ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」1 | 平林良人の『つなげるツボ』

2026年4月15日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.553 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」1 ***
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今回からISO9001キーワードとして「ヒューマンエラー」を取り上げたいと思います。
ISO9001箇条8.5.1製造及びサービス提供の管理 には次の要求があります。
「g) ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する。」

■□■ ヒューマンエラーを防止するための処置 ■□■
ヒューマンエラー防止に日本の製造現場で発達した方法の一つに「ポカヨケ」がありま
す。今日では、医療、物流、サービス業などにも広く応用されています。日本では品質
づくりを「検査で不良を見つける」方法ではなく、「工程で不良を作らない」方法に着目
し経営をしてきました。結果を確認するより、過程でミスを起こらなくさせることで後
工程での手戻り、納期遅延または不良品流出リスクを押さえました。日本ではそのメリ
ットに早くから気づき、産業界上げて「工程での品質作り込み」による品質管理を実践
してきました。
日本の現場改善の流れ(QC活動、標準化、5S、ライン改善など)の中で、ポカヨケは
「誰がやっても同じ品質」になる方法として発展しました。ここで強調すべきは、ポカ
ヨケが単なる「器具の工夫」ではなく、品質管理の思想 人を責めず仕組みを変える 
という考えで発展してきたという点です。人の注意力には限界があり、熟練者でも疲労
や焦り、割込みでミスをします。「気を付けろ」と言っても決して治らない、「気を付け
なくても間違えない」方法はないか、「間違えたらその場で止まる」方法はないか、50,
60年前に最初に考えたのがトヨタでした。

■□■ バカ除けと呼ばれた? ■□■
名称の由来については、もともと現場で「バカヨケ(馬鹿除け)」と呼ばれていたものが、
言葉の持つ侮蔑的ニュアンスを避け、改善文化を損なわないように「ポカ(うっかり)
ヨケ(避け)」へ言い換えられた、という経緯が広く知られています。ここに、ポカヨケ
の価値観が表れています。対象は「能力の低い人」ではなく、誰にでも起きる「うっか
り」であり、目的は「人の矯正」ではなく、工程設計・情報設計・環境設計の改善です。
ISO9001の8.5.1 g)が求めるのは、まさにこうした考え方で、教育や注意喚起(人的対
策)に偏らず、管理された状態(controlled conditions)として工程に埋め込むことです。
審査で「それは個人依存ではないか」「属人化していないか」「忙しいときでも同じように
守れるか」と問われ時にポカヨケは正鵠を得た回答になりえます。
さらに、近年のデジタル化によってポカヨケの概念が拡大されてきています。従来は治
具・形状・物理的制約が中心でしたが、現在はQRコード(バーコード)、電子承認、レ
シピ管理、センサー、画像認識など、「情報システムのポカヨケ」が一般化しています。
つまり、ポカヨケは歴史的に「現場の知恵」から始まり、今は「工程設計+データ設計」
へ広がっています。

■□■ ポカヨケの論理的発想 ■□■
ポカヨケの論理は「人間は必ず間違える」という現実認識から出発する設計論です。すな
わちエラーの原因に対する対策の考え方をそれまでと大きく変えました。
人が行う作業の場合、不良製品に対する原因の一つに「注意不足」がありますが、ポカヨ
ケはエラーへの対策を従来とは異なった発想で対策を考えます。つまり「注意を増やす」
のではなく、不良が作られない条件を工程に埋め込むことに変えるという発想です。この
転換がポカヨケの核心です。
ポカヨケは大きく二つに分類できます。
(1) 防止(Prevention)型
 誤操作を物理的/論理的にできないようにする(できない化)
(2)検出(Detection)型
 誤りが起きても即時に検知し、次へ流さない(すぐ分かる化)
防止型は最も強い対策です。なぜならエラーそのものが「起きない」からです。検出型
は、エラーが「起きる可能性」を許容しつつ流出を止めます。現実にはコストや工程制約
などの個別状況によるリスクベースで2つの型を選びます。基本的な考え方は、重大リス
クには防止型、頻度が高いものには検出型がよいと思います。

■□■ ポカヨケの深堀り ■□■
ポカヨケは「人間の認知特性の分析」と「工程条件の工夫」に分解できます。人間は、
(1)慣れによる省略
(2)思い込み
(3)同時作業による注意分散
(4)焦り
(5)疲労
(6)情報過多
(7)例外処理
などのためエラーを引き起こします。そこで、工程を次のように設計します。
(a)選択肢を減らす(迷う余地をなくす)
(b)判断を不要にする(条件の固定化・自動化)
(c)正しい行為に誘導する(形状、色、順序、配置でガイドする)
(d)誤りは即座に顕在化する(異常停止、エラー表示、アラーム)
審査で強い説明は「対策がある」のではなく、工程に組み込まれている」という言い方で
す。例えば「照合OKでないと次画面へ進めない」「規定トルクで締付けないと完了登録
できない」など、工程の成立条件として設計されていることが、ポカヨケの論理的強みで
す。