システムは切り取ったもの | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.128 ■□■
*** システムは切り取ったもの ***
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■□■ システムの定義 ■□■

119号でシステムの定義を以下のように紹介しました。
システムは「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」
(ISO9000:2015箇条3.5.1)である。

この定義はそれなりに意味を持ち適切な表現であると思います。
しかし、以下の定義を聞いたとき私はなお踏み込んでシステムの
本質を理解することが出来ました。

■□■ 超ISO企業研究会 ■□■

上のISOの定義には「目的」に触れた部分がなく、したがって何の
ための要素なのかが不明です。超ISO企業研究会で飯塚先生から次
のような話を伺いました。

「システムとは全体からある目的を達成するために切り取ってきた
要素の集まり」である。

これは、九州大学教授であった故北川先生がかって説いていたこと
だそうです。

■□■ 故北川先生■□■

北川先生は1909年生まれの統計数学者、情報科学者として著名な方
です(1993年89歳没)。
東京大学理学部数学科を卒業されたあと、大阪大学を経て九州大学
教授を務められました。

インドでマハラノビスやフィッシャーと交流を持った方としても有
名で、統計数理研究所所長時代には、後に品質工学(タグチメソッ
ド)で著名になる田口玄一(故人)氏を指導したとしても知られて
います。

■□■ 教育システム、交通安全システム ■□■

確かにシステムには目的がなければなりません。我々が日常何気なく
使用する、教育システム、交通安全システムにはそれぞれ目的があり
ます。

コンピュータシステムにも目的があります。それぞれの目的を達成す
るために全体から切り取ってきた要素の集まりをシステムというのだ
という定義はISOの定義より説得感があります。

■□■ マネジメントシステム ■□■

ではマネジメントシステムの目的は何でしょうか。人によって考える
ことが異なるかもしれませんが、私はISO規格の適用範囲に書かれてい
ることを達成することが目的であると思います。

品質マネジメントシステムでいえば次のことになります。
a) 組織が,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たし
た製品及びサービスを一貫して提供する能力をもつことを実証する必要
がある場合。
b) 組織が,品質マネジメントシステムの改善のプロセスを含むシステ
ムの効果的な適用,並びに顧客要求事項及び適用される法令・規制要
求事項への適合の保証を通して,顧客満足の向上を目指す場合。

■□■ 全体から切り取るとは ■□■

では「全体」とは何でしょうか。私の理解では生きているこの世の中
のすべてのものを指していると思います。

この宇宙のすべてのものが全体とするならば、品質マネジメントシス
テムにおいて上記a)、b)を達成するためには要素として何を持ってき
ても、すなわち切り取ってきてもいいのでしょう。

■□■ 品質マネジメントシステム ■□■

ISO9001規格は全体から切り取ってきた要素を規定要求事項として書い
ていると認識すると規格の意図がより理解できると思います。

私はISO9001のエキスパートを務めさせていただきましたが、正直言っ
てそのような背景、考慮は全く考えることなく規格の開発に携わりまし
たが、飯塚先生からこのような話を聞いて改めて「システム」とは何か
を考えさせられました。

バルト3国の一つリトアニア | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.127 ■□■
*** バルト3国の一つリトアニア ***
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■□■ ISO国際会議 ■□■
ISOの国際会議は開発途上国で開催されることが多いと聞いて
いましたが、今回(10月30日~11月4日)ISO45001労働安全衛生
マネジメントシステムのPC283はリトアニアで開催されました。
100名近い(大きいTCになると200名位?)人が集まるので、宿泊、
食事、土産と使うお金が結構な額になるそうです。

■□■ バルト三国 ■□■
北ヨーロッパのバルト海に面した3つの国は、フィンランドの南
に南北に並んでおり、バルト三国と呼ばれています。北から順に、
エストニア、ラトビア、リトアニアです。3か国ともEUに加盟
しており通貨はユーロでした。

