番外編_日経品質管理文献賞受賞3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.433 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 番外編_日経品質管理文献賞受賞3 ***
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見て見ぬふりはどうして起きるのでしょうか。今回受賞した
「JSQC-TR 01-001 テクニカルレポート 品質不正防止」の5章
にはその要因が書かれています。目次に沿って、4章~7章を簡
単に紹介していきます。今回は、4章、5章前半について説明し
ます。
明日のデミング賞授賞式の式次第がとどきましたので、参考に
リンクを張っておきます。

2023年度D賞講演会・授賞式ご案内.pdf

■■ 4章 組織で何が起きているか ■■
端緒として、個人又は小グループが良いモノを作れず、悪いとは
知りながら(意図的に)ルールを逸脱する、これが品質不正発生
の最初です。時間の経過とともに内容が悪質化するとともに、不
正に関係する人や製品・サービスの範囲が広がっていきます。製
品・サービスを提供する組織が納期確保, 売上確保などの身勝手
な理由により、作業標準、技術標準、顧客要求事項などからの逸
脱、違反、隠蔽などを続け、本来はブレーキを掛けるべき人・部
門も見て見ない振りをする、或いは加担をする、そしてだんだん
組織規模に拡大し、まん延していきます。
多くに人が知っているにもかかわらず、もはや誰もブレーキを掛
けられず外部から指摘されるまで継続していくという、ジャニー
ズと同じこと(端緒は違う)が起きているのです。

各組織の品質不正の実態は、第三者委員会報告書に詳しく書かれ
ています。
(1)品質不正の発見のきっかけ
発見のきっかけは、社外からの指摘によるものがほとんどです。
監督官庁の立ち入り検査、マスコミからの指摘(両方とも社内の
人からの告発)により、あわてて社内調査をするというものが多
数をしめます。日頃の定常的な組織内活動から発見したという例
はありません。
(2)対象となる製品、分野と継続期間
品質不正が行われてきた品種や分野を見るに、組織内の多品種、
多分野で広く行われています。1工場のみならず全工場やグルー
プ子会社にまで広がっています。品質不正の期間に関しては、40
年から20年程度という組織が多く、短い組織でも8年と驚くほ
どの長期間に渡っている実態が書かれています。
(3)品質不正の直接関与者
特徴的なことは、ほとんどの組織で品質保証部門が品質不正に関
与していたということです。本来、品質保証部門は出荷停止とい
う権限も与えられています。しかし,第三者委員会報告書によると、
各組織での品質保証部門の役割の重要性認識の不十分さや独立性
の不完全さから、品質不正を見逃していた, あるいは許容してい
たのです。
(4)ISO 9001品質マネジメントシステム(ISO9001 QMS)
多くの組織がISO9001 QMSの認証を受けていたものの品質不正
を起こしています。この事実は、後追いで認証取り消しや一時停
止等の処置が取られたとしても、認証の有効性に疑義を生じさせ
る結果となっています。

■■ 5章 品質不正はなぜ起きるのか ■■
(1)現場軽視 
経営層が現場に出向いて各部門の実態を現場・現物・現実で確認
し、現場が困っている問題・課題を認識するような風通し良い組
織づくりの行動は行われなく、現場から遊離し、疎遠な関係であ
ったことが現実に起きていることです。経営層の現場軽視が品質
不正を長年続けてきた大きな要因であると考えます。
(2)コンプライアンス(重要性認識、ブレークダウン・教育)
組織は「コンプライアンスの重要性」、「社会から信頼される企業
であること」などを経営方針などで謳っていますが、組織を上げ
てコンプライアンス意識を徹底させる施策が実効を上げていなか
ったことが要因と考えられます。法令、組織内標準などの要求事
項を明確にし、なぜ順守しなければならないかを日常の中で繰り
返し強調してきていませんでした。
(3)問題の顕在化
経営者、管理者、担当者間で風通しが悪い場合、目標達成への強
いプレッシャーが現場に集中することが、各組織の報告書から明
らかですが、経営者には問題の認識がありませんでした。取締役
会で利益やシェアのみならずに、それらを生み出すプロセスの運
営状況をも注視し、そこに内在する問題や課題などを議論するプ
ロセスを構築し、実践することができていませんでした。
(4)リスクマネジメント
品質不正を引き起こした要因として、法令の身勝手な解釈や工程
能力を度外視して受注有りきで経営を行っていた様子が記されて
います。素材関係組織では、顧客の承認を前提とする“特採”を自
社内だけで秘密裏に処理してしまう事例も報告されています。旧
式の設備や人的余裕が少ない環境などの諸条件の中で、苦し紛れ
にはじめた改ざんや捏造の手口も多くの組織に記載されています。
人事交流が少ない閉鎖的な職場環境で、長年同じ仕事を続けてき
ていたことも共通した特徴です。
経営活動の中でどのような問題が想定されるかについて、品質不
正発生リスクを事前に分析する活動がされていません。
(5)事業部門間、グループ間の連携不足
本社と事業部門(事業部、カンパニー・工場等)との間、及びグル
ープ本社と子会社・孫会社との間で、意思疎通が不十分という記
述が各組織に見られます。親会社からは経営方針に基づき結果を
求める示達が行われ、現実には達成できない事実があるにもかか
わらず、子会社や孫会社からは恐怖心から現実に起こっている事
象を言えず、結果的に品質不正を起こしていたということも報告
されています。