2026年6月10日
———————————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.560 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
*** ISO9001キーワード「ヒューマンエラー」8 ***
———————————————————————————
どんな仕事にもカンコツ(勘こつ)と呼ばれる要所があります。ベテランと呼ばれる人
は、今までの経験から仕事のどこを押さえれば大きな問題は起きない、ということを知っ
ています。ベテランが知っている知識を暗黙知といいますが、暗黙知を形式知と呼ばれる
共有知識にすることがヒューマンエラー防止の役に立ちます。
■□■ チェックリストと属人化 ■□■
ベテランが行うとミスは出ないのに経験の少ない人が行うとミスが出る、という状況はい
ろいろな領域で見られることです。この「特定の人が行うとミスは出ない、そうでないと
出る」状態を「業務の属人化」といいます。チェックリストは本来、属人化を減らすため
の道具ですが、誤った運用は逆に属人化を強めます。その典型は、ベテランだけが「どこ
がミスしやすいか」を知っていて、チェックリストにはそれが反映されておらず、新人は
チェックリストに沿って仕事をしているのに問題を起こすケースです。
チェックリストの属人化対策として次の3つが鍵です。
(1)暗黙知の吸い上げ:ベテランの経験から作業の「勘こつ」を抽出する
(2)チェックリストに項目化する:「勘こつ」をその作業ポイントに項目化する
(3)チェックリストの詳細化:「勘こつ」箇所を分割し詳細な記述にする
暗黙知の吸い上げでは、例えば、ベテランは「この品番は末尾違いが多い」「この工程は締
付け漏れが出やすい」「このラベルは位置がズレる」と経験的に知っています。これらを
「注意する」ではなく、チェック項目として作業ポイントに記載すれば個人の経験が組織
能力になります。チェックリストに、写真、OK/NG例、バーコード照合、測定値などを
組み合わせると、属人化はさらに減り、ヒューマンエラーも少なくなります。
■□■ ダブルチェックと属人化 ■□■
ダブルチェックの属人化に関しては「独立性と複数者対応」がキーとなります。ダブルチ
ェックは独立性が薄まるとエラー減少の効果が減ります。またダブルチェック者がいつも
同じベテラン熟練者だと、そのベテランが居ないと作業が停滞して仕事が回らなくなりま
す。ダブルチェックを属人化させないためには、ダブルチェック者のローテーション、技
能認定、教育、そしてダブルチェック内容を標準化(作業者とは異なる確認方法)するこ
とです。誰がダブルチェックしても同じ結論になるように、ダブルチェック基準と方法を
明確にします。
ダブルチェック基準は固定されてしまうと使い物になりません。新製品、材料変更、設備
更新、作業者入替えなどがあると、チェックポイントは変化します。変化すると問題が出や
すくなりますので、問題が出ないように管理しなければなりませんが、問題が出たら10.2
(是正処置)の要求にあるように、
・なぜ問題が出たか(チェック項目がない/基準が曖昧/チェックポイントが悪い)
・どのチェックポイントで止めるべきか(受入/工程内/出荷)
などを検討して、ダブルチェック項目を更新します。
■□■ チェックポイントの具体例 ■□■
ヒューマンエラーが多い領域に関して(製造業)のチェック項目の例を示します。
(1)ピッキングチェック
・指示書のバーコードをスキャン
・取り出した部品のラベルをスキャン
・システムがOKを表示したらその場でチェック欄に自動記録する。
→ 目視確認を減らし、証跡が残るチェックにする。
(2) ロット混在防止チェック
・作業者が投入前にロットを確認
・別者が投入直前に、投入物のラベルと投入記録を照合して、投入してしまうと戻せ
ない工程をダブルチェックする。
(3) 工程開始前の指差呼称
・「品番○○、条件△△、治具□□、良し」のように、重要箇所だけに限定して呼称
確認をする。
(4) 段取り替えチェックリスト
・圧力○kPa、温度:○度、安全カバー閉など、最後にまとめチェックするのではな
く、段取り変更箇所ごとにチェックする。
(5) 締付け完了のダブルチェック
・作業者はトルク確認しそこをマーキングする。
・独立したダブルチェックがマーキング位置と作業本数を確認し、「締めたつもり」
「数えたつもり」を無くす。
(6) 梱包前チェック
・製品シリアル番号と伝票とを照合する。
・ラベル貼付位置を写真基準と照合する。
・同梱物(説明書、保証書、付属品)をチェックする出荷ポイントを止め所として作
る。
(7) 出荷ラベルを指差呼称して2人で確認する(ダブルチェック)
・作業者は「宛先○○、品名○○、数量○、良し」と呼称する。
・検証者は伝票と箱ラベルを独立して読み合わせし、宛先違い、品名違いなどの重大
クレームに繋がる事故を防止する。
(8) 送品前ダブルチェック
・宛先、添付ファイル、機密区分、本文の個人情報など
・チェック後でなければ送品できないシステムを構築する。
これらの例で共通するのは、チェックを「形式」ではなく、工程中の管理ポイントとして
必須箇所(コントロールポイント)にすることです。チェック結果はログデータ(自動記
録、署名、タイムスタンプなど)に残るシステムにします。
(つづく)