歴史的に三か国はスエーデン、ノルウエー、フィンランドからの
影響を受けると同時に、ロシアと関係が深く、今回の国際会議も
ロシア審査登録機関がホストでした。

■□■ リトアニア ■□■
リトアニアは、1940年ドイツ軍のポーランド侵入による第二次世界
大戦勃発により、ヒットラーによるユダヤ人虐殺(リトアニアの
ホロコースト)の被害を受けています。

当時、リトアニア日本領事だった杉原千畝は、日本政府の命令に
背いてでも、ナチスに迫害されたユダヤ難民に日本通過のビザを
発給し、その結果6000人もの命を救ったということで、リトアニアは
日本びいきの国として有名です。

リトアニアは第二次世界大戦後、ヤルタ会談においてソビエト連邦
に編入されましたが、スターリンからシベリア抑留などの圧政を受け、
独立のパルチザン活動が続いたそうです。ソビエトに対する抵抗
活動は1965年まで続いたそうです。

1990年代に入るとリトアニアは独立を回復、2004年には欧州連合
に加盟しました。

■□■ ISO45001のDIS2 ■□■
リトニアは経済的に厳しく、気候も寒い国です。PC283の国際会議
の期間中、外は雪、路面も凍っている、部屋の中は寒いという環境
(ちなみにエネルギー事情も苦しいようです)の中、議論は長い熱い
ものでした。

結局、6日間の夜遅くまでの会議を通じて、各種争点の各国理解は
なお向上しましたが、DIS2の作成完了にまでは到達せず、来年
2月頃再度国際会議を開催するということで、今回のリトアニア会議は
終了しました。

■□■ 会議報告 ■□■
ISO45001開発状況を含めた会議報告は12月のPC2813国内委員会
で行われる予定ですので、それまで今回の会議報告はお待ちください。

今回の会議のアジェンダは次の通りです。
 10月30日(日)9:00-20:00
  ・開会の辞
  ・各国代表団出席確認
  ・今回会議の議事確認
  ・草案委員の指名
  ・議長挨拶 
  ・事務局報告
   -前回トロント会議報告
  ・リエゾン報告及び見直し
  ・TMB及びJTCGの活動報告
  ・PC283WG活動の報告
  
 10月31日(月)8:30-19:00
   ~
 11月4日(金)8:00-16:00
  ・ISO45001/DIS2 規格審議
一つ、日本が長いこと主張していた、リスク、機会、OH&Sリスク、
OH&S機会の4つが整理される方向になったことは、大きな収穫でした。

スーパーファンド法 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.126 ■□■
    *** スーパーファンド法 ***
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■□■ 汚染防止に関する法律 ■□■

スーパーファンド法とは、1986年に制定されたアメリカの環境保護
に関する法律です。

住宅地造成などの開発行為を行う業者は、事業の推進に当たっ
て土壌汚染をした場合の補償金を一定金額積み上げておかなけ
ればならなくなりました。

もし土壌汚染が疑われる事象が発生した場合、汚染の調査や土
地の浄化は米国環境保護庁が行い、汚染責任者を特定できるま
での間、浄化費用は積み上げた信託基金(スーパーファンド)から
支出します。最終的には、浄化費用は有害物質に関与した全ての
潜在責任当事者(Potential Responsible Parties:以下PRP)が負
うべきであるというのがこの法律の骨子です。

■□■ ナイアガラ・フォールズ市 ■□■

この法律は、アメリカとカナダの国境に近いニューヨーク州ナイア
ガラ・フォールズ市のラブキャナルで1979年に起きた事件がきっ
かけで制定されました。

「ラブキャナル」とは、ナイアガラ・フォールズ市にある建設中止と
なった運河のことです。
戦後、建設中止となったこの運河跡地を購入した地元の化学メー
カーは、1950年代酸や農薬などさまざまな化学物質をこの運河に
投棄しました。

その後、この運河跡地は埋め立てられ、化学メーカーはナイアガ
ラ・フォールズ市にその土地を売却しました。購入した同市は、そ
の跡地に宅地造成を行い、住宅や小学校を建設したのです。

