Category Archives: つなげるツボ

緊急シンポジューム2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.147 ■□■    
*** 緊急シンポジューム2 ***
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■□■ パネルディスカッション ■□■
講演に続くパネルディスカッションは次のメンバーによって行われました。

   コーディネーター  中條武志
   パネラー ・日本品質学会 会長 小原好一
        ・日本品質学会 副会長 棟近雅彦
        ・日本科学技術連盟 佐々木眞一
        ・日本規格協会 理事長 揖斐敏夫

■□■ 問題意識 ■□■
緊急シンポジュームのタイトルは、「品質立国日本を揺るぎなくするために-品質不祥事の再発防止を討論する-」というものですが、パネルディスカッションは、一連の報道に関連して、識者からの意見及び今後の方策をいただくというものでした。パネルディスカッションは、次のねらいの下におこなうということが事前に明確にされていました。

≪パネル討論のねらい≫
・一連の品質不祥事の報告書や報道の内容を見ると、日本企業の品質管理が崩壊しているという主張がなされたり、逆にコンプライアンスの問題であって品質管理の問題ではないという主張がなされたりしている。

・また、監査や罰則を強化すれば、自動化により人の要素を排除すれば、防げるという考えに沿った対策の検討が行われている。

・一連の品質不祥事について、「問題の本質は何か」、および「問題を防ぐために取り組むべきことは何か」を討論する。これらを通じて、品質管理を組織

・社会として推進・普及していく必要性を再認識する。

■□■ 問題の本質は何か ■□■
一連の品質不祥事は特定の企業の問題なのか、あるいは日本全体に関わる事なのかが議論されました。

当然のことながら、マスコミで報道されている事象は特定の企業で起きたことですが、パネラーからはその根底には日本の製造業が抱える多くの課題が関係しているとの主張に説得力がありました。

1970~80年代に世界から評価された、日本式品質管理TQC(Total Quality Control)を再度検討することがよいという主張に繋がると思います。そこでは、一人ひとりが品質保証の主役として「品質は工程で造りこむ」ということをスローガンに、その実践を再度日本製造業全体で行わなければならないと思います。

今回の問題の本質は経営層にあるという論調が強く、「問題を起こさないための仕組み構築を強化しなければならない。経営層が品質経営を真に理解し、担当者任せにせず、経営の根幹に
置かなければならない」という議論に繋がっていきました。

■□■ 今後組織に望まれることは ■□■
今後への対応については、パネル討論の核心ですが、価値観を共有する人材育成が印象に残りました。

昨今、品質管理人材の育成をしてこなかったので、徐々に組織力が衰退し、気が付けば取り返しのつかないダメージを受けるという事態になっている、いわゆる「ゆでガエル現象」が起きているとも主張がされ、長期的なビジョンに基づいた品質経営人材の育成が待ったなしであるということに同意する人が多かったように思います。

また、IoT、AI、ロボットなど先端技術の活用もあるが、根っこにあるのはそれらをコントロールする人のスキル、知恵であり、それらを忘れてはならないという議論もありました。

なお、ISO9001認証との関係では、一連の品質不祥事はISO認証審査では対応が難しいが、外部の目をなお強くして不祥事抑制に繋がる監査の研究は必要であろうという見解も示されました。

■□■ 社会全体で取り組むことは ■□■
品質管理学会では、生産革新部会でIoTを駆使した品質管理手法などを開発したい、また地方の支部活動を強化して、方針管理、日常管理、プロセス保証、小集団活動などの普及を強めていきたいという方向性も示されました。

ことは単純ではないので、社会、組織、関係する団体が連携して、オールニッポンで品質経営を普及する活動を展開したいという発言も心強く響きました。

緊急シンポジューム | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.146 ■□■
*** 緊急シンポジューム ***
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 ■□■ 日本品質管理学会 ■□■
日本の産業界を揺るがす品質問題が相次いでいます。日本品質管理学会、日本規格協会、日本科学技術連盟の3団体は、経済産業省、経団連の協賛のもと2月21日、早稲田大学で緊急シンポジュームを開催しました。
その概要を出席しなかった方のためにお伝えします。

  ■□■ 品質立国日本を揺るぎなくする・・・■□■
緊急シンポジュームのタイトルは、「品質立国日本を揺るぎなくするためにー品質不祥事の再発防止を討論するー」というものでした。
開催趣旨には次のように書かれています。

