ナラティブ内部監査26 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.322 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査26 ***
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前回から「4.よく聴く」についてお話をしています。
ナラティブ内部監査で活用すべき傾聴の手法の一つに、内部監査
員と被監査者の両者が信頼関係を築く一つの方法としてラポール
の形成があります。ラポールを形成するには、内部監査員と被監
査者の相方が積極的に聴くという意識を持ち、実践することが大
切です。誰でも相手が自分の話に身を乗り出して聴いてくれれば
うれしい気持ちになるものです。

■ 積極的傾聴の3つの条件 ■
傾聴という言葉があります。ここに用いられている「聴」という
字の意味は前回説明させていただきました。門構えの「聞」と違
って、「聴」は大変エネルギーのいる行動であり、積極的に相手
の言わんとする所を把握することがポイントです。しかし、積極
的に傾聴するには、相手のことを理解するだけでなく、自分自身
のことも理解し相手の方に混乱を与えないことも必要な要素です。
積極的な傾聴には、自分自身のことも含めて次の3つのコツがあ
ります。それは、受容的態度、共感的理解、そして自己一致です。

(1)受容的態度
受容とは、相手の話に評価や解釈や判断を加えずに、ありのまま
受け入れるということです。たとえ、相手の話が間違っていよう
と、自分の考えと異なっていようと、あるいはまどろっこしい話
だろうと、いったんそのまま受け取るということです。話し合い
とはピンポンのようなものですが、相手が打ってきたボールが右
にこようが、左にこようが、真ん中にこようが、受容的態度では
そのまま打ち返します。東京オリンピックで見たように右にそれ
るように、左にそれるようには打ち返しません。相手の打ってき
た玉が自分にとっては好ましくなく受け取りたくない玉なので打
ち返さないということはしません。失敗してもいいですから、そ
のまま受け取って打ち返します。できればどんな球が来ても受け
取れるスキルを持っていることがいいのですが、傾聴のスキルが
向上しないとなかなかそのまま受け取ることは難しいものです。
しかし、できるだけ受け取るように努力をします。受容は自分自
身にも当てはまることで、自分自身をありのまま受け入れること
を「自己受容」といいますが、自己受容ができていなければ相手
を受容することも難しくなります。

(2)共感的理解
共感的理解とは、相手の話を自分の思考の仕組みで理解するので
はなく、相手の思考の仕組みで理解することです。人間は誰でも
その人なりの思考回路と仕組みを持っています。それは、その人
の価値基準であったり、人生観であったり、キャリア観であった
り、人間観であったり、経験であったり、さまざまです。それら
は1人ひとり異なります。それがその人の個性であり、多様性で
もあります。話し手は、自分の思考回路で判断したこと、あるい
は感じたことを話します。したがって、相手の気持ちや考えを正
確に理解するということは、相手の思考回路でその気持ちや考え
を理解するということであり、それができなければ、相手のこと
を正しく理解することはできません。
その際、パラフレージングは、相手の思考回路を確認するうえで、
すなわち共感的に理解する上で効果を発揮します。しかし、その
ためには受容が前提になります。相手の思考回路を受け入れるこ
とができなければ、共感的に理解することはできないからです。

(3)自己―致
自己一致とは、自分に対して誠実であることです。自己不一致の
場合を考えてみると理解しやすいので、自己不一致の例をあげて
みます。誰かに同意を求められたときに、嫌な顔をしながら「い
いですよ」と言っているような場合を自己不一致といいます。こ
の場合、自分の気持ちと言動がー致していないところに注目しま
す。人との話し合いにおいて、自分の気持ちに対して不誠実な言
動をとってしまうと、その時の話題によりますが相手は論理と言
動の不一意な話に混乱をきたす場合があります。表情や態度と言
動がまったく逆のメッセージを送ることは、自己不一致と言って
相手を混乱させます。本当に言いたいことを言っていないという
場合も自己不一致です。
受容、共感的理解、自己一致はそれぞれが別物ではなく、お互い
がつながっており、関連しています。この3つが自分の中で統合
されていると、話し合いにおける相互理解が進むことになります。