2026年5月20日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.557 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」5 ***
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「ヒューマンエラーを防止するための処置」の一つとして、手順書の見える化がありま
す。手順書には誰もが理解できるように写真を張り付けたり、イラストを付けたり、又は
動画で手順を説明するなどの工夫がされます。要点は「手順書を作ること」ではなく、人
間の迷いを無くし、解釈差が出ないようにし、記憶に依存しない作業の進め方を支援する
ことです。誰がやっても同じ結果に近づけるような「情報設計」された標準を作ることで
す。
■□■ 手順書の詳細さ ■□■
手順書の詳細さとは、作業者が迷わず再現できるために必要な情報が過不足なく揃ってい
る状態を指します。ISO9001の8.5.1 a)では、製造・サービス提供を管理された状態で実
行するために、1)「特性」2)「達成すべき結果」を定めた文書化した情報を利用できるよ
うにすることが求められます。つまり手順書は「やり方(How)」だけでなく、「何を満た
すべきか(What/Acceptance)」まで含めて初めて機能します。
手順書をどこまで細かく書くべきかは次の3つの要素を考えることで決まってきます。
(1)初心者でも単独でできる:初見で迷わない、手戻りしない。
(2)熟練者でも省略できない:慣れによる“飛ばし”が起きにくい構造である。
(3)監査で検証可能:標準が守られているか、結果が担保されているかが追える。
■□■ 3要素の決め方 ■□■
3要素を満たすためには、手順書の「粒度」とその「判断ポイント」を決めなければなり
ません。粒度とは、仕事の1ステップの細かさを言います。例えば「部品Aを取り付け
る」を1ステップとするか、もっと細かくして「部品Aを刻印面を上にする」「部品Bの
ピンに合わせる」「カチッと音がするまで押し込む」のように3ステップに分けるか、と
いうことです。
どこまで細かくするのかの判断ポイントは、作業者が迷う箇所があるか、ミスが起きる可
能性があるか、の2つです。手順書に手の動きすべてを書くことは特別の例を除いてはか
えって煩雑になるので、「全部を書く」のではなく、間違えやすい箇所を重点的に見える化
することが効果的です。見える化(動画、写真、イラスト)を使う意義は、煩雑さを減ら
し人による解釈差を無くすことにあります。
文章だけだと、作業者は頭の中でイメージを描きますが、その描き方が人によって違って
しまいます。動画、写真やイラストは、正しい状態(OK)と間違った状態を(NG)をよ
り万人に伝えやすくします。
特に動画は、工具の動かし方、速度、姿勢、手の順番など、文章、写真、イラストでは伝
え難い欠点を的確に改善します。ただし、動画は確認するに時間がかかるため、現場では
「短いクリップ動画+要点の静止画+チェック項目」の組合せが実務的です。
■□■ 手順書における見える化 ■□■
手順書における見える化で特に効果を発揮する例をミスのタイプ別に説明します。
(1)取り違え、向き間違いに効く例
・部品の向き(表裏・左右)のOK/NG写真
「刻印が見える側が上」「爪の位置が右」など、文章だけでは誤解が起きる箇所を、
OK/NGで並べて提示。似た部品の識別点もアップ写真で示します。
・ラベル貼付位置のテンプレート図
ラベルの位置ズレは多い不良要因です。製品外形図に貼付位置を寸法入りで示し、許
容範囲(枠線)も描く。貼付後のチェック項目(剥がれ、気泡、傾き)を写真で示し
ます。
(2)抜け(未実施)に効く例
・手順ステップの“完了条件”を明記したチェックリスト
「締付ける」ではなく「トルクレンチのクリック音を確認」「締付け完了マーキング
を付ける」など、完了判定を標準に埋め込みます。
・治具・工具の使い方を動画で示す
工具の当て方、角度、力の入れ方は、文章より動画が有効。10~20秒の短いクリップ
をQRで手順書に紐づけると現場で使われやすいです。
(3)設定・段取りミスに効く例
・設定画面のスクリーンショット+入力例
設備条件やシステム入力は桁ミスが起きやすい。画面キャプチャに赤枠で入力欄を示
し、正しい値の例、単位、NG例(0の数が違う等)を示します。
・段取り替えの“戻し忘れポイント”一覧
段取り替え後に戻し忘れや設定残りが起きやすい箇所を、写真付きで「ここを必ず戻
す」リスト化。作業者の記憶に頼らない。
(4)検査・判定ばらつきに効く例
・外観判定の限度見本(写真集)
キズ、汚れ、色ムラなど、文章で規定しにくい特性を写真で基準化。OK/NG境界
(限度見本)を作ると判定が揃います。
・測定姿勢・測定点のイラスト
ノギス、マイクロ、ゲージの当て方、測定点がズレると値が変わります。測定点を図
示し、「当てる角度」「ゼロ点確認」などをセットにします。
このように、見える化は「文章では誤解が起きる」「動きが伴う」「判断が分かれる」領域
で特に有効です。ヒューマンエラーを無くす手順書はつぎの要素と一体になって効果を発
揮します。
・目的(何を保証する作業か)
・準備(工具・治具・材料・安全)
・手順(写真付き、1ステップ短く)
・品質基準(OK/NG例、測定点)
・異常時対応(止める・呼ぶ・隔離)
・記録(何をどこに残す)
以上
