人口が過密となり多くの
低所得層は東部のイーストエンドに移住しました。1900年代以降、
低所得者用の公共住宅が供給され、改善の努力が続けられていま
すが、この一帯がスラムと呼ばれたのが最初です。
ニューヨークでも1800年代前半に移民が大量に流入したことによ
ってスラムが形成されました。日本でもスラムとは呼ばれません
でしたが、江戸時代の極貧の長屋が軒を連ねる一帯が該当するの
ではないかと思います。長屋では「こうもり傘なおし」「くずひろ
い」「日雇い人夫」などを生業とする人々が住んでいたと言われま
す。

■■ スラムを改善する ■■
目標11の実行計画にある「スラムの改善」には、都市のインフラ
として重要な電気、水道、下水、通信、移動などの基盤整備がま
ず考えられます。さらに都市インフラの恩恵を受けない地域では、
食料供給など住民生活を最低限維持するライフラインも十分でな
いことも考えなければならないと思います。また、汚水やゴミ処
理などの静脈物流(モノを使用した後の流れ:人間の血液の動脈、
静脈に例えてこう呼ばれる)も必須であり、大量消費の時代に入
ってからは、ゴミ・廃棄物の問題が大都市周辺のスラムで顕在化
しており、スラムの改善には筆頭に上げられる課題になっていま
す。

19世紀以降、都市の限られた空間を効率よく使うために、高層
ビルや地下(近年では大深度地下)が利用されるようになりま
した。都市の発展により、都市の周辺の農村部においても、農
耕地の宅地化や工場・商業施設など建設により、周辺農村部が
都市としての性格を持つようになってきましたが、無計画な都
市化であるスプロール現象(sprawl:「無計画に広がる」「ぶざ
まに広がる」)を避けないと都市のスラム化は止まらないといえ
ます。

SDGインパクト基準18 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.365 ■□■
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*** SDGインパクト基準18 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標10についてです。

■■ 目標10 ■■
目標10. 各国内及び各国間の不平等を是正する。
<10.1 2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、
国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。>

経済的な不平等を無くそうというのがこの目標ですが、国内における
不平等よりも国際的すなわち国と国の経済的な不平等を是正するとい
うことが国連の狙いです。世界がグローバル化する中で所得の不平等
は徐々に縮小してきており、その意味で国際社会は、人々の貧困脱出
に向け、長足の進歩を遂げてきたといえます。

しかし、いろいろな不平等は根強く残り、開発途上国の保健サービス
や教育サービスなどについては大きな格差がなくなっていません。経
済成長だけでは国と国の差は少なくならず、経済、社会、環境という
ESG分野の領域に経済成長が波及しなければ、全体の経済格差を削減
するには不十分だというコンセンサスが国際的にでき上がりつつあり
ます。

■■ 開発途上国と先進国 ■■
国と国の格差を議論するときに「開発途上国」と「先進国」という言
葉が出てきます。開発途上国は経済を「開発(発展)」させる「途上」
にある国であり、「先進国」は経済発展によって経済が世界でも「先進」
的な水準に達している国という区別になっていますが、国際的に両者の
間を分ける線が1本になっているわけではありません。この両者の線引
きはあいまいで、国連や世界銀行は「開発途上国」の定義をそれぞれ持
っていますし、研究者もそれぞれに「先進国」や「開発途上国」の定義
を示すことがよくあります。
ただ、OECD(経済開発協力機構)は、「ODA(政府開発援助)受け取り
国リスト」を発表しています。OECDは「経済的により進んだ国が開発
途上の国々を支援するために全力で協力する」ことを目的にした国際的
な機関であるからです。OECDは「先進国クラブ」と呼ばれることもあ
ります。

OECDでは3年毎に「ODA受け取り国リスト」を発表していて、このリ
ストにのっている国は、ODAを受け取る資格があります。これらの国は、
経済開発のための援助を受ける側ということで「開発途上国」と呼ばれ
ています。リストにのっているのは、下の2つの基準のどちらかに当て
はまる国々です。
1.世界銀行によって「高所得国」以外に分類される国々(2016年時点
  の一人当たり国民所得(GNI)が12,235米ドル以下の国々)
2.国連によって後発開発途上国(Least Developed Countries)に分類
  される国々

■■ 1万ドルクラブ ■■
世界銀行による分類では、開発途上国は「低所得国」「下位中所得国」「上
位中所得国」の3つに分かれています。
低所得国はGNIが1,005米ドル以下の国、
下位中所得国は1,006米ドルから3,955米ドルまでの国、
上位中所得国は3,996米ドルから12,235米ドルまでの国となります。
国連によって「後発開発途上国」に分類される国のほとんどは、世界銀行
の分類では「低所得国」となります。