≪開催趣旨≫
近年繰り返されている品質不祥事が“品質立国日本”の信頼を揺るがしています。
一連の品質不祥事の背景には複雑な要因が絡んでいると考えられますが、少なくとも先人たちが脈々と築き上げ、世界から信頼を得てきた品質管理の文化、仕組み、ツールなどを否定するのではなく、その重要性を改めて認識し、着実に実践することが再発防止に大きく寄与すると確信しております。

したがって、品質管理の本質と重要性を再認識するとともに、将来にわたって日本の強みとして錬成していくために私たちが行動すべきことは何かを共に考える前向きな議論をしたいと思っています。

■□■ プログラム ■□■
緊急シンポジュームのプログラムは次のようなものでした。

 ・開催挨拶 日本品質学会 会長 小原好一
 ・基調講演 日本品質学会 顧問(元会長)
       中央大学教授    中條武志
   「組織における人の不適切な行動とその未然防止」 
 ・特別講演 日本科学技術連盟 理事長
       トヨタ自動車 顧問・技監 佐々木眞一
   「トヨタにおける生産を止める事の意味」
 ・パネルディスカッション
   コーディネーター  中條武志
   パネラー ・日本品質学会 会長 小原好一
        ・日本品質学会 副会長 棟近雅彦
        ・日本科学技術連盟 佐々木眞一
        ・日本規格協会 理事長 揖斐敏夫
 ・閉会挨拶 日本規格協会 理事長 揖斐敏夫

■□■ 基調講演の内容 ■□■
 中條先生は、次のような講演をされました。

  1.安全の確保と品質/質の保証と品質マネジメント
  2.人の行動から見た、情報の改ざん・隠蔽の発生メカニズム
  3.品質マネジメントの視点から、情報の改ざん・隠蔽を未然に防ぐために組織が取り組むべきこと
  4.社会として何を行うべきか

最初に、組織における情報の改ざん・隠蔽について問題点整理をされました。

 -検査や計測を行えなかった、行わなかった場合に、過去のデータを流用する。
 -発見された不適合について、必要な手続きを取る代わりに、データを書き換える。
 -資格のない作業者が行った作業を、資格のある作業者が行ったように偽装する。
 -自分の主張に都合のよいように、データを改ざんする。 
 -プロセスの変更を意図的に報告しない。
 -不適合やトラブルなどの情報を報告しない。

■□■ 特別講演の内容 ■□■
特別講演は、元トヨタの佐々木理事長が、トヨタの自工程完結の話をされました。

 -良いものだけをつくる
 -自工程完結のルーツ
 -トヨタの自動車開発の歴史におけるTQCの導入
 -品質は工程で造りこむ
 -シャワーテストのむずかしさ
 -プロセスを重視した仕事の仕方
 -やりきる人材の育成

次号では、パネルデスカッションの内容をお伝えしたいと思います。

ISO9001:2015規格の解釈3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.145 ■□■    
*** ISO9001:2015規格の解釈3 ***
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 ■□■ マネジメントシステムを確立する ■□■
前回は、「品質マネジメントシステムを確立する」を「品質マネジメントシステムを計画する」に直して読んでみると、今までとは異なるイメージを描くのではないか、という問いかけを
しました。

■□■ プロセスを確立する ■□■
「プロセスを確立する」も同様で、「プロセスを計画する」に変更して読んでみると、今まで以上に腑に落ちた理解ができるのではないでしょうか。

実は箇条8.1.1には「プロセスを計画する」という文章による規定があるのです。

「組織は,次に示す事項の実施によって,製品及びサービスの提供に関する要求事項を満たすため,並びに箇条6 で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを,計画し,実施し,
かつ,管理しなければならない(4.4 参照)。」

この部分の英語は次の通りです。

“The organization shall plan, implement and control
the processes (see 4.4) needed to meet the requirements・・・”

■□■ 箇条8.1.1はプロセスの確立を要求しているか ■□■
受講生の方から「箇条8.1.1はプロセスの確立を要求しているか」という質問を受けたことがあります。

2015年当時のことで、どう回答したか正確に覚えていませんが、「箇条4.4.1以外でプロセスの確立を要求しているところは、箇条8.3.1だけです」と答えたと思います。

箇条8.3.1には次のようにあります。

「組織は,以降の製品及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。」

この部分の英語は次の通りです。

“The organization shall establish, implement and maintain a design and development process that is appropriate・・・」