■□■ ラブキャナル事件 ■□■

しかし、しばらく経ってそのコミュニティには奇妙なことが起こり出
しました。

それは、生まれてくる子供に流産、奇形児が多くいるということでし
た。ラブキャナルの周辺では、降雨のたびに汚水の流出や悪臭
の発生がみられるようになり、ガンにかかったりする住民も続出し
ました。

いったい何が起きているのかを調査し、早急に対応策を講じなけ
ればならない事態にナイアガラ・フォールズ市は直面しました。

■□■ 悪臭の正体 ■□■

アメリカの住宅は多くが地下室をもっていますが、同市の調査で
は、地下室のコンクリートのひび割れから悪臭のする汚水が滲み
出している現象が確認されました。

その汚水の水質分析をした結果、多くの有害な化学物質が検出さ
れました。

この事件は、ナイアガラ・フォールズ市をこえてニューヨーク州の
問題となり、同州は政府に財政支援を要請して対策を講じなけれ
ばならないという事態までに発展しました。政府はニューヨーク州
の要請を受けて該当の土地すべてを買い上げました。

1980年、カーター大統領(当時)は非常事態宣言を発令し、ラブキ
ャナルから約900世帯の住民を転出させ、汚染地の浄化対策の徹
底を指示しました。

■□■ 誰の責任か ■□■

ラブキャナル事件の原因となった有害な化学物質を含む廃棄物
は、投棄された当時は適法な許可に基づき埋め立てられたもので
あり、化学メーカーの責任を問うことは難しい状況でした。

しかし、アメリカでは同じように過去に投棄された有害物質による
土壌・地下水汚染が相次いで発覚したため、1986年、直接関与し
たかどうかにかかわらず、過去の汚染については企業の浄化責
任を問うことができる「スーパーファンド法(包括的環境対策補償
責任法)」が成立しました。

■□■ 豊洲問題 ■□■

日本でも似たようなことが起きています。マスコミを賑わしている
築地移転、豊洲土壌汚染の問題のことです。

まだ問題は直接被害が出るまでになっていませんが、土壌が汚
染されそれへの効果的な対策が取られないまま事態が推移して
いくという展開は、ラブキャナル事件と似ています。

これ以上問題が大きくならないよう望みたいと思います。

難しいことを易しく | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.125 ■□■
*** 難しいことを易しく ***
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■□■ 分かりやすい解説 ■□■

世の中、もっと易しく説明できないのかと、いろいろなことで感じる
ことが多くあります。

例えば、経済、政治の世界に関連しては、専門家でないと本当に
は理解できないことが、マスメディアでは日常茶飯事に流されて
います。

そのためでしょうか、池上彰さんの「時事問題の世界一分かりや
すい」解説講座がもてはやされるのでしょう。

■□■ 遊びの世界でも ■□■

遊びの世界においてもそうです。私はゴルフをするのですが(ゴ
ルフはスポーツではない、遊びであるという人が多い)、ゴルフに
ついて、いろいろな方が「遠くへ真っ直ぐ飛ばすコツ」をあれこれ
説明してくれますが、実行するには困難が伴います。