正確には覚えていませんが、20~30年くらい前には国民の平均所得が1万
ドルを超えると先進国クラブに入ったと言われた時代がありました。

■■ 日本の平均所得 ■■
先に述べたように所得の不平等は国家間で縮小しています。OECDのデータ
からは94 カ国のうち 60 カ国の 1 人当たり所得は伸びていることを示し
ています。これは、開発途上国からの輸出品に有利なアクセス条件を設けた
り、開発途上国からの輸出品に対する免税措置を広げたり、その他の優遇政
策を講じてきたためと言われています。
ところで日本の国民一人当たりの平均所得はどのような状況になっているの
でしょうか。残念なことにあまり芳しくありません。下の表に示すように世
界で24番目というのが2020年のランキングです。他国が伸びているのに日
本はこの30年ほとんど変わっていません。

SDGインパクト基準17 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.364 ■□■
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*** SDGインパクト基準17 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標9についてです。

■■ 目標9 ■■
目標9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能
な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る

<9.1 すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発
展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の
高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを
開発する>

■■ レジリエントなインフラ ■■
インフラは“infrastructure”の略語です。“infrastructure”は基盤、下
部構造などの意味で、電気、水道、道路、トンネル、鉄道、港湾、
空港、河川、橋、下水道、通信など人々が快適な生活を送るのに不
可欠な多様な設備類を総称して呼んでいます。
レジリエンス(resilience)は、「弾性(しなやかさ)」を意味する英
語です。元々は物理的な意味を持つ言葉でしたが、「しなやか」とい
う意味から回復できるという意味を持つようになり、壊れても直ぐ
に元に戻る意味で使用されています。
「レジリエント」という言葉は日常ではあまり使われませんが、ビ
ジネスの世界でよく使われています。ビジネスの世界では、組織に
対しては危機に遭遇しても「効果的に処置するしたたかさ」を、組
織人には「逆境に強い折れない心」などを意味します。

■■ インフラの寿命と数 ■■
時々地震でもないのにビルが倒壊したり、橋が崩落したりするシー
ンを見ることがあります。インフラの寿命にはバラツキがあります
が、50年が一つの目安と言われています。建設後50年以上経過し
た日本のインフラの主な例を示します。
・橋(道路にかかっている2m以上の橋)  約700,000本
・トンネル               約11,000本
・河川水門               約10,000施設
・下水道                総延長470,00km
・港湾岸壁               約5,000施設
高度経済成長期1964年に行われた東京オリンピックを中心に、日本
のインフラ整備は一気に進み、このような膨大な橋やトンネル、河川
管理施設、下水道などが50年前に建設されています。

■■ インフラ耐用年数への対策 ■■
アメリカでは、1930年代、ルーズベルト大統領は世界恐慌に対する
景気回復策として積極的な公共事業を行い、その結果社会インフラ
は一挙に近代化されました。しかし1980年代になると、道路や橋
の老朽化による事故が続発することになり、「荒廃するアメリカ」の
象徴となりました。
インフラの耐用年数を実証したものとして、2012年に中央自動車道
で起きた笹子トンネル天井板崩落事故が上げられます。この事故を
受けて、政府は2013年に「インフラ老朽化対策の推進に関する関
係省庁連絡会議」が設立し、国土交通省は、同年を「社会資本メン
テナンス元年」として、点検・診断等を集中的に実施しました。
2014年に国土交通省は、「インフラ長寿命化計画(行動計画)」を立
案し、8つの政策を発表しました。メンテナンスサイクル構築、トー
タルコスト平準化、地方公共団体支援などをベースに高速道路会社や
水資源機構、都市再生機構などに働きかけ、個別施設ごとに2020年
度までに全施設の計画を策定することを掲げました。

■■ メンテナンス費用 ■■
インフラのメンテナンスには、莫大な費用がかかります。国土交通省
試算では、2014年度のインフラをそのまま維持しようとすると補修・
更新費は、2054年時点で年約16兆円かかると見込んでいます。
一方、国土交通省は全国のインフラを点検した結果、空港や河川、病
院、電力など約30分野の計132項目で、現状に不備があることを確
認しました。
増加が予想されるインフラのメンテナンス費用については増加を抑え
るための取り組みも大変重要になっています、国土交通省は、「道路
の老朽化対策の本格実施に関する提言」の中で「ファーストステージ」
と「セカンドステージ」の2つのステージを提言しました。
2015年から始まったファーストステージでは、インフラの保守管理者
の義務を明確にし「点検→診断→措置→記録」という4つの業務を1
サイクルとして、橋やトンネルを5年に1度点検するメンテナンスサ
イクルの確立を目指しました。2017年から始まったセカンドステージ
は、より効率的で戦略的なメンテナンスを目指し、「道路点検における
ICTの活用」や「非破壊検査(赤外線調査)によるスクリーニング」な
どを実施しました。また、ドローンやAIを活用した点検を行うとしま
した。
インフラには地方公共団体が管理するものも多く、費用や人材育成、
技術に関する支援なども重要です。日本のインフラ老朽化対策は、この
ように多方向から推進されていますが、なお「荒廃する日本」にしない
ために継続した政策の遂行が非常に大切になっています。

