ヒューマンエラー | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.148 ■□■
*** ヒューマンエラー ***
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■□■ ISO9001:2015箇条8.5.1g) ■□■

ISO9001:2015箇条8.5.1g) には、「ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する」という要求があります。この要求は、2008年版には無かった要求で、日本が繰返しISOの国際会議で求めた結果であると聞いています。

「ヒューマンエラーは、品質事故、安全事故、不祥事などにおける原因ではない、結果である」とは、私が最近知った管理者に対する警句です。

■□■ 原因を人に求めずシステムに求める ■□■

問題が起きると、管理者はつい「誰がやった」と言いがちです。
そして、本当にそこに人為的な要素が絡んでいると、その問題の原因はヒューマンエラーであるとしてしまいます。

一旦そのようにしてしまうと、原因究明はそこで終わりになってしまいます。そのような思考回路からは、問題の再発防止策の多くは、「注意をする」、「再教育をする」及び「手順書に追加する」というようなことになりがちです。

しかし、そのような是正処置では、同じような問題が、また引き起こされてしまうことは、多くの皆さんが経験済みであると思います。

■□■ 組織事故 ■□■

ここに「組織事故」という本があります。この本は、1987年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の臨界事故をはじめ、歴史上有名になった大きな事故についてその原因に迫った著作です。

イギリスのジェームス・リーズンが作者で、日科技連出版社から翻訳版が出版されています。作者は一貫して「多くの事故には人が絡んでいる、しかしその原因は個人にではなく、組織にあることがほとんどである」として、具体的な事例を掲げ説明をしています。

個人は、ある理由のもとにその事を実行したが、決して事故を起こそうと思って行ったわけではない、そこには個人がそのことを行う必然があったのだと論理をすすめています。

個人が行ったその事は、結果として事故の要因にはなっているが、個人の行為に着目すると、いろいろなことの結果がその個人をその行為に走らせたという論理です。そして、個人の行動を分析することが、ヒューマンエラーの解析に必須なことであるとして、いろいろな事例を上げて説明をしています。

■□■ モードという誘発要因 ■□■

ヒューマンエラーについての詳細は「組織事故」を読んでいただきたいと思いますが、「モード」というものが一つのカギであると思います。

テレビの録画、録画したものの消去などで使用するボタンは、モードスイッチのon/offによって異なる働きになることを我々は知っています。

時計の時刻合わせも、モードスイッチの切り替えで、ボタンの機能が年合わせ、月、日、時、分、秒合わせと機能を変化させます。

最近のスマートフォーンのいろいろな操作は、その典型的な例になるであろうと思います。

このようなモード切替の操作においては、操作者がモードの位置を認識していないと思わぬ結果をまねきます。
テレビ、時計、スマホでしたら笑って済まされますが、これが工場の機械で起きたら大変なことです。当然のことながら、現在は工場で稼働するような各種機械装置からはモード切替の構造は排除されています。

一つのボタンはどんな状況にあっても一つの機能しか果たさないようになっています。

ただ、メンテナンス(修理、オーバーホール)の時は、稼働時とはモードが異なり、機能しなくなるボタンがありますので注意が必要です。

■□■ 心のモード ■□■

ヒューマンエラーに関しては人の心の状態が強く関係します。
上述したモードは機械にだけでなく、心にもあります。
では心のモードとは何でしょうか。

同じことをある時はYesと思い、ある時はNoと思うことは誰にもあります。
「人間の心は移り易いものである」とは、古今東西いろいろなところで言われてきたことです。

しかし、心のモード変化が例えば検査の場面で起きたら、ことは重大な結果になるかもしれません。
人の心はいろいろな状況に応じていろいろなモードがあり、それによって検査結果が変化するということは十分にあり得ます。

同じ人の中でさえモードの違いが結果に影響することがあるのですから、人と人の間でやり取りする場面を考えると、異なるモードの人同士が同じことを考えるには工夫が必要になります。

2人のモードを同じものにすることに失敗すると、ヒューマンエラーの要因が作られてしまいます。