品質不祥事に思う ― 品質管理教育3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.192 ■□■    
*** 品質不祥事に思う ― 品質管理教育3 ***
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昨今の品質不祥事に鑑みて、小中学校時代からの品質管理教育が大切である
という話をさせていただきましたが、実はこのことについて随分前から
その重要性に気づき実践している学会があります。

(一社)日本品質管理学会(JSQC :the Japanese Society for Quality Control)
では、品質管理の考え方を小中学校に導入することが必要であるとして、
その取組みを5、6年前から行っています。

■□■ 新学習指導要領 ■□■

平成23年度から導入された、新学習指導要領では、「”生きる力”をはぐくむ」
ことが理念としてうたわれています。

この”生きる力”は、その一つして掲げられている 「社会がいかに変化しようと、
自ら課題を見つけ、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決することが
できる」力であるとされ、実社会で問題解決を図れることとされています。

JSQCでは、この新学習指導要領の考え方に合せて品質管理、統計的考え方を
教えるカリキュラム作りに協力しています。

■□■TQE(Total Quality Education)特別委員会■□■

JSQCでは、品質管理、統計的考え方を教えるために特別委員会として
TQE(Total Quality Education)を立ち上げました。

TQEでは、実践的な問題解決能力を育てるために、できるだけ易しく統計を
理解する取組みを行い、一つの課題の流れに沿ってデータを分析する実践的な力
を身につけるために「QC ストーリー」という体系化された統計の手法を
小中学校に導入する活動をしています。

取組みの第一段階は、小中学校の先生たちが品質管理、統計的考え方を教える
マニュアル作りをしました。
また、QC 的問題解決手法の導入の支援や副教材の作成、小中学校の先生たち
との連携、教育フォーラム活動などを行ってきています。

■□■ 受験目標でない教育 ■□■

小中学校の教育は、大学受験の影響からか受験を目標とする教育が、特に都市部で
急速にもてはやされてきています。
詰め込み教育は、暗記力が中心になるため、考えることをしない子度が増え、
試験点数のみによって評価することから競争意識が刺激する教育になっていると
いわれています。

受験勉強の低年齢化により、従来よりも自分で考えることをしない子供が増える
ことは将来に禍根を残すことになると思います。

■□■ 「テレビに出よう」 ■□■

これは「QC ストーリー」を取り入れた授業テーマの例です。
品質管理とQC ストーリーを学校教育に取り入れると聞いても、明確なイメージが
浮かんできませんが、現在欧米で盛んに行われている小中学校教育ではこのような
テーマに対して実践を考える教育が行われています。

実は、1990 年代、日本から品質管理をQC ストーリーを使って理解させようとする
教育が海外に広まっていきました。
そして、2018年現在、アメリカ、カナダ、イギリス、ニュージーランドなどでは、
この問題解決に関する教育が体系的に行なわれるようになっています。

本家の日本を超えて、はるかに統一的に、網羅的に小中学校で品質管理の授業が
行われるという逆転現象が起きています。

■□■ 日本の輝きは過去の話 ■□■

日本は1960 年頃から80 年代にかけて、工業製品の品質管理で世界的に大躍進を
しました。
それを支えたものが日本的品質管理(TQC→ TQM:Total Quality Management)
でした。

日本の品質管理のベースとなったこのTQMはその後じわじわと欧米に広がり、
1990年を過ぎた頃には、欧米企業、大学へと普及し、さらに長期的な人材育成を
目指して小中学校教育へと導入がされていきました。

最近では、中国をはじめとする開発途上国でもTQMへの取組みは目覚ましく、
もしかすると日本が一番スピードで遅れているという状況になっています。

 ■□■ 日本の輝きは過去の話 ■□■

TQEの授業「TVに出よう」は、中学1年生向けの教材ですが、高視聴率を取る
TV 番組を考えるというものです。
まず、クラス全員が一定期間内にどのTV 番組を見たかを調べます。そのデータを
ジャンルや時間帯別にパレート図にし、ターゲットとなるジャンル、時間帯を
決定します。

そこから視聴者情報(年齢、性別、職業など)の特性要因図を作ります。
小中学生の各レベルに合わせて、わかりやすく興味の持てるように工夫されて
います。

日本品質管理学会TQE特別委員会の鈴木和幸先生は、「企業内での長期的な人材
教育が難しくなってきた現在、今後科学技術の面で世界の先頭に立つには、
子供の頃からQC 的問題解決法を学んでいく必要がある」と述べています。

こうした授業を受けた子供が10数年後公務員になり、正しい統計の考え方、
品質管理の取組み理解につながっていくことが、将来の日本の国に大きく
貢献することになるのではないかと思います。