SDGインパクト基準16 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.363 ■□■
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*** SDGインパクト基準16 ***
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目標8. 「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全
かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・
ワーク)を促進する」の続きです。
目標8には、前回お話ししたようにイノベーションに関する奨励
記述がありますが、それに関連してISO56002のお話をします。
2019年4月、経済産業省は ISOが発行したISO56002:イノベー
ションマネジメント規格(指針)に準拠した「日本企業における価
値創造マネジメントに関する行動指針」を発表しました。

■■ ISO56002:2019イノベーションMS規格 ■■
2019年、国際標準化機構(International Organization for
Standardization : ISO)はイノベーションマネジメント規格-指針
ISO56002を発行しました。
現在2022年時点での周辺規格の状況は次のようになっています。
1.発行済
 ・ ISO56002:イノベーションマネジメント規格-- 指針
 ・ ISO56003:イノベーションマネジメント?イノベーション
        パートナーシップのためのツール及び方法?指針、
 ・ ISO/TR56004:イノベーションマネジメント評価?指針
2.予定
 ・ ISO56000 イノベーションマネジメント-基本及び用語
 ・ ISO56005 イノベーションマネジメント-知的財産管理のツール
       及び方法-指針
 ・ ISO56006 イノベーションマネジメント-戦略情報管理-指針
 ・ ISO56007 イノベーションマネジメント-アイデア管理

「イノベーション」と聞くと、多くの人は創造的なイメージを持ち
ますので、MS(マネジメントシステム)とイノベーションは関係が
無いと頭を傾げます。なぜISOは独創性が特長の「イノベーション」
をMS規格の対象にしたのか、私にも不思議に思えました。

■■ イノベーションをMS規格にした背景 ■■
ISO56002を読むと私の疑問は解けました。ISOでは次のように解説
しています。
・創造性の追求は個人技から組織技に変わりつつある。イノベーショ
 ン活動はもはや個人に頼る活動ではなく、経営が組織的に追及して
 いかなければならない活動になってきている。
・世界の経営のルールが大きく変わりつつある。ISOは「大きく変
 わったゲームのルール」と言っていますが、経営の焦点が「効率
 性の追求」から「創造性の追求」に変化してきている。
・「効率性の追求」はデジタル化、シェアリングエコノミーなどで推
 進されている。
・「創造性の追求」はプロセスで追及されていく。

■■ ISO56002マネジメントシステム規格の構造 ■■
ISO56002は「附属書SL(共通テキスト)」の構造に沿っています
ので、ISO9001、14001に馴染んでおられる方には読みやすいので
はないかと思います。
参考に箇条6、8の目次を掲げます。

6 計画
  6.1 機会及びリスクへの取組み
  6.2 イノベーションの目標及びそれを達成するための計画策定
  6.3 組織構造
  6.4 イノベーションのポートフォリオ

8 活動
  8.1 活動計画及び管理
  8.2 イノベーションの取組み
  8.3 イノベーションのプロセス
     
■■ イノベーションのプロセス ■■
以上の一連の項目の中で重要であると思われるのが箇条8.3の「イ
ノベーションのプロセス」です。イノベーションのプロセスには次
の特徴があると説明されています。
 1.非線形的な順序であり、反復的である。
 2.組織内の他のプロセス内において又は他のプロセスとは独立
  して実施される。
 3.組織内の他のプロセスとつながっている。
 4.イノベーションの創造・実験のプロセスは、知識を獲得する
  ための探求を重視する。
 5. 知識創造プロセスである。

経済産業省は、ISO56002 に沿ったオープンイノベーションを日本
に起こすプロジェクトを次のように進めています。
●イノベーションのプレイヤーは急激に変化している。次の産業の
担い手として期待されるスタートアップが自律的・連続的に大規模
に創出・成長するための支援や環境の整備が重要である。
●大企業がノンコア事業を行う場合、経営面での支援を行う起業家
候補人材支援事業(NEP)を含めたNEDOのスタートアップ支援
事業を抜本的に強化する。
●大企業の人材が、大企業で蓄積した知見や社会課題解決に係る内
発的動機等に基づき、大企業の意思決定が及ばない場で、新規事業
を創出できる環境を整備する。
●多様性やスピードに対応するためには、自前だけでなく他者の人
材・技術・資本といった経営資源の活用(オープンイノベーション)
が重要である。
●この動きは日本においてもみられるが量もスピードも圧倒的に不
足している。急激に変化する状況に対応するためには、あらゆる手
段を活用し、一層企業の意識改革・行動変容を促す。
●イノベーションを創出する方向に経営者の意識・行動を促すため、
イノベーション経営に挑戦する大企業が資本市場等から評価される
施策を行う。
●企業のオープンイノベーションの取組(行動指針7)を推進する
ため、国内最大のオープンイノベーションプラットフォームJOIC
(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)の周知活動を
行う。