実はこの1年、Uチューブをチェックしながら遠くへ飛ばす動画を
漁り、打ちっぱなしの練習場へ行ってあれこれ試してみました。

実施してみて無駄だったとはいいませんが、ほとんどは細部にこ
だわっており、一番肝心な「球を打つ」ことを教えてくれませんでし
た。

■□■ 本質は何か ■□■

ゴルフの本質は球を打つことです。ところが、Uチューブの動画解
説では体の動きの細部をいろいろと解説してくれています。

手の動き、腰の動き、頭の動き、足の動き、加えて体の重心の動
き、クラブのフェースの動きなどなど、言い出すとまだ10点以上は
上がるほどの解説が盛り沢山です。

その一つ一つを実践するうちに一番重要な本質がどこかへ行って
しまいます。球を打つためには体全体がバランスとれた動きにな
らなければなりません。

■□■ ISO9001規格の本質は何か ■□■

ISO9001規格は読んでも、難しくて何を言っているのか十分に理
解できない、ということを組織の方から時々聞きます。

この難しいと言われるISO9001規格を易しく説明することが、テクノ
ファの使命だと思っています。

例えば、プロセスを易しく説明しようとすると、次のようにいろいろ
な表現ができると思います。

・プロセスは一連の活動である。
・プロセスはアウトプットに向かっての道筋である。
・プロセスはインプットとアウトプット間で行われる付加価値をつけ
る活動である。

これらの説明は、一見易しく説明しているように見えますが、ISO9
001規格の本質をきちんと把握しているでしょうか。本質が見失っ
ていると難しいことを易しく説明したことにならないのです。

■□■ ISO9001規格の本質は何か ■□■

ISO9001規格の本質は組織能力の実証と顧客満足向上です。こ
の2つの目的は箇条1の適用範囲に書かれています。

プロセスは目的、目標を持っていなければなりません。目的、目
標を見失ったプロセスは本質を把握できていないと言わざるを得
ません。

難しいことを易しく説明する際には、必ず本質が入った説明になっ
ていなければなりません。

その意味で、プロセスを易しく説明すると次のような言い方になる
でしょう。

・プロセスは目標を達成する一連の活動である。
・プロセスは目標に向かっての道筋である。
・プロセスはインプットとアウトプット間で行われる目標達成という
付加価値をつける活動である。

目に見えない穴、目に見える突起 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.124 ■□■
*** 目に見えない穴、目に見える突起 ***
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■□■ リスクは目に見えない穴 ■□■

ISO9001:2015には、2008年版にはない、新しい要求としてリス
ク及び機会への取組み」が規定されています。

「6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,
4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し,次
の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しな
ければならない。

a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成でき
るという確信を与える。

b) 望ましい影響を増大する。

c) 望ましくない影響を防止又は低減する。

d) 改善を達成する。」

ここで、リスクは「不確かさの影響」と定義されているように、計
画を作る時になんとなく心配になる事柄をいいます。

リスクは、例えれば目的を達成しようと歩いている道に開いてい
る穴のようなもので、穴が大きいと落ちて大きな怪我をすること
になります。

a)~d)はリスクと機会を決定する時の糸口を与える項目ですが、
そのリスクと機会を決定する際には、4.1で決定を要求されて
いる外部及び内部の課題を考慮しなければなりません。

■□■ 課題は目に見える突起 ■□■

ISO9001:2015には、2008年版にはない、新しい要求としての
「外部及び内部の課題」が規定されています。

「4.1 組織及びその状況の理解

組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その
品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能
力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければな
らない。」

組織の能力に影響を与える課題とは何でしょうか。まず、規格
は、組織の能力とはQMSが意図した結果を達成する能力である
と規定しています。

QMSの意図した結果を達成するには、組織の能力が必要にな
るのですが、その能力は油断しているとどんどん劣化していっ
てしまう、したがって、劣化しないように課題として捉えて解決を
しなければならない、ということがここにおける規格の意図であ
ると思います。

外部及び内部の課題は、目に見えるように明確になっていなけ
ればなりません。そうでなければ解決することはできません。

ちょうど、歩いている道の前にはっきりと見える突起みたいな、
越えなければならない障害と例えることができます。

■□■ リスクと課題 ■□■

このように、ISO9001;2015 で新しく規定された、リスクと課題は
似たようなものですが、本質は違います。

組織の想定するリスクを時々拝見する時がありますが、課題が
リスクとして取り扱われている場合が多くあります。

課題は目に見えており、それが目標を達成する上の障害になっ
ているので取り除かなければならないものです。目に見えてい
るから、どのようにすれば取り除くことができるのかが分かり、
基本的には解決することができる性質のものです。

しかし、リスクは、時、場所、人、状況などを特定することがなか
なかできません。
誰でも一度は、何かを計画するとき、何か起きそうだという不確
かなことを心配したことがあると思います。その漠然とした不安
みたいな性質のものがリスクであると思います。