結局、受講生の方への回答は、「箇条8.1.1はプロセスを確立することを要求していません」と答えたことになります。

私の解釈が浅かったと反省しています。

■□■ establishとplanは同義語 ■□■
前回の受講生の方からの質問である「確立するとはどういう意味か」を深堀していくと、establishとplanは根は同じ同義語であると感じます。

ISO9001:2015において、箇条4.4.1と8.1.1及び8.1.3はいずれも「プロセスを計画する」と理解することでよいのではないかと思います。

しかし、establishとplanと異なる英語が使われている以上は全く同じではない、という反論も承知しています。

■□■ 何がどう違うのか ■□■
ここからは、厳密な解釈に興味のある人がお読みください。

組織でQMSを構築する場合に、実践的に規格を理解するには、establishはplan(design)と読み替えてください、というのが前回の私からのメッセージです。

でも厳密には異なるのです。

■□■ establishはplanより重たい言葉 ■□■
オックスフォード辞書を引いてみましょう。

establish:to start or create a system that is meant to last for a long time.

“長期間継続するシステムをスタート又は創造すること”

plan : to make detailed arrangements for something want to do

“実行したいことのために詳細の準備をすること”

ついでに、designも調べてみましょう。

design : to think of and plan a system, a way of doing something.

“何かを実行するための方法、システムを考え計画すること”

■□■  用語は異なっても意図は同じ  ■□■
今回の一連の規格の解釈は「確立という意味を教えてください」という質問がスタートです。

厳密にいうならば異なるのでしょうが、組織の方が実践的に理解する上では「確立する、計画する、あるいは設計するは同義です」と答えたいと思います。
厳密な解釈をあれこれするより、実行すべきことを明快に理解するほうが有効であるとの思いからの発信です。

ISO9001:2015規格の解釈2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.144 ■□■
*** ISO9001:2015規格の解釈2 ***
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■□■ マネジメントシステムを確立する ■□■
ISO9001をはじめISO14001、ISO27001などすべてのISOマネジメントシステム規格には、お決まりの「XXXマネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、かつ、継続的に改善しなければならない」という文言があります。

ISO9001:2015においては、箇条「4.4.1品質マネジメントシステム及びそのプロセス」に次のようにあります。

「組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない。」

■□■ なぜ確立したあと実施するのか? ■□■
ある時、受講生の方から次のような質問を受けました。
「品質マネジメントシステムを確立し、実施し、・・・とありますが、なぜ「確立」した後に「実施」し、「維持」するという記述があるのですか?確立してあれば当然実施されているわけですし、維持もされたているはずです。最後の、「継続的に改善する」という記述は理解できますが。」

改めて読んでみると、確かに受講生の方の疑問はもっともだと思います。

■□■ 英文はestablish ■□■
「確立する」という英文は“establish”という単語です。
明治以来?“establish”は「確立する」と訳すのが一般的です。

JISQ9001でも1987年の初版の翻訳から一貫して「確立する」と訳しています。

そこでオックスフォード辞典を引いてみました。

・“to start or create an organization , a system , etc.”
・“set up”
・“that is meant to last for a long time”

■□■ 英単語には多くの意味がある ■□■
ご存じのように、英単語には多くの意味を持つものがあります。
ひとつの意味しかないという単語のほうが珍しいでしょう。

“establish “も同じです。ここでは“to start or create an organization , a system , etc.”か“set up”という意味が妥当です。

日本語で言えば、「用意する」、「準備する」「計画する」、少し意訳して「設計する」など、まだ実行に入る前の段階を意味していると解釈することが妥当です。

■□■ プロセスを確立する ■□■
マネジメントシステムと同様にプロセスを確立するも同じです。

ISO9001:2015箇条「8.3.1製品及びサービスの設計・開発」に次の記述があります。

「組織は,以降の製品及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。」

 ■□■ マネジメントシステムとプロセス ■□■
組織は、マネジメントシステムとプロセスを設計しなければなりません。
「設計」という言葉が重たいという向きには、「計画」という言葉でもよいと思います。

いままでの「品質マネジメントシステムを確立する、プロセスを確立する」を「品質マネジメントシステムを計画(設計)する、プロセスを計画(設計)する」に変更して、読んでみると今までとは異なるイメージを描くのではないでしょうか。

