品質不祥事に思う ― 品質管理教育5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.194 ■□■    
*** 品質不祥事に思う ― 品質管理教育5 ***
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昨今の品質不祥事には幾つかのパターンがあります。

・品質データ改ざん
・無資格検査
・法令不順守
・ガバナンス欠如
・財務不正

私が一番深刻に捉えているのが品質データ改ざんです。

この深層を追っていくと日常管理がきちんと行われていないという問題、
そもそもスペックどおりの製品が作れないという問題に突き当たります。

■□■ 日常管理とは ■□■

文字通り日常の仕事を(的確に正しく)管理するということですが、最近の
不祥事の多くはこの管理がきちんとされていないことから起きているようです。

日常管理の概念は非常にシンプルです。
守るべき仕事のルールを決める、決められたルールを全員で守るというものです。

■□■ スペック通りの製品を作れない ■□■

こちらは複雑な問題です。顧客の期待通りの製品を作るには4Mを管理
しなければなりません。
人(man)、機械(machine)、原材料(material)、方法(material)の
4つの品質を管理しなければ従来と同じ製品は作れません。

当初の設計ではスペック通りに作れるように実現手段を決めていたはずですが、
もし設計時点で設定した当初の4M品質が時間の経過とともに変わってしまったら、
設計を見直さなければなりません。
料理のレシピと同じで、料理に使うニンジンや大根の味が変わってしまったら、
レシピを変えなければ前と同じ美味しい料理を作れないと同じ理屈です。

■□■ルールどおり行った?■□■

日常管理の話に戻ります。レシピの話は、次のテーマにしたいと思います。
問題を起こしたらまず担当者はルールどおりに行ったのか、そうでは
なかったと多くの人が思います。

本人はルール通り行ったと思っていても、それは本人の思い違いで、
周りから見ると明らかに勘違いだったということがあります。
周りからは明らかに違うことをしていると思っても、肝心の本人は
正しいことを行っているということが脳内で起きています。
これは、錯誤という難しい現象が要因になっているので、解決には
分析力と時間が掛かります。

一方、同じルール逸脱でも近道をするというほうは、解決は単純です。
難しいのは錯誤が要因になっているケースです。
本人が近道をしているというルール逸脱の意識があるのと、全くないのとでは、
起きた時の対処の仕方が異なってくることに留意が必要です。

■□■ ルールが現状に合っている? ■□■

もう一つ、要因として考えなければならないことは、ルールそのものが
最新化されていないということです。
ルールと実行結果の食い違いが問題だとするならば、このルールと実行の
どちらかに問題を起こした原因があると考えるのが普通です。

ここでいうルールとは作業手順書などの第一線の現場で使用する標準を
意味していますが、作業手順書が5年間(あるいは10年間)変わって
いなかったら、その手順書では品質の良い製品ができないと原則疑うことが
よいと思います。

■□■ SDCAのサイクル ■□■

作業標準書があるのにその通り実施しても良品ができないということは
現場では時々起ります。

私は新人の頃、1年間の工場実習を体験しました。
金属部品の加工機械を10種類くらい体験するため、いろいろな職場を
1か月くらい回りました。
大きなマシニングセンター機械から、小さな卓上旋盤機械まで多くの専用機の
運転を実習しました。

例えば、卓上旋盤では、炭素鋼棒をチャックという可変装置に固定して高速で
回転させ、超鋼と呼ばれる刃工具を当てることで所要な径の大きさにします。
その作業には、作業要領書が備え付けられており、そこに書かれたステップどおりに
仕事をしなければなりません。

ところがその作業手順書には、鉛筆、ボールペンなどでの書き込みが何か所かにあり、
その書き込みの適切さが分かりません。
書き込みがあるところは指導者に聞いて仕事を進めましたが、中には書き込みも
無いのに、加工が終わってから、この点は今は変わっているからこのようにしなさい、
と指導されました。

■□■ 熟練者は書かれていなくても・・・ ■□■

そんなことではいい仕事ができないのではないか、と実習生の身で熟練作業者に
聞いてみると、そんなことは皆知っていることだから実際は問題にならないという
返事が返ってきました。

経緯を知り仲間内では常識になっていることがいくつかあるようでした。