品質不祥事 5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.378 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質不祥事 5 ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています。前回から第三者委員会調査報告書についてお話を
していますが、今回はその2からです。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
私が読んだいくつかの製造業の品質不祥事の「第三者委員会調査報
告書」を紹介します。我々が興味を持つのは、(1)どんなことが起き
たのか、(2)なぜ起きたかの2点です。「第三者委員会調査報告書」
は少ないものでも100ページ、多いものだと1,000ページを超えま
すので、ここでは(2)に焦点を絞って報告書に記載されたままを簡潔
に紹介します。

2.N自動車 2018年9月
(1) 現場管理の不在
 管理・監督者(工長)は自ら抜取検査の知見を身につけ現場を管
理・監督するのではなく、抜取検査の実施を現場の完成検査員に委
ねており、現場の管理が有名無実化していた。

(2) 完成検査員に対する不十分な教育
 抜取検査に従事する完成検査員候補者に対して、統計的手法を用
いた抜取検査の基本的な考え方や Xbar R管理図を用いた日常管理の
目的及び意味等の教育を行っていなかった(規定では72時間の教育
を行うことになっている)。代わりにOJTの中で不適切な抜取検査の
方法が先輩の完成検査員から後輩の完成検査員に伝授されていた。

(3)完成検査員の人員不足
 抜取検査を行う完成検査員の人員数は十分なものではなかった。
完成検査員の所要は、抜取検査において、 NG が発生しないこと
を前提として算出されていた。

(4) 不十分な設備
 車両製造工場においては、排出ガス検査に使用する設備に不具合
があり、試験条件等を整えるのが容易でない状況にあった。設備の
不具合が放置されたことは、完成検査員において、自らの不適切な
抜取検査を正当化する口実を与えるものであった。

(5) N社における車両製造工場管理の在り方
 2008年にN社九州のNPV (Net Present Value) が、 O工場のそ
れを上 回ったことから、O工場で生産されていた小型乗用車「 NOTE 」
の生産が 九州工場に移管された。車両製造工場関係者にとっては、
TdC ※ 等のコスト削減によって NPVを改善し、製造車両を獲
得することは雇用維持から極めて重要な意味を持っていた。それが、
TdCを改善するために、極力少数人員、その他で車両製造工場を操
業しなければならないとの発想につながった。
※ N社では、車両製造工場のコスト管理に当たって、「TdC(Total
delivered Cost)」と呼ばれる指標を用いている。TdCは、自動車1台
につき、部品の調達から車両製造工場での製造、完成検査を経て、
ディーラーに納車するまでに要する全てのコストのことをいう。
TdCは、労務費、原材料費、共通経費、共通固定費等を積み上げる
ことで算定している。
 ア NGが発生することを想定しない人員配置
 イ 完成検査員の教育を行う人員が配置されない。
 ウ 工場の現場から抜取検査を担当する技術員が置かれなくなった。
 エ 工場において極力設備投資を控えた。
 オ 基準書の不備

(6)車両製造工場のマネジメント層の在り方
 ア 製造工場において、将来を見越した人材育成ができていなかった。
 イ 車両製造工場のマネジメント層が、抜取検査の現場と十分なコ
  ミュニケーションをとることができておらず、実態を把握でき
  ていなかった。
 ウ 抜取検査の現場においてどのようなリスクが存在するのか、具体
  的に把握できていなかった。

(7)コンプライアンス体制について:マネジメント層が十分に行っ
ていなかった。
 ア コンライアンス遵守に向けた強い姿勢を明確に示し、従業員が
  その業務の意義や目的を正確に把握し、仕事に気概を持って取り
  組むことができるよう、不断の教育・訓練を施していない。
 イ 現場の従業員を適切に管理する管理者層を配置し、当該管理者
  層が現場の問題を正確に把握するとともに、マネジメント層と共
  有する仕組みを整えていない。
 ウ 業務に内在するリスクについて正確に把握し、当該リスクに応
  じて、管理体制を構築していない。
 エ 内部監査の内容や密度を決定しておらず、そのため監査部門が
  リスクに着目した監査を行っていない。
 オ 現場の作業観察をしていない。現場に存在するリスクを作業観
  察の過程で把握していない。上が行わないから現場の管理者層も
  現場のリスクを把握しておらず、またできる状況にはなかった。

(8)不合理な検査規格
 車両製造工場において、一部、不合理な検査規格が存在し、それが
測定値の書換え等の不適切な抜取検査を引き起こす原因となっていた。

(9)完成検査軽視の風潮
 製造工程の精度が飛躍的に向上するとともに、製造工程において品質
保証するとの考え方で生産ラインが構築されているため、完成検査
において保安基準や諸元値を満たさない車両が製造される可能性が低
くなったという事情が存在する。