では、マネジメントシステムとプロセスを計画(設計)するとはどういうことをしなければならないのかを次号でお伝えしたいと思います。

ISO9001:2015規格の解釈 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.143 ■□■
*** ISO9001:2015規格の解釈 ***
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■□■ 小規模事業者のためのISO9001 ■□■
日本規格協会は、書籍「小規模事業者のためのISO9001 
何をなすべきか ISO/TC176からの助言」を出版しました。

実はTC176(品質マネジメントシステム技術専門委員会)は、
ISO9001:1994改訂時から改訂の度に中小企業のための書籍を
出版してきました。

本書はそのタイトルを“小規模事業者のため”と変え、
中條武史中央大学教授、須田晋介テクノファ取締役の監訳
により、先週発刊されたばかりです。

■□■ ISO9001:2015箇条8.5.5 引渡し後の活動 ■□■
筆者は前々から「箇条8.5.5 引渡し後の活動」の意図を汲み
かねていたので、本書の該当する所の解説を読みました。

そこには、次のような解説がありました。

「この細分箇条の意図は、あなたの組織が、引渡しによって
組織の責任が必ずしも終了するわけでないことを認識し、
製品及びサービスを引き渡した後も、関連する要求事項を
満たすことを確実にすることです。」

まさしく「引渡し後の活動」は、組織が製品・サービスを
売った後も顧客に満足を与えるために考慮すべきことが
規定されています。

■□■ ISO9001:2015箇条8.5.5 ■□■
該当する規格の規定は次の通りです。

「要求される引渡し後の活動の程度を決定するに当たって,組織は,
次の事項を考慮しなければならない。

a) 法令・規制要求事項
b) 製品及びサービスに関連して起こり得る望ましくない結果
c) 製品及びサービスの性質,用途及び意図した耐用期間
d) 顧客要求事項
e) 顧客からのフィードバック」

■□■ a) 法令・規制要求事項 ■□■
ISO9001規格は、組織が顧客と契約する時には「a) 顧客が規定した要求事項。
これには引渡し及び引渡し後の活動に関する要求事項を含む。(中略)

d) 製品及びサービスに適用される法令・規制要求事項」をレビューすること
を要求しています(箇条8.2.3.1)。

にもかかわらず、再度引渡し後に法令・規制要求事項を考慮するとは
どういうことでしょうか。

ポイントは時間の経過にあります。

5年、10年と顧客が組織の製品を使用し続けたとしましょう。
もしかすると、その間に該当製品に関係する新しい法令・規制要求事項が
変わるかもしれません。法令・規制要求事項は原則過去に遡及しませんので、
組織は新しい法令・規制要求事項に縛られることは法的にはないと思います。

しかし、もし組織が新しい法令・規制要求事項に合致するように製品を
改良するような活動をしたら顧客の評価は大きく上がるでしょう。

規格はあくまでも組織に「考慮する」ことを求めていますので、考慮した結果、
考慮事項を採用するか、しないかは組織が判断することです。

■□■ c) 製品及びサービスの性質,用途及び意図した耐用期間 ■□■
同様なことが「c) 製品及びサービスの性質,用途及び意図した
耐用期間」についても言えます。

顧客は必ずしも組織が意図したように製品・サービスを使いません。
それは製品・サービスの性質とか、用途とか、耐用期間などについて言える
ことです。

例えば、引き渡した後、顧客が契約された耐用期間を超えて使用した状況後に、
組織に修理を依頼してきた場合、どのように対応するのでしょうか。耐用期間を
超えているのだから修理は出来ないと断ることは易しいですが、時と場合に
よってはその状況でも修理に応じるという事はあってもよいかもしれません。

顧客からの視点で考えると、そのような対応をしてくれた組織には愛着と恩義を
感じて組織のファンになってくれるかもしれません。

ISO9001:2015箇条8.5.5は、そのことを考慮することとしていますが、解説は
次のように結んでいます。

「あなたが引渡し後の活動を決定したときには、既知の要求事項(例えば、法令
・規制要求事項、顧客要求事項)を考慮するとともに、製品又はサービスが期待
したとおりに機能せず、更なる処置が必要になる可能性を考慮するのがよいでしょう。
あなたが、起こり得る、明確に示した引渡し後の活動を考慮しなければ、顧客の不満
又は潜在的機会の喪失に関するリスクが増します。」