特別採用(トクサイ)を考える5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.453 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 特別採用(トクサイ)を考える5 ***
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特別採用の対象にはけっしてならない事案が国土交通省に報告され
ました。今年2月、ガソリンエンジンに関する豊田自動織機からの
報告がそれです。エンジン内部の相互作用を制御するエンジンコン
トロールユニット(ECU: Engine Control Unit)に特別なソフトウ
エア(試験用)を組み込んでいたというものです。

■■ フォルクスワーゲン(VW)の品質不正 ■■
ECUに組み込むソフトウエアに関する不祥事には、過去に例があり
ます。2015年、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)がディーゼル
エンジンの制御システムに、米環境保護庁(EPA)の排出規制を違
法に回避するソフトウエアを使用していた問題を覚えておられる方
も多いと思います。窒素酸化物(NOX)排出量を試験データでは規
制値以下に低減しておき、実際の通常走行時には規制値の10~40
倍ものNOXを排出していたという事例です。

VWは2012年ころから新規エンジン開発を進めてきましたが、
ディーゼルエンジンを制御するソフトウエアに違法な”切り替え操
作”を組み込みました。排ガスの試験では「試験用」の制御ソフト
ウエアにより、排ガスレベルを基準値以下に抑える一方で、道路上
走行時には“切り替え操作”を作動させ窒素酸化物(NOx)を低減さ
せる触媒の働きを弱めることをしていました。触媒の働きを弱める
ことで、出力特性や燃費が向上しますが、その代りに排ガスに含ま
れるNOxの量は、基準値の10?40倍に増加します。この事実が米
環境保護庁(EPA)の調査によって明らかになりました。

■■ 米環境保護庁(EPA)の排出規制 ■■
このVW事件と同様な問題が今回の豊田自動織機で起こったのです。
EPAデータ確認の中で、同社は申請済みのデータに疑義があると気
づき、2021年5月に外部の弁護士に事実関係の調査を依頼したそう
です。その結果、ガソリンエンジンだけでなくディーゼルエンジン
にも違法なことが行われていることが明らかになったとのことです。
その内容は劣化耐久試験における法規違反と、排出ガスの規制値の
超過であり、2023年3月、豊田自動織機は自らその事実を公表しま
した。そして、それから10か月、特別調査委員会の調査した結果が
今回の国土交通省への報告になったということです。

■■ 原因はなんでしょうか ■■
2月16日発行の日経クロステックには次のように記されています。

「原因としてまず挙げられるのが、技術力の不足だ。本来は使うこ
とを許されていない試験用ECUを使ってまで劣化耐久試験に臨んだ
にもかかわらず、排出ガスの規制値を超過した産業車両用エンジン
がある。この事実から、法規が要求する水準の排出ガスの浄化性能
を備えた産業車両用エンジンを開発する上で、豊田自動織機は十分
な技術力を備えていなかったと判断せざるを得ない。そして、本来
はキャッチアップすべき排出ガスの規制強化を軽視し、劣化耐久試
験が義務化された当初から不正を行っていた事実から、法規に対す
るコンプライアンス(法令順守)意識の低さも、不正につながった
と考えられる。不正の発生を許した理由については2点挙げられる。
1つは、属人的な法規解釈となっていたことだ。豊田自動織機には
認証業務を担当する専門部署が存在せず、エンジン開発部門の適合
グループの社員が認証業務を行っていた。これでは個人の力量に依
存するため、押さえるべき法規知識の抜けや漏れ、解釈の間違いな
どが生まれた可能性がある。同社で専門部署である「法規渉外認証
室」や「法規認証管理部」が出来たのは2021年になってからだ。
もう1つは、けん制機能が働かない、いわゆる「お手盛り」の認証
試験を行っていたことである。豊田自動織機では適合グループが認
証業務を担っていた。すなわち、部署は違っていても同じ部門内で
エンジンの開発設計と認証試験が行われていたことになる。

引用:豊田自動織機のエンジン不正、10の追究 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)」

■■ さらに分析すると ■■
日経クロステックでは、原因として3つをあげていますが、いずれ
も事の起きた状況を説明しているものであって、本当の原因に近づ
けていません。もう少し掘り下げないと真因に近づけないと思いま
す。真因に近づくには、「なぜなぜ5回分析」が有効です。
以下に「なぜなぜ5回分析」の入り口を考えてみます。ただし、こ
の「なぜなぜ5回分析」は、あくまでも筆者の推測で、実際に分析
を行うには現地、現物の事実確認が必要です。
1.技術力が不足していた → なぜ技術力が不足していたのか 
→必要な技術力を分析していなかったからである。
2.属人的な法規解釈となっていた → なぜ属人的な法規解釈と
なっていたのか → 組織としての法規解釈を行っていなかっ
たからである。
3.けん制機能が働かなかった → なぜけん制機能が働かなかっ
たのか → 同じ部門で実施、チェックを行っていたからである。

(つづく)